VRお散歩系ゲーマーアユムちゃん 作:アユム@お散歩中
「みんな、聞こえてる?音量大丈夫?」
<こんにちは>
<待ってた>
<サムネに釣られてきた>
<大丈夫>
<初見>
「初めての人多いね。珍しい」
<サムネが悪いよサムネが>
<狼の目力のおかげ>
<昨日は最初定型サムネだったし……>
「今日は明日以降の散歩のために準備する配信だから、狼くんも出てくるよ」
<散歩の準備ってなんだよ>
<散歩ってそんな物騒なものだっけ>
「よく考えてもみなよ。丸腰の人間が門の外散歩するなら準備が必要でしょ?」
<普通の丸腰の人間は門の外に出ねぇよ>
<もっとよく考えて???>
<戦わないの?>
<戦闘系スキル無いからな>
「戦闘苦手なんだもの。VRだからって剣とか上手く振れないよ。イメージ出来ない」
<だからって一切入れないのは潔すぎる>
<攻撃補助とかあるだろ>
<魔法使えや>
<運動音痴だからわかる>
「まあ、なんも手段無いと苦労することもあるだろうということでね。ちょっと調べてきたんだ。移動しながら話そう」
<お?>
<昨日のやつか>
「うん、生存系スキルを集めることにしました。装備は高いからお金集めがてらね」
<いつも通りか>
<目指せ異能生存体>
<生存系スキル?>
<勝てないと意味ないんじゃ?>
「クエストだったり、職業だったり、特殊条件だったりでスキルが生えるらしいんだけど、その中で生き延びることに特化したスキルと耐性スキルを集めていく感じ。他ゲーだったら一定時間不死身とか、大ダメージをHP1で耐えるとか」
<ウザイやつだ……>
<相手したくねぇ>
<時間かかると結局死ぬのでは?>
「どうやら通常時のモンスターは縄張り設定があるらしくて、そこを抜けると追ってこないそうなんだよ。だからヤバい時はスキルフル活用して逃げ切る」
<メタルス○イムかよ>
<経験値無いからただの死なないカス>
<ボロクソで草>
<盾持ってタンクやっててくれって感じのスキル群>
「この先ぼっちで未踏区域散歩するなら必要でしょ」
<敏捷系取っとけばもっと楽なのに>
<変なこだわりがあるからな>
<ぼっち前提なの草>
「とりあえず、今は1番わかりやすい職業スキル集めに行くよ。まずは忍術系」
<というか今って職業就いてないの?>
<ニートだったか>
<やーいお前ニート〜>
<ギルド行ってるから就いてる>
「ギルド登録したら冒険者の職業に自動的に就くからニートじゃないですぅ。むしろニートなのは君らでしょ。平日朝だよ?」
<は?>
<ブーメランすぎる>
<移動中です>
<勤務明けですが何か>
「夜勤お疲れ様。私も今が時間取れるってだけだよ……よし、着いたね」
<昨日も見たけどギルドデカいよな>
<魔法建築とかなんだろうか>
「ギルド改めハロワだよ。とりあえず忍者になろうと思う」
<ハロワで忍者になれる時代>
<ハロワ……うっ、頭が>
<就活イヤ!イヤ!>
<でかきも>
<職業ってポンポンなれるもんなの?>
「下位の職業は5個まで同時に就けるらしいよ。それ以上は何か消さなきゃいけないし、スキルも一緒に使えなくなるみたい。熟練度は保存されてるけど」
<忍者とかみんな取っておきたいやろな>
<生存系は攻略でも有用だからな>
<本来はそっちに使うんよ>
「ただ、職業の属性みたいなのがあるらしくて、条件が合わないと上位職業が出ないんだって。ベータの人曰く」
<忍者取ってると聖騎士出ないとかなのかな>
<忍者が悪属性みたいな風潮w>
<正義とか善か?って言われると……>
「まあ私は善系統の上位職狙ってないから取るけどね。はい、就職」
<現実もこんな簡単ならいいのに>
<転職してぇ……>
<あとは熟練度上げか>
<そもそも攻撃せずに上げれるの?>
「普通なら攻撃系スキル使って上げるんだけど、他にもルートがあるのです」
「昨日に引き続き東の平原にやってまいりました。今日はここで忍者らしいことをするよ」
<忍者らしい?>
<アイサツか>
<アイエエエ!>
「忍殺じゃないのよ。今から、狼くんを煽り散らかそうと思います」
<言うほど忍者らしいか???>
<忍者が煽りカスみたいな言いよう>
<そもそも忍者が敵前に出るなや>
「具体的には隠密行動スキルの習得と熟練度上げだね。コレ上げるとモンスターとかに気づかれにくくなるらしい。視界が悪い森に行く前にちょっとでも上げておきたい」
<真っ当に強いスキルだった>
<大きい音を立てると見つかるから鎧系には向いてないのが弱点>
「そう、それを上げるためには、モンスターに気づかれずに接近するのを繰り返す必要があるの」
<多分非敵対は判定外なんだろうな>
<だから狼くんか>
<言うほど煽りか?>
「だから今から、狼くんたちの背中にピンポンダッシュ仕掛けるよ」
<割と煽りだった>
<煽りというか小学生の悪戯なんよ>
<理には叶ってる……のか?>
「コレ以外だと正面からナイフでチクチクするしか無いし、攻撃スキル無しだと補助が無いからあまりダメージ入らないのよね。今の貧弱具合で長時間チクチクするのは大変だから、隠密主体で上げてくよ」
<ここでも武器スキル無い弊害あるのか>
<補助無しだと現実レベルの動きしか出来ないからなぁ>
<どのくらいやるの?>
「必要経験値とかわかんないんだけど、熟練度2上げると毒スキル、4上げると煙幕スキル覚えるらしいからそこまでは行きたいね」
<毒www>
<まあ忍者なら毒くらい覚えるか>
<コイツさらに害悪になろうとしてるよ……>
<配信者様の戦い方じゃない>
<マジでタンクやってくれ>
「シーフとかでも覚えそうだけどね。ハロワに無かったから転職方法わかんないけど」
<ギルドで就職できるわけないんよ>
<ギルド公認の盗賊はヤバいw>
<確実に特殊条件職業だし条件が自明すぎる>
「おっ、はぐれ狼くんはっけーん。君には私の経験値になってもらうよ」
<犠牲狼1号>
<殺されないだけマシか>
<睡眠妨害され続けるの普通に生き地獄だろ>
「……じゃあここからは小声ね。コレでも音量ダメなら無言」
<急にASMRになるな>
<相変わらず声とアバターは良い>
<それ以外がちょっと……>
「……まずは一歩……大丈夫そう」
<前回は5メートル切ったらすぐ起きたからな>
<やっぱ声か>
「……二歩目……っヤバ、バレた!」
<あ>
<警戒心強いな>
<逃げろ逃げろ〜>
「いや普通に逃げきれない!!ぎゃあああ腕が!」
<そらそうよ>
<敏捷……ですかねぇ……>
<ダメージエフェクト綺麗>
<痛覚無いゲームで良かった>
「なんとか逃げ切れた……縄張りは50メートルくらいかな?狼くんでこれなの先が思いやられる」
<結構広い>
<いや野生と比べればだいぶ狭いよ>
<今回は死なずに済んだな>
<でもアユムちゃん!腕が!>
「安いもんだ……普通に回復魔法使えば良いしね」
<存在忘れかけてたわ>
<回復魔法くんに悲しき過去>
<経験値は?>
「んー、ゲージ的に10%くらい?全然近付けてないしショボいなぁ」
<触れるくらいまでは行きたい>
<繰り返すしかねぇな>
<地味な絵面すぎる>
「それはそう。とりあえず何回かやってみよう」
「流石にちょっと飽きてきた」
<そりゃそうよ>
<レベル上げは苦痛なもの>
<あと1歩までは行けたじゃん>
「隠密より回復魔法の方が伸びてるのなんとも言えない気持ちになる。隠密熟練度2まであとちょっとだし、2に届いたら一旦終わろうかな」
<想定より時間かかってるし良いんじゃない>
<その原因はほとんど逃走時間だけどね>
<気付かれなくなったら早そう>
<毎度追いかける狼くんの気持ちも考えろ>
「……それだ。それだ!」
<お?>
<なんかやらかしたか?>
<嫌な予感してきた>
「そうだよ、隠密とは潜入、潜入とは溶け込むこと!つまり、自然に溶け込めばバレない!」
<アホなこと言い出したな>
<そうかな……そうかも……>
「自然に溶け込む、狼くんの気持ちになる!つまり四つん這いで狼くんに襲い掛かれば良いんだよ!」
<そうはならんやろ>
<猿まで退化すな>
<知らんうちに頭食われたりした?>
「……行きます、見てろよ私の野生魂……!」
<見せつけてんのは尻なんだよ>
<エッッッ……?>
<状況が酷すぎて一切疚しくない>
<なんで四足歩行がそんな様になるんだ>
「……一歩……二歩……三歩……!」
<歩???>
<今までで1番順調なのバグだろ>
<モンスター判定とか掛かってないよね?>
「……四歩……あと一歩……!」
<もう手届くじゃん>
<手を使え手を>
<顔から行くな>
「……五歩!届いた……!」
<おめでとう……>
<良かったね、うん>
<忍者って大変なんだな>
<圧倒的風評被害>
「……ここからどうしよう」
<はよ触って逃げろ>
<長時間いると熟練度上がるとか無いの?>
「……さっきまでゆっくり上がってたけど、今は止まってる。多分今貰える限界だね」
<お疲れ様>
<毒取って終わろうぜ>
「……そうだね、じゃあ最後に、襲って終わろう」
<は?>
<え、マジで襲うの???>
「……私、実はね……狼が大好きなんだよ!!!ル○ンダイブ!!!」
<やりやがったwww>
<マジかよこの女……>
<狼を吸うな>
<エッッッ!!>
<頭いっぺん食われた方がいいよ>
「とりあえず今日はここまで。隠密は2まで上げたし、次の配信は毒の検証しながら森行くよ」
<新規バイバイ配信でしたね……>
<今日散歩してないな>
<アユムだったものは散らばったから良し>
「次は、多分明日?わかんないからまた告知するね。じゃあまたね〜」
<乙>
<お疲れ様>
ヘッドセットを外すと、少女の鼻腔に消毒液の匂いが広がる。
それは、先ほどまで嗅いでいた狼の匂いを上書きするようで、思わず息を止めたくなった。
久々に動物に触れた。
殺された昨日は例外として、あんなに動物と密着したのはいつぶりだろうか?
狼を飼いたくなった。
この白い部屋には、自分以外獣はいない。
家族も医師も看護師も、直立二足歩行を達成したヒトで。
だからこそ少女は動物に惹かれるのかもしれない。
ヒトでありたいが故に。
頭を垂れて、手を地につけてでも立っている、その姿故に。
端末にメールが届いていた。
送り主はお兄ちゃん。配信を見ていたんだろう。
『歩夢が元気なのは嬉しいけど、お兄ちゃんちょっと将来が心配になったよ』
なにも考えなくて良いとは言えやり過ぎたかな、と少女は思った。