短め(?)です
「ふぅん。リズム感覚が無いわけじゃないんだ」
1pの松下と2pの俺。二人揃ってノーミスのクリア。
太鼓に絵描き歌で描いたような適当な目と口を貼り付けた化け物がもう一回遊べるドンとか言っていた。
さっきのツイスターゲームみたいな恥じらったら負けの音ゲーとは違い、これは打楽器の演奏シミュレーションのようなものだった。
音楽を教養としてしか学んできていない俺でもなんとか松下に喰らい付いている。いや、コンボ数は同じだが僅差ではあるがスコアでは勝っていた。
「さっきはあまりにも酷かったからてっきり音痴なのかと思ったよ」
「失礼だな。俺はカラオケに行けば、音程バーだけは正確に当てれるタイプだ」
「音程と安定感に優れた歌唱です。ですが、起伏の少ない人生を忠実に再現できているような抑揚でした。もう少し人生経験を積み、人の気持ちと歌詞への理解度をあげましょう」
「松下サウンド、辛口採点すぎだろ……」
無駄に的確な分析に引き気味に言うと、松下はふっと肩の力を抜いたように笑った。
「まあ、今のはちょっと簡単すぎたよね。次は難易度上げよっか」
松下はバチで曲芸を披露するかのようにくるりと回して、太鼓のフチをカカカッと高速で叩く。
すると、何という事でしょう。匠の技術によって、画面側方から、鬼ステージが急に生えてきたかのように出現したではありませんか。
「えぇ…、なにその裏コマンド。松下、絶対初心者じゃないだろ」
「私、音ゲーは経験の差が出にくいって言っただけで、初心者なんて言った覚えないけど?うーんと、じゃあ曲は幽玄ノ乱の裏譜面でいいよね」
曲を知らないのはもう当然として、裏譜面って何だよ…?ロック・リーの新しい必殺技?八門遁甲開いちゃったの?
「うん、もう何でもいいよ…」
松下が楽しそうなら。
「じゃあ、いざ尋常にスタートっ!」
彼女のそんな呑気な掛け声とは裏腹に、慌ただしい楽曲がスタートする。ゲシュタルト崩壊しそうなほど速く譜面が流れ、音符の幅もさっきとは比べ物にならない。
…なにこいつら、くっつきすぎだろ。ニ連符なんて言葉で片付けられるレベルじゃない。
パーソナルスペースって言葉を知らないオタクに優しいギャル、もしくはツーショット取る時に自分だけ小顔になろうとして一歩後ろ下がる計算高いギャルかのどっちかだ。…俺、ギャル好きすぎだろ。
俺は自分の中で新しいフェチを開拓されていくのを感じながらも、憎たらしい顔面を次々に処理していく。…だが、すぐに限界が訪れる。
一つのミスが命取りになり、そこから先はグダグダだった。
…これ、誰がクリアできんの?と、松下の方をチラリと見るとフルコンボとはいかずとも、余裕のノルマ達成だった。
「へへっ、私の勝ちだね」
額の汗を軽く拭い、白い歯を見せて屈託なく笑う松下。
…こいつ、さっきの辛辣すぎる精密採点DXばりのコメントと言い、やけに風当たりが強いなと思っていたが、得意なゲームで俺にスコアで負けたのが悔しかっただけなんじゃないか……?
…まあいい。この敗北はその毒舌を加味したとてお釣りが来る。
勝ちに執着して生きてきた俺が敗北も悪くないと、そんな風に考えてしまうくらい松下の笑顔は可愛いかった。
「まだ戦いは始まったばかりだ。次だ次」
俺は彼女に張り合うように負けん気を張り、目につくゲームを手当たり次第に遊んでいく。
音ゲーではこてんぱんに打ちのめされたが、レーシングゲームやアクションパズルゲームでは五分五分の勝負に持ち込み、エアホッケーやモグラ叩きのような運動神経が大きく左右するゲームでは着実に勝ち星を積み上げた。
そうして格ゲーやクレーンゲームを除いたほぼ全てのゲームを堪能した頃には、気付けば夕方に差し掛かる時間帯になっていた。
夢中になって忘れていた疲労を感じ始めた俺達は、休憩も兼ねて自販機の横にあるベンチに並んで座る。
松下はスポーツドリンクを一気に呷った後、んーっと猫のような伸びをして快活に笑う。
「あ〜たのしい。こんなに笑ったのは久しぶりかも」
「俺もだ。格ゲー以外はやったことがなかったからどれも新鮮だった」
まあ、その格ゲーに関してもずっと頭の中に知識だけがあって、それを形にしたのは豪華客船で佐藤をボコボコにした時だった。初心者に初心者狩りされるなんて、やはり佐藤は弱すぎる。
「あれ?今、どっちが勝ってるんだっけ?」
「……分からない。途中から勝敗を数えるの忘れてた」
「だよね。私も」
競い合っていたはずなのに目的を見失っていたことが何だか馬鹿らしくて、俺達は見つめ合って、噛み締めるように笑った。
勝ち負けを超えた価値のある時間だったと、心からそう思う。
「…ねぇ、綾小路君」
「何だ?」
「一之瀬さん的に、あれはダメ?」
松下の指の先を視線で追うと、きらりんレボリューションさながら不自然なほどに瞳がデカいモデルと目が合う。
最初から選択肢に入れてなかったが、確かにプリクラもまだプレイしていない筐体の一つだった。
「撮りたいのか?」
「うん。思い出に丁度いいかなって。…ダメ?」
機嫌を伺うかのような松下の目に俺は快く頷きを返した。
彼女が俺と同じように共に過ごした時間に価値を感じ、それを形に残したいと思ってくれているのは光栄な事だから。
「そうだな。俺も撮りたい。卒業アルバムの素材は多いに越したことがないからな」
「卒業アルバムにプリは貼らないと思うけど…」
「なら、一緒にその常識を覆えそう。流行の先取りだ」
IT革命で日々テクノロジーの進化を感じるこの時代に逆行して、写るんですとかシール帳作りとかが流行り出すのはそこに独自性を見出してるから。
プリクラもきっとその類だ。いつか、化石を掘り起こすようにそれがスタンダードになる時代がやってくるに違いない。
「…でも、ほんとにいいの?後日、釘バットを担いだ一之瀬さんに校舎裏に呼び出されたりしない?」
「松下の中で一之瀬がそんなスケバンみたいなイメージだったのがびっくりだよ」
「…一応、真面目に話してるんだけど?私、昼ドラみたいなドロドロな展開に巻き込まれるのは勘弁だから」
「杞憂だよ。一之瀬はそんな狭量じゃない。それに異性のクラスメイトと写真の一枚も撮れないとなると、俺の卒アルの最後のページが高円寺との男臭いツーショットで埋まってしまうだろ。それだけは嫌だ。絶対に」
悲壮感漂わせながらそう溢すと、松下は呆気に取られたように目を丸くした後、口元を隠して上品に笑う。
こういう仕草が絵になるのは育ちの良さからだろうか。
多分、将来は着実に資産形成するタイプ。彼女と結婚すれば老後の心配は要らなそうだ。
「あはは。確かにそれだとBL雑誌の一面を飾りそうな出来映えになりそう。そして多分、綾小路君が受け」
「…思いもよらぬ方向に話が進んだし、想像が具体的すぎて嫌なんだけど…。まさか、松下、腐ってるのか?」
「教室の隅でぐ腐腐とか言って涎垂らしてるように見える?私」
見えない。けれど、育ちのいい人間ほど抑えられていた反動でそういうものにハマるというのはお約束の展開だ。
そう考えた俺が疑惑の目を向け続けていると松下は首を傾げて不満を露わにする。
「心外だなぁ。人並みだと思うよ。周りの友達にそういう類の人は少なからずいるし知識があるだけ。ほら、男の子が格ゲーとモンハンに詳しいのとおんなじだよ」
「なるほど。それなら納得だ」
「なんだ、やっぱり受けだったんじゃない」
「…そっちは納得してないし、グロすぎて想像もしたくないよ」
これ以上、夢見が悪くなりそうな話はごめん被りたかったので、俺はベンチから立ち上がり、会話の主導権を握って愉悦に浸っていた彼女に手を伸ばす。
「まあ、そういう事だから助けると思って一緒にプリクラ撮られてくれ」
「あは、変な誘い文句。でも、可哀想で仕方ないから、私が卒業アルバムの素材になってあげよっかな〜」
松下はにひひと笑って、俺の手を引っ張るようにして体を起こす。
何となくそんな彼女の手を離す気になれず、俺は先導するフリをしてそのままプリクラの筐体の中に彼女を連れ込むように入った。
この後のプリクラがスキャンダルの写真にならないことを願うばかりである。
◆
「今日はありがとう。おかげでいろいろ助かった」
プリクラを撮り、レストランで夕食を共にし、その後はショッピングまで付き合ってもらい、今はその帰り道。
街頭に照らされ同じ幅で進む影を見て、これではまさに一日署長ならぬ一日彼女だな、なんて思う。
もしも、これが大手事務所のレンタル彼女なら福沢諭吉が何枚必要だったか分からないくらいの仕事量だ。
だが、俺達は恋人ではなく友達だ。
恋人は車と同じで維持費がかかるが、友情は無償の愛。持つべきはやはり頼れる友達である。
「気にしないで。私も楽しかったし。また誘ってね」
「なら、次はカラオケにでも行こう。某番組のサビを一音も外さずに歌い切る系の企画への出演依頼が来てもおかしくない歌唱力を披露しよう」
「お手本のようなビブラートです。ですが、震えているのは声帯だけで、感情が籠っていなければリスナーの心は震えません」
「…俺はアーティストを目指している訳じゃないから点数が高ければそれでいいんだよ。自己満足でいいんだよ」
多分俺は一生、歌詞に感情を乗せることなどできない。
jpopは青臭すぎて共感できないし、洋楽はエロすぎて共感できない。ほんと、なんで洋楽って翻訳したらエグいTシャツの横文字みたいなlyricしかないんだろうな。
「まあ、分析は冗談としても久しぶりにカラオケは行きたいかな。デュエットしようよ。青春アミーゴ。私、アミーゴやるから」
「振り分けが斬新過ぎる。普通は修二と彰で分けるんじゃないのか?」
「え〜、いいと思ったのにな〜。文字通り青春真っ只中の綾小路君にはぴったりなパートじゃん」
俺にはピッタリかもしれないが、アミーゴという頭悪そうな単語が松下とミスマッチすぎるだろう…。アミーゴって男性の友人を指す言葉だし。
揶揄うような態度のまま、松下は俺の手に持つ紙袋に視線を移す。興味津々といった目には好奇心が宿っていた。
「一之瀬さんに贈るんでしょ?お熱いね」
「いや、これはむしろ絶賛冷戦中の友達に機嫌を直してもらうための和議金みたいなもんだ」
「…え、大切な女性に対して贈るプレゼントにしか見えないそれが……?」
「まあ、相手は女性だし、一刻でも早く仲直りしたいと思える大切な存在だからな」
「……そういう意味で訊いたんじゃないんだけどなぁ」
ぼそりとぼやくように言い、松下は俺を案ずるかのような複雑な表情を浮かべる。
聡明な彼女のことだ。いくら言葉を濁しても相手を俺の交友関係から割り出すのは造作もないことだろう。
「綾小路君。一之瀬さんの気持ちをちゃんと考えてあげてる?」
「どうだろうな。付き合って二日で恋人としての実感が湧いていない今は思慮が十分に及んでいない可能性もある。…だけど、ちゃんと考えてるよ」
俺の恋愛感情はまだ生まれたての子鹿みたいなものだ。
きっとこれは、母親と他の区別もつかないような危うい感情で、考える事をやめた途端に破綻する。
人間は考える葦であるとは、まさしく金言だ。
畢竟、人間離れした俺とて、その摂理から逃れることはできない。
「もしも一之瀬に何か贈るなら、サプライズではなく一之瀬と一緒に吟味して選ぶよ。その方が彼女も喜ぶだろうし、何より俺がそうしたいから」
「……なんだか、綾小路君がモテる理由ちょっと分かったかも」
不覚にもときめいてしまった乙女みたいな反応をしている彼女に俺は砕けた口調でおどけて言う。
「お褒めにあずかり光栄至極。松下も好きになってくれていいんだぞ?」
「今後とも″友人″として、末永くお付き合いいただければ幸甚に存じます」
硬い口調で一線を引いた松下が相好を崩して、歩調を早めて歩き出す。俺はそれを追わずに離れていく距離を受け入れた。
彼女の背中を見ながら、さっき誓いのように引いた一線は、誰の為に、何の為に、引いたのだろうなんて、解のない事を考えてしまいそうだった。
街頭二つ分ほど離れたところで、彼女はおもむろに振り返って、胸の前で小さく手を振った。
「またね。綾小路君。今日は本当に楽しかった」
「俺もだよ」
俺が淡白な答えを返すと、彼女は嬉しそうに微笑んで再び歩き出す。
そんな彼女の頬が赤みを帯びていたのは、オレンジ色の街灯が照らしていたからではないと思う。
◆
堰を切ったように激しく飛び出したそれが、目を瞑った彼女の顔中に降り注ぎ、きめ細やかな白い肌に刻みつけるように付着する。
不快感すら伴いそうな独特な臭いの中、それでも彼女は花が咲いたような笑顔で笑った。
「綾小路君。私、嬉しいです。こんな日が来るなんて思っていませんでした」
「みーちゃんが嬉しそうで何よりだよ。景気付けにもう1発いっとくか?」
「はいっ!お願いしますっ」
みーちゃんが身体を縮こませ、目をぎゅっと閉じたのを見て俺は—
クラッカーの紐をもう一度、勢いよく引っ張った。
うん…。この焦げ臭い火薬の匂いが部屋に染み付く前に消臭しないとなぁ…。
「ケーキもあるんだよ。みーちゃんっ」
「今日だけはチートデーだね。いっぱい食べよ〜」
「愛里さんに長谷部さんもありがとうございます」
ケーキを宝石箱のように大切に抱える佐倉と意気揚々とお菓子が詰まった袋を掲げた長谷部。
俺がみーちゃんの誕生日を祝う為に二人を人選したのは、別に巨乳に挟まれておたおたあわあわしているみーちゃんを見たかったからではない。(見たい)
昨日今日で松下に声をかけるのを躊躇われた俺が誘える相手は彼女達二人くらいしかいなかったのである。
放っておくとすぐ手伝い始めそうなみーちゃんを無理矢理に座らせて、俺達は準備を進めていく。
佐倉や長谷部はテーブルのセットアップ。俺はケーキの上に歳の数だけ蝋燭を立てる大役を承った。
いち、にー、さん、しー、……あれ七本くらい立てればいいんだっけ?と年齢より幼く見えるみーちゃんの童顔をじっと見つめると、嬉しそうに目を細めて微笑みかけてきた。…うん、多分10本くらいだな。
「改めて、みーちゃん。誕生日おめでとう」
俺の掛け声で佐倉と長谷部がぱちぱちと拍手し、みーちゃんがただでさえついてるか分からないほど小さい口を窄ませて、蝋燭の火を消していく。
苦戦しながらもふーっふーっと吹き消していく姿は一生懸命で可愛い。うん、10本にしておいてよかったな。彼女にとっては思ったよりも重労働らしい。
その後は乾杯して、わいわいと雑談に興じた。
長谷部と佐倉は面識があまりなかったので心配していたが、思ったよりもすぐに打ち解けている。
もしかしたら、柔らかくて大きい何かしらの共通点を見つけて、仲間意識が芽生えたのかもしれない。
「みーちゃん。実はプレゼントもあるんだ」
会話が途切れたタイミングを見計らって俺は、ベットの隅に隠していた箱を取り出して、みーちゃんに手渡す。
「開けていい?」
「ああ」
プレゼントを開ける前のこのお決まりのやり取りを不毛だとは思わない。
何とは言わないが、男が女の子に「入れていい?」って訊くのと同じなのである。コンセンサス、マジ大事。
佐倉と長谷部も箱の中身が気になるのか、みーちゃんの側に寄っていく。そして、
「「「かわいいー!なにこれっ!?」」」
箱が開かれ、目が見開かれ、綺麗にハモった。
俺はというと妄想通りにみーちゃんが巨乳二人に挟まれたのを見て、おたおたあわあわしそうになっていた。
「羊毛フェルトで自作した二頭身の人形だ。よく出来ているだろう?」
何とか理性を保ち、俺は自慢するように胸を張って答える。
こくこくと頷いて、箱から二つの人形を取り出したみーちゃんに俺は解説を続ける。
「モデルはみーちゃんと俺だ。自分の人形を作るのは恥ずかしかったが、それが一番喜んでもらえると思って結局そうした」
「…うん、…すごく嬉しい。ありがとう。大切にするね」
「そうしてくれると冥利に尽きるよ。実は、初めてのことで結構苦労したんだ。手が絆創膏だらけになるほど不器用でもないから分かりづらいけどな」
日焼けを知らない真っ白な手を振って茶化すと、みーちゃんは人形を大事そうに抱きしめてもう一度ありがとうとお礼を言った。
「なんか、きよぽん、女子力高くない?私、自信無くしそうなんだけど」
「わたしも……」
女子力なんてキラキラした言葉の実態はただの生活力だ。
身嗜みを整えることや家事をすることが嫌いじゃない俺が、彼女達にそう評価されるのも自然な事な気がする。
…これは偏見だが、髪が長い佐倉や長谷部は面倒がって入浴をキャンセルする団体に属していそうだ。軽井沢とかもその筆頭だったし。
「そうですね。私も綾小路君は素敵な旦那さんになりそうだなって思います」
「わたしも!」
毒にも薬にもフォローにもなっていない、ただ俺を過剰に褒めるという一点のみで乗ってきたみーちゃんとわたしもBOTになっている佐倉にまとめて苦笑いを返す。
俺が実際に結婚したとしても、世間で誉めそやされているような理想の旦那像からは程遠い姿になるのは目に見えている。
「結婚よりもまずは恋人を作るところからじゃないか?」
「うわ、彼女持ちの余裕だ〜。早く別れろ〜。気まずくなれ〜」
「長谷部さん。それは流石に一之瀬さんが聞いたら悲しみますよ」
「マウント取ってきたきよぽんの自業自得ですよーだ」
「みーちゃん俺は気にしてないし、一之瀬と気まずくなる事はないから安心してくれ。もし万が一別れても、友達に戻るタイプだよ、俺達は」
「うわ、不健全だ。いざ別れて数ヶ月経った後、寂しい夜に『最近どう?』って連絡する奴だ」
長谷部の軽口を受け流すと、妙にリアリティのある例えで返してくる。
今の俺達が世間から見て、不健全な関係である事は否定できなくて言葉を失っていると同じように言葉を失っている佐倉に気が付いた。
「……綾小路君。彼女、出来たの……?」
「ああ。まだ付き合って三日目で恋人らしい事は何一つしてないけどな」
「なんだ。じゃあ、まだフリーではあるんだ」
「いや、フリーではないな。彼女がいるから」
二人も。とはただでさえ青天の霹靂だった事実に混乱している佐倉には口が裂けても言えそうになかった。
「だけど別に俺に彼女が出来たからって今までと何も変わらない。今まで通り接してくれればいい。佐倉を無下にすることなんてしないから」
「……ぇ、いいの?」
「いいも悪いもない。俺がそれを望んでいるんだ」
一之瀬に引け目を感じて、佐倉が身を引いて、今の関係が崩れるくらいなら、俺は一之瀬との交際関係を破棄する事も厭わない。
それほど、今の俺に佐倉は必要な存在だし、逆も然りだ。
「…分かった。綾小路君がそう言うならそうする」
「ありがとう。分かってくれて嬉しいよ」
俺は相好を崩して笑みを作り、佐倉の頭を優しく撫でた。
気持ちよさそうに頬を緩める彼女を見て和んでいたみーちゃんとは打って変わって、鋭く突き刺してくるはるぽんの視線が痛かったのを覚えている。
感想、ここ好きありがとう。
付き合っているのに、一之瀬が空気すぎる。