綾小路は恋がしたい   作:Кудрявка

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#26 人間は卑劣漢として生きることができない

 

 

愛情に満ちあふれた心には、同じだけ悲しみを抱えている。

 

これは死去から100年以上経過した今もなお、現代(・・)文学の最高峰に名を連ねるドストエフスキーの一説だ。

 

「………私は……皆のために……勝たなきゃ……」

 

瞼の重さにすら抗えず、全身麻酔を投与した直後の半昏迷状態のような一之瀬の口から漏れた言葉に驚きを禁じ得ずにはいられなかった。

しかし、それと同時に高校一年生の女の子が一人で抱えるには重過ぎるプレッシャーと責任を課している人物の影を俺は感じていた。

 

(……どうして、クラスの人気者である一之瀬が就寝時間直前に一人でバーの近くを彷徨っていた?)

 

この階層はお世辞にも賑わってるとは言えない。

高校生身分にとって、居酒屋やバーなどが立ち並ぶ階層よりも高級シアターや屋上プールなどの娯楽施設ばかりに目が行くのは必然と言えるからだ。

 

マスターには悪いが、閑散としたフロアにうら寂しく佇むバーの近くを女子生徒が一人でふらりと立ち寄る事は考えにくいのだ。

 

(確かめる必要がある。…いや、確かめてみたい気持ちがあると言った方が正しいな)

 

この気持ちは悲しみに暮れる少女を救いたいヒロイズムではなく、目の前の謎を解明せずにはいられない病的なまでの探偵気質所以だ。

 

だから、その手段に違法性があろうと倫理や常識が欠けていようと俺は実行できる。

 

(ブー。ブー。ブー)

 

意識が朦朧としている一之瀬が、スマホのバイブ音に反応してスカートのポケットをゴソゴソとし始める。

 

現役JKにとって、スマホはすでに日常に溶け込んでおり、生活の一部というよりは身体の一部と言う方が正しい位置付けにある。

そして、その簡素化された習慣とは恐ろしいもので、指紋認証でスマホのロックを解除して応答ボタンをフリックするという動作に思考は必要ない。

 

「……も、もしもし……」

 

条件反射のように発せられた感情の乗らないこの声をクラスメイトが聞けば放っては置かないだろう。

公的機関に捜索願を出され、客船内に大規模な捜査網が敷かれるに違いない。……言い過ぎか。

 

しかし、その心配は杞憂だ。

その声が電話口に届く事はなく、ツーツーという聞き慣れた無機質な電子音が彼女の意識を再び闇に葬っている。

 

この場に残ったのは、ロックが解除された一之瀬のスマホと通話終了の画面が夥しく光る俺のスマホの2つのみだ。

 

(……バレたら、怒られるだろうな)

 

必要な情報だけを確認して、そっと閉じるだけ。

異性との仲睦まじいトーク履歴を文春に売ったり、インターネットの検索履歴から優等生の皮で包み隠した性癖を暴き出そうなんて思いは一切ない。断じて。

 

……後者はほんのちょっとだけ気になるな。具体性を持たせるなら、ハンターハンターの暗黒大陸篇の続きくらいには。

冨樫先生には是非とも頑張らない程度に頑張っていただきたい。応援してます。

 

と、まあ、どれだけ悪いようにはしないと言い訳立てたところでプライバシー侵害である事は言うまでもないのだけど。

 

せめて迅速に操作して1秒でも早く作業を終わらそうと、俺は彼女のLINEのトーク履歴や通話履歴、メールボックスまで隈なく漁った。

 

…が、俺の目的のものはどこにもなかった。

 

……そう。どこにもないのだ。

 

あるべきはずのクラスメイトから一之瀬帆波の所在を心配するものが何一つとして。

 

俺は用済みになったスマホを閉じ、一之瀬は肩を大きく揺さぶると同時にスカートのポケットにそれを滑り込ませる。

彼女は衝撃に反応して、涙の跡が残る瞳をうっすらと開け真剣な表情の俺にゆっくりと焦点を結んだ。

 

「一之瀬。帰るぞ」

「……む、むりだよ。だって……こんな姿クラスメイトには見せられない……」

「心配しなくていい。後は俺に任せればいい。可愛い女の子から二度もおねだりされたんだ。それを無視するほど男は廃ってない」

 

びくびくと怯える一之瀬の心に刻み込むように、歩くような落ち着いた速度で言葉を丁寧に紡ぐ。

これは聴衆に魅せるためのものではなく、たった一人の心の奥深くに届けるために繊細に奏でた慈愛の旋律。

 

「お望み通り、俺が解放してやる」

 

固く固く結ばれた心が解かれ、初めて誰かに身を預ける恐怖と、初めて誰かに身を預けられる喜びを噛み締めるように再び眠りに堕ちた彼女を抱えて、俺はバーを後にした。

 

 

 

 

一之瀬が単独でバー付近にいた事。

クラスメイトが誰一人として彼女の身を案じていない事。

 

全ての辻褄が合わせた時、浮かび上がる人物は一人しかいない。星之宮先生だ。

 

しかし、そこに誤算があるとすれば彼女はクラスメイト達が思っているような安心と信頼がおける人物ではないという事だろう。

 

俺が茶柱先生に利用されているように、一之瀬もまた星之宮先生に利用されようとしているのだ。

 

全く。ここの教師は生徒の事をトランプのカードか何かだと誤認しているんじゃなかろうか。

 

「お届けものです」

 

ルームサービスに届けるスタッフに成りすましているように、コンコンコンとノックをすると中からバタバタと慌ただしい足音が鳴った。

 

この様子だと本当にルームサービスを頼んでいたのかもしれない。

0時に差し掛かるこの時間に食事とは、二十代後半の基礎代謝を侮っているとしか思えない。

いいぞ。そのままブクブク太って、ダイエットに忙殺される日々を送るがいい。

 

「…ありゃ?綾小路君?私のすきピが来たと思ったのにぃ」

「痛々しいので無理に若者言葉を使わないでください」

「ひっどーい‼︎それ、偏見だし差別だからね?言葉に老若男女の縛りはないんだから‼︎」

 

……一理ある。背中で眠る彼女の境遇に覚えた同情は、いつの間にか苛立ちに変わり刺々しい発言が口を衝いてしまったが失言だった。

 

しかし、彼女相手に素直に認めて謝るのは癪だった。

したらば、触らぬビッチに祟りなしの精神でスルーした、教師あるまじき失言を泣く泣く拾って反撃の狼煙を上げる事にしよう。

 

「星之宮先生の問題発言に比べれば、俺の失言なんて些細なものでしょう?豪華客船に彼氏でも連れ込んでるんですか?」

「ふっふ〜ん、残念〜。好きピってのはこれの事だよ〜ん」

 

ドッキリの仕掛け人のようなしたり顔で、彼女がフリフリと振った瓶のラベルには『pisco』の文字が軽快に踊っていた。チリ原産で有名な葡萄の蒸留酒だ。

 

…………ふざけんな!!!

 

と、大声で難癖の一つもつけたくなったが、そもそもの好きピという造語自体が『何となく音が可愛いから』というふざけた理由で流行ったものだという事を思い出した。

 

その知性や理屈を完全に無視した語源に比べれば、頭文字を取った彼女の言葉の方が幾分かはマシだった。

 

「何かいう事は〜?」

「星之宮先生は芸能人顔負けの美貌で実年齢より十歳は若く見えるんですから、上辺で若作りする必要はないって意味で他意はなかったんです」

「…………及第点だね。通ってよし」

「お邪魔します」

 

見た目(だけ)は良いと思っている事と体の成長に心の成長が10年ほど追いついていないと感じている事は紛れもない本心だったので、リアルな感情を込めて言祝げた。

その成果あってか、痛々しいとか決定的な言葉で蔑んでいた俺を赦し、満更でもない笑みで部屋に通してくれる。

 

「…好きになられても困るから念のため言っておくけど、私が君を部屋に入れてあげたのはその一之瀬ちゃんを他の人間に見られるのは誰にとってもプラスにならないと判断しただけだから」

「勘違いしそうになってたので、その忠告は痛み入ります」

 

……あれ?思ったよりお酒回ってるかな、私。なんて、不意をつかれた表情でボソリと言ってるがその通りだと思う。

 

この時間に男子生徒を部屋にあげる行為の意味を少しは考えて頂きたいものだ。

ルールとして生徒が教師の客室に立ち入りを禁ずる旨が明記されていないのは、不同意性交等罪という法が社会の前提にあるからだ。社会人の大人がその一線を引けなくてどうする。

 

「…で?いつまで、背中に全神経を集中してるつもり?お届けものなんでしょ?それ」

 

一之瀬を背負ったまま、立ち尽くしていた俺の心情を正確に汲み取るとは……。さては、文学には精通してますって顔してるだけの偽物の文系出身だろうか?

 

その界隈は受験勉強を碌にせず、漫画を読書と言い張る癖に、遊び呆けていた分コミュ力だけが異常に発達して、文意は読めないのにリアルな心理にだけは聡い人種が多いのだ。※俺調べ

 

「星之宮先生の返答次第では俺が持ち帰る事になるので抱えているだけですよ」

「ふ〜ん、本当にそれだけならいいけどね〜?」

 

俺は悟られまいと素知らぬ顔で弁明するも、星之宮先生の考察は図星で、脳内は靄がかかったようにぼーっとしていた。

 

俺は今、一之瀬を構成する要素の内、比重5%を占める物質をどうにか長期記憶として海馬に刻み込むために、無理矢理エピソード仕立てでブレンドしようと躍起になっているのだ?

 

……ほら見た事か。

背中の触覚を研ぎ澄ます事に脳のリソースの大半が割かれている余り、自分でも意味が分からずに疑問符をつけてしまっている。

 

「すっかり主人公気取りだよね。綾小路君は」

 

グラスに気怠げにお酒を注ぎながら、星之宮先生はつまらなさそうに皮肉を漏らす。

 

その皮肉を間に受けるとして、主人公から掛け離れた下衆な妄想をしている俺を中心に回る世界線があるのだとすれば、それは舞姫の豊太郎に匹敵するクズ作品になりそうだ。

 

もしくはルルーシュのように鬼畜を振り回してデッドエンドを迎える事もあるかもしれない。

 

どちらにせよ…

 

「俺が主人公だと星之宮先生にとって都合が悪そうですね」

「…そういう不遜なところが嫌いだなぁ。恥を知らない若さって感じで」

「星之宮先生からすれば高校生風情が格好をつけて背伸びしてるだけにしか映らないでしょうからね。だから、それを承知の上でのお話しです」

 

俺は過去の失敗を糧にできる。大事な話をする上で一之瀬が起きていたなんてミスは重ねない。

 

下心なんて一切なく、背中に意識を集中していたのはこの為だったのだ‼︎

 

ワッハッハ。我ながらなんて完璧な伏線回収。直木賞受賞‼︎

 

………椎名との一件がフラッシュバックして取り乱してしまった。

 

「先生は主人公にはなれない。それを自覚してください」

 

ピタリと動きが止まった星之宮先生から茶柱先生に似た未練を感じた。

これは俺の感性が鋭いわけではなく、茶柱先生のドブ漬けしたような未練を強く強く体に刻み込まれた事によるPTSD反応だ。

 

「…そういう事。やっぱり佐枝ちゃん、私と同じ事してたんだ」

 

同じ穴の狢だな。俺が頷くまでもなく、彼女は茶柱先生が俺を利用して転覆を企んでいる事実に気付くだろう。遅いか早いかの違いでしかない。

 

「でもそれって納得いかないなー。私はダメで佐枝ちゃんがいいなんてのは」

「はぁ。二人とも本当に自分の事しか考えていませんね。俺達は先生方の未練を晴らす道具じゃありません。納得出来ない結果だったとして、彼女を叱責する事など言語道断です」

 

一之瀬から届いた「今夜、二人で会えないか」というメッセージ。

性急すぎる事は言うまでもなく、こちらの事情を顧みず要件すらも伝えないというのは、相手へのリスペクトをいついかなる時でも忘れない彼女のものとは思えなかった。

 

それは星之宮先生の意思が介入した証拠だ。推測にはなるが、特別試験で歴史的な結果を齎した俺を監視する指示でも出したのだろう。

 

その結果がこの有様だ。無理が祟って潰れ、堰を切ったように感情が溢れ出した。こんな事が続けば彼女は壊れてしまうだろう。

 

優しすぎる優しさは自分を守ってはくれないのだ。

 

「…『俺達』は?」

「その都合のいい耳だけは主人公並みですね」

 

俺が怒りを露わにしたお説教は右から左へと流れたのに、含みを持たせた可能性にだけはしっかりと目を光らせる。

茶柱先生が俺を脅す事を覚悟していたように、彼女も一之瀬の優しさに漬け込む事を覚悟してしまっているのだ。

 

「俺は主人公にはなりません。これなら納得できるでしょう?」

「…一之瀬ちゃんが敵わないわけだ。私を納得させる材料まで最初から用意してたんだね」

「ええ。一之瀬を利用しない事を約束してもらう代わりに、DクラスをAクラスにあげない事を約束する。これが俺の折衷案でした」

 

もとより、Aクラスを射程圏内に入れた後は俺はそのラインを維持するつもりだった。

先日のような特権を行使する上でそれ以上にベストなポジションはないと考えているからだ。

 

しかし、年の功か。星之宮先生は俺の交渉に二つ返事で乗るような浅はかな真似はせず、疑心暗鬼な眼を向けてくる。

 

「言葉だけでは信用できませんか?」

「そりゃそうだよね。綾小路君にあまりにもメリットがないんだもの」

「俺としては、一之瀬の好感度を稼げるだけでお釣りが出るくらいですけどね」

 

目に見えて分かりやすいメリットを提示したつもりだったが、彼女は少し頰を引き攣らせただけだった。

 

別にこの交渉が決裂したとしても、一之瀬をダシに脅す事だって出来るのだ。しかし、俺がその手段を選ばないのは茶柱先生と同じ手口は使いたくないからだ。

 

「仕方ありませんね。なら行動で示すしかないようです」

 

百の推論よりも一の実行。論より証拠。

俺はてくてくと歩いて、チェアーに優雅に腰掛けている星之宮先生の前まで距離を詰める。

 

「立っていただけますか?」

「…何、考えてるのか知んないけど―」

 

俺は星之宮先生は立ち上がるや否や、何の遠慮もなく豊満なバストへと手を伸ばして――揉んだ。

うわ…。思わずそんな感嘆詞が漏れそうな柔らかさが手の平が支配していく。

 

「…………は?何してんの?」

 

事態に理解が追いつき我に返った星之宮先生がパシッと俺の手を弾いて、永久凍土よりも冷たい声が耳朶を打つ。

しかし、俺はどこ吹く風だ。

 

「言ったはずですよ。行動で示しますと。万が一の時はその衣服に付着した指紋を使って頂いて構いません。俺は本気です」

「……なるほど。考えは分かったわ。でも、それなら触るだけで揉む必要はなかったよね?」

 

…流石に鋭いな。まあ、もっと言えば衣服を提供してもらうだけで良かったので触る必要すらなかったんだけども。

 

「そこはほら、思わず揉んでしまうほど魅力的だったってことで」

「……そんな事言われて喜ぶ人がいると思う?」

 

確かに喜んでいるようには見えないが、怒っているようにも見えない。この場合において、それだけで充分な反応ではないだろうか。

 

「信用してもらうためには肉を切らせる必要があると思って俺も必死だったんです。許してください」

 

まあ、肉は切らせずに肉の塊を揉ませて頂いたんだけどな。ガハハ。

 

俺は星之宮先生の刺さるような視線を背に一之瀬をベットに寝かせる。

可愛い寝顔を浮かべる彼女を見て、こんな純粋無垢な少女の優しさを利用していたのかと思うと星之宮先生への怒りが再燃した。

 

いいだろうが!!胸の一つや二つくらい揉んだって!!減るもんじゃないし!!もう、中古品もいいところだろうが!!!!!

 

「その衣類の扱いは証拠品を扱うように丁寧にお願いしますね。適切な保管の仕方もネットで検索すればヒットすると思います。それでは、俺は失礼しますね」

 

証拠品を扱うように。と言ったのは言葉遊びじゃない。

 

例え、あの衣服からどれだけ俺の指紋が摘出されようとそれは証拠能力は皆無に等しいのだ。

 

こんな夜更けに星之宮先生に招かれた客室で16歳未満である俺(アルコール含)がたかだか胸を揉んだくらいで罪に問われる事など万に一つもあり得ず、逆に星之宮先生は誘惑したとして充分な罰が与えられるだろう。

 

俺があの人の部屋に足を踏み入れた時点で、人の罪で胸を揉める事は約束されていたのだ。人の金で食う焼肉は美味いという気持ちが痛いほど分かった。

 

「……そういう不遜なところが、やっぱり嫌い」

 

既に背を向けた俺には彼女の表情は窺えない。

けれど、そこには言葉通りの嫌悪感を剥き出しにした顔はないだろう。そう思える声音だった。

 

先生は主人公にはなれない。

 

けれど、ヒロインになる事は出来る。

 

願わくば、その世界線の主人公は俺でありますように。

 

 

 

 

馬鹿げた話だと思って聞いて欲しい。

 

今朝、スマホに届いた一文で俺の中に乙女心が発芽した。

 

『…綾小路君。昨日の事、忘れてしまった方がいいですか?』

 

ぇ、むりむりぃ。忘られたら普通に泣くぅ。けど、忘れて欲しい気持ちも痛いほどあるぅ。でも、演技が本○翼くらい下手くそな椎名の三文芝居は見てられないぃぃ。むりぃ。むりぃ。ぶひぃ。

 

…乙女というより豚だった。キモくて見るに耐えない。

 

『忘れたいなら忘れてくれ』

 

悩んだ末に椎名が困りそうな曖昧で狡猾な返信をした。

まあ、こういう駆け引きすらも乙女心が具現化したものだろう。

 

……それに元々、兆候はあったのだ。

 

櫛田とケヤキモールで待ち合わせた時に背後を取られた事。

坂柳に揶揄われた時に山村の存在に気付けなかった事。

そして昨日、一之瀬が現れた時に驚いた事。

 

俺の中で感情というものが育っていくにつれて、ホワイトルームで磨いてきたものが少しずつ錆びていく感覚。

 

人間アピールをする訳じゃないが、これは明確な弱体化だった。

 

『忘れません。忘れられません。忘れられるわけがありません』

 

椎名から届いた言葉尻に向けて力強くなるオリジナル三段活用を見て、口角が僅かに上がった。

 

…こうやって、少しずつ自然に笑えるようになってきたのも、きっといい変化なのだろうな。ほら、パーフェクトなあの人も笑えよって言ってたし。

 

けれど、そんな俺を快く思わない俺が存在するのも事実で―

 

「スマホを見てニヤニヤと…。天下の往来で気持ち悪いわよ。普通に公害ね。ネットニュースの一面を飾りたくなければ、即刻その間抜けな口を閉じてくれるかしら」

 

ベンズナイフに負けず劣らずの毒性と切れ味を誇る堀北との会話が妙に心地良かった。

薬は毒、毒は薬という格言があるように、これは俺の中の弱くて脆い人格に効果効能のある最新医学かもしれない。

 

「ネットニュースに取り上げられるのはおつむが弱い公人だけだ。俺みたいなちょっと変な一般人はネットミームになってデジタルタトゥーを刻まれて終わりだ」

「一過性がない分、そっちの方が酷いと思うのだけれど…。自分が変わっているという自覚はあるのね」

「まあな。堀北もそろそろ自分が変人で変態だってことを認めた方がいいんじゃないか?」

「謂れもない無駄な尾鰭までつけないでもらえるかしら?」

 

小気味良くラリーをしながら俺達は横並びに歩き、とある場所に向かっていた。

当然、友達と呼べるかどうかすら怪しい間柄の俺達が二人でいるのには理由がある。

 

今日こそ、期末テストの約束を果たされん。

 

それ即ち、堀北とデートする日であった。

 

 

 

 





椎名。椎名。椎名。
オレ(綾小路)が狂ったのはあいつのせいだ。


※星之宮に尺を使いすぎたせいで、堀北デート回は次回は持ち越し。
船上試験開始はいつになるやら
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