綾小路は恋がしたい   作:Кудрявка

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夏休み編 完結間近。


#44 告白を超えた告白

 

好きって何だろう。

 

古今東西、誰もが一度は一生の中でその疑問に向き合う。

 

俺にとってはきっと今がその時なのだ。

 

時には哲学を用いて定義付けようとしてみたり、時には心理学的に解き明かして究明しようと試みたり。

はたまた、全ての前提をひっくり返して、恋愛は理屈じゃないと論じてみたり。

 

きっと、そのどれもが誰かにとっては正しくて、誰かにとっては間違ってる。

 

正解が一つしかないなら、ラブソングは一つで事足りるのだから。

 

出口のない迷宮に思案を彷徨わせていたあまり難しい顔になっていたからだろうか。隣を歩くひよりの手に力が込められる。

 

「…清隆君。私を言い訳にしないで、ちゃんと一之瀬さんに向き合ってあげてくださいね」

「ああ。今更紳士に振る舞ってこの場を凌ぎ切ろうなんて考えていない」

「紳士じゃなくてもいいですが、真摯ではあってくださいね。それが私の大好きな清隆君ですから」

 

惜しみ無く向けられる好意と笑顔。

 

それはまだまだ芽が生えたばかりな未発達な感情と歳を重ねるごとにこれから洗練されていくであろう未完成な表情なのに、俺の心臓は既に尊さがカンストして突然停止してしまいそうだった。

 

…末恐ろしい。まだ変身を三回も残しているフリーザくらい敵う気がしない。

 

完全体ひよりが爆誕すれば、星さえも吹き飛ぶ威力の可憐さを誇るのは間違いないだろう。

 

「名残惜しいですが、一之瀬さんを無闇に傷付けたくはありませんから」

 

そう言って、特別棟の屋上に着く直前に繋いでいた手をひよりが離す。

 

温もりが失われ、寂寥感に襲われている自分に、手だけではなく心まで掌握されているんだなぁとつくづく思う。

 

「……ドアノブにまだ熱が残っているな。おそらく、もう来てるだろう」

「清隆君。名探偵は不自然を見出すものですよ。この真夏に鉄製のドアノブが熱いのは当たり前です」

「分かってるよ。最後の悪足掻きだ。こう見えて緊張してるんだ」

「緊張するのも自然なことです。相手はあの美人で優しい一之瀬さん。グラビアアイドルを据え置いてしまうくらいスタイルがよくて、尾田栄一郎さんが原画を担当したんじゃないかってくらいスタイルのいい一之瀬さんなんですからっ」

「………胸だけ過剰に褒めすぎじゃないか?というか、ひよりは嫌じゃないのか?俺がそんな相手に告白されることは」

「ふふっ。彼女の気持ちが推理できないなんて、百伶百利の清隆君もホームズのような歴史に名を刻む名探偵にはなれませんね。事件より女の子に振り回されている高校生探偵はハマり役かもしれませんけど」

 

喉の奥で鈴の音を鳴らすかのようにころころと笑うひより。

 

そんな彼女を前にすれば色恋沙汰を忌み嫌う頭脳明晰なホームズでさえも論理破綻してしまうだろう。

 

彼女の可愛さに理屈などない。トニカクカワイイ。

 

「私、複数の女の子に好意を向けられて、清隆君が戸惑っていることが嬉しいんです」

「…彼女ならそこは嫉妬するところなんじゃないのか?」

「まるきり嫉妬してないと言えば嘘になりますが、それ以上に嬉しさが勝っているというのが本音です。だって、戸惑っているということは清隆君の思考の端に私がいる証拠ですから。清隆君の中に私が存在する。その事実だけで私は胸がいっぱいなんです。他のことなんて何も考えられなくなるくらいに」

 

堀北に迫られた時も、櫛田と言い合っている時も、佐倉を揶揄っている時も、橘先輩を慰めていた時も、いつだって脳裏にはひよりの姿があった。

 

瞼の裏には彼女の笑顔が張り付いていて、瞬きをする度に存在を感じてしまう。傷付けたくないとブレーキを踏んでしまう。…もはや一心同体だ。

 

きっと、虜になるとはこういうことを言うのだろう。

 

「俺はひよりが怖いよ。俺がホームズ崩れなら、ひよりはアイリーン・アドラーの生き写しなんじゃないか?」

「ふふ。ミステリーファンとしては最上級の褒め言葉ですね」

 

目を細めて微笑んだひよりをみて、落ち着きを取り戻している自分を自覚した。

  

…メンタルクリニックは精神安定剤としてひよりを処方した方がいいんじゃないの?脳内麻薬が溢れて止まらないんだけど?合法的なトビ方心得ちゃうよ?

 

「ひより」

「なんでしょう?」

「好きだよ。愛してる」

「……ぇ」

 

文字通り理外の俺の告白にひよりが固まって言葉を失う。

 

そんな彼女の反応に、今日初めて彼女から一本取れた気がして、俺は口の端を吊り上げて笑った。

 

ひよりの微笑みが天使なら、俺のは暗黒微笑がいいところだ。

 

けれど、ひよりは固まったまま顔を真っ赤にして、それを隠すように俯いた。

そんな彼女の手を取って、俺は一之瀬の待つ屋上のドアを開けた。

 

「ひより。好きだ。嘘じゃない」

 

言葉の実感を確かめるようにもう一度俺は言う。うん。やっぱり嘘じゃない。

 

その追撃にひよりは顔からボンっと小規模な爆発を起こしそうなほど赤くなった。

  

 

◆

 

 

「まずはごめん」

 

先日、豪華客船での彼女の告白の答えを巻き戻して逆にしたような言葉。

 

ひよりと親密に手を繋いだ俺の姿も相まって、一之瀬が先の展開を想像するのは容易いだろう。

 

「一之瀬に告白される少し前から、俺はひよりと付き合ってるんだ。それなのに、すぐに返事を出来なかった。ごめん」

「そ、そうだよね……。綾小路君みたいな素敵な人に相手がいることなんて、少し考えれば分かったはずなのになぁ……。私こそごめんね。勝手に舞い上がって、迷惑だったよね……」

「一之瀬。勘違いしないで欲しい。俺が謝ったのは一之瀬に対する返事が遅れたことに対してであって、告白に対する返事じゃない。一之瀬の気持ちは本当に嬉しかったからこそ、ここまで迷ったんだ」

「……え?」

 

ひよりの存在を認知して自責の念に駆られ始めた一之瀬が一転、俺の発言に目を丸くして冷静を取り戻す。

 

世間や常識に当て嵌めれば、彼女がいる人間に告白した時の答えはNO一択だ。

 

「最初は断ろうと思った。俺には彼女がいるから。だけど、その理由は、ひよりを言い訳にして一之瀬の気持ちを蔑ろにする最低の行為だと気付いたんだ。俺個人の物差しだけで測れば、複数の女性と交際関係を結ぶ事よりそれは最低の選択だ」

 

二股をかけることが悪なら、一夫多妻制が根付くイスラム教の全面否定だ。

 

本当の悪は浮ついた気持ちで女性と関係を持つ不貞行為だ。

 

「一之瀬の事だけを考えた時、答えは簡単に出た。俺は一之瀬が悲しむ未来を望まない」

 

彼女のいる俺が一之瀬と付き合う事に必要なのは、ひよりの意思だけであって、誰かからの賛成も国からの許可も必要ない。

 

俺とひよりの答えは決まっていた。

 

だから、残るは一之瀬が覚悟を持っているかを問うだけ。

クラスメイトから白い目を向けられても決して屈せず折れない、そんな覚悟だ。

 

「一之瀬訊いていいか?俺のどこが好きなのか」

 

急展開にいまだ戸惑いを隠せていない一之瀬に対して、俺は真剣な眼差しを向ける。彼女はそれに気圧されるように質問に答えた。

 

「優しくてカッコいいところが好き……。他にも色々あるけど……」

「そうか。だったら、一之瀬は他の同じようにカッコいい誰かから、同じように優しくされたら好きになるのか?」

「…ならないよ」

「だったら、それは理由になっていないな。ならば逆に俺が優しくなくなってカッコ悪くなったら、嫌いになるのか?」

「……嫌いになんてならない。なれないよ」

 

一之瀬がはっきりと答えた後、ふるふると首を振る。それは同時に白旗を振ったようにも思えた。

 

これ以上、追求しても彼女からは表面上の理由しか出てこないだろう。

 

「意地悪な質問をした。好きだと言う気持ちが芽生えるのは物事の最終段階なんて言うが、俺は逆だと思う。いつだって、好きだって感情が先で理由は全部後付けなんだ。突かれれば崩れるほど脆くて当然だ」

 

「だけど、俺は言える。ひよりをどうして好きだと断言できるのかを。テセウスの舟すら看破する後付けじゃない本当の理由を。それを訊いても、一之瀬の気持ちが変わらないなら俺は一之瀬と付き合いたい」

 

告白をしてフラれる。当初に立てたそのプランはまだ生きている。

 

だが、俺が告白するのは一之瀬に向けてじゃない。

 

世界で一番大切な、俺の初めての彼女に向けての告白だ。

 

「ひより。聞いて欲しい」

「…はい。訊かせてください。清隆君の気持ちを」

 

体の血液の巡りが速くなっていくのが分かる。

自分の心臓に殺されそうなほど、ひよりを前に緊張していた。

 

「実は一之瀬だけじゃないんだ。女性的な魅力を感じる女の子は他にもいる。そして俺はそんな子達に好意を寄せられて拒めるほど人間が出来ていない」

「分かってます。私の思い当たる人を挙げると、櫛田さんに堀北さんに佐倉さん。それに直近だと橘先輩ですかね?」

「……ほんとに頭が上がらないな」

「あっ。あとは森下さんもそうでしょうか?」

「ひより。俺の恋愛対象は人間だけだよ。妖怪の類は含まれない」

 

そう間髪入れずに返した俺にひよりは柔らかく笑う。冗談ですと流しはしなかった。

彼女の鋭い勘も今回だけは的外れとなるだろう。

 

俺はあの女だけは許していないんだ。機会が訪れれば、すぐにでもこの学校から消す候補の一人である。

 

「でもな、ひより」

 

「俺が一生を添い遂げたいと思っているのはひよりだけだよ」

 

ひよりは一瞬驚いたように放心したが、俺の言葉が本気だと悟ると、嬉しそうに頬を緩めた。

 

俺はそんなひよりにさらに垂れ流すように感情を言葉に起こしていく。

 

「二年後。俺達が18歳になった時、俺はひよりと結婚する。18歳なら親の同意は不要だし、婚姻届の証人欄は極論道すがらの赤の他人でもいい。個人的には茶柱先生を推したいけどな。未婚がコンプレックスのあの人にマウントを取って気持ちよくなりたい」

 

俺はそんな風にユーモラスに締め括った後に、真面目な声で続ける。

 

「その後はすぐに卒業だよな。もしかしたら、俺達は別々の道を進むかもしれない。最悪のケースを考えれば、戸籍上でしか繋がり以外何も残らないかもしれない。だけど、何があっても最後にはひよりと同じ墓で死にたい。そんな未来予想図を本気で描いてるんだ」

 

人生を共に歩む資格もそれを背負う覚悟も必要ない。

 

一緒にいたいという想いやそれに付随する感情すらもオマケだ。

 

俺には彼女が、彼女には俺が、お互い求めるものはそれだけだったのだ。

 

「ひより。その道への第一歩として、俺と婚約して欲しい」

 

身分不相応にも程がある。未知の感情に身体を預けた結果、俺の告白はプロポーズへと変化を遂げていた。

 

呆然としたひよりにじーっと見つめられて、だんだんと恥ずかしさが込み上げてくる。

 

『椎名。椎名。椎名。俺が狂ったのはお前のせいだ』と、サンプリングして誤魔化せたらどれほど良かったか。

だけど、プロポーズを無に返すような最低な男にはなりたくなかった。

 

ひよりがようやく我を取り戻し……、そして堪え切れなくなったように吹き出して笑った。

 

「ふふっ。正直、愛が重たすぎてびっくりしました。そこまで考えてたんですか?子供は何人欲しいですか?」

「大一番の告白を揶揄うなよ。…言っておくがこれはプロローグだからな。さっきは卒業後に別々の道に進むかもしれないと濁したが、現段階ではほぼ確実にそうなると言っていい。俺はこの学校に進学するにあたって親の許可を取らずに、半ば逃げ込むように転がり込んだんだ」

「うわ〜。私が告白した時によく厄災に例えましたね。清隆君の方がよっぽどパンドラの箱じゃないですか」

「返す言葉もないな。しかも、まだ俺の奥にはまだ厄災は残っている」

「……ちゃんと原作をリスペクトしてくださいよ。最後に残るのは希望って話じゃなかったんですか?」

 

ギリシャ神話を原作扱いとは、敬虔な信徒だな…。

 

むーっと分かりやすくむくれる可愛いひよりに俺はもう一度歯の浮くような台詞を贈る。

 

「違う。ひよりが俺の希望になってくれって話だ」

「希望の星になってくれ?」

「……カッコつけたのにさらっと流すなよ。中日ドラゴンズの有望株みたいになったじゃないか」

「…すいません。求婚されたことが嬉しくて完全に浮かれちゃってますね。私…」

 

へへ、とひよりは照れ笑いを浮かべる。

まじまじと彼女の顔を観察すると、にへらと見たことない表情の崩し方を披露した。

 

こんなにも、にまにまと笑うひよりは初めて見た。浮かれているというのは本当らしい。

 

「清隆君。不束者ですがよろしくお願いします。私を幸せにしてくださいね」

「…違うだろう。ひより。二人で幸せになるんだ。そして、そのためにはひよりの協力が必要不可欠なんだ。こちらこそよろしく頼む」

「はいっ」

 

彼女の事を好きだと自覚して、告白して、それを優しく受け入れられた。

その事実が俺を後押ししたのか、彼女の事を自由にしていいんだという衝動が湧いてくる。

 

時と場所を弁えず、俺がひよりを強く抱きしめようとして

 

「ですが、思ったよりも清隆君がパンドラすぎて、私一人じゃとても抱えられないなぁ〜。誰か一緒に抱えてくれる人いないかな〜。ちらっちらっ」

 

ひよりが声を張り上げて、態とらしい態度で一之瀬に目配せする。

 

俺はというと、今の今まで一之瀬の存在を忘れていたくらいだった。危ない危ない。淫らな衝動に任せて初回から誰かに見られながら外でというハードなプレイを強行して、ひよりが一週間は口を利いてくれなくなるところだった。

 

…一週間で許してくれるのかよ。俺の嫁、非の打ち所がなさすぎない?(気が早い)

 

ひよりの目線を追うと、羨望の眼差しを浮かべる一之瀬がいた。

指を咥えて待っている錯覚が見えそうなほど、彼女の目には哀愁があった。

 

「一之瀬、気持ちは変わらないか?俺とひよりに並ぶ覚悟があるか?」

 

あるわけがない。これは確信で、俺とひよりの感情が常軌を逸していると自覚しているが故の自信だった。

 

橘先輩のモデルケースから第三者を介入させる有用性を見出し、その上で一之瀬の気持ちを最大限汲み、NOを引き出す為の手順を綺麗に組み立てた。

 

付け入る隙など微塵もない。

 

そう思っていた。

 

「正直ね。嫌われるかもって思って言わないようにしてたんだ。実は私の好きは触れ合いたいとか抱きしめたいとか他の異性といるところを見ると嫉妬してしまうとかそういう上っ面の感情じゃないんだ」

「…話が見えないんだが?」

「私の妄想ではいつも、将来綾小路君と結婚して、家庭を持つ未来があったの。つまりね…」

 

俺が口を挟んでも気にも掛けず、走り始めた一之瀬機関車が暴走していく。

 

恋慕を推進力に変え、その推進力をさらに次の推進力へと変換して自走し続ける。止まるどころか、むしろどんどんと加速していく。

 

物理学で不可能とされていた永久機関は、どうやらここに完成していた。これが本当の無限列車編。満員御礼。感謝。

 

「これはね……、子供が欲しいの好き」

 

………一之瀬って生徒会に入りたがるような模範的な優等生じゃなかったけ?

 

なんか、どえらいこともといドエロいことを口走ってるんだけど?

 

「いいですねっ」

「よくねぇよっ!」

 

ひよりの賛同に俺はすかさずツッコミをいれたが、今更そんな軽い拒絶で一之瀬が退くはずもなかった。

 

妙な迫力と熱を帯びた目でじっと見つめられて、彼女はこっち側の住人であったことを今更ながら悟った。

 

「綾小路君。椎名さん。改めて言うね。二人が良ければ私も仲間に入れて欲しい」

 

かくして、ドラクエで仲間を増やすような感覚で、俺は一之瀬と交際することが決定した。

 

 

◆

 

 

俺は公には一之瀬と交際していることになり、ひよりとの関係は徹底して隠す運びになった。

 

これは他でもないひよりの提案だ。

 

「今のところ、私が大幅リードしてますから。トラックだったら一之瀬さんは周回遅れもいいとこです」

「すぐに追い抜くよ。私、こう見えても走るのは結構得意なんだ」

「ふふっ。足が速くて褒められるのは小学生かひゃくえむの世界観の中だけですよ?」

「……余裕だね。椎名さん。私は追いつくではなく追い抜くと言って挑発したつもりだったんだけど?」

「求婚された私に比べて、今の一之瀬さんでは体を求められるのが関の山。それにその先で、もしも身籠ったとしても、きっと私と清隆君にそっくりの子供が生まれます。それくらいの差がついてるんです。焦る理由はどこにもありません」

 

……どんな怪奇現象だよと思ったがツッコミは自制する。

 

今はもう少しだけ『やめて!私のために争わないで!』という気持ちに浸っていたかった。

 

それに俺の中でひより>>超えられない壁>>一之瀬という不等式が存在するのも確かだった。

それこそ、一之瀬がひよりと張り合えるのは胸の大きさくらいのものである。

 

ひよりに言い負かされて、ぐぬぬと悔しそうにしている一之瀬だが、晴れやかな表情を浮かべている。迷いは断ち切り、進む道がはっきりしたからだろう。

 

(…うん。色々とカオスだけど、彼女達が幸せならokです)

 

その後、一之瀬はクラスメイトに報告義務があると言って、満面の笑みで屋上を去っていった。

 

…以前から思っていたがBクラスの生徒、この前の網倉といい社畜適性高すぎない?組織的すぎて怖いんだけど。

勢い余ってラーメンに報連相トッピングするんじゃないの?二郎のコールもきっと手慣れているに違いない。

 

高校は社会の縮図なんて言葉を体現しすぎているBクラスにドン引いていると、ひよりにくいっとをシャツの裾を引かれた。

 

…うん。やっぱり可愛い。これが俺の嫁とか幸せすぎる(気が早い)

 

「……清隆君」

「どうした?」

「…我慢できる気がしないと言っていた清隆君の気持ちが今なら分かります。私、今夜なら……」

 

赤面してもじもじと恥ずかしげに放たれた誘い文句に骨抜きにされない男がこの世にいるだろうか?…いる訳がない。

 

俺は脆い硝子細工を大切に包み込むように、優しくひよりを抱きしめて耳元で囁いた。

 

「甘いな、ひより。俺は今のひよりを見て、真昼間の今でさえ我慢できないと確信したよ」

 

この後滅茶苦茶…………した。

 

 

◆

 

 

柔らかく、そして濡れている(ソフト&ウエット)

 

※ 『ジョジョの奇妙な冒険』第8部より抜粋

 

 

◆

 

 

ひよりとの幸せな時間をターン制バトルに例えるなら。

 

それは特性てんねんのひよりに対して流星群を打ち続けて何とか削り切ったような試合展開だった。

 

ひよりの体力と俺の精魂が尽き果てた頃にはすっかり夜になっていて、今は校内で三つのビッグニュースが激震を走らせているらしい。

 

一つ目は言うまでもなく、俺と一之瀬が恋人になったこと。

 

そして二つ目は橘先輩が任期を全うすることなく、生徒会の席を退いたこと。

 

そして三つ目は高円寺が一日30分しか寝ない超ショートスリーパーを名乗り始めたことだ。当人曰く、睡眠は身体に毒だという。

 

「清隆君。さしもの私もピロートーク中に他の女の子の話をされると思うところがありますよ」

「…うぐっ。…悪い。こういうのは初めてで何を話していいか分からなかったんだ」

「ふふっ。答えによっては出るとこに出ようかと検討してましたが、その初々しい反応が可愛いかったので許してあげますっ」

 

出るとこ出るって何?おっぱいの話?

それなら、もうこれ以上出るも何もないと思うんだけど?

 

「清隆君…。そんなに見ないでください。私だって初めてで恥ずかしいんですから」

「…………俺の嫁が可愛すぎる件について」

「気が早いですね。清隆君。婚約段階なのに、もう私を嫁扱いですか?」

「愛妻家のケがあるのかもな。俺は」

「私がいながら、堂々と側室を持とうとしている人が言うには説得力と節操が欠けすぎてますね〜」

 

……これが、正妻の余裕だろうか。

鉄拳制裁されても文句を言えない俺をこんなにも優しく包み込んでくれるなんて、優しいにも程がある。

 

この先、彼女以上に本気になれる女の子が現れるとは、到底思えなかった。

 

「節操はともかく、説得力を持たせることは出来るかな」

「……ダメです。清隆君。えっちな目してます。えっちなことは一日1時間までです」

「……香川県の条例みたいな事言うなよ。…そんな分からず屋のひよりにはお仕置きしないといけないなぁ?」

「あの手この手を使ってまで……、そんなに私と……したい……ですか?なんだか、セクハラ親父みたいになってますよ」

 

したいに決まってるだろ!!そう心が叫びたがっていたが声には出さない。

 

不必要な言葉を削ぎ落として、表情だけで伝える。甘い言葉を囁くだけが雰囲気作りじゃない。

 

童貞の諸君はメモを取っておくように。ははっ。

 

俺はゆっくりとひよりへの距離を詰めていくと、やがてひよりは諦めたように目を瞑った。

 

俺はひよりに今日、何度目か分からないキスをした。

 

「ひより、本当に無理ならキスだけで我慢する」

「…清隆君はずるいですよ。もう止まる気がない癖に優しくしてくるんですから…」

「いつもは主導権を握られっぱなしだからな。男としてここだけは譲ってはいけない気がするんだ」

「……捨ててください。…そんなプライド。私の体が持ちません……」

「持つかどうかは試してみないと分からないな。限界を超えろ。プルスウルトラだ」

 

この後、滅茶苦茶プルスウルトラした。

 

……ヒーロー育成学校の決め台詞をこれ以上に冒涜的に使ったのは後にも先にも俺だけだと思う。

 

 

 

 





感想、ここ好きありがとう。

この作品で、ひよりを超えるヒロインは多分出てこない。
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