私の質問に若干言い淀みながら返事をするクニヒコを見て、ついため息を零してしまう。
彼に呆れて……というよりも、仕方がないか、という諦めに近い感情から出たものだったけれど。
「……まあ良いわ。幸い怪我も無くて反省もしてるみたいだし、今日はこの辺りで許してあげる」
できることなら、あんな無茶をした理由を今すぐにでも聞き出したかったけれど、できれば答えたくない、という今の意地を張った彼を見れば、ひとまずは諦めるしかない。
それに魔熊の討伐に大きく貢献する助力を果たした幼馴染相手にこれ以上叱るのは、みんなからの注目を浴びている状況的にも、私の気持ちとしても好ましくなかった。
「悪ぃな、アズサ。色々と……」
「良いわよ、別に。手柄を独り占めしたい、とか自分勝手な馬鹿らしい理由で取った行動じゃないことくらい分かるわ」
クニヒコのおかげで当初の予定通りに魔熊を仕留めることができ、犠牲どころか彼を含めて一人のケガ人も出さずに任務を終えることができた。
そのお礼を改めて伝えると、若干暗い表情だったクニヒコが、照れ交じりに「お、おう……そっか。なら良かったよ、うん」と少し顔を綻ばせながら、安心したように返事をする。
そんな、相変わらず気持ちや考えてることが顔と態度に出やすい彼を見て、私も一安心した。
「――その代わり♪ トモエとアヤカには、今回のことをしーっかりと伝えるつもりだから、その時はまた改めてよろしくね?」
……一安心したからこそ、少しだけ意地悪なことを言いたくなるのも、仕方のないことだろう。
私が告げたその言葉に、クニヒコは――さっきまでの暗い雰囲気こそ無かったものの――かなり絶望した表情に変わり…………けれど結局諦めて、軽く項垂れながら「……胃が痛くなってきた」と小さく呻く。
〝……これ、私も下手するとトモエの趣味嗜好を面と向かって注意できないかもしれないわね……〟
度を越えたり、相手を傷つけたりするのは絶対にダメだろうけど、時々ならこんな風に意地悪してクニヒコが悶える姿を見るのも悪くないのでは、とつい思ってしまった。
「ところでさ、クニヒコ。任務はもうほとんど終わったようなものだけど、あなたはこの後どうするつもり?」
想像してた以上の癖になりそうな感覚をもう少し味わっていたかったけれど、いつまでも変なことに興じてるわけにもいかないので、私は彼に今後の予定について訊ねてみることにした。
「んぇ? あ、あぁ……えーっと、そうだな――」
少し間の抜けたような返事をするクニヒコに、つい吹き出しそうになってしまう。
気持ちは分かるけれど、まだ受けると決まったわけでもいないトモエからのお叱りに、そこまでビクつかなくても良いでしょうに……。
「私としては、特に都合が悪くないなら、このまま一緒に宮へ戻って、一夜過ごしてから向こうに帰るのもアリじゃないかなって思うんだけど。もう夕方に差し掛かろうとしてるし、元々の予定だったトモエやアヤカにも会うことができるし…………はいはい、安心しなさい。
さっきのは冗談だし、たとえ話すことになっても一から十まで伝えるつもりは別にないから、戻ったらすぐに次のお説教が待っている、なんてことにはならないわ」
「――ホントかぁ? ……まあ疑ってもしょうがないから、そこは信じるけどよ」
そう言うとクニヒコは、再び考えるように顎を手で触り始めた。
彼が考えている少しの間で、他のみんなから魔熊を運搬するための手筈が整ったことや、宮へ飛ばした任務達成の報告に対して返信が届いたことなどが伝えられてくる。
「…………悪ぃ、やっぱり今日はこのまま帰ることにするよ」
「一応聞くけど、その理由は?」
「明日が月曜で……というか、普通に学校があるからな。こっちで一泊してから向こうに戻ったんじゃ、遅刻どころか無断欠席まっしぐらになっちまうよ」
「……本当よね? トモエやアヤカに今日会うのが怖くなったから、なんて、そんな腑抜けた理由じゃないって言える?」
別に泊まらなくても、会って話すことくらいできるはずなんだし。
「……。……ほんのちょっと。ほんのちょっとだけ、その理由が無いこともないっていうのは否定しないけど、あんまり遅くに帰って明日に支障をきたしたくないっていうのが、本音なのは確かだよ」
「ほんのちょっとだけ、会うのが怖いっていうのも確かなわけね。まったく……相変わらず妙なところで情けないというか……」
思わずそんな愚痴を溢すとクニヒコから「うっせ」と文句を言われるが、具体的な反論ができないところを見るに、彼も自覚はしてるのだろう。
〝けど、本当にそれだけなのかしら? あのクニヒコが、少々都合が悪い程度のことでトモエに会える機会をわざわざ不意にするなんて、普通あり得ないわ〟
クニヒコの様子を見る限り、お叱りが怖くて会いたくないというより、まだ口にしてない何か別の理由で会うことを避けたがっているような印象を受ける。
ただ、もしそうなら今日の途中までトモエに会おうと宮へ向かっていた彼の行動に矛盾が生じるので、彼の急な心変わりの原因が一体何なのか気にはなったものの……、
「まあ良いわ。とりあえず了解。私たちは討ち取った魔熊を運ぶ輸送隊が来るまでは、しばらくここで待機することになるけど、すぐにでも帰らなきゃいけないなら清義と他数人ほどを護衛に付けて『門』まで送るわ」
それは今問い詰めても仕方のないことと割り切り、今後の予定についての話に戻すことにした。
そもそも私の推測自体、単なる勘違いや考えすぎなだけの可能性だってある。
クニヒコが私たちのことを嫌いになってとか、そう言った類の理由じゃないことはさすがに分かるし、そうであれば急いで問い詰めたいと思うようなものでもなかったからだ。
――もしこの時に。
ほんのわずかでも、宮へ行くことを避けた理由を聞けていたのなら、彼が自らあんな
秋の話は次で終わる予定です。
(例のごとく違ったらすんません)
冬の話は短めになると思われますが、投稿そのものは大分先になりそう……