それはあなたかもしれないし、あなたじゃないかもしれない。   作:茶漬四郎

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ナイギフから繋がる物語

 あなたは今日もパソコンを開き、さくらみこの配信を見る準備をします。

電脳巫女アイドルと言うパワーワードが乱列する彼女のプロフィールですが、実態はまだまだ幼い、赤子のような自信のない感性を持った女の子です。

今、あなたの前でピンク色の髪を揺らしている彼女は、ソロライブを終えたアイドルでも、登録者が200万人を超えた配信者でもありません。

まだ駆け出しの、架空のみこちゃんです。

 

 ゲーム配信終了後の雑談枠にて、彼女は感想を述べながら流れるコメントに目を配らせては時折読み上げていた。

プレイ中の注意点、良かったところ、PONな所。

みこはキャハハと声を出して瞼を閉じて笑顔になる。

ふと、あなたはコメント欄を流れるユーザー名が緑色で埋められていることに気が付いた。

勢いがゆっくりになると、白色との割合は五分五分であろうか。

ベルトコンベアのように流れるコメントの流星群に交じって箱に囲まれた赤色のコメントが流れてきた。彼女はそれを読み上げる。

「35Pねんれいがはんとしになりまちた。もうすこしできんなわ、うれちいな。よかったら、みこちママからおいわいのことばとかよちよちしてほちいバブ。みこちママ、いつもありがとう。」

今のは大の大人のコメントか。はたまた気が狂ったのか。思わず食べていたうどんを鼻から吹き出してしまった。

「こんな奴よりみこの方がしたっておかしいだろうがよぉ‼」

真っ当なツッコミである。

友人にVtuberなる存在を伝えると、奴は「フン!」と鼻で笑ってピクリと顎を上げた。

奴は他人の一人称を「氏」と呼ぶので周りの人間からは氏をつけた渾名で呼ばれている。

影では氏が4つで「ヨン氏」言葉を変えて「シコシコ」と呼ばれているが本人は知らない。

「氏よ。」ぬちゃり眼鏡に手をかける。

「あんなの動いてしゃべる絵でござるよ。」

何をおんどれ。

貴様の好物であるアニメやギャルゲーも動く絵ではないか。

「声優はそんなスキャンダルを起こさないプロでござる。契約違反をして消えゆく素人とは違うのでござるよ。」

「バカ言えい。平野綾と古谷徹を忘れたか。このユニコーンめ。」

やいのやいの、あーだこーだと言葉が投げつけられる。

「氏よ。」と奴は言葉を止める。

「なんだね。まだ庵野秀明氏の声優力について話している途中だぞ。」

「もー。良いだろそれは!「風立ちぬ」じゃああれくらいがいいんだって!」

珍しく感情を露わにした奴はコホンと咳ばらいを一つ。

「VtuberがVtuberであるがゆえに、成し遂げなければならないこと、それは何かわかるかね?」

「なんだね。ブッシュから棒に。」

「今を生きる者たちにとってVtuberはVtuber。つまり目に映る物そのままなのだ。しかし古からインターネッツにいる今を支える者にとって、実況者、配信者、ゆっくり実況等々を経て今に至る。それらを網羅せねば新しい価値観と言うのは成立しないのだ。」

「そんな定義どこにもないぞ。」

「ソースを求めるな。ひろゆきッズか貴様。」

 

 この日、みこの配信は少し様子が違っていた。

所々トーンが落ちていたのだ。我ながら、短期間でここまでわかってしまう自分が恐ろしい。

「にぇ」と言う相槌の後、無言になる回数が増え、和なBGMだけが流れる。

それから彼女はポツリと名前は伏せるが他の配信者について話し始めた。

「あの子はいいなあ。すごいなあ」なんて言いながら。

「みこなんてまだまだだよー。みこの夢はね。前にも言ったと思うけど、ソロライブ!やることなの!」

その声はまるで幼女である。

しかしその夢を叶えるためにはまだまだ課題が山積みなのだ。応援コメントに交じってスタンプの話をする者が現れた。みこは思い出したように「スタンプ!」と声を上げる。

「今ね!作ってるの!けど一つ消さないといけないんだあ」

途端に「どうして?」というコメントが流れる。

「スタンプの数に上限があってね。メンバーシップの数が次のレベルに行かないと追加できないんだ」

カチカチとマウスを操作する音が響き、みこは「どれ消そうかなあ」と声をひねる。

その時、「氏子」なる35Pが青スパを投げつけた。

「あ!スーパーチャットありがと!シ…」

ムッと彼女の表情が険しくなるも、有識者なるコメントの連投でそれが「ウジコ」と読むのだと知ると気まずそうに謝った。

「ウジコさん!スパチャありがと!…やめてよ皆!みこ何も言ってないじゃん!!もうスパチャ特別に読んじゃうよ。『メンシあと何人でスタンプ枠増やせるの』えーとね。次は100人かな。お金払ってまで聞かなくていいからね。自分の言いたいコトちゃんと言いなー」

今度は赤スパが同じ人物から投げられる。そこには一言「あと何人?」としか書かれていなかった。

思わず鼻から吹き出したみこは、驚きのあまり叫び声に近い声を上げた。

「なんで赤スパ投げて一言しか書いてねーんだよ!怖いわ!恐ろしいよ…。…あと50人です」

そこは言うんだ。赤スパだもんね。

ネットでも、現実世界でも、勢いのある人は好かれる。刹那、コメント欄が止まり、そして一気に動き出す。

そこには「氏子さんからメンバーシップギフトが送られました」と言うメッセージが連投されており、その数は50件に上った。

もちろん、あなたにもギフトは送られており、その通知を許可する。それからも他のユーザーが小口でギフトをプレゼントする光景が続き、時折みこは眼を閉じてじっと黙っていた。

それからズズッと鼻をすすり、消えそうな声で『ありがと』とつぶやいた。

彼女は誰かのコメントを拾う。

「これでスタンプ減らさずに済んだね。全くだよ!!」

えへへ、と嬉しそうである。

桜のつぼみが膨らむ、そんなVtuberはその花を満開にさせるのは少し先である。

あなたはケータイを手に取り電話をかける。

「よ。友よ。」

「どうした氏よ。今布教活動中である。」

「貴様のハンドルネームはもしや『氏子』と言うのではないか?」

「なぜそれを?」

「たった今、氏子からメンバーシップギフトを送られたのだよ。これで私も35Pだ。」

驚いたような、楽しそうな声が漏れる。

「布教活動は行っているようだな。」とあなた。

無事に今日から縄をつけられる35Pとなったのだ。

「いいか、我らの間には上下はない。だた下にみこちがいるのみなのだ。わかったな。」

先輩35Pから有難い言葉が送られ、あなたは元気よく答えた。

「わがっだ!」

 

 

 

 

 

 

 

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