神皇興国紀   作:HawkAndEagle

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8.

 

「――みんな集まったようね。それじゃあ作戦を説明するわ」

 

 生えてる木々の密度が小さく、腰丈の草木もそれほど生い茂ってない、ちょうど小さな広場みたいな空間となっている場所で地図を広げ、アズサは集まった討伐隊面々――約二〇名の武官たちに向けてそう告げた。

 

「まず改めて、今回の討伐対象となる魔物の種類だけど、私たちの方で見つけた痕跡を白也が調べた限り、現れたのは魔熊と判断したわ。みんなが集めてくれた他の情報からもそれが確信できたから、今から話す作戦は魔熊を相手にしたものとして聞いてね」

 

 討伐隊の面々は、現れた魔物が魔熊と改めて知らされたことで、険しい表情を浮かべる人が少なくない。

 国の守りを預かる彼らほどの強者ですら戦慄を覚えるほどの脅威。それが魔物であり、その中でも極めて凶悪な存在が魔熊なのだ。

 

 やろうとしてることは害獣の駆除と変わらないものの、気を引き締めてかからないと俺が暮らす世界でもそうだが、取り逃がすだけならまだ御の字。下手を打てば返り討ちに遭って命を奪われてしまう。

 特に今回特定した魔熊の場合、下手を打たなくても返り討ちに遭うかもしれないという予測が、数時間前から立ってるほどなのでなおさら油断はできない。

 

「調べた痕跡から判断した限り、魔熊は魔物化してからそれなりに時間が経って成熟した個体だと分かったわ。かなりの大型でもあるから、簡単に仕留められるとは思わない方が良いわね」

「排泄物の痕跡もそれなりに見つかってることから、空腹で苦しんでいるといった可能性はおそらく低いだろう。飢えからくる狂暴さが無いことはありがたいが、いずれにせよこいつは獰猛な怪物であることに変わりはない」

 

 努々油断してかかることはないように、と白也さんはこの場にいる全員にそう言って釘を刺す。

 

 アズサと白也さんの二人から伝えられた情報に対し様々な意見が出たが、特に多かったのが『現状の人数と装備で魔熊とまともにぶつかれば被害が大きくなる』といった旨の指摘だった。

 

「……今からでも、早馬で増援を求めるべきではないでしょうか?」

 

 武官の一人が不安げにそう提案する。しかし、今から増援を頼んだとしても待ってる間に魔熊を取り逃がしてしまう可能性が高く。仮に増援が間に合ったとしても討伐の開始が遅くなる。

 

 昼前から今に至るまでに数時間近くを費やしてる現状、増援を待てば日が暮れるまでの時間が短くなり、そうなれば夜目が利く魔熊の方が一層有利になってしまう。討伐そのもの危険度が高くなるため、最善策とは言い難かった。

 

 そうした声がアズサを筆頭に他の武官たちからも上がったことにより、改めて増援ではなく、現状のメンバーで討伐するための作戦が説明されることとなる。

 

「みんなもだいたい同じ意見を言ってたと思うけど、今の人数と装備で手分けして魔熊を捜索し、見つけ次第合流しつつ攻撃を仕掛ける、といったやり方は危険だと考えてるわ」

「どう頭を絞って考えてみても、推定される強さと大きさの敵が相手じゃ、少ない頭数で当たれば、手痛いしっぺ返しを食らう未来しか予想できなかったからな」

 

 補足するように口にした清義のその言葉に、俺もアズサも、そして白也さんも大きく頷いて同意する。

 

「だから、こっちから攻撃を仕掛けるんじゃなく、どこかで待ち伏せして多少強引にでも誘い込み、矢を放って一気に仕留めるやり方で仕留めようと考えているわ」

「待ち伏せで選ぶ場所は、ここだ。広い平地で障害物も少なく、せり立った高い壁で囲われている。誘い込み方を間違えなければ、進入路を二ヶ所のみに絞ることも可能だろう」

「んでもって、誘い込まれて来たところを一斉に射貫いて、一気に仕留めるってわけだ」

「魔熊がどれだけタフ……じゃなくて、どれだけ頑丈だったとしても、十数人単位での矢の攻撃を一気に受けれければ、さすがに倒し切れるはず」

 

 アズサをはじめとした俺たちの説明を聞いて、他の武官たちからは気になったところや改善点としての意見等が次々に伝えられてくる。

 ただ、大きな反対の声は特に無かったので、少なくとも大枠ではみんな作戦に賛同してくれてるようだ。

 

 合流前に俺たち四人が集まった情報をもとに相談し、アズサが(白也さんの助言も受けつつ)立案した作戦ではあったので、特に問題はないはずと思ってはいたが、やはり説明した上で受け入れられた様子を見ると、どこか一安心する。

 

「――それで……誘導の役目は、誰が担うことになるのです?」

 

 ふと、武官の一人からそんな質問が飛んできた。

 

 それを聞いた他のみんなも気になったのか、アズサと白也さんに再び注目が集まる。

 

「それについても、既にこちらで人選は決めている」

 

 すると白也さんが、一呼吸置いたタイミングで静かにそう答える。

 

「目標の待ち伏せ先への誘導は、私と清義、そしてクニヒコ殿の三名で行う予定だ」

「クニヒコ殿も……ですか?」

「白也殿と清義のお二人でお役目を担っていただけるのはありがたいですし、我々としてもぜひお任せ申し上げるところではありますが……」

「何もクニヒコ殿まで、その任に当たる必要はないと思うのですが、アズサ様?」

 

 メンバーからは次々と、俺が誘導の役目に当たることに対して心配する声が上がってきた。……気持ちは嬉しいんだけど、少々過剰な反応ではと思うのは自分の気のせいだろうか?

 

「どうしてって言われても、本人たっての希望だからってのが一番の理由だな」

「作戦を事前に練った際、クニヒコ殿も大きく関わっていた。当事者が作戦の要となる役目に当たる方が筋としては通る上に、細かな連携を取りやすいという実利もある」

「それに万が一のことを考えると、白也と清義の二人だけじゃ危険だと考えてね……。クニヒコが加わるだけでも誘導の成功率がかなり高くなると思ったから、そのままお願いすることにしたのよ」

 

 清義の言葉をきっかけに、白也さんとアズサもフォローするように理由を説明してくれた。

 

 白也さんはこのメンバーの中で誰よりも追跡する能力に長け、清義は葦洲国に仕える武官たちの中で一、二を争うほどの速さの足を有している。

 だが『標的を目的地に誘導する』という役目において考えると、二人だけだと危険性の高さはもちろんだが、誘導そのものの確実性が乏しくなってしまうと判断されたのだ。

 

 なにせ単に標的を追いかけたり、ひたすら逃げ続ければ良かったりするわけではなく、真正面からある程度対峙はしつつ、目的地への誘導を適切に行わなければならない。

 

 なので、その『確実性が乏しい』という穴を埋める形で、俺が二人を手伝うと志願し、(最初こそ渋るような顔をしてはいたものの)最終的にアズサがそれを了承したことにより事前に班分けが決まったというわけだ。

 

「なに、そう案ずるな。清義もそうだが、クニヒコ殿のことは私が最大限支える。間違っても致命はおろか、深手を負わせるようなことにはさせぬ」

「道家殿、ですが……」

「それにのお前たちよ、相手が相手故に気持ちは分からんでもないが、クニヒコ殿がこの場にいる誰よりも強い忍耐を持っていることは、普段の鍛錬を通して知っておろう。……そういった力が必要であるとも判断したが故に、彼に任せることを決めたのだ」

 

 隊の中で一番のベテランであり、アズサ(そしてある意味で自分も)を除いたメンバーの上官でもある白也さんからそう聞かされれば、さすがに納得せざるを得なかったのだろう。

 最終的には、俺が誘導の役目に当たることに対して、各々受け入れてくれたようだ。

 

「じゃあ最後に、改めて何か気になることがあれば質問を頂戴。……無いみたいなら、作戦の説明は以上よ」

 

 そして最後に、アズサは作戦の打ち合わせを締め、行動開始の指示を出した。

 

 

「――クニヒコ……お願いだから、くれぐれも無茶だけはしないようにね?」

 待ち伏せ組の武官たちを率いて出発する直前に、アズサは心配するように俺にそう声をかけてきた。

 

「ああ、分かってるって。アズサの仕事にわざわざヘルプで来たってのに、足を引っ張るどころか、下手打って死んじまうなんてことになるのは、さすがに俺もゴメンだからな」

「ホントでしょうねぇ? 助太刀を了承した私の方からこう言うのは筋が違うってことは分かってるけど、あなたにもしものことがあれば私たち家族は当然だけど、一番悲しむのはトモエよ。……そのことだけは忘れずに、役目を果たすようにだけは心がけて頂戴」

「了解。白也さんと清義もいるんだ。二人のことは頼りにするつもりだし、何かあれば俺もしっかりと二人をサポート……というか、支援するつもりでもあるからさ」

 

 俺の言葉にアズサはまだどこか言いたげな様子だったが、あまり悠長に話してられる時間も無いと思ったからか、それ以上は言わないでくれたようだ。

 

「……じゃあ三人とも、後のことはお願い。くれぐれも気を付けてね。武運を祈ってるわ」

「おうよ! 誘導の方は任せとけ」

「ばっちり引き付けてやりますから、仕上げの方はお願いいたします! アズサ様」

「道中、どうかお気を付けくださいませ」

 

 そうして俺たち三人からの返事を聞くと、アズサは他の武官たちと共に魔熊を待ち伏せの場所に向けて出発して行った。

 

 ……さて。それじゃあ俺たちの方も早速始めるとしますか。

 

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