魔熊の討伐には無事成功したものの、それで「はい、めでたしめでたし」となるわけではなく、その後もまあ大変だった。
討ち果たした魔熊の後始末はもちろんのこと、俺個人に関して言うなら、お怒りモードのアズサから、一人で魔熊と戦ったことに対するお説教を受ける羽目になったからだ。
「――それで? 白也に用件だけ伝えて、そして同意を得る暇も無しに一人で無茶して突っ込んだってことかしら?」
仁王立ちの姿勢で、静かに微笑みながらそう詰問してくるアズサ。
白也さんや清義含め、他の武官たちは下手に巻き込まれるのを恐れてか、俺と彼女の傍になるべく近づかないよう、周囲の警戒や討ち果たした魔熊の状態確認に努めている。
俺は冷や汗を流しながら、どう返事をすれば彼女がこれ以上キレることなく話してくれるのか必死に考えていた。
「えー……あー、はい。まあ、そうなるのかな? でも、それは考え無しに勢いで決めたとかじゃなくて――」
「私言ったわよね? 無茶だけはしないようにって。トモエはもちろん、他の家族みんなが悲しんでしまうことにだけはならないよう気を付けてねって」
……あ、やっぱダメだわ。
これ何をどう言い訳しても、今のブチギレ寸前のアズサを収められないどころか、むしろ火に油を注ぐことになるだけだ。
ただでさえ怖い今の彼女の微笑みが般若のような形相となり、さらに凄まじい圧を受けることになれば、俺の精神が持たなくなる。
「……はい。ホント、すんませんでした。こっちで勝手に決めて、一人で突っ走ったことについては、完全に俺が悪かったです」
とにかくまずは謝ろう。
少なくとも、無茶するなと散々アズサから釘を刺されていたのに、それを無視して一人で突っ走ったことは確かだ。
……あの時、自分が取った行動そのものは間違っていないと信じているが、事前の相談も無しに作戦を変更し、不安にさせるようなことをすれば怒るのは当然だろう。
「……。…………ふぅ。どうしてあんな無茶をしたのか、理由を教えてもらっても良いかしら?」
素直に謝ったことが功を奏してか、さっきよりは幾分か怒りを収めてくれたようだ。
深呼吸を挟んでから改めて訊ねてくるアズサの様子を見て、とりあえず致命的な雰囲気にはならずに済みそうと――この場にいる彼女以外のメンバー全員が――一安心した。
「それは、まあ……色々考えて、俺が一人で魔熊の動きを止められるだけの手傷を負わせる方が、あの場では最善だと思ったからだよ。危ないってのは百も承知だったけど、あのまま動きを止めずに奇襲を仕掛けてたら、魔熊を仕留め切れなかったかもしれないし……」
「本当にそれだけ? あたしも白也から事情は聞いてるから、危険性さえ無視すれば、あの時のクニヒコの行動が最善だったっていうのは理解してるつもりよ」
「それだったら別に――」
「けどね。そんな無茶をあなたがすること自体、そもそも間違ってるんじゃないのかって思わないの? 決して最善じゃなくても、白也や清義と協力して隙を作るってやり方を選んでも良かったんじゃないのかしら?」
「……それは……」
アズサから再び責めるような、けれどどこか悲しげな声で再度問いかけられ、どう答えたものか若干悩む。
「……無茶して心配をかけたことについては、ホントに悪かったって思ってるよ。けど、無茶したことそのものが間違っていたとまでは思わないかな」
白也さんや清義と共闘する、という選択肢を決して忘れていたわけではない。
ただ、あの時魔熊の動きを止められる可能性が一番高かったのも、能力はともかく一対一で渡り合えるだけの適正を一番に持っていたのも、俺くらいしかいなかった。
自惚れてるつもりはさらさらないとは言え、俺としてはなるべく犠牲を出さない最善策と考えて取った行動を、たとえ心配から来るものであったとしても「間違っているのではないか」と否定気味に指摘されるのは、さすがに堪えるところがある。
〝――いや違うか……。犠牲を出したくないから一人で突っ走ってる時点で、そもそも自惚れも良いところって思われるだろうな〟
振り返ってみて、内心で自嘲気味にそう溢す。
散々それっぽい理由や理屈を並べてはみたものの、アズサからの問いにすぐ答えられず、言い淀んでしまったのは、単純に自分のワガママを優先して魔熊と一人で戦うことを選んだ、と口にするのが憚られたからだ。
自分の目の前で見知った親しい――身内に等しいと言えるほどに気心の知れた誰かが、傷付いたり、犠牲になったりしてしまうような光景を見たくない。
去年の冬にアヤカを助けた時以来、そんな思いを俺はずっと抱くようになった。
そんなエゴ極まりない理由で、無茶だけはしないようにと何度も言い付けられた約束を破り、一人で戦うことを決めたなんて言えば、アズサの怒りがいよいよ手を付けられないところまで悪化してしまう。
誤魔化すようで心苦しいが、これ以上は何を問われても「自分が悪かった」の一点張りで押し通させてもらおう。
……相手の機嫌が悪くなると分かった上で、自分の本音をそのまま伝えられるほど、俺は肝が据わっているわけではないのだから。
仕事の忙しさもありますが、周りの誘惑が多すぎてなかなか執筆に集中できない……。