【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~ 作:マカーブル
本作をお読みいただき、たくさんのお気に入り登録やご感想をありがとうございます。
誤字脱字の指摘等も、いつも助かっております。
作中の挿絵として画像生成AIによるイメージイラストを表示しております。
AIによる生成画像に不快感を感じる方はご注意下さい。
前話で天職への就職を果たした黒死ネキ。
今回は早速彼女の仕事の様子を見ていただこうと思います。
なお、1話で簡単に描写するつもりが、案の定無駄に文章量が膨らんだのでキリがいい所でカット。
今回は前編と言う事になりました。ご了承ください。
「ここに居た悪魔どもはどうした?」
「とうの昔に始末したよ。とんだ雑魚どもだった。楽しむ間すらありはしない」
│
│
│
│
│
│
│
│
│
│
「ようこそいらっしゃいました。ガイア連合の皆様。この度は私どもの依頼をお引き受けいただき、誠にありがとうございます」
都市部から車で一時間程の山中に建つ、屋敷と表現できるギリギリの規模の洋風の建築物の前で、その執事風の男は来訪者を出迎えていた。
事前調査と言う名目で、ガイア連合の調査員を名乗る者たちが屋敷を訪れたのが二日ほど前。
そして、解決要員として
はっきり言って、異例の対応の早さだ。
正直言って、もっと時間が掛かると思っていただけに、解決要員とやらの質にはあまり期待できないのかも知れない。
ガイア連合の送迎車から出て来たのは二人。
一人は長い黒髪を中分けにして後ろへ流し、白いスーツを身に纏いサングラスをかけた長身の男性。
もう一人は鮮やかな銀色の長髪と、宝石の様な紫色の瞳を持つ白いドレスの少女。
どちらもまるで芸術品めいた、容姿端麗な美男美女だ。
「それじゃ、ボクはその辺で待ってますね。解決したら迎えに来るんで連絡してください。くれぐれもやり過ぎないように
「うぃ。イナバニキ*1、送迎感謝。恐らく、長時間の待機不要」
「ああ、もう
「……? 改めまして、ようこそいらっしゃいました。それでは、主人の元へご案内いたします前に、お二方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
送迎車から出て来た二人と運転手の男との会話に、なんとなく違和感を覚えつつも、執事風の男はそう尋ねる。
返って来たのは───
「J.H.ブレナー」
「四条かもめ」
───そんな、ごく簡潔な返事だった。
│
│
│
│
│
│
│
│
│
│
『一族が管理している呪物の封印が解けかけているので、助力を乞う』
その『名家』から、ガイア連合へ届いた依頼は、言ってしまえば『良くある』パターンの依頼の一つだった。
ガイア連合へと持ち込まれた依頼は、それが連合からの人員の派遣を要するものであれば、まずはマニュアルに沿って解析や生存・帰還系のスキルや技能に長けた調査員たちを派遣し、依頼の実態や難易度を測り、それを基に依頼票を作成される。
その際に大まかな基準として、推奨レベルや必要とされるであろうスキル等も掲載され、その情報を基にガイア連合の実動員は依頼を選ぶ事になる。
システムが安定してくると、連合員からは「冒険者ギルドかよ!?」と言うジョークも飛び出ているが、イメージ的には大差ないだろう。
連合員には別に依頼達成ノルマがある訳でも無く、基本的に受けたい時に受けたい依頼を受けるスタンスだ。
各自の適性次第で得手不得手が明確に分かれるし、そもそも覚醒していないので、依頼を受けたくても受けられない者も多数いる。
そして、「冒険者ギルドかよ!?」と言うジョークに拍車をかけるのが運営から連合員へ直接伝えられる『指名依頼』である。
文字通りの意味での指名であり、
・高難易度の依頼を、確実に解決する能力を有している者に直接依頼する
・懲罰的な意味で、難易度は低いが厄介な依頼を押し付ける
等々、様々な理由で『指名依頼』は行われている。
共通しているのは運営側が『確実に達成可能』あるいは、『確実に対象の連合員に受けさせたい』と言った確実性を重視している点である。
そう言った意味で、今回の依頼が『指名依頼』として
「そんなにヤベェのかよ、この依頼」
「ご愁傷様だな、相手が」
嗚呼、知らぬは
│
│
│
│
│
│
│
│
│
│
「それでは、こちらへお越しください。今回の一件を依頼いたしました、当家の主人一同がお待ちです」
執事風の男は、ガイア連合から来た二人───J.H.ブレナー と 四条かもめ───を屋敷の応接間へと案内しつつ、疑問を感じていた。
三日前に調査員としてやって来た者たちは、現在の有名無実と化した『名家』の
そして、解決要員としてやって来たと言うこの二人も、調査員たちと五十歩百歩程度の圧しか感じないのである。
調査向きの者と、戦闘向きの者は違うとでも言う事だろうか?
だとしたら、噂は所詮噂であり、当てに等ならないものと言う事か。
内心で二人の客人を侮りつつ、正面玄関からほど近い応接間の扉を開く。
一般的な家庭と比べれば、十分に広々と言う表現が相応しい間取りの空間には、客人たちを迎えるべく屋敷の主人一同と使用人たちが待機していた。
屋敷の主人と思しき、仕立ての良い衣装の壮年の男性。その妻らしき同年代の上品な婦人。
大きなぬいぐるみを抱いた6歳ほどに見える少女は娘だろうか。
彼らの脇に控えるのは、制服に身を包んだ四人の使用人たちだ。
「ようこそいらっしゃいました。私が───」
「───顕れよ。<
屋敷の主人の言葉を無視し、
不自然なほどに大きく鳴り響いたその音に、
「え?」
唐突な二人の行動に戸惑う一同を無視し、二人は淡々と
「この部屋、モドキ6、人形1、人間1。
隣室、モドキ6。
上階、モドキ6。
地下、
「まぁ、そうだろうな。大方の予想通りと言ったところか」
「うぃ。待たせるの駄目。
「
「……あの、先程から何を───ッ!?」
館側の者たちを無視し、さっさと話を進めようとする二人に、戸惑いつつも声をかけようとした館の主人だったが、その言葉は唐突に中断された。
「あなた!?」
「お父様!?」
「───ッ!? カッ!? アガァ!!」
「所詮は間に合わせか。大した出来でも無いな」
「肯定。
「ッ!! いったい何を!? やめッ……!!」
慌てて止めに入ろうとした使用人たちだったが、間に合うはずも無い。
紙袋でも潰したかのような音だった。
そんな、どこか在り来たりで、どこか非現実的な音を立てて───
「……い、いやぁあああああああああ!!!! お父様ぁぁああああああ!!!!」
───
「
「ああああああああ!! あなたッ!? どうしッ……───」
「───顕れよ。<
───
「
カウントは止まらない。
大好きなお父様もお母様も、いつも何かに焦るように忙しそうにしていて、最近まで全然構ってくれなかった。
寂しさを紛らわせたくて、家の中を探検したわ。
入ってはいけないと言われていた部屋にも入ってみたけど、あんまりワクワクしなかった。
けど、その時に見つけた
寂しい時はぎゅっと抱きしめたら、まるで友達が慰めてくれるみたいな気持ちになれたの。
「大丈夫だよ。任せて」って言ってくれてるみたいだったよ。
お父様は忙しそうに電話をしたり、手紙を書いたりして構ってくれない。
お母様はそんな父に付きっ切りだった。
ちょっと怖かったけど、お母様に「一緒にピクニックに行きましょう」て言ってもらえたのは嬉しかったの。
私にもすごく優しくしてくれて、とっても嬉しかったよ。
なんとか連合って所から来た人たちと色々お話をしてからは、困ったようなお顔をしてたけど、何があったのかしら?
それからは、二人から何度も「大好きだよ」って言ってもらえてとっても嬉しかったの。
私もお父様とお母様の事が大好きだよ。
けど、寝る前の御挨拶の時に、何でちょっと泣きそうなお顔をしてたのかな?
ちょっと怖かったけど「大丈夫ですよ。お任せ下さい」って言う執事さんの声が、
お父様とお母様も笑ってるし、きっと昨日の泣きそうなお顔は気のせいだよね。
明日はお客さんが来るから、お行儀良くしなさいって言われたけど、大丈夫だよ。
ちゃんとお行儀よくできるよ。
どうして? 分からないよ。 どうして?
「もう大丈夫」って言ってたのに。「心配ないよ」って言ってたのに。
「一緒にピクニックに行きましょう」って言ってくれてたのに。
どうして? どうしてお父様もお母様も、動かなくなっちゃったの?
どうして?
「お嬢様、こちらへ!!」
そう言って、執事風の男は
解決要員として招かれたはずの二人からの突然の凶行に、賞賛すべき対応と言えたのかもしれない。
そして、この場で唯一の
「「─────────」」
「「─────────」」
「【閉鎖】は完了している。アレの行先は
「うぃ。この部屋以外、私が『掃除』する。貴方はアレの後を追う」
「
木偶人形のように表情が抜け落ち、ぎこちない挙動で群がって来る『使用人』たちを前に、緊張感も無く次の予定を決める
事実、今行っているのは『戦闘』ではなく『掃除』に過ぎず、より正確に言うのなら、これは『ゴミ処理』であり、二人にとっては作業だ。
唯一あった不覚をとる可能性も、今頃はもう片付いているだろうし、油断はしないが無駄な緊張感も必要無い。
「
もはや魔法もスキルも必要ない。どころか一々発動させる為のタイムラグさえ無駄だ。
最初こそ強度と耐久性の確認も兼ねて魔法で
モドキどもはいずれも
「追加のゴミ、確認。赴く手間、短縮」
そして、新たに現れた上階に反応があった六体の『ゴミ』を見て、
│
│
│
│
│
│
│
│
│
│
「いやあああ!! お父様!! お母さま!!」
「お嬢様、お気を確かに。今、安全な場所まで参ります」
腕の中でもがいて叫ぶガキを、煩わしいと思いつつも執事風の男は廊下を走っていた。
目的地は館の地下室。このガキが抱いている
この『人形』だけだと、あいつらの相手をするのは不利だが、あそこまでたどり着けば問題ない。
二日前に来た無能な調査員どもは気付かなかったようだが、あそこには都市一つを亡ぼす事すら可能な戦力が隠されている。
無能な人間どもに自分の【隠蔽】が気付かれるはずも無いが、もし気付かれていたら皆殺しにせざるを得なかった。
あいつらは自分たちの無能が、自分たちの命を救った事すら気付いていないだろう。
今日の解決要員とやらにも、適当な
そう思っていたのに!!
「───ッ!?」
あからさまに靴音を響かせて、自分たちの後を追って来ている存在がいる。
足音の間隔からして、かなりの長身だ。あの
あの応接間に用意しておいたモドキを倒して、気が大きくなっているのだろうか?
だとすれば、その顔が絶望に歪むのを見るのも一興だ。
「こんな筈じゃ無かった」と心から発せられる絶望は、実に甘露なのだから。
そうこうしている内に地下室への扉の前へたどり着く。
内心の興奮を抑えつつ、その扉に手を伸ばすが───
「……───っ!? 「開かない」 ───ッ!!??」
───扉は開かず、その内心を発するタイミングすらピタリと合わせられた。
「どうした? そんなに慌てて? 悪魔にでも追われたか?」
「~~~~~~~ッ!!」
言外に鬼ごっこは終わりなのかと言われ、更にお前の正体などバレバレだと揶揄され、内心のイラつきを抑えられずに、思わず表情が歪む。
だが、そんな事よりも何故扉が開かないのかの方が重要だ。
この扉を、自分が開けられない事などあるはずが無いと言うのに。
「ああ、鬼ごっこの次は、かくれんぼがしたかったのか? それは気が回らなくて済まなかったな。
「何を訳の分からない事を!?」
「何、簡単な事だ。その扉はもう開けられると言う事だ。何なら扉が開くおまじないでもしてやろうじゃないか。ほら、『
「ふざけ ───ガチャ─── る、……な!?」
激高しかけた執事風の男だったが、
だが、それでもこの扉の奥には切り札がある事に変わりは無いと思い直し、
後ろから呆れとも嘲りともつかない男の笑い声が聞こえるが、万倍にして返してやると心に刻む。
「はっ!! 調子に乗りやがって!! モドキを倒したところで、お前らの強さなぞたかが知れてるんだ!! すぐに後悔させて…………っ?」
勢いよく地下室への階段を駆け下りる執事風の男だったが、次第に不自然さに気付かされていく。
ある筈のものが無い。あった筈のものが無い。無くなるはずの無いものが無くなっている。
そんな、ジワジワと蝕むように広がっていく焦燥感。
「……馬鹿な……何故?」
何も無かった。
長年の封印の間にため込んだ呪詛も、恐怖も、畏れも。
現世のGPに合わせ、それでも顕現できる限界まで強化して具現化させた
勝手に消えた? そんな訳があるか!!
持ち去られた? 有り得ない!! 自分に気付かれずにそんな事が出来るはずが無い!!
倒された? 都市一つを亡ぼせる戦力だぞ!?
「おやおや、この短い間にキレイさっぱり無くなっているな。一応、確認の為に聞いておくか」
「貴様ぁ!!」
訳知り顔で悠然と階段を降りてくる
「ここに居た悪魔どもはどうした?」
「とうの昔に始末したよ。とんだ雑魚どもだった。楽しむ間すらありはしない」
居るはずの無い第三者の声がした。
「~~~~~~~ッ!?」
急にあるはずも無い心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥り、思わず第三者の声がした自分の後方へ身体ごと振り返る執事風の男。
葉巻のヘッド*2をシガーカッターで切り落とした音。 マッチに火をつけた音。 マッチの火で葉巻のフット*3に着火する音。
緊迫しているはずの空気の中、緩慢とすら言える動作で葉巻を吸う準備をし、火が付いたままのマッチは握りつぶして文字通り
着火したフット全体が赤くなり、その外周に1mm程の灰の輪が形成される様を楽しむ。
ようやく準備が出来たそれを小さな口で咥え、豊かな香りを放つ煙を口の中に溜めるように少しずつ吸い、煙草の様に肺まで煙を送らずに、口の中で煙を転がすようにして味わってからゆっくりと吐く。
「特に銘柄に拘っているつもりは無いが、知名度が高くて愛好者が多い銘柄は、やはり素直に美味いものだな」
一般的に『葉巻をふかす』と言われる行為を、外見に似合わぬ慣れた手つきと堂にいった仕草で行った
一仕事を終えた後のちょっとした休憩。
まさにそんな雰囲気を作り出し、その少女は悠々と葉巻をふかしている。
「……何者だ、小娘?」
自分の存在を無視するような形で葉巻をふかす少女に、ギリギリと奥歯を噛みしめて苛立ちを紛らわせつつ、執事風の男は問う。
そんな男にようやく視線を向け、男の余裕の無い様をその赤く妖しい瞳に映し、少女は答えた。
「私の名前は黒死ネキ。ガイア連合の手先のゴミ処理係だよ。お前らみたいなオモチャ未満のゴミを掃除するのが趣味の、キレイ好きな美少女だ」
そう言って、まだ幼さを残しているも妖しい魅力を感じずにはいられない、恐ろしく整った顔立ちの
「さて、『ゴミ掃除』を再開しようか。少しは活きの良い『ゴミ』だと良いのだがな。なぁ、『ゴミ』」
お読みいただき、ありがとうございました。
はい、黒死ネキのお仕事の様子をお届けしております。
仕事中に勝手に休憩に入って葉巻を吸う不良? 知らんなぁ。
今回は前編の伏線ばら撒き回。回収は後編をお待ちください。
とは言え、結構分かりやすいし、次回は答え合わせ回になる予感。
あと、作者は非喫煙者なので葉巻の描写はネット情報です。
実際にどうなのかは分からないので、間違っていたらスルーしていただけると幸いです。
・黒死ネキ(レベル51)
普段は山形の異界で遊んで、修羅勢と遊んで、ショタおじシェフの料理を堪能している。
わざわざ自分で探さなくても、運営が自分向けの依頼を持って来てくれると言う最高の環境。
今回は急ぎだったみたいなので、
前菜は既に食い散らかしたので、目の前のゴミで遊ぶつもり。
・四条かもめ(レベル30)
挿絵でモロバレだが、チャイカの偽名。
チャイカとはロシア語で かもめ と言う意味。
【フォラス】戦後も毎日レベリングして30の大台に乗る。
今度、現【モト師匠】とバトル予定。
・J.H.ブレナ―(レベル30)
名前の元ネタはアイルランドの作家のJ.H.ブレナン。
著書に『ドラキュラ城の血闘』とか『魔術師ヒトラー』とかがある。
漫画『HELLSING』にてアーカードがブラジルへ派遣された時に使用した偽名。
彼が何者か? 次回で描写予定です。
・イナバニキ
規格外の転移を始めとした、便利系禁止カードの詰め合わせみたいなスキル構成のキャラ。
イナバシロウサギのペルソナ使い。
この時期だと基本的には輸送係としての活躍がメイン。
何で彼が車に乗っていたか? 次回で描写予定です。
・屋敷の連中
鍛えられたメガテニストなら、大体どんな状況か分かるよね?
多分予想は外れていない。
黒死ネキ曰く「今回はマイルドな案件だな」との事。