【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~   作:マカーブル

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本作をお読みいただき、たくさんのお気に入り登録やご感想をありがとうございます。
誤字脱字の指摘等も、いつも助かっております。

作中の挿絵として画像生成AIによるイメージイラストを表示しております。
AIによる生成画像に不快感を感じる方はご注意下さい。


マジで投稿が遅れて申し訳ありません。
リアルデスマ+戦闘描写が苦手だとこうなるか……

遅れた割に微妙なクオリティですが、お楽しみいただけると幸いです。




第39話 切り札を見せるのは、強めの見せ札を出した後にするものだろう?

 

 『彼女』は本人ではなく再現された存在である。

 

 召喚者である黒死ネキが、かつて一度だけ遭遇し、その全情報を蒐集した悪魔を再現した『人形』であり、数少ない『かつて黒死ネキを殺した事がある悪魔』が元となった存在でもあり、黒死ネキ自身も『お気に入り』としてよく用いている。

 

 あくまで黒死ネキのスキルによって再現された『攻撃スキル』であり、本人では無いが、元となった悪魔の()()()()()()()()()()()()()()()()を再現されており、疑似的な物に過ぎないが、自律的な思考も可能で感情らしきものもある。

 これで構成材料が各種暗黒魔法で無ければ、実質的なクローニングとさえ言えた。*1

 

 そんな『彼女』は、今回の召喚における役割を「平和なもの」と感じていた。

 呼ばれた目的は『召喚主の知人の眷属の護衛』であり、自分の戦力なら、この場での湧き悪魔などどれ程集まろうと脅威足りえないし、そもそも召喚主もこの場に居るのだ。

 召喚主が悪ノリして雑魚を100匹釣り上げたりしたが、召喚主の式神と知人たちは見事に凌いで見せ、自分の出番は無かったのは嬉しい誤算だった。

 

 このまま普通に狩りは終了かと思えば、突然場にそぐわない強大な悪魔と遭遇した。

 状況の推移から、「これは出番があるかも知れない」と警戒はしていた。

 

 してはいたが、護衛対象の主人(脳缶ニキ)が、護衛対象である眷属(ベ ー ル)ふざけた演説のノリで悪魔の軍勢の眼前に召喚するなど、予想できるはずもなかった。

 

 最初に混乱、次に驚愕。護衛対象がいきなり腕の中から消えればそうもなる。

 続いて不安、更に祈念。『役割』を果たせなくなる不安と、無事であって欲しいと言う祈念。

 そして状況の確認。 「何してくれてるんだ、あのクソガキ!?」と思うのは致し方ない事だろう。

 

 

【マハザンダイン】!!」

 

 

 だからだろうか?

 

 

【マハラギダイン】!!」

 

 

 心なしか、『彼女』の行動が───

 

 

【回し蹴り】!!*2 【ギロチンブレイド】!!*3

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 ───八つ当たりに見える……と言うか、そのものなのは。

 

 

 

「ゼット、ベール、ガンバル!! ゼット、ベール ガ マモル!!」

 

 

 そして、()()()()()に応えようとする健気な眷属は、自身を省みず地獄の軍団の前へと我が身を晒す。

 だって主人の望みは()()()()()()()()()なのだから。

 

 なお、その度に健気な眷属の護衛(デュラハン)は目を見開いて護衛対象(ベール)の眼前の悪魔を蹴散らすので、ベールが実際に戦闘を行う事は無いのであるが。

 

 

「見たか!! コレが僕たち人間の持つ最大の力!! 仲間たちとの間に結ばれた、絆の力だッッ!! 具体的に言うと、僕の眷属と黒死ネキのスキルのコラボレーション!!

 

「俺、こんなに酷い絆の力とか初めて見た」

 

「うぃ、発想が外道。灯とは別方向のヤバさ」

 

「脳缶ニキ殿が副王様の代行者である理由が、身に染みて分かりますね。 私が言うのも何ですが、貴方に人の心は無いのですか?

 

 

 味方どころか人外(悪魔)からもツッコまれる脳缶ニキだが、倫理観はさておき、彼のとった戦術自体は実際の所有効だった。

 この場における最高レベルの存在はデュラハンであるが、彼女は黒死ネキのスキルであり、基本的に黒死ネキの指示以外には従う事は無い。

 今回の召喚時の命令は「ベールの護衛」であり、特に変更もされていない為、仮に【フォラス】が脳缶ニキたちへ危害を加えようと、()()()()()()()()()()()なにもしなかっただろう。

 

 また、仮に誰かがデュラハンからベールを奪い取り、敵陣へ放り投げる等の行為をしたのなら、デュラハンは敵よりもまずはベールを奪い取った者から殺していただろう。

 しかし、今回はベールの主(脳缶ニキ)による召喚であり、これは『ベールに危害を加える行為』には当たらない。

 自身の眷属であるベールを召喚する事は脳缶ニキの権利であり、ベールを戦力として前線へ召喚する事は当然の事でもあるからだ。

 そして、ベールが自らの意志で戦闘行為を行う以上、当然ベールは危機に晒され、護衛であるデュラハンはその使命を全うせざるを得なくなり、結果はご覧の通りだ。

 

 脳缶ニキの戦術は、良い言い方をすれば、本来は当てに出来なかった戦力を有効活用したクレバーな行為と言えるものなのだが、それはそれとして敵味方どころか攻撃スキルに過ぎないデュラハンからも人の心が無い外道として認識されるのであった。 残当。 

 

 

 


 

 

 

「さて、それじゃあこっちの有象無象は()()()に任せてよ。そっちのお客さんの相手は見所ニキとチャイカちゃんに任せるね!!」

 

「あ、やっぱりこれそういう流れなんだよね?」

 

「うぃ、理不尽。けど適材適所。納得できないけど理解は可能」

 

「全くですね。こんな所まで副王様っぽくならなくても良いと言うのに…… ふむ、どう転んでも被害無しと言うのは不可能のようですね……」

 

 

 仮に【フォラス】が自身の権能でもある【話術】系のスキルを用いて見所ニキとチャイカを説得し、脳缶ニキとの会話を行おうとしても、その成功確率は極めて低い。

 また、疑似的とは言え自我と記憶のあるデュラハンも、実態が攻撃スキルである以上は『説得』も不可能だ。

 そして、脳缶ニキとチャイカの2人はレベルこそ20台半ば程度だが、その数値以上の強者である事は容易に想像がつく。

 戦って負けるつもりは無いが、苦戦は免れないだろう。

 

  

「正直、こうなってしまうと出直すと言う選択肢も考慮したいところですが……」

 

「却下。その選択肢、【マルコキアス】の『縛り』が無くなる。灯の『楽しみ』に支障発生」

 

 

 【マルコキアス】が黒死ネキと戦わざるを得ないのは、【フォラス】とは目的達成の為の護衛契約を結んでおり、黒死ネキがフリとは言え「【フォラス】を殺す」と宣言したからに他ならない。

 ここで【フォラス】が形勢不利と撤退を選択すれば、【マルコキアス】も黒死ネキと戦う建前が無くなるだけでは無く、撤退する【フォラス】の護衛として共に撤退を選択する可能性が高い。

 つまり、黒死ネキとの戦闘は中断される可能性が高くなるのである。

 

 仮にそうなった所で、黒死ネキが【マルコキアス】を逃すのかと言われれば「まず有り得ない」と断言できるが、『楽しみ』のモチベーションが落ちるのは避けられないだろう。

 黒死ネキの式神であるチャイカからすれば、目の前の強敵の撤退と自分たちの身の安全よりも、自身の主の『楽しみ』を優先するのは当然の思考だった。

 無論、状況が自分たちに打破可能であると判断したが故、ではあるのだが。

 

 

「だから、貴方はここで終わる。灯の楽しみの邪魔、不許可」

 

「うーん、流石は黒死ネキの式神。実は全然まともじゃなかった」

 

「軍勢はあの少女の姿の理不尽に抑えられ、脳缶ニキ殿は好き放題。貴方がたは私の撤退を許さず、と。『物語』の強制力とは言え、八方塞がりとはこの事ですね。致し方ありません───」

 

「───ッ!? 消えッ……」

 

 

 会話の最中に【フォラス】は突如としてその姿を消失させる。

 そして、次の瞬間───

 

 

「───【暗夜剣】*4

 

「───ッ!! チャイカちゃん!! ───ッ、ぐゥ!!」

 

 

 ───突如としてチャイカの背後から襲い掛かった【フォラス】の斬撃に、見所ニキは辛うじて割って入るも防ぎきる事は出来ずに右の肩口を大きく切り裂かれる。

 更に、【暗夜剣】の効果で見所ニキには『封技』が付加され、一時的にスキルの使用が封じされる。

 

 

「お見事です。正直、貴方のレベルで凌がれるとは思いませんでした。ですが、このまま畳みかけさせて───」

 

【獣の眼光】【ディアラマ】【パトラ】

 【獣の眼光】【ラスタキャンディ】【ラスタキャンディ】

 【獣の眼光】【ラスタキャンディ】 ───顕現せよ!! 叩き潰すもの(ザ・スラッガー)*5

 

「───ッな!? ぐおおおおおお!!??」

 

 

 自身の姿隠しの権能を用い、不意を打ち、前衛である見所ニキを封じて一気に勝負を決めようとした【フォラス】だったが、突如として自身の()()()からの一撃を受け大きく後退する。

 

 

「見所ニキ、フォロー感謝。以降も連携要請」

 

「あ、うん、分かった。回復もありがとう。……ところで今のって、ひょっとして『劇場』なの?」

 

「うぃ。灯は『俺ら』にはそれで通じるって言ってた」

 

「マジかぁ。って事は、チャイカちゃんの本霊ってアレかぁ……そりゃ棺だもんなぁ……そっかぁ……」

 

 

 前世における女神転生シリーズのユーザーであれば、誰もが知るレベルの一種のネタ動画を再現され、恐ろしさと同時に頼もしさも感じる見所ニキ。

 一方、不意を突いたつもりで、自身も不意を突かれる形となった【フォラス】は───

 

 

「なるほど、それは【獣の眼光】。その程度のレベルでこれほどまでに使いこなすとは、余程相性の良い存在が元となったヒトガタのようですね。私には知覚できなかったにも関わらず、そちらの方には認識できていた……となると、同じ【獣の眼光】でも、時間停止や超加速では無く、こちらの停滞、ですか。こちらの霊的知覚*6を対象にしていると。困りましたねぇ。顕現しているとは言え、情報生命体( 悪  魔 )の身としては霊的知覚を閉じる事など出来ませんし、これは防ぎようが無いですね。ですが───」

 

 

 ───たった一度のやり取りでチャイカの行った『劇場』を正しく理解し、不敵に笑う。

 

 

「───それを理解した以上、対応は可能です。まずは【デカジャ】。そして【隠身】*7

 

「……ッ!? 【獣の眼光】───」

 

「もうソレには対応可能です!! 【絶命剣】*8

 

 

 

 【デカジャ】で【ラスタキャンディ】を解除し、チャイカの反応速度を元に戻し、【隠身】にて姿を消す事で対処を強要する。

 チャイカの【獣の眼光】で相手を停滞させ、稼ぐ事の出来る手番(プレスターン)は二手だ。

 そして、【フォラス】はその特性を理解したが故に、瞬時に最適な【時空耐性】及び【状態異常耐性】を選択する。

 急ごしらえとは言え、これにより一手は軽減可能となる。

 【隠身】への対処の強要と、耐性により軽減した1手。

 これによりチャイカの【獣の眼光】は実質無効化され、【フォラス】と正面からの相対を余儀なくされる。

 チャイカのスキルとスキルの連携の僅かな空白を狙い、【フォラス】はチャイカを仕留めんと一撃を繰り出すも───

 

 

「させない!! 【絶命剣】!! ───ッくぅ!!」

 

 

 ───その僅かな空白を見切り、見所ニキが【フォラス】を迎撃する。

 

 同じスキルどうしのぶつかり合いとなるも、弾かれ手傷を負ったのは見所ニキだ。

 元よりレベルは【フォラス】が見所ニキたちを一回り上回っており、更にチャイカを守る為に防御側に回った見所ニキが押し切られるのは当然とも言えたが、この状況と条件で手傷を負った程度で凌いで見せた見所ニキを【フォラス】は称賛する。

 

 

「お見事です。先程の事と言い、偶然では無いようですね。正直、取るに足りない者と思っていましたが認識を改めましょう。貴方は厄介だ。ですが、この状況が続くと言うのであれば、最後に押し勝つのは私です。貴方たちには後一手が足りません」

 

 

 事実である。

 チャイカの【獣の眼光】は【フォラス】の自己連携により相殺され、その隙に割り込む技量を持つ見所ニキは単純にレベルが足りない。

 先程のやり取りが繰り返されるのならば、いずれは見所ニキが倒れ押し切られることとなる。

 かと言って、【獣の眼光】に頼らなければ、2人をレベルで上回る【フォラス】を抑える事は困難だ。

 

 ジリ貧。

 そんな言葉が見所ニキの脳裏をよぎり、【フォラス】は即興で構築した理論の結果として受け止める。

 そして、チャイカは───

 

 

「この状況、()()()()

 

 

 ───特に焦りも見せずにそうつぶやいた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 チャイカ・トラバント

 

 黒死ネキの式神として()()()()()()、黒死ネキに名付けられた彼女の名だ。

 棺型の式神と言う、ガイア連合においても唯一無二の存在であり、同時にペルソナ使いでもある。

 

 ペルソナとは、心の奥底にある『神や悪魔の姿をしたもう一人の自分』を具現化させる特殊能力の総称であり、チャイカの銀髪の少女としての姿は、棺型の式神と言う()()から顕現した()()()()によるヴィジョンである。

 

 今のチャイカの姿は、黒死ネキより授かった【魔装術】と【変化】により、黒死ネキの望む人の形をとったものに過ぎず、本来の姿は全くの別物である。

 

 その本来の姿は、ウガリット神話における死の神である【モト】であり、ガイア連合の盟主であるショタおじが作り上げた式神。正確には、その核となった【モト】の雑霊である。

 

 紆余曲折の末に黒死ネキに忠誠を誓う彼女は、【モト】であった時期の記憶も経験も継承しており、自身の特性も能力の使い方も覚えていた。

 だからこそ20台半ばと言う()()()()にも関わらず、【獣の眼光】と言う本来なら不相応なスキルを使いこなせているのである。

 

 そして、チャイカの記憶する経験において重要なのは───

 

 

「私の【獣の眼光】の攻略、貴方で76人目*9

 

「「多いッ!?」」

 

 

 ───【獣の眼光】はチャイカにとって、強力な持ち札ではあるが切り札では無いと言う事。

 

 

 思わず立場を忘れて一緒にツッコんだ見所ニキと【フォラス】を横目に、チャイカ(元【モト】)は思い返す。

 かつて【モト師匠】と呼ばれ、数多くの挑戦者たちの障壁として立ちふさがった経験を。

 【フォラス】の自己連携など、チャイカ(元【モト】)の経験からすれば『よくあるパターン』の一つに過ぎない。

 黒死ネキとショタおじ、エドニキたち製造部の技術者によって生まれ変わったこの身は、出力と言う点においてはかつての自分には()()及ばないが、仮にかつての自分と今の自分が戦った場合、勝つのは今の自分だ。

 何なら、【時空耐性】を修得し「これで【モト師匠に】勝てる」と意気込む挑戦者を、今の自分なら下す事も可能だろう。 

 

 

「では教育する。本当の『劇場』と言うものを」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 特に気負う事も無く、あくまで当然の事を話すと言う口調でチャイカは宣言する。

 

 彼女の紫色の瞳は、眼前の【フォラス】の『死』を確かに見据えていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

永劫輪廻・交叉廻廊(えいえんのこうさてん) 起動」*10

 

 

 チャイカが呟くように宣言すると、次の瞬間には彼女の隣に()()()()()()()()()()が出現し、異様な雰囲気を醸し出す。

 徐々にその蓋を開くも、内部は見通す事は出来ず。むしろ底知れない闇が広がっているようにも見える。 

 

 何か分からないが、放置は危険。しかし、迂闊に近寄るのは悪手。

 

 チャイカと棺の挙動を見た【フォラス】はそう判断し、先ほどまでの【隠身】と【時空耐性】、【状態異常耐性】を準備しつつ、遠距離からの先手を取る事を選択する。

 

 

【マハブフダイン】

 

 

 これにより、チャイカと見所ニキは攻撃魔法に対処すれば、それにより一手を消費し、以降は先ほどまでの焼き増しとなるだろう。

 仮にチャイカが何らかの奥の手を繰り出したところで、この距離からならば対処も可能だ。

 【フォラス】はそう判断しており、その判断自体は間違いでは無い。

 

 間違っているのは───

 

 

「【死が奏であう劇場】」*11

 

 

 ───まだ低レベルに過ぎないはずのチャイカが、自身の権能を理解し覚醒させている事の方だ。

 

 

 悪魔としての【モト】が持つ唯一無二の権能であり、その効果は『二手番(ターン)毎に、自陣の手番(プレスターン)を一手増やし、自身の攻撃の威力を増大させ続ける』と言うもの。

 

 この増えた手番は時間停止でも、超加速でも、まして敵の拘束でも無い。

 単純な概念として『一手増える』と世界に刻まれた法則として扱われる、彼女のみに許された権能なのである。

 

 つまり───

 

 

【獣の眼光】【ラスタキャンディ】【ラスタキャンディ】

 【獣の眼光】【ラスタキャンディ】【力のドナム】*12

 【獣の眼光】 ───顕れよ!! 戒め解くもの(ザ・ブレイカー)*13【ランダマイザ】

 【獣の眼光】【ランダマイザ】【ランダマイザ】

 【獣の眼光】【コンセントレイト】【魔法思念弾】*14

 ───顕れよ!! 叩き潰すもの(ザ・スラッガー)

 

「え? これ俺も動けるし、いきなりフルバフとチャージまで!? いや、今するべき事は───【ハードヒット】!!」

 

 

 

 ───対策も何も関係なく、最初の一手が妨害されない時点で、チャイカの『劇場』は中断される事無く演目を完遂する。

 

 

「ッ、がぁあああああぁぁああああああぁぁぁぁ!!??」

 

 

 警戒していた。対策も取っていた。悠長に待っていた訳では無く先手も取ったはずだった。

 にも関わらず、その全てを無視して()()の衝撃が自身を襲い、霊基に取り返しのつかないダメージを受けていた。

 これが【フォラス】と言う情報生命体としての強固な一個体ではなく、単なる一種族としての名も無き悪魔であったのなら、存在の維持すら出来ずに消し飛んでいたであろう。

 

 

「こ、れは……因果への干渉……ま、さか……既に、権能として、確立……を?」

 

「肯定」

 

 

 今際の際であっても【フォラス】は状況と過程を見極め、正解を認識し、チャイカはそれを肯定する。

 

 

「しかし、その程度のレベル()で、あの『劇場』を? MP(霊力)が足りるはずが…… もしや、その棺……」

 

「肯定」

 

 

 チャイカ程度のレベルで、あれほどスキルを乱発できるようなMPがあるはずがない。

 ならば、考えられるのはMPの()()()が有力だ。どこから? あの棺だろう。

 至極真っ当な論理的な結論も、チャイカは肯定する。

 

 

「なる、ほど……りか、い、しました。どこまでも、規格外…… これ、が、今回の、わた、しの『物語』で、したか」

 

「審議の余地あり。脳缶ニキの行動、脱線の可能性、大」

 

「あ、それは確かに」

 

 

 当事者としてツッコミどころが満載過ぎたクソガキ(脳缶ニキ)の行動には、チャイカだけでなく見所ニキも思わず納得する。

 

 

「ふふふ、見ている、分には……面白いの、ですが、ね。 ああ、よければ、彼に、お伝え……いただきたいの、ですが……」

 

「拒否。これからトドメ」

 

「あ、そこはブレないんだ」

 

 

 悪魔との何らかの『お願い』や『約束』の伴う会話(【TALK】)はあくまでも塩対応。

 これまでのテンポの良い会話の流れ?

 相手はむしろ()()が得意で、古来よりそれを目的に召喚されてきた【フォラス】(弁舌家)なのだが?

 

 

「実に、素晴らしい。貴女は、正しいです、よ。さて、これは、ひとりごと、ですが……」

 

「「…………」」

 

 このまま放置したとしても【フォラス】の死は確定的だが、チャイカと見所ニキは油断なくトドメの為に武器を構える。

 

 

「副王様も……代行者の、脳缶ニキ殿も………」

 

「「…………」」

 

 

 【フォラス】の四肢の末端は既に崩壊を始めており、その存在はMAGへと還りつつある。

 それでも、だからこそ言うべき事は言わねばならない。

 これを伝える為に危険を冒し、【マルコキアス】に助力を求めてまでこの場へと顕現したのだから。

 

 

阿漕なマネも大概にしなさい、クソ共が!!(ガチトーン)」

 

了承!! 必ず伝える!!

 

だね!! 確かに伝える!!

 

「ふふふ、やはり、話し合いは……大事……」

 

「「お疲れ様でした」」

 

 

 互いに相容れぬ敵どうしでも、それでも思いが通じ合う事は必ずある。

 チャイカも、見所ニキも、そして【フォラス】もそれを実感する。

 

 まだまだレベルは低いが、それでも確かな伸びしろを持つ2人は、身命を賭して言うべき事を言った【フォラス】に思わず労いの言葉を送っていた。

 そこには確かに、副王と脳缶ニキ(ク ソ 共 )に振り回される者たちとしての共感があったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わった、のかな?」

 

「うぃ。【フォラス】の死亡、MAGへの還元、確認。()の中への【閉鎖】と【循環】も問題無し」

 

「えっと、それは良く分からないけど大丈夫なんだよね? なら良かった、かな?」

 

「うぃ。【フォラス】との戦闘、私たちの勝利。けど、問題も発生」

 

「え? 問題って!?」

 

「私の権能の使用、器のレベル不足。負荷甚大。【魔装術】の継続、困難」

 

「さっきの『劇場』!? やっぱり無茶してたの!?」

 

 

 見れば、チャイカの銀髪の少女としての姿には所々にノイズが走ったかのように歪みが生じており、一部には背後の風景が透けて見えている箇所すらある。

 

 

「自己保全、必要。数分間、意識を遮断。見所ニキ、護衛、要請」

 

「護衛だね、分かった!!」

 

「感謝」

 

 

 チャイカはそう言い残し、【魔装術】による銀髪の少女としてのヴィジョンを解除する。

 その結果、この場に残るのは───

 

 

「え? チャイカちゃん?」

 

 

 ───全長2300mm、最長幅850mm、高さ600mm

 一般的な棺桶よりも二回りはデカい特注サイズの黒く巨大な棺だった。

 

 

「え? チャイカちゃんが消えて、(こっち)が残る、って? ……チャイカちゃんの本霊って多分【モト】で、普段から棺を背負ってて…… え? もしかして、チャイカちゃんの式神としての本体って、(こっち)!?」

 

 

 たった今明らかになった衝撃の事実に驚愕を隠す事の出来ない見所ニキだったが、彼はすぐに別の問題に気付く。

 

 

「え? 護衛って、このサイズの棺の? って言うか、チャイカちゃんが背負ってた時って、もっと小さくなかった? ……いや、装甲車にも変化してたし、サイズとか形が自由自在で、コレが本来のサイズとか? マジかぁ……」

 

 

 仮にもレベル20台半ばの覚醒者である見所ニキ。

 例え数百kgの重量であろうと持ち上げる事は可能だが、問題はそのサイズだ。

 小柄な少女と巨大な棺とでは、運搬時における護衛の難易度が大きく異なる。

 無論、デカい方が守りにくい。 

 

 

「数分間って言ってたし、その間くらいなら俺でもなんとかなるか……なッ、っと!!」

 

 

 背後から迫っていた、【フォラス】の召喚した軍勢の残党を切り捨て、見所ニキは思いを馳せる。

 

 

「いやー、すいません、見所ニキ。取りこぼしがそっちに行っちゃいましたね。こっちはもう直ぐ終わるんで、もうちょっと待ってて下さいね!!」

 

 

 全然反省している様子もなく、楽しそうに自分の眷属(ベ ー ル)を軍勢の残党が密集している地点を見極めながら召喚する脳缶ニキ。

 

 

「──────!!!」

 

 

 そして、焦りと怒りと、フレンドリーファイア禁止の悔しさを滲ませながら、ベールの眼前に悪魔どもを蹴散らし続けるデュラハン。

 彼らを見て、見所ニキは───

 

 

「うん、放置で」

 

 

 ───現状でのツッコミ(対 処)を諦め、黒死ネキの帰還を待つ事にした。

 

 

 なお、この時の見所ニキは黒死ネキが【マルコキアス】に敗れる可能性など、微塵も想像しておらず、普段ならしていた様々な想定がすっぽりと抜けていた事に気付くのは、全てが終わった後の事であり、「あれ? 俺もいつの間にかこの人たちに染まってた!?」と驚愕するのと同時に、「分不相応!! 勘違いしたらヤバいから!! 俺はあの人らみたいな色んな意味でヤバいステージには()()立ってないから!!」と慌てて自重する事になるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
悪魔は情報生命体なので、普通に生体MAGで作ればマジでコピーになる。なお、コストは無意味に高い上に専用スキルで作るより弱いので、作る必要性は低い。

*2
風属性物理攻撃。敵全体へ中ダメージ。

*3
闇属性物理攻撃。敵1体に小ダメージを与え、確率で気絶させる。

*4
敵単体に中威力の2回攻撃。確率で『封技』を付加。

*5
力場を直接相手に叩きつける物理属性魔法。銃撃スキルの【ワンショットキル】(単体に大威力の物理攻撃)と同様の効果。

*6
【気配察知】や【心眼】

*7
【フォラス】の権能の一つ。対象者を透明に出来る。

*8
敵単体に中威力の物理攻撃。クリティカル率が高い。

*9
最初に【モト師匠】を攻略した修羅勢の第一陣がセツニキたち 52人。以降、黒死ネキが【モト師匠】をNTRするまでの数か月の間に、第二陣以降がボチボチ出ていたと言う想定。

*10
マスターである黒死ネキとの繋がりと、黒死ネキ50人分の素材による親和性により、チャイカも黒死ネキの異界の権能を一部使用可能。

*11
D2メガテン(真・女神転生リベレーション)の【モト】の固有スキル。

*12
味方単体が次に行う力依存攻撃の威力を上昇させるチャージ効果を付与。今回はこのタイミングで見所ニキを強化している。

*13
【デカジャ】(強化系解除)+【マカジャマ】(スキル封印)の複合術式。『棺姫のチャイカ』では結界の解除等に使用された。

*14
『リリカルなのは』の魔力カートリッジ的なイメージとして使用。





お読みいただき、ありがとうございました。


【フォラス】戦、決着!!
脳缶ニキ+ベール & デュラハン が【フォラス】の召喚した軍勢を担当し、
チャイカ & 見所ニキ が【フォラス】と相対する形ですね。

脳缶ニキって戦闘してないんじゃね? サマナー型の俺らが眷属を召喚して、敵に立ち向かわせるのは戦闘行為だから問題無いな、ヨシ!!
デュラハンちゃんは、あくまで自主的に手伝ってくれただけですヨ?

チャイカが元【モト師匠】である事のアピール回。
【死が奏であう劇場】は元々使わせるつもりだったんで、今回お披露目出来て満足。
効果内容的には『あらゆる理屈とか無視して、シンプルに一手番を得る』がメインですね。
この効果中に眼光系スキルとか使われたら『抵抗出来ずに素通し』と言う扱いです。
結果がこれ。
なお、【モト師匠】としての経験が無ければ、いくらチート式神のチャイカでもレベル20台半ばで、こんな権能は使えませんし、無理して使ったらオーバーヒート不可避です。
逆に言うと、そのうち代償無しで使いこなすのが確定的な訳ですが。

勿論無敵と言う訳では無く、格下~同格程度までしか通用しません。
と言うか、これに限らず権能バトルって、より概念的に上位の方が勝つものですしね。

さて、次回はようやく黒死ネキ VS 【マルコキアス】の話に入れるかな?
よろしければ、お楽しみにお待ちいただければ幸いです。



・黒死ネキ と マルコキアス(レベル46 と 50)
異界の荒野を散歩中の美少女とワンちゃん。
なお、彼女らの殺意と闘気でその辺の雑魚は、逃げるか死ぬかの二択状態。
上限が30のエリアに居ちゃいけない1人と1柱である。


・脳缶ニキ(レベル23 → 24)
ナチュラルにデュラハンちゃんをハメる。「これが絆の力だ!!」
外道戦法に定評のある『俺ら』。
無策で真正面から戦う脳缶ニキが居たら、きっとそいつはニセモノです。
【運命】さんのクソ脚本に従う義理も無いので、【フォラス】をチャイカと見所ニキに押し付けて、自分は効率よく軍勢の方を狩った。何気に最大効率だから質が悪い。
なお、仮に【フォラス】が軍勢を召喚しなかったら、この戦法は【フォラス】相手に披露するつもりだった。


・チャイカ(レベル24 → 27)
元ネタの『棺姫のチャイカ』のチャイカ・トラバントは、有能ではあれど基本的には『守られヒロイン』で、感情豊かな良い子。
本作のチャイカは、あくまで『そっくりさん』が、それっぽいロールプレイをしているだけ。
と言うか、元ネタありの式神ってみんなそうだよね?
【モト師匠】が記憶と経験をそのままに、チート式神ボディを手に入れた的な存在。
戦闘スタイルは大差ないが、出来る事が格段に増えて、切り札も得ている。
今回は確実に【フォラス】をしとめる為に無茶をしたが、マジで数分で回復するから問題無い。
MP? 黒死ネキの異界とリンク繋いで、溜め込んでるMAGから拝借しました。


・見所ニキ(レベル24 → 26)
【フォラス】から「レベルの割にはやるじゃん」と評価される。実際そう。
彼本来の運命力なら、『72柱が向こうから会いに来る』とかあるはずがなかったけど、運命愛され勢とご一緒しちゃったのが運の尽き。
今回は見事にチャイカの護衛を全うする。「居なくても勝てたんじゃね?」とか言っちゃいけない。
無茶してダウンした美少女の護衛とか言う王道シチュだと思った? 残念、デカい棺です。
ヤベェ奴らと交流した結果、ちょっと染まりかけるも、「いやいや、俺は平凡だから!! 勘違いすんな、俺!!」と脱線はしなかった。 ちッ


・デュラハンとベール(レベル40 と 11 → 12)
脳缶ニキに頼られて喜んで頑張るベールと、「あのクソガキ、絶許!!」なデュラハンちゃん。
八つ当たりで【フォラス】の軍勢を蹴散らすが、こいつら精々レベル20台だし仕方ないよネ。
実際の所、デュラハンちゃんが居なかったら物量で押しつぶされていた可能性が高かった。


・フォラス(レベル35)
強さ的には、【モト師匠】を突破した修羅勢第一陣のモブ修羅勢くらい。
十分強いけど、【フォラス】本来の強さからすると弱すぎな状態。
権能的には戦闘タイプでは無く、学者肌の悪魔。
ポポァ様 作 『【カオ転三次】本霊デビルなの バ レ バ レ 』の
第7話で、副王様に「あなたはクソだ」と掲示板で書き込んだ「名無しの悪魔」が【フォラス】だったと勝手に想定。
【運命】さんのクソ脚本のせいで散々な目に遭うが、言いたい事はしっかり言ってから消えて行った。






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