新エリー都のバッタ怪人   作:真序章

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#2 変身

 

「ほう……では、各地を行っては来たりを繰り返して旅をしているとな?」

「まぁ、概ねそんな感じですね。」

 

 思わぬ再会と出会いを果たした朱鳶と青衣は、翔悟についての話を少しの時間聞いていた。なんでも、彼は各地を旅して回っているのだと言う。

 

 青衣はまた随分とアグレッシブな男だと驚くと同時に、ある疑問が浮かんでいく。

 

「しかし、旅費は何処から?」

「普通に短期バイトの事もあれば……ちょっとした芸でチップを貰ったりもしますね。」

「芸?芸とな?」

「はい……あ〜ちょっとまっててくださいね?」

 

 翔悟はそう言うと、両掌を見せながら1枚の赤い印のついたコインを取り出す。

 

「ここに、1枚のコインがあります……これを……こう。」

 

 翔悟はコインを指で弾いて天へと舞い上がらせ、そして回転をかけて落ちてくるコインを、確りとキャッチして手を握りしめる。

 

(ふむっ……手を開いたらコインが消えると言う奴であろうか?)

 

 青衣は一連の流れを見て、そんな風に予測を立てる。朱鳶は、反対に何が起こるのか若干ワクワクした様子で見ていた。

 

 翔悟は微笑みながら手をひらくと、そこには、青衣の予想とは反対に20枚ほどにまで増えたコインがジャラジャラと音を鳴らしていた。

 

「むっ!」

「おぉ。」

「んで、もう一回握ると……ほらっ。」

 

 そして手を開けば、そこには先程の赤い印のついたコイン1枚だけを残して、他のコインは全て消えてしまっていた。

 

 朱鳶は翔悟の芸達者ぶりを知っているからか、驚くくらいだが……青衣は、その全くもって分からないその仕掛けに目を丸くする。

 

「!!」

「上手い物ですね〜……芸というか、手品ですけど。」

「大道芸とかも少し位なら出来るよ。」

「知ってます、学生時代に披露してましたよね……やりすぎて軽く引かれてましたけど。」

「……あったねえ。」

 

 翔悟は懐かしむように目を瞑る。すると、翔悟は朱鳶を見て、少し驚いたように声を上げる。

 

「にしても、驚いたのは俺もだよ朱鳶さん。今は治安官でなんか特殊な班の班長なんでしょ?それに、星見さんは最年少の虚狩りだもんなぁ。人って変わるねぇ……」

 

 二人は昔から優秀だったし、納得と言えば納得ではあるのだが、人は変わっていき、成長していくものだとつくづく感じる。

 

 朱鳶は、そんな風に頷く翔悟を見て言葉を掛ける。

 

「でも、翔悟くんは変わりませんね。」

 

 翔悟はその言葉を聞いて、若干目を見開くと、小首を傾げながら問いかける。

 

「……そうかな?」

「はい、相変わらず何時も笑顔で……少し、安心しました!……本当に、無事でよかった。」

「……そっ……か。」

 

 何か少し思うところがあったのか、悲しそうな声色で呟く朱鳶……それとは反対に、翔悟は笑みを浮かべながら、そんなふうに呟きを繰り返す。

 

 すると、少し時間が迫ってきているからか、朱鳶は時計を見て呟く。

 

「あっ……さて、私達はそろそろ行きます。青衣先輩。」

「う、うむ……そうするかの。」

 

 青衣は未だに翔悟の手品のタネを解き明かそうとその頭脳をフル回転していた。朱鳶は、去る前にと翔悟へとケータイを取り出して迫る。

 

「翔悟くん、連絡先。交換しておきますよ。」

「んっ?あぁ……嫌ぁ、旅先でケータイ壊れてさ。それで新しいの買ってから会ってなかったからなぁ。」

 

 翔悟も快く受け入れて、互いの連絡先を交換する。

 

「……今度はちゃんと連絡着くようにしてくださいね!?」

「分かってるって!」

 

 翔悟はそう言って去りゆく朱鳶に手を振ると、近くに止めておいた自分のバイクへと駆け寄る。

 

「ホッパー、行くよ。」

「……ンナ?ンナ!」

 

 バイクに跨ってスリープモードに入っていた翔悟のボンプ『ホッパー』は目を覚ますと、ピョンと飛び跳ねて翔悟の背中にしがみつく。翔悟はバイクのアクセルを入れて、その場から走り出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うむ……」

「……?先輩?」

「あの翔悟と言う若人の手品……仕掛けが全く分からん。一体どうやったのか……今度聞いてみるか?」

「翔悟くん、手品のタネとかは否が応でも話しませんよ?それじゃあ面白くなくなるって……」

「それは……そうである、な……」

 

 青衣は納得であるが、どうにもスッキリしない感情に目値に秘めるのだった。

 

 


 

 

 

 

 

 その日の夜――数多のビルの明かりが消え去る闇夜をそこに、一人だけバイクに跨りながら夜景を楽しむ翔悟が一人。

 

 彼は、今朝に出会った朱鳶や虚狩りなったと言う雅を思い出して、何処か淋しげに呟く。

 

「変わってたけど……変わってなかったなぁ、朱鳶さん。」

「ンナ?」

 

 ホッパーは、何が何だかよくわからないようで、小首を傾げるようにつぶやくだけだ。それでも、翔悟の吐露は終わらない。

 

「星見さんも変わってないってさ、今度会いに行かなくちゃなぁ……」

「ンナ!!」

 

 よくわからないが、ホッパーは首を振って同意する……そんなホッパーを他所に、翔悟は自分の手を見ながら本当にか細い声で、今にも潰れてしまいそうな声で呟く。

 

「……()()()()()()()()()()()()……かぁ。」

 

 翔悟がそんな吐露をして、朱鳶の言葉を思い出す。

 

『でも、翔悟くんは変わりませんね。』

 

 脳裏で響く言葉に、翔悟はひたすらに、無意識に首を振る。

 

「……違うな、変わっちゃったよ……俺………っ!!」

 

 次の瞬間、翔悟の頭にピキリと日々笑るような鋭い痛みが来る……この痛み、()()()()()()()()()だ。自分が変わってしまった一つの証明でもある。

 

 翔悟はそっと目を開き、静かに呟く。

 

「っ……近いな。直ぐそこか?」

 

 翔悟がそんな風に呟き、振り向けば……丁度そこに()()。緑色の身体に、複眼、触覚……首には黄色いスカーフが付けられている、一匹のバケモノ。

 

 新エリー都で生まれるホロウの中にいるエーテリアスとは全く違う、生々しい生物的なバケモノ。

 

 ……この街で噂される、謎のバッタ怪人。都市伝説ともされる存在が、確りとそこに居た。そのバッタ怪人は、腰を低くして歯をカチカチと鳴らしながら、低い唸り声を上げる。

 

「giii......!!giiii......!!」

 

 一般人であるば、その姿を見るやいなや腰を抜かして逃げ惑うだろう……それが通常であり、正しい判断だ。だが、翔悟は違う。

 

 翔悟は、もはや目の前のバッタ怪人の存在は見慣れてしまった……見慣れる以上に親しい存在となってしまった。

 

 彼は、トレンチコートのベルトを緩め開く……その腰には、風車の埋め込まれたベルトが、月夜の光が受けて鈍く輝いていた。

 

 バッタ怪人は、低く理性のない唸り声を上げながらジリジリと翔悟ににじり寄っていく……翔悟はそんな怪人に恐れるでも余裕をこくでもなく、真剣な眼差しで見つめていた。

 

 そして、静かに呟く……自分が、変わってしまったことを証明する、悪魔の言葉を。

 

「……変身。」

 

 その呟きと共に、トレンチコートの奥に隠した腰のベルトの風車が回りだす……そして、そこから水面に波紋が広がるように、青年の姿を人ならざる物へと変えていく。

 

 黒と深い緑の生体強化外骨格……そして、異変はその顔にも浮かぶ。何もなかった顔に、痛々しい手術痕が、まるで涙のラインの様に浮かんでいく。

 

 頭から触覚が生え、目は真っ赤に染まっていく。やがて、皮膚色すらもバッタのような緑に変わっていくではないか。

 

 すると、翔悟は震えた声でバイクに乗っていたホッパーに催促する。

 

「……ホッパー、頂戴。」

「ンナ!」

 

 すると、ホッパーは一つのヘルメットを翔悟へと手渡す。翔悟は、そのヘルメットを受け取ると否応無しに頭にかぶる。そして、同じ様に口元を覆うマスクを取り出し、ヘルメットに装着する。

 

 マスクを整えると、翔悟の声の震えは収まっており……変わりに彼は、静かに安堵の声を響かせる。

 

「……フゥ。」

 

 その姿は、彼の目の前にいるバッタ怪人と何も変わらない……違うのは、若干の色味と、そのマフラーが赤色であるという点だ。

 

 翔悟は、特有のファイティングポーズを見せて目の前のバッタ怪人を迎え撃つ。バッタ怪人は大きく唸ると、目の前の変身した翔悟に向かって駆け寄り、その拳を振るい飛びかかるではないか。

 

「giiiiiiiii!!!」

「ふぅ……!!」

 

 翔悟はバッタ怪人の攻撃をひらりと避ける。すると、怪人は素早い身のこなしで拳を翔悟に畳み掛ける。だが、翔悟は慣れた手つきでその拳を弾いていなしてしまう。

 

 翔悟も反撃と言わんばかりに、その拳をバッタ怪人へと振るう。怪人は野生児のような身のこなしで、大きく飛び跳ねながら翔悟の攻撃を回避する。

 

 そして、飛び跳ねる勢いのまま落下しながら翔悟へと蹴りを入れようとした……翔悟は咄嗟に腕交差させて、胴体を守る。

 

 バッタ怪人の蹴りが、翔悟の腕への直撃……鋭い痛みを翔悟が襲う……だが、翔悟は痛みなど関係なしと言わんばかりに、その脚を弾いてしまう。

 

「giiiiiiiiiii!!!???」

 

 怪人は大きく宙返りしながら、地面へと倒れてしまう……だが、直ぐ様大きく跳び跳ねて立ち上がり、再度翔悟と向かい合う。

 

 互いに睨み合いながら、互いの隙を突こうと互いの周りを回り動く二匹――先に辛抱堪らず攻撃を仕掛けたのは、バッタ怪人の方だった。

 

 大きく足を踏みしめて、膝を曲げ、コンクリの地面が凹む程の力で翔悟へと跳び掛かる……その脚をもう一度伸ばして、キックを放った。

 

 ものすごいスピードだ、常人であれば一切反応できないであろう。手練でも、もしかしたらかする位は蹴りを食らってしまうかもしれない。

 

 だが、翔悟はその一撃を完全に読み切り、見た目の如く、バッタの様に大きく跳躍する。バッタ怪人は、蹴りを地面へと打ち込み、急ブレーキを掛けて天を見上げる。

 

「ハァァ…………!!」

「giiiii!?」

 

 翔悟は見上げたバッタ怪人に向かって落下の勢いと共に、その蹴りの一撃を胸へと叩き込んだ。バッタ怪人はその衝撃を受け、コンクリートの地面へと叩きつけられる。

 

「デリャァァァ!!」

「giiiiiia―――――」

 

 翔悟は倒れたバッタ怪人の胸から、そっと脚を退かす……そして、何も言わず、何も言えず、そのバッタ怪人を眺めるだけだ。

 

 バッタ怪人は翔悟へ何かを訴えるように手を伸ばす……だが、その手の先から溶解していき、やがて全身が溶けてなくなってしまう。

 

 翔悟はギュッと拳を握って、震えた声で呟く。

 

「……せめて、眠ってくれ、安らかに。」

 

 翔悟は、自分にそんなセリフを放つ資格なんて無いと理解しながらも、そう呟いて……怪人の死を悼んだ。そして、同時にやるせなさも湧き出てくる、その()()()への怒りと共に。

 

 

 ……その脳裏に浮かぶのは、数年前の()()()()だ。狭い四角いコンクリートの部屋の中、ぎゅうぎゅうに押し詰められた、翔悟(自身)を含めた人間達。

 

 息苦しいそのコンクリの箱の中に流されるガス。そのガスを吸い込み、次々とその姿を変える人々、叫びが唸りが、助けを呼ぶ声が耳にこびりついて離れない。

 

 まるで、その空間の中は――災害であり、エーテルと言うエネルギーに満たされたホロウの中の様に、ホロウの中で人がエーテリアスと言う化け物に変わる様に、人々が変わっていく。

 

 変わってしまったその姿に恐怖し、やがては自分すら失っていく。言葉を発し、理解することすら出来なくなり……終いには、何も分からぬまま同族同士で食い合い、殺し合う。変わっていようが、変わっていなかろうが関係なく………まるで、蠱毒の様だ。

 

 ……やがて、自分を見失わず、自分で居られたのは……翔悟(自分)だけ。暫くすればその、コンクリートの部屋の扉が開き、光が漏れ出てくる……()()()()()()()()者達は、光の奥へと消えていく。

 

 

 ……嗚呼、思い出したくない光景だ、だが思い出さなくてはならない、忘れてはならない。自分が戦う原点を――これ以上、()()()()()()()()()に誰も傷つけさせないために。――

 

「……ホッパー。」

「ンナ?」

 

 事をバイクの上で悲しげに見ていたホッパーに、翔悟はマスクとヘルメットを外して、静かに問いかける。

 

「……この戦いは、いつまで続くんだろうな?」

「ンナ……」

 

 ホッパーは、何も言葉にすることができずに、悲しそうな顔をするだけだ。翔悟は少し唇を噛むと、バイクへと近づきながら、つぶやく。

 

「…………少し、走ろうか。」

「……ンナ!」

 

 翔悟はそう言うと、ホッパーは頷いてバイクにまたがる翔悟の背中にしがみつく。やがて、バイクは走り出し、夜の道に赤いランプが残像を残して消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 




本森翔悟:ナニカサレタ主人公。バイク乗りのバッタ怪人の正体……変身後の見た目とか変身シーンのイメージ的には『仮面ライダーTHE・NEXT』のボロボロの1号。あの歴戦感本当に好き。

バッタ怪人:複数人居て全員が黄色いマフラーをつけてる。エーテリアスと同じく元人間、だけどエーテリアスほど人間から遠くないと考えられる。



朱鳶:この後雅にウッキウキで翔悟の生存報告して翔悟の連絡先を渡した。

青衣:本当に手品のネタが分からなくて暇を見つけては考えている。
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