神皇興国紀   作:HawkAndEagle

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崩れゆく思い出
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 ――始まりは、あまりに唐突で、何より呆気ないものだった。

 

 『立ち入り禁止』の看板が置かれ、解体工事のためにフェンスで囲われた敷地。

 参拝へ訪れる人はすっかりいなくなり、後継を用意することもできなかった為に放置され、荒れ放題となった廃墟同然の古い神社。

 

 社殿は朽ち果て、参道の石畳や境内の敷地を囲う玉垣には、程度こそあれ一面覆うように苔が生い茂り、入り口にそびえ立つ石造りの鳥居もすっかり黒ずんで、かつての威厳を見せてたであろう姿は見る影もない有様だ。

 

 見る人の多くにとっては無関心。あるいは薄気味悪さを覚えても仕方がないほどに朽ち果てた、何ら価値を見出せないであろう古寂れた場所。

 しかし、俺にとっては小さい頃からずっと世話になった、何物にも代えがたい大切な場所なのだ。

 

 ……大切だった、場所。

 

 そこの取り壊しが、ついに始まろうとしているのである。

 

〝もう随分前から知ってはいたから、寝耳に水ってわけじゃないけどさ……〟

 

 目の前で取り壊しのためにせっせと準備を進めている作業の人たちを見つめていると、ここ数か月の間で起こった様々な出来事に対するやるせなさを感じずにはいられなかった。

 

 もっと上手くやる方法があったのではないか?

 今とは違う、また別の選択を取っても良かったんじゃないか?

 

 今さら振り返ったところでどうしようもないはずなのに。

 まるで死に際に見る走馬灯のように。

 ……あるいは家族や近しい誰かと死別でもした時のように。

 虚しい気持ちのまま頭の中で様々な記憶が駆け巡っていた。

 

 ……いや、あながち比喩じゃないのかもしれない。

 今の俺にとって、この目の前で始まろうとしている取り壊しの風景は、文字通りの意味で過去との別れ。

 

 変えられようのなかった運命(さだめ)を受け入れ、これから先も強く生きていく決意を固めるために必要な儀式なのだから。

 どれだけ辛くても、どれほど怖くても、この光景から目を逸らすことは許されない。

 

 でなければわざわざ解体工事が今日行われると把握した上で来るわけがないし、来る途中でも何かにつけて行かない理由を探そうとする心に鞭打って足を止めることなくここまで辿り着いたのだし、それに……、

 

「………………。――あぁ、やっぱ無理だわ……」

 

 目頭が熱くなり、天を仰いでこらえながら、思わずそんな言葉を溢してしまう。

 涙はとっくに枯れていると思い込んでいたが、未熟な自分には己の心を上手く律するなんて芸当を使いこなすことはまだできないようだ。

 

 ……それとも、脳裏をよぎった彼女の笑顔が、もしくは別れ際に見せた彼女の泣き顔が、死にかけていた俺の心を無理やり生き返らせたからなのだろうか?

 

 いずれにせよ、次から次に湧き上がってくる感情を抑えることはもうできそうにない。

 どうにか泣き叫ぶことだけは我慢できたものの、こみ上げる嗚咽だけはこらえることができず、取り壊し工事に従事する作業員の人たちの一部から不審な目で見られてしまう。

 

 だが、一度悲しみを、そして悔しさを感じ始めたら、もう止めようがなかった。

 この場所で……いや、この古い神社に隠されたある秘密(・・・・)のおかげで出会えた、大切な人たちと結んだ、かけがえのない『縁』が目の前で失われようとしていることを。

 

 ――自分がこの生涯を賭して守り、幸せにしたいと願った少女と、もう二度と会うことができない事実を。

 

 自分は今、改めて思い知らされているのだから。

 




プロローグなので短めです。
数年ぶりに物書きを再開するので、ほぼ初投稿かも……。

ストックに留意しながら、なるべく定期更新を心がけていきたいですね。
(隔週か、それとも月一か……)

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