普遍的なものが人を救っている
-ACE COOL-
『お昼済ませてからでいいよ~』
昼休み。橘先輩から暫しの猶予をお許し頂けた俺は食堂に行くことを決めた。
しかし、集団に混ざってぼっち飯というのも中々勇気がいるものだ。
頼みの綱の堀北も自前の弁当を机に広げている。
どうしたものか。
「挙動不審ね。お昼を抜くのは体に良くないわよ」
「健康面には人一倍気を遣ってるつもりだ。そんな間違ったダイエット法をするつもりはない」
「そう。なら食堂にでも行けばいいじゃない。一人で」
…とことん性格の悪い奴だ。
ぼっちで可哀想な俺をおかずに食べる白米がそんなに美味しいか?ああん?
「現在進行形でぼっち飯の堀北に言われたくないな」
「私は望んで一人で食べてるの。貴方とは雲泥の差よ」
俺の決死のブーメランの反撃も堀北にはぜんぜん効いていない。はぐれメタル並みの耐性だ。
彼女は単独行動が板につきすぎて、教室の背景として溶け込んでいるのだ。まるで、それが自然体であるかのように。
…そうだ。道草を食っている場合じゃなかった。
時間的余裕も精神的余裕も俺にはないのだから。
「気をつけてね?食堂でさっきみたいに視線を右往左往させていると、けろけろけろっぴだとかキョロ充だとか蔑称がつくわよ?」
俺から会話を切り上げる雰囲気を察してか、追い打ちをかけてくる堀北。
俺はその嫌味を何とか聞き流して、ある席へと向かう。
続々と腹ごしらえに行くクラスの連中と違い、席を立とうとしない彼女の席へ。
「佐r」
「ひ、ひやああいっ」
首元に冷たい氷でも当てられたかのような声で返事をしたのは佐倉愛里というクラスメイト。
相当動揺しているようだ。声だけでなく、眼鏡の奥の眼は泳いでる…いや、溺れていると言った方が正しいかもしれない。
「なにをしてるんですか?」
先程の悲鳴に似た声とライオンの前で怯える鼠のような佐倉を見れば、周囲に誤解を招く事は必然だった。
近くを通りかかったツインテールの少女が疑惑の目で訊いてくる。
確か名前は王美雨。今日のオリエンテーションの授業でみーちゃんと呼んでくださいと自己紹介していた記憶がある。
異性を愛称で呼ぶのは友達0人の俺にとって中々敷居が高いが、彼女の本名を日本語発音で呼ぶのは当人にとってはむず痒いだろう。そういうことなら話は別だ。
「みーちゃん。誤解だ。俺は何もやってない」
俺は両手をあげて無罪を主張するも、彼女の非難の目は変わらない。
冤罪はこうやって生まれていくのかもしれない。
…それでもボクはやってない‼︎
「…ま、待って…」
消え入るような声の後、全力で首を振る佐倉。
不器用ながらも俺は悪くないと主張してくれているようだ。
「えっ?えっ?…私の勘違い?…ご、ごめんなさいっ!」
「わ、わたしも、ご、ごめんなさい…」
「いや、俺の方こそ悪かった」
誤解は解けたものの、今度は三者が謝る妙な空間が生まれる。一難去ってまた一難。
気まずさの余り出た苦笑いもリンクする有様だ。
そうなれば、話は原点回帰するしかないわけで…
「……え、えーと、わ、私に、な、何か?」
伏し目がちに訊いてきた佐倉に、俺は用意していた誘い文句を答える。
「ああ、良かったら一緒に食堂に行かないか」
「…………わ、わたし?…な、なんで?」
さっきから被害者のリアクションなんだよな…。
どこか誘い方を間違っていただろうか。
「どうしてと問われると難しいな。強いて言えば、気になったからだが…」
「えええええっっ」
顔を茹で蛸のように真っ赤に染め、最初に声をかけた時と同じくらいの声量で驚く佐倉。
ボソボソと喋らずにその声量で喋った方がいいんじゃないか?
「私も同行します。怪しい臭いがします」
俺と佐倉の間にみーちゃんが両手を広げて守るように立ち塞がる。
先ほど晴れたはずの疑念には再び翳りが刺したようだ。
妙な流れになってきたぞ…。
◆
「そういうことだったんですか。てっきりマルチの勧誘か何かかと思いました」
「……どうしてそうなるんだよ」
「だ、だって、綾小路君のそれ、どう見てもお金に困っている人のチョイスじゃないですかっ」
呆れ気味に俺が言うとみーちゃんは声を張り上げて意気揚々と指差した。
俺の山菜定食を。
この食堂は良心的な価格設定の定番のメニューがズラリと並ぶ、一見するとどこの高校にでもあるような施設。
無料という破格のサービスで提供されているこの山菜定食を除けばだが。
そういえば、コンビニにも無料提供コーナーがあったな。
在庫処理かと思っていたがそうではなかったようだ。
「もしかして綾小路君も散財したクチですか?」
「そんなクチ、俺は知らない。興味本位で手に取ったクチだ。ちなみこれは無味だ」
「…綾小路君、変わってますね。というか知らないんですか?クラスの人達が騒いでたじゃないですか、最新のゲーム機や高級ブランドのGUCCIやHERMESのアクセを手に入れたって」
みーちゃんが言うには、まだ一日しか経過していないのにクラスの半数は破産寸前だという。中々破天荒なクラスだ。
いや、そんなことよりもサラリと言われた『綾小路君、変わってますね』の前置きで心が痛いんですけど……。
「山菜定食を選んだ理由は辛うじてですが理解できました。では、佐倉さんに声をかけた理由は何ですか?」
「いや、だからそれは気になったから…」
「綾小路君。異性に気になるだなんて軽々しく言うものではありませんよ。具体的にどう気になったのか答えられるんですか?」
まるで異端審問官だ。一般常識の枠で育っていない俺は教義に反した異教徒も同然のようだ。
こうなってしまえば、俺に出来ることは真摯に正直に答えることだけだ。
「佐倉は昨日のあの自己紹介の場所からいなくなった1人だったからな。いや、別にどうしていなくなったんだと詰めているわけじゃないからな。俺にその資格は無いし」
「綾小路君もトイレに行くと行ったきり戻ってこなかったですもんね」
みーちゃんが俺を弄るような形で補足してくれたことで佐倉が驚きつつも腑に落ちたような表情に変わった。
佐倉は無口で意思表示が少ないから、顔色を探り探りで窺うしか疎通する手段がない。
話すのには中々の労力がいるな…。
「佐倉さん、要は友達になりたいと綾小路君は言ってるんです」
「おい…」
「え、違うんですか?」
「…違わないです」
ストレートに要約されたことへの文句が喉まで突っかかただけです。
抑えきれなかった不満が口蓋垂を若干震わせて、声が漏れてしまったことは見逃してもらいたい。
「そ、そうなんだ…」
「どうしますか?」
「……」
胸騒ぎするような無言の空間。心臓に悪い。
『みーちゃんはもしかしたら日本の文化に慣れてないのかもな〜。ほら、中国出身だし~』
俺が後頭部を掻きながら、そんな風に誤魔化せたらどれだけ良かったか。
結局、この場に収集をつけれるのは佐倉しかいない。
「…ふ、不束者で、すが、お、おねがいします……」
「そうですかっ。円満に解決できて良かったです」
佐倉のその間違った挨拶には誰も突っ込まなかった。
人目のつくここでまた『ヒェアァァア』とか叫ばれたら洒落にならないしな。
わざわざ教室に残り、流れとはいえこの場にノコノコ付いてきた佐倉が俺の申し出を断る可能性は低いと踏んでいたが、こうも待たされると胃が縮こまる気分だった。
そして、これは本人には面と向かって絶対に言えないが声をかける相手として佐倉を選んだ理由は他にもある。
それは今日の授業のオリエンテーションの佐倉の自己紹介だ。声量も小さく、吃りも酷かった。正直、自己紹介としては赤点。補習確定の内容だ。
彼女の自己紹介で周囲に伝わったのは名前や趣味ではなく、引っ込み思案で内気でコミュ症な女の子ということだ。
言葉を選ばずして言えば弱者女性。
ドラクエで言えばスライムやドラキー。
彼女は駆け出し冒険者の俺にとって、丁度いい相手だったのだ。
「では、友達の証に皆で連絡先交換しましょうか」
…さらっと自然に自分を混ぜてくるあたりみーちゃんは大物だな。
佐倉も連絡先を交換することには抵抗がないようで、スマホを手に持った。
(親元を離れ、知り合い一人いない学校に単身で入学する。不安なのは皆同じか…)
人間とは、利害が一致していれば簡単に手を取り合える生き物なのだ。
「佐倉、みーちゃん。これからよろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします」
「お、お願いしまふぅ」
佐倉が盛大に噛んだが、それを責め立てる者はこの場にはいない。むしろ、和んだくらいだ。
みーちゃんは棚ぼただったが、2人とはいい関係が築けたと言っていいだろう。
『成功の反対は失敗ではなく何もしないこと』
この言葉は挑戦への心理的ハードルを低くするために乱用されがちだ。
しかし、失敗や最悪の事態を想定しそれに対して備えなければ、挑戦したとしてもその先に成功はない。
失敗を想像出来ぬ者に、成功は想像できないのだから。
「……まずい」
「ふふ、綾小路君。タダより怖いものはないんですよ」
みーちゃんは俺の山菜定食を見ていうがそうではない。いや、これも不味いのは確かなんだが。
だが、それよりも本当にまずいのはこっちだ。
俺は増えた連絡先を見て、1人の先輩をかなり待たせていることに気付いたのだ。
俺は説明もそこそこに、2人に断りを入れて食堂を後にした。
◆
「女の子を待ち惚けさせるなんて、日本の義務教育はどうなってるんですか!これだからz世代は!」
「…すいません」
俺が義務教育を受けて育ってないこと。
橘先輩と俺は歳が2つしか変わらないため、世代差はないこと。
待ち合わせの時間指定はされていなかったこと。
いくつも不満が浮かび上がるが、彼女を待ち惚けさせていたことだけは事実なので俺は平謝りして対応した。
女は感情的な生き物だとネットに載ってたからな。反論するな。謝れの精神だ。
「私は今、憤慨しています!!」
怒っているのは確かだが、何とも可愛らしい宣言だ。
「ですが、怒っている暇も惜しいのです。だから、誠意を示してくれれば許すのです!」
「…具体的にどうすれば?」
「身を粉にして働くしかないでしょう!!」
仕事量の多さに脳がメモリ不足に陥ってるのか、少しハイになってる橘先輩は俺に一枚の紙を押し付けてくる。
…これは、出来上がった部費の予算表か?
「綾小路君。はじめてのおつかいです。1人で頑張れますよね?」
「…言ってる意味が分からないんですが」
「それは今年度のサッカー部の部費の予算表です。部長の捺印が必要ですので貰って来てください。はい、行った行った」
情報処理が追いついていないのをお構いなしに、橘先輩はグイグイと背中を押してくる。
そして、ついには廊下に投げ出されてしまった。そして、無慈悲に閉まる生徒会室の扉。ガチャリという施錠音付きで。
出来るまで帰ってくるなという意味だろう。
…これは後に知ったことだが、はじめてのおつかいとは子供向けの教育番組みたいな立ち位置でこんなスパルタをしようものなら毒親と詰られ炎上すること間違いなしだ。
(ていうか、サッカー部の部長って誰なんだよ。俺が行って捺印貰えるものなのかよ)
そんな無限に湧いて出る疑問に防音性高めの重厚感ある扉が答えてくれる訳もない。
こうなったら手当たり次第だ。とりあえず三年生の教室へ行く他ないだろう。
「サッカー部の部長?…確かにそいつは3年生にいるが何か用か?」
「橘先輩より部費の予算表の捺印を貰ってくるよう仰せつかっております」
「…怪しいなお前。何で1年が橘の手伝いなんかやってる?」
「疑われるのでしたら、橘先輩本人に確認してください。俺はその答えを持ち合わせていませんので」
「舐めた奴だな。他を当たれ。結局は無駄だとは思うがな」
入学2日目の下級生が3年生の教室に訪れる。
それがどれほど不自然なことかを先輩の半信半疑の目が教えてくれた。
俺に興味を無くした先輩は遇らうように手を振り踵を返す。
「あ、綾小路君だっ」
「…櫛田?」
「覚えててくれたんだっ。嬉しいっ」
まるで気の知れた間柄かのように、櫛田が跳ねるように近付いてくる。
物理では解明できないほどの不規則な動きに目を奪われないように俺は自制して、目を合わせる。
令和のアイザックニュートンという異名を頂戴したくはないからな。
「…デカ過ぎんだろ」
文字起こし出来ないくらい小さな声。
俺を追い返そうとしたはずの先輩が再び振り返っていた。
彼はニュートンにはなれないな。リンゴのサイズばかりに目を囚われていて、本質が見えていない。
「櫛田、こんなところで何やってるんだ?」
「私は三年生の先輩方に挨拶しにきたの。綾小路君は何やってるの?…挨拶回りって訳でもないよね?」
クラスメイトへの挨拶もまともに済ましてないよね?そんな含みを感じたのはきっと気のせいだろう。そう信じたい。
「ああ、俺は…」
「おい、綾小路だったか?さっきも言ったが、肩書だけの三年の部長に当たってもお前の目的は叶えられないぞ。実際は2年の南雲がサッカー部の権利を掌握してるからな」
さっきまでと同じ人には思えないな。饒舌に説明しやがって。
さっきは『結局は無駄だと思うがな』としか言ってなかっただろうが。
「先輩っ。クラスメイトの綾小路君を助けてくださりありがとうございますっ。すごく頼りになりますっ」
「後輩の頼みを断る先輩なんてこの学校にはいないさ」
「それって、もし私が困ってても助けてくれるってことですか?」
「他の連中はどうかは知らんが、俺は困ってる後輩を見て見ぬフリするなんて出来ないな」
「わぁっ、素敵です」
櫛田からの尊敬の眼差しに照れるように鼻の下を掻く先輩。
可愛い女の子の前で格好つけたい心理は分からなくはないが、見事な手のひら返しに溜息が出そうだ。ついでに手も出そうだ。
「今後とも、お願いしますっ。先輩っ」
見事な手際と流れで連絡先を交換した櫛田は、ヨイショされてご満悦な先輩にトドメの一撃を入れる。
さりげなく、手を取って握手したのだ。
「南雲なら昼休みはいつもグラウンドにいるぞ。行ってみたらどうだ?」
下級生相手に赤面したことを誤魔化すように、先輩はご丁寧に追加の情報までくれるのであった。
◆
「おまたせ。行こっか」
トイレから戻って来た櫛田と共に、俺はグラウンドへと向かう。
俺のコミュ力では先輩を相手するのは難しいだろうということを見越してか、櫛田は俺に同行すると言い出したのだ。
「でも、嬉しいな。ずっと綾小路君と話したいと思ってたから」
「…何か、俺に用でもあったのか?」
「綾小路君のことが気になってたって用ってことになるのかな?」
Apple Watchをつけていなくてよかった。
自分の心拍数が上がってることを自覚してしまえばさらに冷静さを失ってたかもしれない。
「具体的にどういうところが気になってたんだ?」
「全部だよっ」
心臓が跳ねる音がした。…それは狡いだろう。
俺の経験則から得た切り返しを威力を倍にして跳ね返して来るとは。おかげさまでこっちは瀕死状態だ。
「私、クラスの皆と仲良くなりたいんだ」
「素敵な志だな」
「他人行儀だなぁ。それには綾小路君も含まれるって話だよ?」
明らかに人に慣れている櫛田の口説き文句。
感情表現が苦手で良かった。内心ではうっかり好きになってしまいそうだったからな。
「…それに堀北さんも」
「何で今堀北なんだ?」
「だって、堀北さんが心を開いてるのは綾小路君くらいだもん。私なんか、今朝話かけたら無視されちゃったんだからね?」
堀北の生き方と櫛田の生き方はまさに対極だ。
仲良くなるのは正直難しいように思えてしまうな。
「俺に対しても同じようなもんだ。たまに悪口が返ってくるオプションがついてるだけでな」
「いいな〜。一体いくら課金したの?」
「課金してない。月額0ptの悪口付きスタンダードプランだ」
料金は無料だが入会には銀行のローンのような彼女の厳しい審査をクリアしなきゃならないけどな。
櫛田はおでこを押さえて『サブスクの方だったか〜』なんて言っていた。
「はっ。…もしかして、綾小路君と友達になるのも…」
「友達商売できるほど、俺に人望も価値もない。当然0円だ」
「良かった〜。今、手持ちが少ないから、もし有料だったら生活費切り詰めなきゃいけないとこだったよ〜」
…有料だったら払うつもりだったのかよ。
いや、世はマッチングアプリ全盛期。恋愛するのにもお金が必要な時代だ。
櫛田の友達作りに投資を惜しまないスタイルは、時代に沿ってるのかもしれない。
「じゃ、連絡先いい?」
「ああ。こっちからお願いしたいくらいだからな」
「わっ。嬉しいなぁ。あ、お金取っちゃおうかな?」
意地悪っぽく笑う櫛田と連絡先を交換する。
もう5人目か。思ったよりも順調な滑り出しだな。
そう思ったが、チラッと見えてしまった櫛田の連絡先の数は既に150人を超えていた。…上には上がいるな。
◆
「南雲先輩。橘先輩に頼まれて来ました1年の綾小路です。今年度の部費の予算表に捺印して欲しいとのことで…」
グラウンドに着くや否や、南雲先輩はすぐに見つかった。
櫛田曰く、この学校の有名人らしい。そして凄くモテるらしい。
派手な金髪マッシュ。高めの身長。女子人気が高いのも頷ける秀逸な容姿だ。
南雲先輩は『ご苦労だったな』と一言だけ言って、予算表に目を通し始める。
「チッ…。事情知らない一年生を使うことで、無理矢理承諾を得ようという魂胆か」
「何か不備がございましたか?」
「どういう事情でお前が橘先輩の遣いをしてるのかは知らんが、与えられた仕事は真面目にやれよ?」
南雲先輩は赤ペン先生の如く、部費の予算を全て書き直していく。備考欄にはグラウンドの一部を人工芝にしろとデカデカと追記していた。
「綾小路だったな?この内容で突き返しとけ」
「あの、捺印は…」
「仕事を真面目にやれと忠告したが、頭の柔軟さが足りないな」
やれやれ顔を浮かべた南雲先輩は語り口調で話し始める。
「いいか?お前が頼まれた本当の仕事は俺と橘先輩の仲介役さ。俺が納得する条件を引き出すのがお前の役目だったんだよ」
『捺印なんて電子印を使えばいくらでも捏造できるからな』
南雲はそう補足して、去っていった。
…俺は橘先輩にいいように使われてたようだ。一本取られたな。
自分が行けば難癖をつけられることが分かってたから、簡単な仕事なように説明して事情を知らない俺を派遣したのだ。
仕事内容を有耶無耶にして、消耗品のようにコキ使うとは闇バイトみたいな手法だ。
可愛い顔してやる事がえげつない人だな。
「えーと、とりあえず一件落着かな?」
「ああ。櫛田、付き合ってくれてありがとう。助かった」
「私が勝手についてきただけだよ。それに結果的に私は何もやってないし」
「いや、隣にいるだけで心強かったよ。一人で先輩と対峙するのはやっぱり緊張するからな」
「褒め上手だなぁ。綾小路君。全然、緊張してるようには見えなかったよ」
他人に褒められた時に、『褒め上手だなぁ』という最上級の褒め言葉を自然に使える櫛田の方が褒め上手だ。
櫛田との会話は学ぶ事が多い。連絡先150人は伊達じゃないな。
櫛田と別れて、俺は一人で生徒会室に向かう。
これ以上、新たな仕事を押し付けられるのは懲り懲りだ。
俺はドアの下の隙間から予算表を滑り込ませた。
『橘先輩、やってくれましたね』
彼女の計画的犯行は見事なものだった。
俺は敬意と私怨を込めて、そのメッセージを送った。
◆
佐倉愛里 10月15日 天秤座
ルックス :B
スタイル :S
性格 :B
趣味 写真
好きなもの ダンス・音楽
苦手なもの 勉強・スポーツ・ホラー全般・辛い食べ物全般・男の人
入学動機 アイドルになりたい