新エリー都のバッタ怪人   作:真序章

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#5 怪物

 

 翔悟は二匹のバッタ怪人に向かって走り出した……バッタ怪人は大きな唸り声を上げて、翔悟へと殴り掛かる。

 

 翔悟は殴りかかってくる二匹のバッタ怪人の拳を受け流す。その流れで二匹の後ろへと回り込むと、それぞれの背に拳と蹴りを見舞う。

 

「giiiii!!」

「giiiiiiiiii!!!」

 

 二匹の怪人はそれを受け地面に転がるが、直ぐ様立ち上がり威嚇するように身をかがめて唸り声を上げる。

 

 翔悟はそんな二匹へと顔を向けつつも、相手の出方をうかがうよう様に、冷静な立ち振る舞いで佇む。

 

 そんな翔悟に二匹は地面を蹴り上げ、バッタ怪人としての跳躍力を用いて跳び掛かる。

 

 だが、翔悟はまるでその攻撃を読んでいたかのように、最低限身を捩らせて躱すだけにとどまらず、着地のタイミングで二匹の胸にその拳を叩き込む。

 

「giii!?」

「フゥ……」

 

 後退りする二匹に、翔悟は息をつきながらただ淡々と相手の動きを回避して打撃を当て続ける。

 

 ある時はボクサーがサンドバッグに打つ様に拳を連打させ、すこし俯けばその隙に膝蹴りを食らわせて追い打ちをかける。

 

 拳が、蹴りがその身体に当たる度に外骨格か、若しくは骨が砕ける音がグシャリと響いてくる。事実、二匹のバッタ怪人の身体にも若干のヒビが見えていた。

 

 だが、バッタ怪人は攻撃を緩めない。理性も人格も人としての姿も、何もかもを失った怪物は、ただ湧き上がる破壊と殺戮の衝動に身を任せて眼前の動く相手を襲うだけだ。

 

 それは、翔悟も何ら変わらない。眼前に迫る相手を叩き潰さんと、その力を行使する。

 

「フゥゥゥン………」

 

 翔悟は脚へと力を込める……地についた足が、その形に地面をえぐらせるほどに。二匹は、立ち止まった翔悟を見て好機と捉えたのか、再び考えなしに跳び掛かる。

 

 翔悟は、そうして跳び上がったバッタ怪人が一番無防備な瞬間の、跳躍してからの跳び掛かるタイミングで同じように怪人へと跳び蹴りを放つ。

 

 地面がえぐれ、風を置き去りにする程のスピード……その一撃によって、二匹は空中で大きく舞い上がり、翔悟は二匹の合間をすり抜けた。

 

「ッ!!」

 

 翔悟は、その勢いのまま突き進むと、その先に有った瓦礫を足蹴にして、宙を浮かび抵抗できずに地面に落ちそうになる二匹のバッタ怪人へと跳び掛かる。

 

 そのスピードにバッタ怪人は抵抗どころか全く反応出来ず、無様にもその顔面を鷲掴みにされる。

 

「giiiiiiiiiiiii!!??」

「giiiiiiiiiiii!!?」

 

 翔悟は鷲掴みにした二人の頭をそのまま力強く握りしめる。頭部からはメキメキと、本来頭から放ってはいけない音が鳴る。

 

 翔悟は、心の底から溢れ出る感情に手を震わせながら、そのまま二匹のバッタの顔面を、着地の勢いと共に地面へと叩きつけ、文字通り擦り潰した。

 

「gi―――――」

「……。」

 

 生々しい血飛沫が、じんわりと地面へと広がっていく。バッタ怪人を叩き潰した翔悟の腕は、先ほどとは違う震えを見せていた。

 

 二匹のバッタ怪人は頭を潰されたショックで軽く痙攣すると、そのまま泡となって溶けて消えていく。

 

 ……残るのは泡沫に消えたバッタ怪人と、目の前で凄惨な殺戮を見せられた少年が一人。

 

「あ……あぁ……!!」

 

 少年は目の前で見せられた光景に言葉すら失い愕然とするだけ、見えるのは泡となる怪人に、その怪人を殺戮した同じ様な姿をした翔悟。

 

(……許してくれとは言わない。だが、言わせてくれ……ごめんなさい……)

 

 翔悟は、心の奥底からそんな感情都共に、噛み締めるように立ち上がると、少年の方へとそっと振り向いた。そして、そのまま少年の方へと歩き出す。

 

 翔悟は怯える少年を安堵させようと、声をかけようとする……ホロウに迷ったのなら、出口まで送るつもりだ。だが、翔悟は一人で戦い続けるあまり大切な事を忘れてしまっていた。

 

 ……今の翔悟の姿は、先程まで少年を襲っていたバッタのバケモノとほぼ何一つ変わらない姿をしていると言う事。

 

 咆哮を上げて、野性的暴れ回るバッタ怪人……反対に、冷静に機械のようにただ淡々と目の前の怪人を二重の意味で潰した翔悟。

 

 この二つは、等しく少年に、いや少年でなくても、十分な恐怖を与えるような姿だった言う事に。

 

 翔悟は怯える少年へ言葉をかけようとすると、少年は恐怖のあまり咄嗟に叫ぶ。

 

「た……助けて!く、来るな!バケモノ!!」

「……!」

 

 その言葉を聞いて、翔悟は立ち止まる……こんな言葉、言われ慣れてない訳じゃない。何度も似た言葉は吐き捨てられてきた。

 

 しかし、それでも何度言われてもこの言葉は言われ慣れない。センチメンタルと言われるだろうか?しかし、それでも……この言葉だけは慣れてはいけない気がしているのだ。

 

 ……少年は、先ほど目の前の翔悟と同じ様な化け物に襲われたのだ。

 

 もっとヒロイックに、人の声を発しながら戦うのならいざ知らず、最低限の息遣いしかせず、只管に機械のように、血飛沫を上げさせながら戦うのでは……同じ様なバケモノと思われても仕方がないのかもしれない。

 

 翔悟は一瞬立ち止まる……「待ってくれ」その一言を言葉にしようと、少年へと近づき手を伸ばして制止しようとする……だが、タイミングが悪かった。

 

 次の瞬間、翔悟の耳に入るのは近づいてくる足音と銃声……それと同時に、翔悟の右足にズキリと痛みが走る。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 そして、現れるのは、一人の治安官の服を纏った女性だった。その治安官は、息も絶え絶えな様子で愛銃を向けてくる。

 

「……!今、その少年に……何をっ!」

 

 怒りと、未知の存在への恐怖と、焦りを含めた目で見つめられる……嗚呼、まさかこんな所で会えるなんて。――会わなくて良かったのに。

 

 朱鳶にとっても、目の前の存在は人でもシリオンでも機械人でも、エーテリアスでもない、全くもって未知のナニカに見えるらしい。

 

(嗚呼、今日は嫌な日だ。)

 

 ……そこに立つのは、赤いメッシュの入った黒髪を後ろで纏めた女性――治安官であり、特務班班長、朱鳶の姿であった。

 

「答えなさい!」

「……。」

 

 まさか、こんなに早く会うことになるなんて……嗚呼()()()()()()()()()()()()()()

 

「……。」

 

 翔悟は何も言わず、ズキリと痛む右脚をなんのためらいもなく使って歩きながら、何も言えずにサイクロンへと跨る。

 

 朱鳶の制止には聞く耳も持たず、耳にも入らず……そして、アクセルを踏むとそこで、漸く一言絞り出せた。

 

 マスク越しで曇り、か細く、近くにいた少年にしか聞こえないほどの声で……自分でも驚くほどの、優しく悲しげな口調で……

 

「……帰り道……バケモノには、気を付けてな。」

 

 その悲哀に満ちた口調に、先程まで恐怖を感じていた少年まで唖然となってしまう。そして、一言も言えないまま、翔悟がバイクで去るのを見送るしかできなかった。

 

「……彼……は……」

 

 朱鳶は走り去る赤いマフラーの怪人を追いかけようとするが、寸前で立ち止まりそれよりも先ずは少年の方を優先した。

 

 怯えるような、唖然としたような少年へと駆け寄り朱鳶は声を掛ける。

 

「大丈夫?怪我は?」

「だ……大丈夫……」

「本当?……あの怪人に何かされたの……?」

 

 少年は首を振る。

 

「……似てるけど、違う……襲ってきたのは、黄色いマフラーのバッタの怪人……」

「バッタの……怪人?」

 

 朱鳶はその言葉に、新エリー都で噂されるあの都市伝説を思い起こさせる。……そして、少年は何かを後悔しているような表情で呟く。

 

「あの赤いマフラーのは……分からない、でも凄い怖かった………でも、でも……バイクで何処かに行く時だけ、あの時だけ……凄い悲しそうだった。」

 

 少年は、心の中であの赤いマフラーのバッタ怪人にバケモノと言い放ったのを後悔した。

 

 だが、それほどあのバッタ怪人が直前まで、恐ろしいほどに淡々として、恐怖を感じる立ち振舞をしていたのも事実。

 

 少年の立場からしてみれば、どちらが敵で味方なのかは分からない……助けを求め叫び、咄嗟に糾弾するのも当然だ。

 

 朱鳶も、ホロウにはエーテリアスやホロウレイダーも居る。何かあってからでは遅い、遅すぎる。1秒1コンマの判断で命が失われる世界、少年を守る為に撃つ行為……どれほど攻められようか?

 

 翔悟も、ちゃんともっと早く何かを言葉にできればよかったのだ。そうすれば、もっとマシな結果に……なった……かもしれない。

 

 ここには、悪も正も無かった。あるのは、それぞれがそれぞれのやれることをした結果なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイクロン号へホロウの中を爆走する……いくつものホロウの裂け目を抜け、人気のない場所へとたどり着く、周りにゃエーテリアスも居ない。

 

 そこで、翔悟はヘルメットをそっと外す……そして、サイクロン号から降りると、シートがガバっと蓋のように開き、中からボンプのホッパーが現れる。

 

 そんなホッパーが、まず見るのは息も絶え絶えになりながら地面に膝をつく翔悟の姿だった。

 

「ンナンナ!!……ンナ?」

「……っ!はぁ……はぁ……」

 

 ……翔悟は未だに震える自分の手で地面に触れる。頭の中で色々なものがぐるぐると駆け巡ってくる。

 

 バケモノと言われた事、朱鳶に今の自分の姿を見られた事、そして怪人と戦う時殺意に飲まれた事。

 

 いつもこうだ、変身した時……暴力の加減がまるでできなくなる。暴力どころか、相手をいかに効率良く殺すか……そんな風にばかり考える。

 

 翔悟も、勿論普段から自分の意思で抗ってきているが……それでも偶に暴力に飲まれて、相手を殺す事だけを考える時がある。

 

 だが、それでも翔悟の人を守ろうという気持ちがぶれたことはない、その拳も人に対して振るった事はない。

 

 だが、ただ淡々と敵を屠るその雰囲気は、唯の殺戮マシーンにしか見えないのだろう。

 

 ある意味では野性的に雄叫びを上げるバッタ怪人の方がまだ生物として理解できる範疇だ。生物味を失い、ただ殺す事だけに力を振るう翔悟と比べれば……

 

「あぁ……撃たれちゃった、まぁ治るから良いか。」

 

 翔悟はそう呟くと、撃たれた右足を見る……ずきりと痛むが、すでに傷は塞がりかかっている。

 

 これま改造手術で受けた恩恵、再生能力……どんどん人カ遠ざかってるなと、確信できる。

 

 ……それに、別に撃たれた事は痛くはない。それよりも痛いのは……朱鳶に撃たれたという事実だ。

 

「……ハァ……駄目だなぁ、分かってたことなのになぁ。いつかこうなるって……」

 

 バケモノ呼ばわりされるのも、ホロウレイダーとかにバケモノと誤認されて撃たれるのも慣れてる。嗚呼、だけど慣れない、慣れたくない。

 

 ……むしろ今まで朱鳶と出会ってこなかっただけ御の字だろう。

 

「あーあ……本当になぁ……本当……なんでこうなったんだろうなぁ……」

「ンナァ……?」

 

 翔悟はマスクを小脇に抱えながら呟く……そして、淋しげに見つめるホッパーにマスクを、預けて、サイクロン号に跨り先へと進むのだ。

 

 

 

 

 

 




翔悟:戦闘時とか直後の雰囲気のイメージとしては暴走ハザード見たく淡々と相手を殺戮する様な雰囲気、その割には暴走はせずに暴力の幅が振り切れるだけなのが質が悪い。多分もう少しとゃんと喋れれば拗れなかった。

少年:分かりやすく言うと食人衝動MAXのアマゾンズに襲われた直後暴走したハザードフォームが乱入してスプラッタにゾンズを倒した後、暴走した雰囲気のまま振り向いて近づいてきた感じ。そりゃあ叫びますし助けも呼びます。

朱鳶さん:マジでタイミングが悪かっただけ。治安官がこんなに引き金軽いかな?とは考えましたが、あの世界ホロウの中だと引き金が軽そうなので……
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