それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。   作:茶漬四郎

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こちら隔週で送ります。
船長体調良くなってね。pixivだと少し早めに出してます。


無職の恋したコスプレ女 前編

 

 俗世に塗れたアルコール臭を放ち、あなたと言う悪友に肩を抱かれた加藤杏樹は、玄関を開けたその先にいる小さな熊に対して声をかけました。

「お待たせ、待った?」

「待ってねえよ、帰れ。」

冬眠前の熊が一番危険と言われていますが、今の彼女、宝鐘マリンはちょうど同じような殺気を感じます。

それもそのはず、昨晩の配信後に二人は彼女にこれから家へ行くと連絡を取りました。そして到着したのは始発ももうすぐと言った朝方です。

「何しに来た。」と家主に問われ、あなたは「遊びに来た。」と返します。

「酒クセェんだけど。」

宝石のようなオッドアイは半円を描くように変形し、あなた達をジトリと舐めるように見つめます。その姿はまるで怒りを抑える母親のようです。

「お、御徒町で飲んでました、」

「今のご時世地元民じゃない限り朝までやってる店探すの難しいだろ!」

カチン、と地雷を踏んだようです。

「く、詳しいっすね。」

「おかげ様でな。」

ずんぐりとリビングに連行されるあなたと杏樹はさしずめ打ち上げられた鮭のようでした。

 

 リビングに着くなりソファーへ雪崩の様に倒れた杏樹は、よく懐いたペットか、はたまた溢した水の様に形を崩して体を預けている。湯に浸かったおやじのように口を開けたままの彼女はまるで駅のベンチに横たわっているようで礼儀がない。

あなたはここまでにマリンから身体検査を受けた。既にロングカン発泡酒2、同サイズのサワー1、生ビールショート缶1、ボトルウィスキー1、そして梅酒小瓶4を押収されていたのだ。

マリンは少し怒りをあらわにする。

「この流れ、2回目だぞ」

しかしあなたはあっけらかんとしていた。

「まだ2回目か」

「は?」

瞳が核融合を行う惑星の様にキュッと小さくなる。

そんな恐怖を目の当たりにしていると二人の背後からケラケラと乾いた笑い声が聞こえてきた。杏樹が転寝から目を覚ましたのである。彼女は両目を一の字にニコニコと笑みを作って見慣れないメガネをかけていた。

「お待たせ、待った?」

「待ってねえよ、二回目だっつってんだろ。」

前回も同様にあなたは杏樹を連れてきた。その時と違う点は、彼女が酔いつぶれていない点である。

杏樹は睨むマリンをスルーし、「いや、宝鐘きいてよ。」と自分の会話を始めた。

「昨日な、急に軍資金が潤ったからな、前回コイツと言った珍道中、アレのリベンジをしたのよ。ほら、あたし途中でリタイアしたじゃん?」

言い終えるや否や、胃から押し上げて来る空気に口が思わず塞がれてしまう。マリンは「吐くなよ」と吐き捨てた。

普段なら多少機嫌が悪くても気遣いの言葉を一つくらいかけるマリンなのに珍しいな、とあなたは思った。そして綺麗に正座をする。

「マーちゃん、なんでそんなに怒ってるの。」

その原因が自分たちにあることは微塵も思っていないが念のために態勢を整える。しかしこちらを振り向く彼女は怒りの原因はあなた達であることを示唆するように言葉を発しようとした。そしてその視界にスーツ姿で反省の態度を取ろうとしているあなたをとらえると、吹き込みながら言葉を詰まらせたのだった。

「誰のせいだとっ…!なんで正座してんだよ!」

それからすぐさま床に行かれた日本酒2瓶を見つけた。

「なんだこの酒!まだ持ってたのか!」

リュックの中に隠し持っていたのである。これさえ出さなければまだマリンの感情は落ち着いていたのかもしれない。しかし、ウソや隠し事は苦手だ。

「まあまあ」と杏樹が喧嘩の仲裁をする父親の様に間に割って入る。

それから今まで掛けていた眼鏡を外してそれを差し出した。

「アタシらチョーいいモン貰ってきたから。はい、これ」

それから声をしがらせて、まるで懐かしいロボットのマネをしだした。

「好感度可視化眼鏡ェ」

「まーたパーティグッツか。」

呆れるマリンだが、杏樹は無視する。

「ソイツが新橋で隣のおっちゃんと交換したんだ。焼き小籠包とな。」

「うさんくさっ!」

「そーじゃないんよ‼ホーショー」

ノンノン、と指を振った杏樹はまるで動物をなだめるようにふるまう。

彼女の意識がはっきりとしているところを見ると、今回の夜通し珍道中はずいぶんと上手い具合に進行をしたようである。マリンはそこに気付いてがあえて指摘しなかった。

そして気持ちを戻して「は?」と威圧した。

「これな、スチャッとかけると本当に数字が見えるんよ。」そういって再度眼鏡をかけて見せる。

縁が太く、今時のオシャレに適したデザインだ。不思議と国家試験に合格した錬金術師を彷彿とさせる。

それから口で機械音を作り出して、しばらくすると声を落ち着かせる。

「ホーショーからの好感度は…47点です。」

「なんだその苦手な教科の期末試験の点数みたいな数字は。」

「数字なんてシビアみたいなもんでしょ。」

杏樹はあなたに助けを求めて解説に入ってもらうようにする。彼女はその部分の記憶を失っていたのであった。

「確か…20超えたらお友達、45以上で親友だったかな。」

「意外と低いんだな」とマリン。

「デュフフ。ホーショー俺の事親友だって。」

「キモイ!」

それからあなたは酔った記憶の中の引き出しを次々と引き出す。

数値が60に近づくにつれて、親友から友愛、戦友そして恋愛と繋がるそうな。

「60以上は信頼しているって意味らしいぞ。ぶっちゃけ、それ超えたらどうなるかはその人たちの解釈次第なんだって。」

あなた達二人はマリンの迷惑になろうともこの話題を持ってきたのには理由があった。それは昨晩の配信にて彼女が「婚活会場」たる企画を行ったからである。内容自体は視聴者たちからのコメントや大喜利のようなやり取り、そして凸待ちをふんだんに含んだものであり、ネタで憐れむスパチャなどが大きく目立ったのだ。

マリンはあなたになぜそこまで詳しく知っているのか、と尋ねると杏樹が代わりに回答してくれた。

「アタシら居酒屋で見とったのよ。」

「何で見てんだよ。酒飲んでろよ。」

これは彼女が恥ずかしさを隠している反応である。杏樹にはそれがお見通しだったので、そのままどういう状況で二人して聞いていたのかを悠々を再現しだした。

「こうな、コイツと二人で一つのイアフォンをな。左右二つをすぽって耳に別々に付けて、一緒の画面で見てたんよ!」

彼女は両手の人差し指と親指をつまんで耳に当てる動作をする。杏樹曰く、居酒屋のおっさんからアベックと言われたようだ。

マリンの脳裏に浮かんだ二人もカップルのようで無性に腹が立ち、その怒りを正座しているあなたに対して脚蹴りと言う形で表現した。年の割に小さく、柔らかい、まるで赤子のような足があなたの頬をえぐる。想像以上に体温が高いことを痛感したあなたは一気に目が覚めたのだった。

杏樹がゲラゲラと笑う。

「まあアタシにはベルがいるからな。コイツとアベックは無理よ。」

「ああ…当たり屋の被害者か…」とあなた。

「違うね、当たった方が悪い。」

それから妖怪の様にケケケと笑う。

「お前には当たらねえよ。」

平然と断言する杏樹はコホンと咳払いをして、少し気持ちが悪くなった表情を何とか隠すと続けた。

「脇から覗いていたおっちゃんがな、宝鐘の配信観て、かわいいなって」

「っは、そっすか」

「そんでな、婚活って単語が見えたから、これくれたんよ。」

「今時マッチングアプリが流行ってるのに婚活ってのが懐かしくて親しくしてくれたのよね。」とあなたが捕捉すると遠回しにお局呼ばわりされたと感じたマリンはムッと口をへの字にしてあなたを睨みつけた。

「マリンだってなあ。マッチングぐらい知ってるわ。」

この時なんとなく直感だが、あなたは嫌な予感がした。これは不思議なことだが彼女の声のトーンが若干変化したのを感じたのだ。

あなたは唇が異様に乾き、喉の奥がせばなった。これでは声が上手く出せない。これからの会話で知りたくないことが分かってしまうようで、自分を守るように遠回しに話題を考えたのだがその防壁はすぐさま崩れ落ちた。

「マリン、これから仕事か」

マリンは目線をそらして「いや」と答える。

「今日はこれからデート。」

最近連絡を取ってもあまり感触が無かったのはこのせいか、と一瞬の内にあなたはあっさりと結論を出した。

 

 

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