綾小路は恋がしたい   作:Кудрявка

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#10 艱難汝を玉にす

 

 

助手と言ってもお茶汲みやスケジュール管理を任される訳じゃない。

彼女の言うそれはパシリ同然。雑務全般を丸投げしてきたと解釈するのが妥当だろう。

 

そんなものに喜んで首を縦に振るのは彼女の整った顔に釣られた愚か者くらいじゃないだろうか。

ハロワの虚偽だらけの求人票に飛びつく不定職者みたいなものだ。

 

彼女の内面を少なからず知っている俺の答えは当然NOだ。

俺はホテル打診に対して焦らすような真似をする池袋女子とは違う。キッパリと断りの一言を―

 

「大役だねっ。綾小路君っ」

 

鶴の一声ならぬ櫛田の一声。

それだけで堀北の無茶苦茶な発言に民意が傾いた。比較的、自分軸で生きていると思っていたみーちゃんや松下もすっかり懐柔されている。

 

…いや、他人の事を言ってられないな。

今の俺は誰よりも櫛田のGOサインに逆らえない。

 

「…予め言っておくが、出来ない事は出来ないぞ」

「明日を実現するための唯一の限界は今日の疑念よ」

 

ライト兄弟かよ…。

俺は名言の引用で自信を持ったり信念が貫けるほど盲信的じゃない。経験を伴わない言葉ほど空虚なものはないと知ってるからだ。

俺がその生き証人だ。最近は恋愛感情を理解しようと躍起になって、ラブコメコンテンツを浪費し続けてるが一向に成果が出そうにないのだから。

 

 

「指示は追って伝えるわ。放課後は空けておいて」

 

 

 

 

「面倒な事になった。リスクリターンのバランスが取れてないと思うんだが、一体何が目的なんだ?」

「懐に入るのが一番やりやすいから。何故か分かんないけど堀北は綾小路君に一定の信頼を置いてるっぽいし」

「あれは信頼と呼ぶには歪みすぎてると思うけどな」

 

この学校は自由な校風と競争による切磋琢磨を両立している。要は結果重視過程軽視だ。

本日の5限目は自習だった。常識から逸脱した授業態度でなければ取り組み方は個人に一存されている。小グループを組むもよし、一人で黙々とやるのもよしだ。

 

そして俺はというと…櫛田とトイレに離脱する体で教室を抜け出していた。簡単に言えばサボりである。

 

見つかれば減点対象だが、生憎俺達の手元にはポイントが無い。

無資力者相手に勝訴しても、金銭的なものが望めないのと同じだ。

 

それにサボっているのは俺達だけじゃない。自習で気が抜けたクラスの連中は私語が散漫になってるし、須藤に関してはいびきを立てて寝ているくらいだ。

これはクラスの総意というやつだ。

 

人間は成果と報酬が紐付いていないと努力しなくなる生き物なのだ。

クラスポイントが増える兆しがない以上、根本的な改善は見込めないだろう。

 

 

「…櫛田?」

「……何?てか、どうせ図書室に行って本読むくらいしかやる事ないんだから払うリスクなんてあってないようなものでしょ?」

 

不自然に会話が止まったと思えば、グサリと刺してきた。

確かに部活もやってなくて友達も少ない俺は暇を持て余しているが、今日は火曜日。数少ない友人の椎名と会える週に2回しかない日だ。

重大な機会損失である事を反論したくなったが、それよりも彼女が一瞬固まっていたことの方が気になった。

 

俺は大人しく彼女の次の言葉を待つ事にした。

 

「方針決めたから」

「何だか嫌な予感がするんだが」

「勘が良いね。とりあえず、当面は堀北さんでレベル上げ。駆け出し冒険者の綾小路君には打ってつけの相手だと思うよ」

「冒険者にレベルか。RPGじゃあるまいし…。ゲーム感覚で俺を操作しないで欲しいんだが?」

 

いや、相手が堀北となるとRPGではなく死にゲーがいいとこだろう。

高難易度のチュートリアルを前に離脱待ったなしだ。

 

「綾小路君はモテるモテないの前に愛情を与える経験も貰う経験も圧倒的に不足してるんだよ。知ってる?『Lv』って『Love』の略なんだよ?」

「だから、都合よく語源をだな…。って、Undertaleかよ…。異例の名作じゃねぇか」

「細かい事を気にする男はモテないよ?」

 

細かい指摘をしてくる姑が分かりやすい悪役としてドラマに出演するように、櫛田のその倫理観は正しいのだろう。

国民の大半は大雑把に生きている。あらゆる事に科学的根拠ばかりを求めている俺は圧倒的マイノリティだろう。

 

しかし、堀北を第一人者に選定した事に関しては理解を示すのは難しい。

俺が目的としているモテるとは他人から好意を寄せてもらう事だ。

堀北鈴音は100%悪意で構成された悪魔だ。せめて対象は人間にしてもらいたい。

 

「不服なら指南するのは辞めてもいいんだけど?」

「そうじゃない。今回の調査は適切なターゲットを見定めるためのものじゃないかと薄々気付いていたからな。だが、堀北を相手にするなら、せめて選んだ理由くらいは知っておきたい」

「まあ、不信感は行動に出ちゃうか。なら、教えてあげる。シンプルにムカつくからかな。これは一種の嫌がらせ」

「私怨かよ…」

 

櫛田から堀北との橋渡し役を頼まれた事は記憶に新しい。

真意が明らかになった今、堀北にここまで執着する動機は何なんだろうか。

並々ならぬ敵愾心を持っている事は明らかだが…。

 

「まあ、失敗した時のリスクがないからってのもあるけどね。他の三人だと成功失敗問わず、関係が変化することであのコミュニティは巻き込み事故に合う。恋愛感情は爆弾だから」

「最初からそっちを説明してくれよ…」

 

堀北は友達がいないからな。俺が嫌われたとしても二次災害にはならないという事だろう。

そう捉えればこの降って湧いた機会を逃すには惜しいと考える事も頷ける。

彼女のこの分野での分析力は見習うべきだな。

 

それに彼女は俺の無茶なお願いに親身になってくれているということが今の会話で分かった。

俺の数少ない居場所が無くなることを憂いてくれてる気遣いは単純にありがたい。

 

「まだ文句ある?」

「いや、やるだけやってみる」

 

走り出した電車が止められないように、抵抗する事は無意味だ。

乗り込む選択をした以上、櫛田が思い描く終点へと向かってレールを突き進むしか道はないのだ。

 

 

 

 

『1ヶ月。堀北の事をできる限り肯定する事』

 

俺が堀北というモンスターを攻略する上で、櫛田が打ち出した無難な初手。

物事には順序がある。堅牢な本営にいきなり切り込んでも返り討ちに合うだけ。

まずはお手並み拝見。彼女を見極めて隙を探すのだ。

 

俺は放課後になって無能社員のポイ活が如く、すぐ堀北に話しかけた。必死のやる気アピールである。

 

「それで?俺は何をすればいいんだ?」

「あら立派ね。受け身な綾小路君の事だから、明日の朝になってもここで指示を待っているかと思っていたわ」

「…やるべき事は手短に済ませたいだけだ」

「殊勝な心がけね。けれど、気が逸って私の指示なく勝手な行動をするのは指示待ち人間よりも悪質だというのは忘れないで」

 

こいつは会話に悪態を混ぜなければ死ぬ種族なんだろうか。

涼しい顔で毒を吐いてくるから、彼女をドゥレムディラと名付けよう。ギルドは早く討伐要請を出してくれ。

 

「そうね。まずはカフェにでも行きましょうか」

「…カフェ?そこに何かあるのか?」

「カフェなんだから珈琲くらいはあるでしょう」

 

堀北はこれから俺とカフェをごく普通に利用するつもりらしい。まさか彼女からカフェに誘われる日が来るとは思いもしなかった。

『カフェなんてカフェイン中毒者からお金を搾取するためだけの施設でしょう?』なんて言いそうなのに。

 

律儀に教科書を詰めた重そうな鞄を担いだ堀北はついてこいと言わんばかりにカフェに向かって歩き始めた。

紳士的なエスコートをするのなら荷物の一つも持ってあげるべきかと思ったが、櫛田からそんな指示は受けていないので辞めておく。

 

指示待ち人間よりも勝手な判断で動く奴の方が悪質だからだ。

 

「…利用客が多いわね」

「この店は回転率が悪くていつも混んでるぞ。ほら、あそこにいる軽井沢なんかはカフェラテ一つで平気で2.3時間居座る常連だ」

「典型的な迷惑客ね。アム○ェイの販売員か何かかしら」

「特商法違反で業務停止命令を受けてもなお、出会い系アプリを介して勧誘行為を繰り返してるゴキブリ集団とはいえ、こんな場所で固有名詞出すなよ」

「飲食店を前に害虫の名前を口にした貴方に言われたくないのだけど…。もしかして、被害者?」

「違う。ただの代弁者だ」

 

販売方法が悪いだけで製品は良いなんて言葉をよく見かけるがあれは情弱を騙す売り文句だ。心理効果を利用した洗脳の手口でしかない。

本当に商品開発に長けていて製品品質に自信があるのなら、店頭販売や通信販売をやれば良い。

連鎖販売取引に拘っている時点で企業としての格付けは完了している。販売員の多額のインセンティブは商品に無理矢理上乗せされた価値から抽出されたものだからだ。

 

海外旅行に行ってすぐに価値観が変わってしまう程度の人生を送っている彼らの声に耳を貸すほど無駄な事はない。

 

…おっと強火が過ぎたようだ。言論の自由が許されてる日本とはいえ、彼らが法の外で生きている社会不適合者である事を考慮すれば言い過ぎたかもしれない。

 

「しかし、満席とは困ったわね。話したい事があったのだけれど」

「そういう事なら良い場所に心当たりがある」

 

俺は椎名に伝えそびれていた特別棟の屋上の存在を堀北に明かした。

少し煙たい可能性はあるが、滅多な理由がなければ生徒が利用する事はない。

 

「学校内を徘徊する才能に関してはホラー映画のゾンビ並ね。そこにしましょう」

 

本当に一言多い奴だ。

だが今の俺は堀北に反論しないイエスマンを務めなければならない。

俺は堀北の冗談を笑い飛ばすように肯定して見せた。

 

「不気味な笑みはやめて。横にいるのが恥ずかしくなるわ」

「……」

 

(…これは俺のやり方が悪いのか。櫛田の指示が悪いのか)

 

俺は無言で堀北の後に続いた。

 

 

 

 

「改めて伝えておくわ。私はAクラスを目指す。貴方にはその手伝いをしてもらう」

「堀北学生徒会長に認めてもらうためか?」

「気軽に名前を出さないで。…けど、そうよ。貴方を頼ったのもそれが理由」

 

助手として能力を期待されたわけではなく、彼女の事情を知ってしまった俺は扱いやすいと判断されてしまったらしい。

 

「簡単じゃないぞ。このクラスをAクラスにするのは」

「逆境はチャンスだわ。それに、兄さんに認められるためにはもってこいの案件だとは思わない?」

 

自己啓発本でも読んだのだろうか。

それとも、心地良い風が吹き抜けるこの場所が開放的な気分にさせているのだろうか。

どちらにせよ、著しい心境の変化があったのは確かなようだ。

前向きなのはいい事なんだろうが、普段とのギャップで薄気味悪さを感じる。

 

しかし、今の俺は彼女の無謀な挑戦すらも無条件に全肯定する従順な犬だ。

これが本当の犬系彼氏。人懐っこい甘えん坊とは別次元だ。

 

「その心意気なら心配なさそうだな。俺としても収入が増えるのは歓迎だ。協力は惜しまない」

「プライベートポイントなんて副産物に過ぎないわ。0ptでも十分満足のいく生活ができるもの」

 

彼女は学生の本文である学業に支障が出ない限り、生活水準がどれだけ低くても不満を持たないかもしれない。

スーパーでは無料の食材が手に入るし、家賃も光熱費も支払う必要がなく、衣服も事前に持ち込んだもので事足りる。

つまり、ここは生活スキルさえあれば衣食住に困らないように環境が整っているのだ。

 

これが嫁なら愛すべき倹約家。

彼女や友達ならノリの悪い吝嗇家である。

 

「まあいいわ。動機が私利私欲を満たすためのポイントだとしても奮闘してくれるなら大いに結構よ」

「最大限の助力を約束する」

「そう。なら、早速だけど具体的なアクションプランについて話すわ。私達の直近の課題。中間テストについてよ」

 

6月に行われる予定の中間テスト。

授業の進行具合を見ても、範囲はそれほど広くない上に基礎的な出題が多くなることも予想できる。

はっきり言って大した難易度じゃない。中学卒業レベルの学力を有してるのなら一夜漬けでも余裕で8割は取れる内容になるだろう。

 

「平均点の底上げはマストね。それが出来なければ勝負の土俵にも上がれない」

 

平田は赤点組の救済を軸に動いているが、結局は堀北と同じ事だ。

二人とも義務教育を真面目に受けてきた人間の発想。固定観念から抜け出せていない。

 

この学校が定期テストの成績で優劣をつけるような普通の学校であれば存在意義は無くなる。

 

俺が導き出す結論は定期テストは最低限の学力も持たない生徒を篩いにかけるものであって、クラスポイントを得る手段ではないという事だ。

 

今ならまだ軌道修正が出来る。

櫛田の指示から逸れる形にはなるが、致し方ない。

 

「赤点組の学力を平均値まで引き上げようとすると正直絶望的だぞ。古文の授業では軽井沢が枕草子を『春はあげぽよ。yo!yo!』って音読してテン上げしてたし、隣の席の佐藤は英語の授業で『ビー道士?なんかイケメンそう』とか妄想して惚れ惚れしてたし、地理の授業では池が『ピザの斜塔かぁ〜。太りそー』とか勝手に飯テロ被害受けていた。」

「…彼らなりの冗談でしょう?」

「残念ながら大真面目だ。大喜利の才能はあっても勉強する脳はないんだ」

 

彼らはアルファベットと数式に強いアレルギー反応を示す。

言うなれば患者だ。通うべきは学校ではなく医療機関だ。

 

「悪い事は言わない。もし、平田のように個人的に彼らを救済しようと考えているならやめておけ。それは堀北が一番嫌う無駄というやつだ」

「…やってみなければ分からないでしょう?頭ごなしの否定をするなら代替案を示すのがマナーよ」

「そうだな。なら何もしないのはどうだ?」

「呆れた。結局は自分が楽をしたいがための進言じゃない」

 

堀北は話にならないとばかりに首を振った。

彼女の悪い癖だ。自分の能力に絶対的自信があるからこそ他人の意見を噛み砕けない。その自信が類稀なる努力によって裏付けされているから尚更強情だ。

 

だから、彼女を説得する為に必要なのは揺るがない価値観だ。

彼女が自分以上に信頼を置いている畏敬の対象の言葉を借りさせてもらおう。

 

「弱肉強食の競争社会で弱き者に手を差し伸べるのはいつだって弱者の方だ。真の強者は下を見ないからな」

 

新宿でスニーカー配りをしている成功者はいない。

戦争に家族を連れていく戦士もいない。

 

本当の強者はいつだって孤独を飼い慣らしている。

守るものがある者は強いなんて嘘だ。

 

「堀北。生徒会長が言ってた孤高という存在は低俗な連中と中学基礎から学び直すことなのか?」

「それは……、違うわ…」

「なら答えは一つだろう。赤点ラインを引き上げて最底辺を切り捨てれば自ずと俺たちは強くなる」

 

自然療法のように何もしない事が最適な場合も多々ある。

本来あるべき形に戻すのだ。それをこの学校の仕組みに当てはめた時、連中に居場所はなかっただけの話。

 

「…貴方の案に一理ある事は認めるわ。けれど、それは定期テストを一度捨てるということよ」

「捨てる?それは違うな。そもそも、定期テストがクラスポイント増加に繋がると思い込んでるのは希望的観測に過ぎないだろ。そんなあるか分からない価値に重きを置いて動く事自体が大きな間違いだ」

 

どん底にいる俺達が見えない希望に縋り付きたくなるのは分かる。

 

だが、どん底だからこそ出来る事が確かにある。

クラスメイトを損失する事がマイナス評価につながる可能性があるなら、リスクなく足手纏いを排除できる機会は今しかない。

 

「…目を覚まされた気分ね。確かに生活態度と定期テストの成績が評価項目なら、私がAクラスじゃない事に矛盾が生じるわ」

 

何とも堀北らしい。その傲慢こそがマイナス査定を受けているとは微塵も思っていないのがもはや驚異的だ。

 

「理解を得られて何よりだ。今の堀北なら有益になると判断して、俺が独自に入手した情報を2つ共有しておく。その上で俺が話した未来への投資をどうするか考えればいい」

 

1つ目はクラスポイント0の俺達が見えないマイナスを抱えている可能性はない事。

2つ目はクラスポイントを入手する為の機会が定期テスト以外に存在する事。

 

どちらもソースはうちの生徒会の小さい先輩の話だ。

こう見えて意外とお姉さんでしょう?みたいな顔をよくするが、小学生の強がりにしか見えない。

 

俺は情報源が信用できる事も付け加えて、堀北に説明した。

 

「こんな情報を後出しするなんて卑怯よ…」

「俺は理論じゃなくて情報で武装するタイプなんだ」

 

口をへの字に曲げて堀北は不服そうに俺を見る。俗にいうジト目というやつだ。

 

『他にも情報を持ってるなら出しなさい』

そんな心の声が聞こえてくるような執拗な視線攻め(カツアゲ)にあっていると背後のドアが開いた。

白いカッターシャツに黒のスーツ。スモーカー茶柱のお出ましである。

 

「珍しい客だな。どうだ?二人も一緒に」

「未成年者喫煙禁止法に抵触する冗談は慎んでください」

「手厳しいな。堀北。私は譲渡や販売をした訳じゃない。私の口車に乗せられて喫煙しようものならそれは君たちの自由意志の範疇だろう」

「大人気ないですよ。茶柱先生。そんな大麻は所持と譲渡がダメだけど使用は法律的に問題ないみたいな屁理屈は言わないでください」

 

法律に抵触していなくても教師としての在り方に反してるだろう。

分が悪くなった茶柱先生は一連の流れを無かった事にするように鼻で笑った。大人って狡い。

 

「ふっ。中々いいコンビだな。さあ、もう行った行った」

 

胸ポケットから少し潰れた煙草を取り出した茶柱先生を尻目に、俺達は屋上を後にした。

あのパンパンに張り詰めた胸ポケットはきっと寮の間取りよりも窮屈だろう。

 

 

 

 

結論から言えば、俺の軌道修正はこれ以上ないくらい上手く行った。

 

俺と堀北は赤点ラインを引き上げるという目標に向けて、理解を示してくれそうな学力の高い生徒に目星をつけて勢力を拡大していった。

Aクラスと遜色ない学力を持つ幸村や高円寺のトップ層から長谷部や松下といった中間層も巻き込んだ。

 

全員に共通する事は駄目なクラスメイトを切り捨てる事に抵抗がないという事だ。

 

松下に関しては軽井沢グループから本格的に疎遠になってしまう形になってしまったが、本人はそこまで気にした様子がない。

松下のポテンシャルを鑑みれば元々不釣り合いだったのだ。

 

「近況報告するね。平田君は軽井沢さん達で手一杯みたい。ううん、全員には手が回ってないが正しいかな?まあ、マンツーマンで教える家庭教師でも結果が保証出来ないのに、皆を救うなんて思い上がりもいいとこだよね」

「…松下。堀北の毒舌が移ってきてないか?」

「あ、私もそれ思った。松ちゃん、最近辛辣だよね」

 

歯に衣着せない堀北リーダーの作用だろう。

俺と堀北が集めたメンバーは本性で打ち解けてきていた。

もしかしたら、堀北の血筋にはカリスマ性も標準搭載されているのかもしれないな。

 

松下は本音がボロボロと漏れるようになってきたし、最初は固い印象だった長谷部も気付けば少しずつ砕けて、今はメンバーをニックネームで呼んでいる。

松ちゃんはちょっと危ない気がするが…。

 

ちなみに俺はきよぽん。駅構内にある店舗の名前も候補に上がったが全力で拒否しておいた。流石に恥ずかしい。

 

「男子の赤点組も今頃になって櫛田に泣きついてるらしい。みっともない。だが、あと数日で勉強に集中できる環境になるなら我慢の甲斐がある」

「松下さんに幸村くん。報告ありがとう。貴方達も最後の追い込みと体調面には気をつけてね」

 

堀北も必要以上に群れない関係性は歓迎しているようだ。

彼らに対して時折、優しさを見せることも珍しくない。

それをほんの少しでいいから、俺にも向けてもらいたいものだ。

 

「話は終わったようだし俺はそろそろ帰る」

「きよぽん、火曜日はいつも速攻で帰ってるよね?何か見たい番組でもあるの?」

 

椎名との時間はテレビ番組なんかと同列に並ぶものじゃない。もっと高尚な存在だ。

言うならば砂漠のオアシス。至高のユートピアだ。

 

…無論、それを理解してもらいたい気持ちはないので説明しない。

むしろ、この新しい感情は俺の中で独占したい気持ちすらある。

 

「火曜日は図書室の司書のおすすめ本が更新される日だからな。チェックしておきたい」

「うへぇ〜、私、読書苦手〜」

「私も〜。本は教科書でお腹いっぱい」

 

読書は好きじゃないと続かない趣味の代表例だ。

映像作品や音楽等のエンタメは年々進化を遂げている。それに比べて書籍というのはいい意味で変化しない。

時代の流れに置いてかれていると表現するのは悲しいが、若者の読書離れは年々進んでるのが事実だ。

 

「じゃあ、ついでにこれを返却しといてもらえるかしら?」

「へいへい」

 

本を借りる派の堀北から本を預かり、俺は図書室へと向かった。

堀北の助手に任命されて1月と少しが経った。パシリが板についてきたことを俺は悲しく思う。

 

 

 

長谷部 波瑠加 11月5日 蠍座

 

ルックス :A

スタイル :S

性格   :B

 

趣味 音楽

好きなもの 恋バナ

嫌いなもの 虫・爬虫類全般

将来の夢 普通に暮らすこと

 





綾小路モテ男路線の櫛田軸とAクラスをのんびり目指す堀北軸の融合を目指して。
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