綾小路は恋がしたい   作:Кудрявка

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#18 智に働けば角が立つ

 

無人島生活3日目。深夜4時過ぎ。

昨日に引き続き寝不足だった俺は二度寝する事を決意した。

 

睡眠負債がパフォーマンスの低下を招く事はペンシルベニア大学の研究でも明らかになっている。

 

「…綾小路、もう起きてたのか?」

「ああ。俺にβ1-アドレナリン受容体遺伝子の先天性的変異の兆候がないか検証してた」

「ado…?何を言ってるんだ?」

「常染色体潜性遺伝。分子レベルに分解すれば俺は結局あの人と同じという事だ」

「……悪い、本当に話が見えてこない」

 

別に俺は専門知識でポジショントークをしたい訳じゃない。

むしろその逆、彼と会話する気が微塵もないのだ。

 

「幸村、起こして悪かったな。俺はもう少し寝る」

「…あ、ああ」

 

孤立無援。秀でた頭脳も応用力に欠けていて機能停止。

しかし、自分が足手纏いであるという事だけはなまじ認識できてしまい自己否定が止まらない。

 

やつれた表情。荒んだ心。

そこに取り入り、内部から破壊する事は簡単だ。

 

だが、脱落者のバックボーンなど俺にとって不純物。

それはホワイトルームだろうと高育だろうと変わらない。

 

 

 

 

「綾小路君。今日はどうする?」

「今日は予定はもう決めてある。皆で川へ遊びに行こう」

「……え?」

 

率先して俺に訊いてきた櫛田が可愛く首を傾げた。

『その意図は何なの?』

言葉ではなく笑顔で問い詰めてくる。

 

「張り詰めた緊張感。切り詰めた生活。気分転換も必要だろ?それにこれは他クラスを油断させるという側面も持つ」

 

適当にそれらしい理由を並べてはみたが…

 

俺としては人生初めての川で水着の女子達と楽しい思い出を作りたい。

明け透けに語るならそんな動機が大きい。

 

「いいじゃんっ!あんな綺麗な川。一度泳がないと勿体無いって思ってたんだよね〜」

「私も賛成です。食糧も備蓄がありますし、今日くらい遊んでも罰は当たらないと思います」

「う、うん。わ、わたしもっ……、泳げないけど…」

 

水泳中毒者の小野寺に続きみーちゃんと佐倉も同意してくれる。

それを機にチラホラと声が上がり始め、最終的には総意として纏まった。

 

佐倉の金槌発言が場を和ませたのが大きいかもな。

知らず知らずのうちにそんな芸当まで覚えてしまったとはみーちゃんも冥利に尽きるだろう。

 

「なら、折角だし何か買わない?ほら、大事な思い出だし‼︎」

「うわ、ありっ!どうせ、大した出費じゃないし!」

 

篠原と佐藤が俺の顔色を伺ってくるように提案してくる。

リーダー兼発案者としての鶴の一声が欲しいのだろう。

 

「俺は皆がそれでいいなら―」

「待ってくれ。遊ぶのはいいが、ポイントを吐き出すのはやめてもらいたい」

 

一歩離れた場所で静観していた幸村だったが、これには堪忍袋の尾が切れたようで声を荒げた。

この空気の中、女子大勢を前にして、一歩も退くつもりが無いのだから驚きだ。

 

「……幸村君さぁ、ちょっとは空気読んでよ。陰キャのでしゃばりまじ見てらんないから」

「そんなんだから、モテないんだよ?綾小路君の爪の垢を飲ませてもらった方がいいんじゃない?」

「待って、それだと綾小路君がさらに垢抜けちゃわない?あはは〜ウケる〜」

 

ちょっと上手くて感心するが、ここで俺を引き合いに出されるのは複雑な心情だ。

 

篠原、森、前園辺りはほんと性格がキツいな。

しかも、裏には不動の軽井沢と便乗の佐藤が控えている。

 

最強の布陣だ。

単身で挑むのは勇敢ではなく無謀というものだろう。

 

「静粛に。今、喧嘩したら楽しめるものも楽しめなくなるだろ?幸村は俺が説得するから、皆は先に着替えててくれ」

「は〜い。綾小路君が言うならそうしま〜す」

 

俺は幸村の前に割って入り、場を諫める。

 

それにしても軽井沢を筆頭とした連中の好感度を稼いだ記憶はないんだがな。

この露骨に感じる絶大な信頼を特別試験での立ち回りの影響だと簡単に結論付けるのは早計だな。

 

「私も残っていいかしら」

「堀北も反対派か?」

「たかが数pt。されど数pt。無駄遣いを避けたい幸村君の気持ちは分からなくはない」

「そう思うならどうして黙ってたんだよっ!俺達は―」

「学習しないのね。彼女達が意見を絶対に曲げないと言うことは貴方も分かっていたはずよ」

「……ッ‼︎」

 

人は自分の味方でない存在を敵と認識する。

同調意識の無い堀北は、一縷の望みに欠けて仲間意識に縋ろうとした幸村を軽々しく踏み潰す。

占い師じゃないが、彼から死相を見えた。

 

「俺を説得する事は女子全員を説得するより難しい。それだけ言っておく」

「そんな淡い期待を抱くほど愚鈍ではないわ」

 

彼女達が無理だから俺を説得しにきた。そんな訳では無さそうだ。

反対派かを問いかけた時に答えを濁していたからそんな気がしてはいたが、堀北には別の目的があるようだ。

 

そういうことなら面倒事は後回しにして、先に愚鈍な幸村君から処理するか。

 

「幸村、どうしても俺の方針に従えないか?」

「…綾小路なら俺の意見は正当かが分かるはずだろ!?ここは譲歩できない!」

「娯楽に正当性を求める事が間違ってるとは考えないのか?」

「試験は遊びじゃないだろ!」

「そうかもな。だが、もっと広義的に今日という日を捉えれば別だ。俺は高校生活や人生に後悔を残したくない」

 

存在するか分からない未来より存在する今を楽しむ。

堅苦しい思考で固まっている幸村の脳では俺の柔軟さを理解できないようだ。

 

「平行線だな。どちらかが折れる気しかないのにどちらも折れないのだから」

「俺は間違った事を言ってない。折れるのはそっちだ」

 

彼の最後の抵抗を風前の灯火と呼ぶのは言葉に失礼かもな。

所詮は風が吹けば消えてしまうような覚悟だ。

 

「そうか。なら戦争だ。戦争とはどういうものか、敗戦国がどういう未来を辿るのか。勉強が出来るお前にその説明は必要ないよな?」

 

俺の寛容な一面ばかりを見てきたせいで、幸村は俺を親身になって話を聞いてくれるリーダーだと勘違いして交渉の余地があると考えてしまった。

 

しかし、俺のそれは女に限るのだ。

男には容赦無く刃を突き付ける。

 

究極の女尊男卑こそが俺の真骨頂だ。

 

「ここからは慎重に言葉を選べ。やるのかやらないのかどっちだ?」

「……くっ、も、もういいっ」

 

何でもありの潰し合いの先に絶望を想起させるだけ。

俺との全面戦争の先に勝機を見出せるほど正気を失ってはいなかったようだ。

 

生唾を飲む事さえ許されない圧を前にして、幸村は背を向けて歩き出した。

 

「あとで川来いよ?皆で遊ぼうぜ」

 

彼が来ることはないだろうが、悲しさの募る曲がった背骨に声をかけておく。

奇しくも、ネット民のクソリプみたいになってしまったが他意はない。

 

「半端な覚悟で刃向かった彼も彼だけど、貴方も貴方ね」

「仮初とはいえリーダーだからな。反乱分子の対処に情はかけられない」

「独裁主義者の思想ね」

「いや、実力主義の思想さ。実力を示してくれるのであればすぐにでもこの席を開け渡すつもりだった」

 

誰かの思想で動きたくないのなら、自分が上に立つしかない。これは人間社会の宿命だ。

目の前の堀北と違い、幸村はその挑戦権を投げ捨てたのだ。

 

「まあ、そんな話はいいだろ。堀北は何の用だ?」

 

俺の切り替えの早さに半ば呆れつつも、堀北は自分の目的を口にする。

 

「単刀直入に言うわ。ポイントで買いたいものがあるの」

「堀北、悪いが浮き輪は買ってやれない。でも、心配するな。俺が手を握っててやるから―」

「蹴られたい?」

「…そういうのは蹴る前に言ってくれ」

 

兄貴譲りの強力な下段蹴り。

受けても大したダメージにならないだろうと高を括っていたが、一切の手加減がなく普通に痛かった。

 

「略奪行為暴力行為は失格だぞ」

「そうね。綾小路君が同じクラスで良かったわ」

 

言われて嬉しい言葉なはずなのに真意は真逆にある。

しかし、流石は捻くれ者の堀北さんだ。

ルールを曲解する能力は俺と同じレベルに達している。

 

「俺も堀北と同じクラスでよかったよ」

「きゃっ」

 

俺は売り言葉に買い言葉を返し、下段蹴りのお返しには回し蹴りでお尻を軽く蹴ってみる。

…そういう声は初めて聞いたな。

 

彼女は反撃を予測してなかったのか、鬼の形相で睨んだきた。

怒りと羞恥で顔が赤く染まっているから、鬼は鬼でも赤鬼だろう。

 

「今のはセクハラで訴えるわ」

「急所を外した上に手加減までしてやったんだが?」

「………外れてないわよ。バカ」

 

この後、臍を曲げた堀北の機嫌と取る意味も込めて頼まれ事を受理した。

何を買うのかは知らないが、価値に拘っている彼女なら良識の範囲でポイントを使うだろう。

 

それに……

 

彼女が彼女なりに策を巡らせている事が分かり少し嬉しかったのも事実だ。

 

 

 

 

綾小路清隆、最高の瞬間。

さながら青空の下で白球を追いかける野球少年。

 

…絶対、甲子園行こうな。皆。

 

「水着姿見て感涙してるの冷静にやばいよ。おっぱい星人」

「…その仇名は女子にこそ相応しいと思うんだよな。だって本体をぶら下げてるのはそっちの性別だし」

「うっわ。目の付け所も言い回しも絶妙で最高にキモ〜い」

 

櫛田は俺の隣で体育座りし、作り物の笑顔で俺を詰ってきた。

 

だが、仕方ないだろう。

スクール水着は競技的一面もあり邪な感情が湧いてこなかったが、ビキニタイプの水着は話が違う。

布の厚みや生地感は違えど、肌の露出量で言えば下着と変わらないんだから。

 

「ジロジロ見ない。ただでさえ防御力低い分、みんな視線に敏感になってるんだから」

「そんなつもりはなかったんだが…。それに今は全く見てないだろ」

 

おっぱいは太陽と同じだ。

遠目で鑑賞する分には絶景の眺めだが、近いと目が刺激に耐えられない。

防御力は確かに低いんだろうが、その分有り余る攻撃力。

 

俺は櫛田が近くにきた時点で目を逸らし続けている。

 

自然ってサイコウダナー。

マイナスイオンが体にシミルナー。

 

「はあ、分かってないなぁ。見すぎるのも性欲感じてキモいんだけど、見なさすぎるのも性欲感じてキモいからね?」

「…それは難しい要求だな。百八の煩悩は振り払えても、性欲は振り払えないんだぞ」

「あるのはこっちだって知ってるけど、せめて隠せって言ってんの」

 

女子の露出が増えれば、比例して男子の性欲も露出するのは不変の公式だ。自然の摂理ってもんだ。

しかし、これ以上の反論は櫛田に説法というもの。

 

俺はすぐに思考を切り替えた。

 

フェルナン・クノップフ「愛撫」

ボッティチェリ「ヴィーナスの誕生」

フランシス・デ・ゴヤ「裸のマハ」

 

俺は対象から視線を逸らすのではなく、女体が持つ美術的側面のみを抽出する事で性欲に蓋をした。

 

「私服姿を見た時も思ったが櫛田は自分に合う色を熟知してるよな。ピンクの水着が一番似合うのは間違いなく櫛田だと思う」

「………相変わらず覚えだけは異様に早いんだから……」

「無表情だからな。視線だけ改善すれば様になると踏んで実践してみた」

 

観測する世界が変わった今、水辺にいる佐倉や長谷部を見ても遠近法無視しすぎだろとしか思わなくなった。

 

無我の境地ではなく、美の極致。

櫛田のアドバイスのおかげで下心無しで相手を褒める事が出来るようになった。

 

「…はぁー、アホらし。てか、あっつ〜」

 

火照った顔を覚ますようにパタパタで仰ぐ櫛田を見ていると、防御力が低いという話は本当らしい。

普段なら俺が褒めたところで顔色一つ変えないのにな。

 

「照れる櫛田ってのは中々新鮮だな」

「はぁ?誰が?勝手に勘違いしないでくれるぅ!?」

「櫛田、お世辞抜きで綺麗だ。世界一可愛いぞ」

「………あぁっ!あんなところにカワハギがぁ!!」

 

俺の視線から逃れられる唯一無二の場所である川に櫛田は勢いよく飛び込んだ。

クラスメイトの前だと櫛田のコマンドから『たたかう』が消えてしまうのは明確な弱点だな。

 

今後も思う存分利用させてもらおう。

 

「名前に騙されがちだが、カワハギは海水魚だ。浸透圧の影響で淡水には生きられない」

「うるさい、うるさい、うるさぁいっ」

 

脇目も振らず、ご乱心の櫛田は俺に全力で水を飛ばしてくる。

が、大した量でもない。スライムくらいの攻撃力。

しかし、これだけ派手に暴れてしまえば当然クラスメイトも気付くわけで…。

 

「なんか向こう側盛り上がってない?」

「私達も参戦しよう!なんか楽しそう!」

「こらー。綾小路君。櫛田さんをいじめるなー」

 

櫛田の人徳のなせる技か。

見る見るうちに人が寄って集って、水の祭典が始まった。

 

櫛田軍vs綾小路軍という分かりやすい構図。

いや、さらにもっと分かりやすく言うなら女子vs男子。

 

必死に応戦するも多勢に無勢。

スライムが集まればキングスライムになる事は常識なのだ。

 

「ッッボボボボボボボボッ!ボゥホゥ!ブオオオオバオウッバ!」

 

息を吐く暇もないほどの顔面への連続攻撃に俺は川に溺れるボーちゃんの物真似を披露して大爆笑を掻っ攫った。

 

……気がする。

 

 

 

 

櫛田桔梗乱心事件から数時間後。

不幸にも立て続けに櫛田の精神を脅かす事件が起きてしまった。

 

いや、今回の件は臍で茶を沸かしたって笑えないレベルの被害。

さっきのは茶番もいいところだろう。

 

「く、櫛田さんの下着が盗まれたぁ!?」

 

篠原が張り上げた声はもしかしたら島中に響いたかもしれない。

当事者である櫛田は下着が無くなったことよりもその声量に泣きたい気分だろう。

 

「全員動くな。リーダーである以上仕切らせてもらうが、現時点では俺や篠原も容疑者の一人だ。混乱は事態の悪化を招く。櫛田を思うのであれば尚の事協力して欲しい」

 

俺は犯人ではないが安易に自分を容疑者から省く真似はしない。

篠原だけじゃなく周囲を確実に黙らすためだ。

 

ついに泣き始めた櫛田の啜り声が事態の凄惨さを表していて空気が澱んでいく。

まあ、彼女の事だ。泣いているのは悲しいからではなく女の子としての矜持を守るためだろうが。

 

「皆ありがとう。ではまず、被害状況の確認からだ。櫛田、ゆっくりでいい。下着を最後に見たのはいつか。下着の色は何色か。詳細を教えてくれ」

「…待って。綾小路君とはいえそれは―」

 

俺は側に置いてあった自分のバック取り、平然と中身をひっくり返す。

身嗜み用品や試験のマニュアル。そして下着までもが地面にボトボトと落ちていく。

 

「俺は本気だ。この後、手掛かりがないようであれば全員の手荷物を虱潰しに漁る必要がある。だが、それはプライベートの侵害に他ならない」

 

プライベートの侵害をする人間がプライベートを守っているなんて矛盾は許されない。

俺の本気が周囲にその理屈を強引に呑み込ませていく。

 

「俺は必ず犯人を見つける約束する。櫛田、この通りだ」

「……綾小路君を信じる。私も一肌脱ぐよ」

 

頭を下げた俺に、櫛田は涙声ながらにも懸命に喋る圧巻のパフォーマンスを返してきた。

…まあ、一肌脱ぐどころか、そもそも肌を守る下着自体が盗まれてるんだけどな。

 

「…し、下着の色は黒色で…最後に見たのは今朝だよ。…川に行く前に着替えてた時は確実にあった」

「それなら私も見たよ。櫛田さんの隣で着替えていた時、たまたま目に入って結構大胆なの着てるなぁ。櫛田さんなら似合うんだろうなぁって思ったし」

 

顔から火が出る思いで赤裸々に語った櫛田の証言。

そしてそれは、余計な個人的見解が盛られまくっていたが小野寺が裏付けしてくれる。

 

彼女の開けっぴろげな性格がプラスに働く数少ないシーンだろう。

最初から誰も疑っていなかったが、櫛田の勘違いや自作自演という線を消すファインプレーだ。

 

いや、それだけじゃない。さらには…

 

「待って、それって……」

「私達が川で遊んでいる間の犯行って事だよね…?」

 

櫛田の証言を元に捜査が本格始動するきっかけにもなった。

 

小野寺には後でたっぷりご褒美をあげないといけないな。

…確か、羽交締めで喜んでたんだっけ?ならば、次はリアネイキッドチョークでも味わってもらうか。

 

「…あの時、川にいなかったのって堀北さんと幸村君だけだよね?」

「順当に考えれば怪しいのは幸村君だよね?堀北さんがそんな事するメリットないし…」

「でも、堀北さんって一方的に櫛田さん嫌ってるフシあるよね…?嫌がらせとか?」

 

川に遊びに行ってた俺達が犯行を及ぶ事は物理的に不可能。

大人数による確固たる現場不在証明。所謂アリバイってやつだ。

 

容疑者は二人に絞られ、憶測が飛び交っていく。

 

「不用意な発言は控えてくれ。一度、二人の話を聞くべきだ。どうなんだ二人とも」

「当たり前だが俺はやってない。メリットなんて話が出たが言ってる意味が分からない」

「そうか。堀北は?」

「単独行動していた人間の証言一つで疑惑が晴れて清廉潔白を証明できるなら世に犯罪者は存在しないわ。違う?」

 

真っ先に容疑を否認した幸村に対して、無駄な事を嫌い徹底した捜査を助長させるような発言をする堀北。

元から強い反感を買ってたこともあり、さらに幸村への疑惑の眼差しが強まっていく始末だ。

 

「…確かにこれは蛇足だったな。クラスメイトを疑いたくない気持ちが先行して、大胆な行動に踏み切れなかった俺の落ち度だ」

 

歯の浮くような台詞も随分と気取らずに言えるようになったものだ。

 

「堀北と幸村、一人ずつ荷物検査を行う。そして、これは任意だ。拒否してもらっても構わない」

 

任意という言葉は相手に責任を押し付ける便利な言葉。

だが実際は拒否権はあってないようなものだ。

拒否すれば自分が犯人ですと名乗り出てるも同然だからだ。

 

「まずは幸村だ。いいな?」

「はぁ…。もう、勝手にすればいいだろ」

 

俺達は幸村のバックを20人という大所帯で取り囲む。

本人は諦めたかのようにその輪から外れていた。

 

俺と被害者である櫛田はバックを開けて一つずつ物を取り出して行く。

そして鞄の底が見え始めた時、目当てのものが見えて手を止めた。

 

「…櫛田、これで間違いないか?」

 

まさに絶句。

俺の側にいた櫛田はあり得ない物を見た驚きで涙も止まっていた。

 

「やっぱりあいつが犯人だったんでしょ!」

 

一連の流れを見て不審に思った篠原達が勢いよく櫛田に駆け寄ってきて、バックを覗き込む。

そこには櫛田の黒の下着と…

 

「やっぱりあった!って、何これ。この熱くて白くてドロっとした液体……」

「……え、待ってそう言う事?……マジ無理、吐きそう……てか吐く」

 

意味が分かると怖い話。

この場にいる女子の半分はこれを怖いものだと認識できていない。

しかし、それでも皆の共通見解が一つ存在する。

 

櫛田と同じく言葉を失い狼狽えている幸村が加害者だという事だ。

 

「ち、ちが……。お、俺は……」

 

彼は自分の冷静さが憎いだろう。

下手に頭が回るからこそ、状況証拠を覆す訴求力が自分にない事が理解出来てしまう。

 

彼を信じるものはこの場に誰一人いないのだ。

 

「お前達、そこまでだ。これは生徒間で処理できるものではないと判断した。特別試験のルール云々の前にこれは立派な犯罪行為だからだ」

 

騒然としたクラスメイトを割るように茶柱先生は割って入ってきた。

誰一人として発言は許さないというオーラを纏っている。

 

「窃盗である事は言うまでもなく、その上櫛田桔梗の尊厳を踏み躙る最低な行為。極めて悪質な事件だと言えるだろう。幸村は特別試験を失格。船にて学校側からの通達があるまで待機してもらう。それ相応の処置は覚悟しておくんだな」

 

凍えるような声で幸村に判決を下す茶柱先生。 

彼は生気を失い、反論する気力もない。

現実を受け入れられず、喉から微かな声が漏れるだけ。

 

「う、うそだ…」

 

その声は誰にも届かなかった。

歴史を彷彿とさせるような事件は幸村が姿を消した事で幕を切る。

 

無罪の男が48年間収監された冤罪事件。

肌の色が黒いという理由だけで現場にすらいなかった男が犯人として誤認逮捕された事件。

 

これは海外の有名な事件簿だが、日本だって例外ではない。

日本の冤罪の発生率は0.1%。

つまり、1000回に一度のペースで事件に関与していない誰かが無実の罪を着せられているのだ。

 

世界は理不尽に溢れている。

そしてその理不尽を跳ね除ける力を実力と呼ぶ。

 

 

 

 

篠原 さつき 6月21日 双子座

 

ルックス :B

スタイル :B

性格   :C

 

趣味 料理 バレー

好きなもの おしゃべり 

嫌いなもの 陰キャ

将来の夢 韓流イケメンと結婚する

 





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