綾小路は恋がしたい   作:Кудрявка

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#9 少年よ大志を抱け

 

 

 

櫛田桔梗。老若男女問わず絶大な人気を誇るDクラスのアイドル的存在だ。

そして、その比喩は身内贔屓でも誇張表現でもない。

彼女がアイドルを自称している訳じゃなく、周りが持て囃している結果だからだ。

 

しかし、アイドルというものはファンビジネスの極致でもある。

満点の笑顔と人当たりの良い愛想を振り撒いて、相手のニーズに合わせて立ち振る事が求められる。

可愛い女子高生という肩書きだけでは決してアイドルにはなれないのだ。

 

櫛田をアイドルたらしめる所以は、優れた容姿ではなく徹底された行住坐臥にある。

だが結局は、そうやって精緻に造り上げられた人格も上辺の部分でしかなかった。

 

剥き出しの感情を目の当たりにして、俺は櫛田桔梗の素を見た。

無限に湧き出る欲望にどこまでも忠実な野生児。

他人の為に尽くしていた彼女の行動原理は常に自分。

 

究極の利己主義だ。

 

 

 

 

「入って」

 

俺は迫られた選択を先延ばしすべく場所の変更を提案すると、それは櫛田の部屋に招かれるという形に落ち着いた。

無論、これは彼女の意向だ。俺に彼女の部屋を打診できるほどの度胸があるはずもない。

 

「綺麗にしてるんだな」

「そういうお世辞いらないから。マジで」

 

お約束のようなド定番の台詞はすぐに糾弾された。

ここに来る道中貼り付けられていた笑顔は既に剥がれ落ちていた。

だが、先程までのような有無を言わさない雰囲気ではなくなっていた。

時間が彼女に少しの冷静を与えたのだ。俺の言葉に聞く耳を持ってくれているだけでだいぶ進歩だ。

 

「どこに座ればいい?」

「そんなこと一々聞く必要ある?もし、私が便器を指定すればそこに座るの?え、無理。気持ち悪い」

「それは極論すぎるだろ」

 

今のが愚問だったという自覚はあった。

だが、言い訳をさせて欲しい。今のは女の子の部屋という完全アウェイの場所に初めて訪れて緊張していた訳じゃないと。

 

何せ、彼女の部屋は本人がそれをお世辞だと認めるくらいには乱雑だったからだ。

しかし、乱雑と一口で言っても床に下着が脱ぎ捨てられていたり、シンクに汚れた食器が積み重なっている訳じゃない。

 

手狭なワンルームに釣り合わないインテリアの数が圧迫感を生んでいるのだ。

 

「はぁ…、ベットの上以外ならどこでもいいから。ジロジロ見ないでくれる?気持ち悪い」

「…随分と開き直ったな」

「当たり前でしょ。今更気を遣う意味ある?それとも『綾小路君。キョロキョロしてどうしたの?もしかして、体調悪い?』なんて遠回しに言って欲しかった訳?気持ち悪い」

「勘違いするな。切り替えの速さに感心してただけだ」

 

風邪を引きそうな二面性を目の前で披露されても、斬新な語尾が心をチクチクと抉ってきても、俺は平然を貫けた。

もはや彼女に強烈な素に対して慣れ始めていたからだ。むしろ、納得感すらあった。

彼女の日々の果てしない努力がパフォーマンスであったとするなら、これくらいの反動は然るべきだろう。

 

「低く見積もっても10万ptは余裕で超えてるな。どうしたんだ、これ」

 

俺は高級感のあるローテーブル近くにあったふかふかのクッションに腰を下ろしながら問う。

本題に入る前のアイスブレイクの意味もあったが、単純に気になったというのが大きい。

 

「モテるってのも大変だよね。インテリア見て可愛いって言ってたらいつの間にか増えてるんだもん。あんなの、ペットショップで愛玩動物を可愛いって言ってるのと同じなの分かんないかな?あ、綾小路には分からない悩みだよね。…てか、余計な詮索しないでくれる?」

 

饒舌にマウントを取り始めたと思えば、ふと思い出したように釘を刺してきた。表裏だけでなく、感情の起伏も激しい。

それに、今のが事実であるとするなら被害者には同情の余地がある。

彼女の意図を汲むのは難問奇問が多いマイクロソフトの入社試験くらい難しいからだ。誤答率99%は伊達じゃない。

 

櫛田はベットに座り込んで、俺を流し目で見下ろしてくる。

どうやら、会話のボールはいつの間にか俺のところに来ていたらしい。

 

「つまらない話をして悪かったな。なら、早速本題に入るがいいか?」

「だから、その確認がいらないんだって分からないかな?ていうか、自分がつまらない人間だって自覚があるのに、それを改善しようとしないのは根が腐ってるからなのかな?…あ、そっか。だから渾名が根暗なのか」

「…今はまだ努力の方向性を見定めてる最中なんだよ」

「そういうところだよ。私がつまらないって言ってるのは。努力しない自分をこじつけて肯定してるだけじゃん」

 

俺は剽軽者でもないし、芸達者でもない。面白くないという自負がある。

だから、面白くない事やそれに対して何もアクションを取れていないと刺されるのは構わない。

しかし、渾名が根暗は酷いだろう…。発案者誰だよ。出てこんかい。

 

「待ってくれ。話が日本史Bの教科書くらい脱線し始めてるぞ」

 

俺がダメージを受けて思考が止まっていた間も高説を説いていた櫛田に割り込むと、あからさまに不快そうな表情が返ってきた。

今にも「は?」って言いそうな顔だ。整った顔も台無しだ。

 

「は?」

「いや、あれって時系列もごちゃ混ぜで余計な描写も多い―」

「は?」

「…すいません」

 

なんだ、これ?新手のボードゲームか?

というツッコミは流石に飲み込んでおいた。火に油を注ぐ行為に等しいと判断したからだ。

幼少期に履修したから失念していたが、日本史Bって高等教育から廃止されたんだっけ。どおりで伝わらないはずだ。

 

「はぁ、もういい。話になんない。帰って」

「俺としては助かるがそれでいいのか?」

「冷静に考えて綾小路君が私の事を吹聴したとしても誰も信じないし。陰キャが囀ってるって言われて終わり」

 

流石はアイドル櫛田。陰キャを小鳥に見たてるとは些か優しい。

『口端に泡立てて、磯臭い匂いしてるから蟹ね』堀北ならこれくらいは言ってのけるだろう。

 

「でも―」

 

「もし、誰かに喋るって言うなら今から大声あげて社会的に殺す」

 

わざわざ自分の部屋をチョイスした理由はそれか。

彼女の決意の籠った目を見て事実無根だと反論する事をやめた。

 

卓越した発信力とは嘘を真実に変えてしまう力を持つからだ。

 

「恐喝されなくとも誰にも話すつもりはない」

「口だけなら何とも言えるよね」

「要求が見えてこないな。口約束以外に何を求める?」

「…立って、手を出して」

 

考える素振りも一瞬だった。いや、櫛田には最初から策があった。それに二の足を踏んでいただけ。

そして、俺はその一瞬の躊躇いを見逃す事にした。

 

差し出した手は掴まれた瞬間に引き寄せられて、そのまま俺の体制は崩れてベットへと着地する。

まるで俺が無理矢理櫛田を押し倒したような絵が完成した。

二人分の体重を乗せたベットは沈み込み、彼女のスカートがひらりと舞う。

 

その状況下で、俺の心臓がぴくりとも動いていない事を自覚していると背後でパシャリと音がした。

櫛田の精一杯に伸ばした手には内カメラを起動させたスマートフォンが握られていた。

 

「や、やった。…これで迂闊な真似出来ないって分かるよね?」

 

労力を費やした結果、俺が今にも襲いかかっているような写真を入手した櫛田は喜びの声をあげた。

教室にいる優しい彼女と対面している刺々しい彼女。その両方にも該当しない油断の表情だった。

本当の彼女は一体どの彼女なんだろうか。

 

「それが信用の担保になるなら、追加で撮ってもらっても構わない」

「…証拠は多い方がいいか。ならもっと寄ってくれる?」

 

騙し討ちみたいな事をした手前、俺の協力的な姿を見て櫛田は半信半疑の様子だ。

しかし、自分の中で結論はすぐに出たらしい。

俺は櫛田の指示に寸分違わず従って、追加で何枚もの写真を撮った。

 

彼女の制服に俺が手をかけようとしている構図や腰に手を回して引き寄せている構図。果てには櫛田にキスを迫っているような写真まで。

 

事が終わると俺は自然と櫛田の隣でベットに腰をかけていた。赦しは得ていないが彼女は今はそれどころではないらしい。

必死な顔つきで証拠写真で充実したフォルダーの厳選作業に勤しんでいる。マスメディアばりのトリミング技術だ。

 

「…随分と協力的だったけどどういうつもりなの?」

「ベットの上に櫛田と二人きり。この状況で余裕ぶって格好をつけない男子はいるならむしろ会ってみたいものだな」

「…は?そんな理由?」

 

俺の振る舞いが紳士的なものであった事は自認しているが、世の男子なら据え膳食わぬはの精神で襲いかかって返り討ちにあうのが御の字だろう。

こんなものが本心であるはずがない。だが俺は肯定の意を込めて首を縦に振った。

 

「馬鹿じゃないの?気持ち悪い」

「男は総じて馬鹿だ。櫛田の方がよく知ってるんじゃないか?」

「まあね…」

 

自慢じゃないが俺はクラスの男子グループに馴染めていない。トイレに誘ってくる友人も、授業中におしゃべりする相手もいないのだ。

…あれ?いない方が良くね。

 

一方、櫛田はクラスの男子ほぼ全員から好意を抱かれているマドンナだ。

男子でお手玉しているような彼女の方が男子としての属性への解像度は高いはずだ。

 

「…でも、だからこそ確信してる事がある。綾小路君は馬鹿じゃないよね?」

「程度の問題だと思うぞ。クラスの連中が振り切れてるだけだ」

「まあ、それはそうかもだけど…」

 

腑に落ちていない。しかし、核心に迫った答えを当て嵌めることもできない。

もやもやとした感情に唸る彼女に俺は一つ打ち明ける事を決めた。

 

「打算がない訳じゃない。俺は櫛田との関係を悪くしたくないと思ってるからな。そのためなら少し身を切るくらいは安いものだ。何せ、俺は友達が少ないんだ」

「…散々酷いことされてよくそんなこと言えるね」

「酷い事?いつされたんだ?」

「もしかして、不感症?それとも生粋のM?」

「断じて違う。前に言っただろ。堀北のせいで罵声や理不尽には慣れて耐性がついてるんだ」

 

これが漫画であったならこめかみに怒りマークが浮かび上がったかもしれない。

俺が堀北の名前を出した途端に空気が変わるのを肌で感じた。

 

「ふ〜ん、私は堀北さん以下ってこと?」

「その分野で堀北に敵う相手は俺はまだしらないな」

 

戦闘民族の血が受け継がれたサイヤ人みたいなもんだ。堀北の血筋は。

それに、俺は確信を得たくてわざわざ煽るような真似をしたが、横柄な態度や罵詈雑言のバラエティが評価される世界線なんて存在しないだろう。本来なら、競う意味がない。

 

しかし、彼女は他人との比較を恐れているのか本質が見えていない。

 

「…ムカつく」

「人間には得意不得意があるもんだぞ。100m走と200m走で世界記録を樹立したウサインボルトも400mでは結果が出せなかったんだ」

 

俺は櫛田の感情を刺激するためにわざと論理的に丸め込もうとした。

だが、彼女は話を遮る事もなく静かに耳を傾けて一定の理解を示している。目が据わっているのは気になるが…。

 

「俺は櫛田の方が堀北より魅力的だと思っている。櫛田の他人から好かれる才能は真似出来るものじゃない。唯一無二だ」

「…よく動く口だね。本当にそう思ってる?」

「濁りなき本心だ。だから―」

 

「俺にモテる方法を指導してくれないか」

 

我ながら内村航平顔負けの完璧な着地だ。

呆気に取られている彼女を見ても、マイクタイソンに匹敵するほどの右フックがクリティカルヒットしたに違いない。

俺は深く頭を下げて頼み込む。決して、自分の不手際が恥ずかしくて彼女の顔を直視する事が出来なくなった訳じゃない。

 

「……」

 

「その不細工な顔あげて」

 

長いように思えた沈黙。だがそれはたったの数秒だっかもしれない。

俺は真剣な表情を作って顔を上げた。

 

「うーん。素材はいいんだけど料理と経営の腕が三流。今にも潰れかけの田舎の大衆居酒屋って感じだね」

「…食べログで星1つけてそうなレビューだな」

「原作はいいんだけど制作会社が稚拙な仕事をしたせい大ゴケしたアニメみたいな感じの方が良かった?」

 

これまた、評論家気取りの厄介オタクみたいな意見だった。

 

「なら、顔も良くて清潔感もあるのに、まるで世界が自分中心に回ってると勘違いしてる激イタ厨二病の堀北さんみたい―」

「もう大丈夫だ。お腹いっぱいだ。…とりあえず、引き受けてくれるって事でいいのか?」

「…勘違いしないで。これは私の保身でもある。あえてギブアンドテイクの関係を結ぶ事で簡単に裏切りにくくするために。だけど、その前に一つ不満を解消してもいいかな?」

 

彼女の瞳から彩りが失われていく。再び据わった目を見て、俺は鏡の中に映った自分を思い出した。

 

漆黒に染まった瞳は夜の窓ガラス。

そこに映る真実は相手ではなく自分だ。

 

「綾小路君は私の才能を認めてくれたけど、堀北さんより魅力的って部分は真っ赤な嘘だよね」

「どうしてそう思うんだ?」

「分かるよ。私の他人から好かれる才能の『他人』に、綾小路君は含まれていないことくらい」

 

人から好かれる機会に恵まれた彼女は他人からの好意に敏感だ。

『櫛田との関係を悪くしたくない』は弥縫策でしかないと見透かされたのだ。

 

「図星だね。言っておくけど私にとってそれほど屈辱的な事はないから」

「言葉の綾だと言っても訊いてくれそうないな」

「その『綾』は『誤り』から来てるんだよ」

「自分の都合で語源を変えるなよ。それで、どうするんだ?俺の話を白紙に戻すか?」

「まさか、逆だよ」

 

俺の話をお門違いだというように鼻で笑った彼女は、驚きの二の句を告げた。

 

「綾小路君は裏の私を見ても私を好きになる余地のある特殊なケースだからね。このギブアンドテイクの関係を通じて堀北さんと比較できないくらい、私を好きにさせるって決めたから」

 

半分沈んだ夕陽が部屋に差し込む黄昏時。

 

人を好きになった事がない俺にとってそれは人生を変える宣言も同義だった。

 

 

 

 

今まで繰り返すような日常を送っていた俺にとって、昨日の出来事は俄かには信じがたい。

いつもより少し遅れて登校したのはきっと動揺が後を引いてるからだろう。おかげで遅刻5分前だ。

 

「15分前行動は常識よ」

「遅刻した訳じゃないんだからいいだろ」

「状況が飲み込めていないようね。貴方の行動一つでクラスポイントは減るのよ。もっと責任を持ってくれるかしら」

「へいへい。生憎、減るクラスポイントは無いけどな」

 

俺は欠伸を噛み殺しながら生返事する。

昨日は椎名との通話が長引いて寝不足なんだ。朝から説教は勘弁してくれ…。

 

「腹立たしいくらい危機感がないわね。貴方のせいで実害が出たらタダじゃおかないから」

「怖い怖い。なら今日も変わらず遅刻して来そうな須藤にも勿論容赦はしないんだろうな?」

「私が相手するのは人間に限るわ」

 

俺は人間認定らしい。昨日のイマジネーション堀北から蟹と揶揄されていたことを思えばギャップで惚れそうになる。ならないけど。

 

「そういえば平田君が中間テストに向けて勉強会を開くらしいわよ」

「そういえば昨日、赤点を取れば退学どうこう言ってたな」

「終始他人事だけど実力テスト50点の綾小路君も参加した方がいいんじゃないかしら?」

「プリントに裏があるなんて知らなかったんだ」

 

別に50点に拘りも執着も無いんだが、成績に反映しないと言われれば遊び心が擽られるものだ。

そして、それは功を奏したらしい。平田主導の勉強会は成績が良い生徒が教師役を任されるらしいしな。

勉強が出来るというのはいい事ばかりじゃない。

 

「まだ意図的に揃えたと言った方がマシよ。間抜けの権化じゃない」

「ドジっ子属性ってやつだ。てへぺろ」

 

これ以上追及されるのも面倒だった俺は強引に会話を終わらせる。

判断としては間違ってなかったんだろうが、俺の行動としては間違っていた。

 

ヒュッ―

 

そんな風切音を立てて俺の手にはコンパスが降ってきた。

間一髪で避けたが、机には風穴が出来ている。中々の威力だ。

 

「おいっ。危ないだろうが」

「あら、ごめんなさい。私ったらドジで手が滑ってしまって」

「それは暴力を振るう免罪符じゃねぇよ」

 

てか、普通に器物損壊だろう。クラスポイントが0ptでよかったな。全く。

コンパスを鞄の中に戻してどこかスッキリした様子の堀北はあっけらかんと話題を切り替える。

 

「それより、話があるわ。昼休みあけておいて」

「いや、昼休みは―」

 

チャイムと共に入ってきた茶柱先生を見て俺は私語を慎んだ。

そういえば、クラスの連中も私語をしていない。おそらく平田の影響か。たった1日でここまで改善させるとは中々の腕前だ。

 

いや、それよりも今は昼休みだ。

昼休みは櫛田による先約がある。まずは現状を把握するべく、俺が普段属しているコミニュティを調査する手筈になっている。

平たくいえば、いつものメンバーに櫛田を加えてお昼を共にするという事だ。

 

そこに堀北まで加わるとなると…。まずいな。大波乱の予感だ。

 

 

 

 

「他人の男女交際でよくそこまで盛り上がれるわね。著名人が結婚すれば血涙を流し、離婚や不倫をすれば独自の恋愛観を展開して騒ぎ立てる。低俗極まれりね。ゴシップを追いかける暇があるなら自分と向き合うべきね」

 

軽井沢と平田が付き合い始めた。

ビジュアルだけで見れば釣り合いが取れている二人だが意外な組み合わせだ。食事のお供の談笑にしてはもってこいだ。

 

堀北さえいなければの話だが。

 

「友達のプライベートって普通気になるものだと思うけど…」

「それは自分のプライベートに余裕のある人の特権よ。目下の中間テストにほんの僅かでも不安要素があるなら、こんな場所で油を売ってる暇はないわ」

 

その言葉は全体に話しているようで特定の人物にベクトルが向いていた。実力テスト赤点組の佐倉だ。

まるで歴戦個体とその咆哮に対峙した人間。怯むことしか出来ていない。

それに人間は人間でも佐倉はハンターではない。救難信号を出す事すらままならない一般人だ。

 

「私は定期テストの成績がクラスポイントの増加に繋がると考えてるわ。もし、赤点だけ回避しようなんて甘い考えを持っているなら改めて」

「…ご、ごめんなさい」

「謝って許される生温い人生を歩んできたのね。責任は謝罪ではなく結果で取るものよ」

 

あまりに一方的な会話だが、間を取り持つ事が億劫になるほど堀北の言葉には優位性があった。

櫛田もこれには半笑いを浮かべて静観している。いや、他の人間に出方を伺うために余計な口を挟まないようにしているのだろう。

堀北というイレギュラーが発生したとはいえ、一応調査の名目だしな。

 

櫛田にとってこの地獄みたいな空気を塗り替える事は造作もない事。

しかし、頼みの綱の櫛田が打開しないのであれば他の誰かがやるしかない。

堀北のロジハラを側で見ていたみーちゃんはもう耐えきれずに声をあげた。

 

「堀北さんの意見は分かりました。ここに顔を出したのは佐倉さんの学力を懸念しての事。この解釈は合ってますか?」

「部分的にはそうね」

「でしたらその件は私が請け負います。佐倉さんには私が責任を持って勉強を教えます」

「みーちゃん…」

「一緒に頑張ろ。私がついてるからっ」

 

みーちゃんは精神的に追い詰めるだけでは佐倉が成長できない事を知っている。

佐倉のような小心者タイプは寄り添って支えてくれる存在が必要不可欠だろう。

 

「そう。ならもう貴方達に言うことはないわ」

「…貴方達?」

「次は綾小路君よ。顔を貸してくれないかしら」

 

堀北のさっきのアキネーターみたいな回答は俺への要件が残っていたからだろう。というか、そっちが本題でここにいるわけだしな。

ついでで佐倉を詰めるなよな。可哀想に。

 

「待ってください。綾小路君も決して成績がいいわけではありませんが、個別に説教するくらいならここでしてください」

「…貴方、彼女達には今朝の事を伝えていないの?」

「機会に恵まれなかっただけだ。隠してるわけじゃない」

 

俺の実力テストは50点。中学レベルの難易度を鑑みれば低水準である事は疑いようもない。

堀北の発言に疑問符が浮かんでいる他の4人の視線は俺に集中した。

 

「実はテストのプリントに裏があるとは知らなかったんだ」

「つまり彼は回答した問題に関しては全て満点を取っている。行動自体は間抜けそのものだけど、学力だけで見れば致命的なほど馬鹿でもないの」

「…なんか綾小路君っぽいね」

 

説明を聞いた松下がそんな事を口走る。不服にも他の3人も同意見のようで苦笑いを浮かべている。

しかし、この間水泳の授業で盛大な勘違いを晒したばかりだ。反論のしようもなかった。

 

「でも、それなら綾小路君に何の用が…?」

「彼には特務を与える事にしたの」

「与えるって…。何で俺が引き受ける前提なんだよ」

「光栄な事でしょう?生産性のある仕事は図書室通いの生活にきっとハリがでるわ」

「余計なお世話がすぎるんだが…」

 

文武両道。容姿端麗。

一見隙のないように見える堀北だが、それを補って余る難のある性格。Dクラスに相応しい横暴っぷりだ。

 

「堀北さん。その特務っていうのは何なの?」

「そうね。場所を改めようと思っていたけれどここまで言ってしまったものね。内容を伝えるわ」

 

俺を含めた5人が見守る中、堀北は堂々と恐ろしい言葉を口にした。

それを聞いた俺達の揃いも揃って口を開けるくらいしか出来る事がなかった。

 

「貴方を私の助手に任命するわ。手となり足となり働きなさい」

 

これは決して昨日の櫛田の真似じゃないが。

 

……は?

 

 

 

 

王 美雨 8月21日 獅子座

 

ルックス :A

スタイル :C

性格   :S

 

趣味 推し活 節約

好きなもの 日本文化

嫌いなもの 誰かが悲しんでいる事

将来の夢 世界一周旅行に行ってみたい

 

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