それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。   作:茶漬四郎

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いつの間にかその道のプロになってるって恐ろしいよね。


第三勢力 さくらみこ

 

 ようこそホウエン地方へ!

最近ここに引っ越してきたんだね?あなたはここでたくさんの出会いを経験し、無限に広がる世界へその一歩を踏み出すんだ!

そうとなれば君の相棒が必要だね。大丈夫ここに一匹残っているよ。

他の二人はもう先に進んでしまっているけど、大丈夫。そのうちの一人はまだトウカシティにいるみたい。

図鑑もまだ、そんなに埋まっていないみたい。

バッジも、ないにぇ。

なんでだろうね?

 

 引っ越してきたばかりの新しい故郷を離れたさくらみこと相棒の35Pにとって、深夜番組「週明けから夜更かし」を一緒に見るのは新しい習慣となっていた。特に「街角突然インタビュー」は二人のお気に入りで、枕を抱きしめながら「こんな暇人もいるのか」と感心するのだった。しかし蓋を開けてみればインタビューを受けている人間はジムリーダーであったり、コンテストの常連や同じトレーナーだったりする。人は見かけによらない内容はいつもすさんだ心をいやしてくれる。

そんな中、一人の暇人に注目が集まった。

その放送は火山灰が雨のように降り注ぐことで有名な、113番道路での取材だった。

「お兄さん何されてたんですか?」との問いに眼鏡をかけた小太りの男が引き気味にカメラに映る。

「パッチールの模様を数えてたんです。」

「今日一段と火山灰降ってますよ?」

「まあ、マニアなので全部収拾したいなって。」

みこと35Pは編集から察するに嫌な予感がして腹筋から笑いを堪える。

「調べたところ、パッチールの模様は理論上43億くらいあるみたいです。」

「え’’!」

一体人生何週目の暇人なのであろうか。ちなみに集めた数は20匹なのだという。テロップでは「暇の達人」と表示されていた。

まだまだスタート地点にすら立っていないことに二人は笑い合ったが、やがて35Pが真面目な顔をしてみこを見つめた。

彼女のエメラルド色の瞳に、間抜けそうな白猫の顔が映る。

「金コイは、一体いつになったら釣れるの?みこち」

彼女はおもちゃのクラクションのような反応を鼻から出して目をそらす。

「ちょっと待ってて、みこちゃんを焦られないで。」

それから宿舎の窓から外を覗く。

「もう夜ジャン。今からお外いったら危ないよっ」

 トウカシティを東へ抜けるとそこには大海原が広がっている。本来ならば海を尻目に森を抜け、カナズミシティへ行って初めてのバッジを入手する必要がある。そしてここへ戻ってきて高齢の船乗り、ハギ老人の手を借りて、二つ目のバッジを手に入れるための旅に向かうのだ。

しかし、そこはさくらみこである。彼女はそんな過程などすっ飛ばして今もなおこの海原に釣り糸を垂らし続けていた。

その様子をハギ老人は「アイツら頭がおかしい」と普段の温厚な態度とはかけ離れた様子で物語る。まるで奇人にでも出会ったかのように引いていた。

「だってかれこれ3週間くらいここで釣りしてるぞ。」

今日もみこは35Pと共に海へリールを投げる。魚影など見てもわからない彼女であるが、さえた直感のおかげで幾千ものコイキングを亡き者にしてきた。

いっこうにお目当てである金色のコイキングが釣れない事実に白猫はいつものようにみこを煽るのだった。

「ラミーたんもおかゆんも殿堂入りしたって。」

コイキングとは関係のない話題ではあるが、効果はほどほどにあるようだ。なぜならそれが本来の目的であり、今、みこのバックには一個もバッジを収納されていないのである。

「っへ!みこちゃんが頑張ってるのにそんなこと言うんじゃねーよ!」

「だってえ…」

白猫の心情はまるで社会復帰を願う親のようだ。

「そんなん言うんだったらなあ…雪民にでもおにぎりゃーにでもなっちゃいなさい!」

その時35Pの小さな脳みそに雷鳴が走る。脳裏に浮かぶは二人の胸だった。

彼女はここまで言えば何も言い返せないとでも思ったのか、強気に出たつもりらしい。若干の沈黙の後35Pは風呂敷包を首にかけてぺこりと頭を下げた。

「お世話になりました。」

「違うジャン。」

いつも二人の背後をエッホエッホと走っている少年の足音が途切れた。その沈黙と引き換えに、甲高い声がみこを貫いた。

「あっー!いたー!」

喉を震わすその声は思春期の幼さを感じさせる。

それは新人トレーナーの「あなた」だった。みこよりも少し背の低い同じピンク色の髪色をしている。

まるで対戦相手の様に敵意をむき出しにしたその目は、義務を果たそうとするやる気に満ちている。そしてその手にはオダマキ博士から受け取ったポケモン図鑑が握られていた。

さしずめ博士の所から来た最後の旅人であろう。

「どーしてココに来たかわかる!?」

「え、わかんない。」

35Pが間にスッと入ってきた。

「アレでしょ。早くポケモン図鑑埋めろっていう催促じゃない?」

あなたの図鑑が35Pに反応する。

「あの白いの図鑑にないじゃん!」

「あるか!あってたまるか!」

今度はみこが「で」と言って話を区切った。

「君、駆け出しトレーナーだよね?みこと同じオダマキ博士から見送られた。悪いけど、みこちゃん達今忙しいから早くポケモン図鑑埋めに行ってね。」

ふんふん、と鼻息交じりに先輩風をふかす。

「これからアクア団とかマグマ団とも対決しなきゃだしぃ。殿堂入りまでしなきゃいけないってわーけ。」

それを聞いたあなたはまるで寝言を聞いているかのような錯覚を起こし、強気になって詰め寄った。

「さくらみこ!お前自分の立場を理解していないのか!」

「にぇ?」

「お前!指名手配されてるんだぞ!」

「えっ」と半声で答え、考え込むあたり心当たりがあるらしい。小声で「はあちゃま?」とつぶやいたのをあなたは聞き逃さなかった。

違うのだ、そんな人物はこの話には出てこない。あなたはごそごそを紙切れをカバンから取り出して、そこに書かれてある小さな文字を慎重に読み上げた。

「環境保護法違反の疑い」

「カンキョウホゴホウイハン」

二人は目を点にしている。

「そー。漢字多いよね。」とあなたはみこ達寄りの反応を見せた。

自分でもよくわからないが、ここは続けるしかない。

「正確にはホウエン地方、環境、生物生態保護違反だって。」

「ほう。」

「えーとですね。これはアクア団とマグマ団に次ぐ要注意事案です。つまり第三の環境活動家としてあなたは個人で指名されているんです。」

「ええ!!??」

本当に驚いているようだった。がっくりと膝を落とし、ストレスからくる歯ぎしりを無理やり押し黙らせる。

「なんでみこがアイツらと並んでるんだよ!おかしいじゃねえか!」

みこの脳内に雷鳴が走った。

「ってことはお前主人公ってコト!?」

「か、かも」先ほどの勢いは既になく、あなたは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「なぁんでだよぉ!みこが一体なにした!ゲットしたポケモンなんてジグザグマくらいしかないジャン!」

「あ!わかった」と35P。

「ものひろい特性のあるジグザグマたちを酷使し過ぎたんだ。」

「そんなことで?」

みこはあっけらかんと答えてすぐに失言を取り消す。

「あのですね…理由はコイキングの乱獲です。」

「え?」

二人は声を合わせた。

「コイキングの乱獲。」

「え?なに?みこちゃんコイキング取り過ぎて第三勢力にリストアップされたってコト?」

「そんな間抜けなことある?」と言って周囲に同意を求めた。

「ちなみに何匹釣ったんですか?」

「ええと…ざっと1万飛んで800匹くらい。」

「取りすぎたろぉ!」

「取ってない!取ってない!ちゃんと倒した!」

「なお悪いわ!万単位の生物屠っておいて生態系に影響ないなんてあり得ないだろ!」

二人の感情の差に温度はあれど、両名ともポケモントレーナーなのである。目と目が合った瞬間、次に行われることは一つしかなかった。

「デュエル開始!」

「違う!35Pは黙ってて!」

 

 新人トレーナーのあなたはさくらみこに勝負を仕掛けてきた!

「みこさん、あなたは同じ博士を持つトレーナーの先輩ですが、ここで倒されてもらいます!自分の無知を悔いて改心しなさい!」

そう叫んで投げ出されたモンスターボールは綺麗に弧を描き、地面に当たる直前でくす玉のように割れた。光線のように放たれた光は徐々に中身の姿を形容していく。

「ゆけっ!キモリ」

あなたの先陣を切ったのは、残った御三家ポケモンの草タイプだったのである。

ということは、みこの選んだポケモンは消去法で炎タイプのアチャモであるはずだ。当初からタイプ相性が悪いことはわかっていたが、この辺りで見つけられる水ポケモンは限られている。

総力戦を覚悟し、たまたま仲間にしたハスボーを加えた4匹でここに挑んだのだ。

対するみこの手持ちは既に6匹だった。序盤からチャンピオン並みの難易度であるが、仕方がない。

当の彼女は何か考えているようで何も考えていないのだろう。能天気な表情をしてモンスターボールを投げた。

「チャッピー!君に決めた」

周囲に瞬く光が小さくなると、そこには二頭身の愛玩ポケモンは存在していなかった。

プロレスラーのような出で立ち、長く立派な四肢には燃える炎を連想させる体毛が装飾されている。闘志をむき出しにした睨めつけるような眼の持ち主は最終進化形の「バシャーモ」だった。

「あっ」と思わずあなたは声を上げる。

それはレベル違いの強敵を目の当たりにしたことによるあきらめではなく、己の浅はかな思考を悔やんでの事だった。

いくらさくらみことはいえ、ポケモンリーグに目をつけられるほどコイキングを倒してきた人物である。

「失礼だろっ」

1万匹も倒せばレベルがカンストしていてもおかしくないのだ。

素早さからして敵うはずもなく、先制攻撃の「にどけり」で手も足も出せなかった。この殺戮は4ターンで終わってしまった。

目の前が真っ暗になったのはあなたの方だった。

「対ありでした」と特に煽るようでもなく言うみこに、あなたは子犬のように小さく唸るしかできなかった。

 

 「まだ出っなぃ金コイ~今日もぉ~」

今日もみこはボロイ釣竿を海に垂らして海風に揺られていた。塩害など気にしないその風潮には、神かかった強運がついているのであろう。彼女の背後から35Pがジグザグマを率いてボテボテと歩いてきた。

ひろいもの特性を持つ5匹のジグザグマは二人の資金源なのである。

「ひろおたち返ってきたよー。」

しかし今回の成果はあまり芳しくなく、彼女の求めたきんのたまやふしぎなあめは入手できなかった。

「しけてんにぇ」とつぶやくみこに同調するように白猫が向き直る。

「ひろお、お前のたま出せ。」

「コラッ!」

新人トレーナーのあなたはポケモンセンターで回復した後に、そそくさと一つ目のジムバッジを手に入れるため歩みだした。

「ああはなりたくないけど、目指したい人です。」とあなたは去り際に35Pに伝えている。その事は当の本人には言っていないのだ。

「みこち、裏ボスだと思われてるんじゃないの?」

ヒクヒクと髭を動かし、口を動かす35Pに対してみこは乾いたように笑った。

「みんなが殿堂入りするまでここにいろってか。勘弁してくれぇ…それまでに金コイちゃん釣って先に進まないと。」

釣り餌がぷかぷかと白い波にのまれるも、しぶとく海面へ顔を出す。

「みこちゃんも暇じゃねえっての。」

「いや、ひまの達人でしょ。」

パッチールマニアの事だと彼女はすぐに理解した。

「っうせえ!」

丁度その時、背後から急に声をかけられた。

振り向くとそこにはカメラを構えた人物とマイクを片手に満面の笑みを顔から溢しだしそうなリポーターが立っていた。

「週明けから夜更かしって番組の者です。聞いたことありますか?」

二人はゆっくりと頷く。

「今、街角突然インタビューってコーナーの取材をしているんです。」

嗚呼、とうとう来たか。35Pは冷めた目でみこを見つめる。

「インタビューよろしいでしょうか?」

…みこちゃんは暇じゃねえ!

 

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