神皇興国紀   作:HawkAndEagle

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遅くなりました……。

仕事やワイルズもあって、執筆の時間を確保できなかったこともありますが、
それ以上に今回は、プロットの書きまとめ作業にかなり時間がかかってしまいました。


9.

 

「――二人とも。そのまま息を潜めろ。目立つような動きも決して取るな」

 

 アズサたちと別れ、白也さんと清義と一緒に魔熊の姿を探し始めてから一時間弱が経過した頃。

ついに俺たちは今回の標的である魔熊を発見する。

 

 まだ遠目で姿を捉えた程度ではあるが、警戒を強めるよう促した白也さんの声は真剣そのものだ。

 それもそのはずで、奴らの嗅覚と聴覚なら油断し切った俺たちの存在を認識するなんて容易い上に、その状況を利用して逆に向こうから強襲を仕掛けてくるなんてことも連中が持つ知能の高さから考えれば充分にあり得るからだ。

 

「爺さん。アズサ様から待ち伏せの準備完了って連絡が届いたぜ」

「分かった。では、こちらもそろそろ仕掛けるとしよう。アズサ様にもそう返事をしておいてくれ」

 

 白也さんからの指示に清義が「うっす」と返事をすると、腰にかけてる小さめのポーチみたいな袋からメモ用紙サイズの和紙を取り出し、念じるように力を込める。すると手に持った和紙が独りでに燃え、そのまま灰となって塵に消えてしまった。

 

 清義が今使ったのは『伝紙』と呼ばれるもので、使用者の念じたことを文字として別の『伝紙』へ転写できる道具だ。単純な内容しか伝えられないので、メールやチャットツールみたいな細かいやり取りはできないが、作戦の準備や開始の合図を伝える分なら充分に使える代物である。

 

「連絡は済んだぜ。……んじゃ早速だけど、誰から切り込むことにする?」

「私が弓で仕掛けよう。清義、お前はクニヒコ殿と一緒に様子を見つつ、目的地への誘導を――」

「――いや、それなら清義だけで充分だろ。いざという時の備えも兼ねて、俺も白也さんと一緒に出る」

 

 三人で最終確認を進めていた中で、俺が口にした言葉を聞いて清義がニヤッと笑う。

 

「クニヒコ、弓矢が無いからアレ(・・)使うつもりなんだろうけど、あんまり強く飛ばし過ぎるなよー。あわよくば仕留めようと欲張って失敗した挙句、ロクに身動き取れなくなってやられる、なんて格好付かないぜ?」

「全力で飛ばしても倒し切れないような相手に、そんな無駄なことするわけないだろ……。ま、せいぜいおちょくる程度の威力を魔熊にぶつけて、怒らせてやるとするさ」

 

 それを聞いた清義は「そりゃあ良い。そうなってくれれば、奴が下手に逃げ出す心配がなくなるから、こっちも誘導がやり易くなる」と笑いながら答えた。

 

「……良いでしょう。では、私は奴の左から仕掛けるのでクニヒコ殿は右から頼みます。清義、誘導に際しての案内は任せるが、くれぐれも離れ過ぎることが無いように注意するのだぞ」

「了解だ。後ろには気を配っておくつもりだから、何か問題があれば、その時はそっちの支援に回らせてもらうぜ」

 

 そうして白也さんが俺の提案を了承し、各々の役割が定まったところで、俺たちはいよいよ魔熊の討伐に動き始めることとなった。

 

 

「――よし……じゃあ準備もできたことだし、仕事に取り掛かるとしますか」

 

 

 ※

 

 

「…………思ってたよりも遅いわね」

 

 待ち伏せ場所での待機を開始し、白也達からの連絡が届いてから既に半時近く(=約三〇分)が経過しようとしている。

 

 先ほど届いた連絡では『目標、予定地点より半里ほどの場所で発見。これより誘導を始める』と来てた。

なので全速でこちらへと逃げつつ誘導していると仮定すれば、もう既に到着してても良いはずなのだが、未だに三人の姿はおろか魔熊が迫ってくる気配すら感じられない。

 

 時間がかかって単に遅れてるというだけならば、まだ大丈夫だとは思うが、もし万が一、何か起きてしまっていたのだとしたら――

 

〝って、なに悲観的に考えてるのよ! いくら危険な魔物が相手だとしても、白也と清義がそんな簡単にやられるなんてことはあり得ないわ。クニヒコだって無茶をしがちなところはあるけど、あたしたちに負けず劣らず強いことくらい知ってるはずでしょ?〟

 

 白也と清義の強さは、幼い頃から二人の働きを耳にしてきたし、私が強くなれたのも、武術を教わるにあたって彼らの強さを相当叩き込まれたからこそだ。

 それにクニヒコについても、彼と初めて出会ってから、折を見ては竹刀を打ち合って一緒に鍛錬を重ね、どんどん強くなっていく姿を見てきたのは他ならぬ私自身だ。

 

 そんな私が彼らを、そしてクニヒコのことを信じないでどうする?

 いずれにせよ、今の私にできることは彼らが無事に役目を果たしてくれることを信じて待つよりほかないのだから、悲観的に考えるのはもう止めておこう。

 

「――――ん? あれは……」

 

 崖下の広場の向こう、ちょうど切通しのようになった出入口の先に人影が見える。

 

 目を凝らしてよく確かめると、それはこちらに向かって大急ぎで走って来ている清義の姿だった。白也とクニヒコの姿は見えないが、おそらく清義の後方に(魔熊も一緒に引き連れた上で)いるのだろう。

 実際、清義は広場の出入口で一度止まり、後続の様子を気にしている。

 

〝清義の様子を見る限り、多分白也とクニヒコも無事だとは思うけど、姿が見えないくらい遅れてるのはなんでかしら……?〟

 

 清義が先導役で先に着いたことは分かるが、後続の二人が置いてけぼりにされるほど早いことにはどこか違和感がある。

 清義が二人を置いてうっかり先に行ってしまったり、わざと置いてけぼりにしたりするような馬鹿じゃないことはよく知ってるので、何か理由があってだとは思うが……。

 

 すると、広場の出入口で待機していた清義が、何かを見つけたように手を振って「こっちだ! 早く来い、二人ともっ!」と大声で呼びかける。

 

 清義が呼びかけた方向を見ると、二つの人影がこちらに向かって全速力でやって来るのが目に入った。

 それが白也とクニヒコだと分かった瞬間、その二人のさらに後ろの方から猛突進しながら迫り来る巨大な怪物――今回の討伐目標である魔熊の姿も一緒に目に入る。

 

「予想してた以上に大きい……っ」

 

 遠目から見ても、三間半(=約六四〇センチメートル)くらいの大きさだろうか?

 

 平均より一回りほど大きいことに加えて、動きもかなり速い。

 

 白也とクニヒコも一町(=約一〇〇メートル)あたりの距離を、だいたい七つか八つ数えたくらいの速さで走れるというのに、あの魔熊は二人と同等かそれをやや上回る速さでこちらに向かって来ている。

 

 おまけにかなり怒ってるせいか極度に興奮しており、舌を出して涎を飛ばしながら二人めがけて一心不乱に突進している。呼吸は荒く、目も血走っていて、もしこのまま追いつかれたら、瞬く間に二人は蹂躙されてしまう。

 

 そんな私の抱いた不安を、逃げている二人も同様に感じたのだろう。

 白也が速度を緩め、魔熊との距離を敢えて詰めたかと思えば、そのまま振り返って立ち止まり、腰に佩いた太刀に手をかける。

 そして、魔熊が白也に狙いを定めて近づくと、右手を大きく振りかぶり、そのまま一気に叩き潰そうとしたところで、白也は手にかけた太刀を抜き放って横一線に斬りつけた。

 

 白也の攻撃を受けた魔熊は斬られた痛みに悲鳴を上げ、多少怯みこそしたが、すぐに立て直して再び攻撃に転じようとする。それを見た白也は素早く後ろへ飛び、白也と交代する形で既に待機していたクニヒコが今度は魔熊と対峙した。

 

 魔熊は再び右手を大きく振りかぶると、クニヒコめがけて一気に振り下ろす。

 しかしクニヒコは、その薙ぎ払いを避けることはせず、手に持った大刀(たち)を使って攻撃を防ぐ……いや、『防いだ』というより、攻撃を受け流すように『弾いた』のだ。

 

「相変わらずハラハラさせるわね、まったくもう……」

 

 待機している他の武官たちにいつでも仕掛けられるよう、弓を構えて準備するように指示を出しながら、無事を祈りつつ二人のことを見守る。

 

 全力の薙ぎ払いをクニヒコに完璧に弾かれた魔熊は、白也からの攻撃を受けた時とはまた異なる、そして比にならないほどの怯みで体勢を崩しかけている。

 クニヒコが休む間を与えず、怯んだ相手に攻撃を与えようと斬りかかるものの、流石にそう何度も攻撃を受けるような不覚は取らないようで、魔熊は体勢を立て直しながらあっさりとクニヒコの攻撃を躱した。

 

〝あの魔熊……ここに来るまでにも、白也とクニヒコから今みたいに攻撃を受けてきたんだと思うけど、受けた傷の多さにしては思ってよりもまだ活きが良いわね〟

 

 魔熊の身体には矢傷や刀傷など、いずれも致命傷とは言えないが、二人の攻撃によって受けたであろう傷があちこちに見られる。

 あれだけ怒って興奮してるのも、おそらくそれが原因で苛立ってるからなのだろうけど、疲労困憊になってたり、判断や反応が鈍くなってたりする雰囲気があまり感じられない。

 

 作戦の成否に関わるかどうかまでは分からないものの、下の広場へ誘い込んだ後の一斉攻撃に悪い影響を及ぼさないかどうかだけが心配ではあった。

 

〝……あら? 白也とクニヒコ、急にどうしたのかしら?〟

 

 魔熊と正面から対峙しつつも、離脱の機会を窺っていた二人が、何か言い争ってるように見える。……いや、言い争ってると言うよりは、白也がクニヒコに何か言い聞かせているのに対して、彼がそれに反論している、といったところだろうか?

 

 そんな考えを巡らせていた最中、魔熊から再度繰り出された攻撃を二人は回避した後、広場の出入口で待機していた清義の誘導もあって、こちらに向けて再び走り出した。

 

 二人の逃走を見た魔熊も、決して逃すまいと猛然と追いかけ始めたのを見て、作戦がついに大詰めの段階に入りつつあることが実感させられる。

 

 ……ところが、

 

「ちょっと待って……どうしてそこでまた刀を構えるのよ、クニヒコ」

 

 どういうわけかクニヒコが、出入口から広場の中ほどにまで進んだところで、なぜか魔熊を待ち構えるような動きを見せた。

 

 清義も驚いたのか「何してるんだ、クニヒコ!? 早く離脱するぞっ!」と声を上げて、クニヒコに離脱を促した。三人の役目はあくまで魔熊を下の広場まで誘導することなので、これ以上戦う必要はない上に、そこに残られると弓矢の攻撃に巻き込まれてしまう。

 

 しかしクニヒコは、「白也さんに事情伝えてるから、後で聞いてくれ!」と返事をして、逆に清義に早く離脱するように促す。

 清義はなおもクニヒコに言い寄ろうとしたものの、既に魔熊がとんでもないスピードで迫ってきてたことと、白也からさっさと離脱するように引っ張られたことで、やむなく下の広場から崖の上へと移動した。

 

 ――そして、ついに魔熊が広場に到着し、待ち構えていたクニヒコを見つけると雄叫びを上げ、そのまま接近すると横薙ぎに腕を大きく振るって彼を叩き殺そうと攻撃を繰り出す。

 その攻撃をクニヒコは再び大刀を使って弾くと、後ろの方へ飛んで下がり、魔熊との距離を取った。

 

 距離を置いたところで、彼は改めて刀を構え――彼が『霞の構え』(本人は「あくまで『モドキ』に過ぎないけどな」と苦笑いしながらだったが)と呼んでいた姿勢を取り、魔熊との一対一での戦いを始めたのだ。

 




プロットの段階で結構長めになってしまったので、
決着はまた次の話で済ませる予定です。

次回は多分1~2週間後くらいで更新できると思います。
(もしそうでなかったら、すんません)
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