新エリー都のバッタ怪人 作:真序章
ホロウ……今この世界で、最も身近で、神出鬼没の理不尽な死と言って良いだろう。ドーム状に現れるその異空の中では、『常識』の二文字は通用しない。
右へ行ったつもりが左へ、左へ行ったつもりが10階建てビル相当の高さからおちる事もあり得るのだ。ホロウの中に居続ければ、人間はホロウ内に跋扈するエーテリアスと言う化け物に変化する。
誰が、何処で、どうやって死んでも可笑しくない空間。それがホロウなのだ。
しかし、同時にホロウの中では、新エリー都で欠かすことのできないエネルギー、エーテルが満ち溢れている。人類は、もはやホロウと共存しなくては生きられないほど、多くのエネルギーをエーテルでまかなっているのだ。
……故にホロウに長時間いられる、エーテル適性の高い人間はこの世界で重要な存在だ。だが、エーテル適性は完全に人の体質により、誰がどの程度のエーテル適性を持つかは予測できない。
もし、エーテル適性を持つ人間が後天的、もしくは人為的に生み出せるのであれば、それはとんでもない功績と言って差し支えない。
たとえ、どれ程の人間で失敗し、犠牲になったとしてもそれで数人の
しかし、そうして変わってしまった彼らを人と呼べるのかどうか……それは、また新たな論点の火種になることだろう。
違法にホロウに出入りするホロウレイダー、それを支援するプロキシ。公的機関としてエーテル採取や研究を行うホロウ調査協会、任務の為に時にホロウにすら迷いなく飛び込む治安官にH.A.N.D。
ホロウの中は、組織的な意味でもさまざまな組織が錯綜する……正にカオスな空間であるのだ。
そんなホロウの中を、翔悟は相棒のボンプ、ホッパーと共に愛機であるバイク『サイクロン』で駆け抜けていた。
「……っ!……近いな。」
翔悟はズキリとくる頭の痛みを抑えながら、そう呟いてバイクのスピードを上げる。
旅人である翔悟は、ホロウ調査のライセンスは持たない……であれば、翔悟もホロウレイダーなのか?……自分の目的の為に無断でホロウに入る者と言う意味合いであるならばそうであるとも言える。
――今回、と言うよりも
翔悟は……いや、バッタ怪人は総じてその気配を感じるとる事が出来る。
ホロウ内外関係なく、そばにいるバッタ怪人同士は、互いの位置を『勘』で理解する事が出来る。ホロウの中であれば、まるでキャロットを持っているかのように互いへと近づくための道筋が分かるのだ。
……そもそもあのバッタ怪人が何なのか、と言う所から説明しなければ話にもならないか……最も、翔悟自身も多くは知らない。
――――かつて、何者かの手によって攫われ、独自の改造手術を受けた者達……それが、新エリー都各所で都市伝説となっているバッタ怪人の正体だ。
怪人と成った者達は、人間らしい感情が抜け落ちていき、その理性すらも削れ、やがては見境なしに人を襲う化け物へと成り果てる……そのプロセスは、人間がホロウの中でエーテリアスに成る経緯と良くにている。
何故彼らが、彼女らが怪人にならなければいけなかったのか……それは、翔悟にもわからない。
一つだけ確かに言えるのは、怪人達は衝動のまま、無意味な殺人を繰り返すと言う事。それを止める為には、もはや怪人達を葬ってやるしか無いと言う事だ。
……かつて、殺す事以外での解決方法を模索した男が一人いたが……その結末は、ただ単に無意味な犠牲を増やすだけの物だった。
彼は、その後悔も悲しみも罪も罰も何もかもを背負い、マスクの下に顔を隠して、
戦う事は辛く悲しい、しかし迷っていては犠牲が増えるだけだ……その辛さや悲しさは、自分一人で背負えば良い。自分の手を汚さずに誰かを護ろうなんて、甘いんだと。
だから、彼はこうしてバイクに乗り込み、感じるままにバッタ怪人へと向かって走る。自分と同じく望まないで怪人に成った者達を終わらせる為……故に、彼は戦い続ける。
「……そろそろ、近いな。」
「ンナ!」
翔悟は、標的が近いことを察知するとトレンチコートの開き、ハンドルから手を離して、ヘルメットを外す……そして、腕を広げその身体全身で風を受けるのだ。
そうすれば、腰のベルトが風を受けて回転する……すると、またもや波紋が波打つように翔悟と、今度は彼の乗るサイクロン号の姿も変えさせる。
マフラーが六本に増え、装甲が展開、追加され、新たに4つのライトが現れ輝き、先の道を照らす。
「ホッパー!」
「ンーーナ!!」
翔悟はホッパーへ声をかければ、ホッパーは複眼のついたヘルメットを翔悟の頭へと被せた。翔悟は、マスクをヘルメットに装着させると、ハンドルへと手を戻して、そのスピードを高める。
「はぁ……はぁ……」
……共生ホロウの中、一人の少年が息も絶え絶えになりながら走っていた。
靴の底と地面が擦れる音が響き渡り……遅れて、別の不規則な足音が、少年の跡を追うように流れていく。
本来、共生ホロウの中で闇雲に出口を探そうと走り回るのは得策とは言えない。闇雲に走り回り、結果何処へ行き着くのか、わかったものではないからだ。
もしかしたら、別のホロウの別の場所に着くかもしれない……出口が見つかる可能性は万に一つ。
時間をかければ確かに出口を探し出すことも出来るが、大抵の人間は探す道中で限界が訪れエーテルに侵食されてエーテリアス化というのがオチだ。
故に、今の少年のようにホロウを駆けずり回るのは良しとは言えない、大抵はその場で待機と言うのが安牌だ、下手に動くと見つけてもらえない可能性もあるからな。
だが、エーテリアス化するよりも前に殺されそうな時は別と言って良いだろう……ホロウの中ではエーテリアスが跋扈している、そのエーテリアスに襲われて殺されるのも、ホロウの中では珍しくはない。
そんなエーテリアスから逃げるために走り回ると言うのは、当たり前の話だろう……であれば、今少年はエーテリアスに追われているのか?
……答えは、違う。少年が追われているのは、エーテリアスとは全く違う生々しい化け物だ。
一見は、唯の仮面をつけた人間に見間違うような……だが、それを人間として見る事に脳が無意識に拒絶するような、そんな化け物だ。
「はぁ……はぁ……な、なんなんだよ……あれ!」
少年がそう言って後ろを振り向くと……そこには人間離れした身体能力で、少年を追いかける影があった。……三つも。
「giii……giiiii……!!」
「giiiiiiiii!!」
「giiiiiiii……giiii」
黄色いマフラーに真っ赤な複眼、むき出しにされてカチカチの鳴らされる歯。それらは、バッタの様にぴょんぴょんと飛び跳ねて、少年を追いかける。
正に巷で噂されるバッタ怪人、そう呼ぶに相応しき様相だ。
「なんで……あんなの唯の噂だって……うわっ!?」
少年が思わずそうぼやいてしまうと……少年は瓦礫につまずいて転んでしまう。少年は地面を転がりながら、何とか後ろを見ると、バッタ怪人達はほんの直ぐそこまでやってきていた。
あとバッタ怪人が一跳びすれば、そのまま襲いかかられそうな距離……少年はなんとか立とうとするが、痛みと腰が抜けてしまい立ち上がれない。
「giiiiii……giiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!!」
三匹のバッタ怪人の内の一匹が、襲いかからんと大きく膝を曲げて、少年へと跳び掛かる。
「あ……あぁ……!!」
少年の目に映るのは、だんだんも迫ってくる異形のバッタ怪人の顔……その歯は目の前のナニかを食らわんと、大顎を開かせて鳴らされていた。
……そして次の瞬間に見るのは、そのバッタ怪人が突如現れたホロウの裂け目と共に現れたバイクに、轢かれる姿だった。
「giiiiiii!?」
「っ!?」
轢かれたバッタ怪人は、バイクの車輪に巻き込まれながら、その下敷きとなるのだ。
……そして、その白いバイクに跨る者もまた、少年を襲っていたのと同じ、バッタの怪人であった……目に見えて違うのは、その首に巻かれたのが赤いマフラーだと言う事だ。
「……。」
「giiii……!!giiii………!!」
バイクの下敷きとなったバッタ怪人は、腕を伸ばして、顎をカチカチと鳴らしている。
赤マフラーのバッタ怪人は、次の瞬間、ウィリーを決めるようにバイクを持ち上げて、勢い良く重力に任せてバッタ怪人を完全に潰す。
「ひっ……!?」
少年は飛び散る飛沫に思わず声を漏らす。
潰されたバッタ怪人は、伸ばした手をだらんと地面につくと、その身体が泡のようになって跡形も無く消えてしまう。その光景を見て、バイク乗りのバッタ怪人は、心の底からでたようなため息をつく。
「……フゥ。」
赤マフラーのバッタ怪人は、バイクから降りて残った2体のバッタ怪人を見る。
「……ッ!!」
赤マフラーのバッタ怪人――否、改造人間、本森翔悟は、少年を護るように少年の前へと立ちはだかり、バッタ怪人と相対して、地面を踏みしめ、拳を握りしめて、バッタ怪人へと立ち向かった!