【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~ 作:マカーブル
本作をお読みいただき、たくさんのお気に入り登録やご感想をありがとうございます。
誤字脱字の指摘等も、いつも助かっております。
作中の挿絵として画像生成AIによるイメージイラストを表示しております。
AIによる生成画像に不快感を感じる方はご注意下さい。
今話は前話からの続きとなっております。先にそちらをお読みください。
新潟でのお仕事、その2です。内容的には過去編ですね。
他所様の所の子の過去編を勝手に書くってどうなんだとは思いますが、事前に許可とったからセーフ!! ……の、筈(ビビり
で、後編として「軽く過去編やって、現在のお仕事編で〆」とか気楽なつもりで書き始めたら、過去編だけで一万三千文字を越えたんで急遽中編扱いに変更(ォ
いつもの事? 知らんなぁ(震え声
ひとえにヴィルトゥオーサのビジュが作者的にドストライクだったのが悪いんや!!
アルトリア・ジアロと言う名の、一人の少女がいた。
彼女は音楽の才能に恵まれた天才だった。
十数種類の楽器を専門家以上に弾きこなし、特に得意としているチェロの演奏は彼女を神童たらしめる素晴らしいものだった。
そんな彼女が幼少期に思いを馳せたのは『自由』について。
母親が読み聞かせてくれた絵本の語る自由とは〝様々な束縛を抜け出し、自分のやりたい事を出来る事〟であると彼女は理解する。
そして、彼女は己の『演奏』にその意味を込める事が出来た。
「人は己の感情に向き合い、自由になるべきだ」と。
彼女の『演奏』は、それを聞いた対象者の感情を彼女自身へと転写する。
そして、共感されて共鳴を引き起こす事で、対象者の感情を増幅させる。
彼女の『演奏』の影響を受けた者は、自分自身の隠された感情を理解し、それと向き合う事となる。
対象者が自分の心と向き合う過程で可視化された心象風景は、時として幻覚を見ているような感覚をもたらす事となる。
これは決して精神操作などでは無く、この『演奏』は〝人の心に寄り添い、自身の感情と向き合う手助けをする〟と言うものに過ぎない。
要するに、対象者がやりたくない事をやらせたり、本来し得ない決断を強制させたりは出来ないのである。
逆に、やりたい事や、し得る決断なら、対象者は己の理性を越えて衝動的に行ってしまうようになるのだが。
彼女の母親は、某国で書記官として従事していた。
家族の事を考え安全な都市部で、演説台に立って用意されたセリフを喋り、机の前に座って無意味な綺麗事を綴って来た。
しかし、本当にやりたかった事は戦場カメラマンであり、紛争地帯における人々の不幸を、見て見ぬふりをする事無く世界へと発信する事だ。
そして彼女の母親は、自分の娘の『演奏』を聞き、自分の感情と向き合った結果、現状に甘んじる事に耐えられなくなった。
周囲に何も伝える事無く一人紛争地帯へと向かい、兼ねてよりの志を果たす事となったのである。
そしてその数か月後、母親は遺体となって家族の元へと帰って来る事となった。
「お母さんがやっと手に入れた自由を、死はどうしてこんなにも簡単に奪ってしまうの?」
この時、彼女は確かに死に対して怒りと悲しみ、そして失望を覚えた。
しかし、母親の死は決して不幸なものでは無い。
母親は間違いなく自由になったのだから。
母親の葬儀の前日、葬儀会場で演奏する予定のチェロの練習をしていた彼女の元へ、誰かの声が聞こえた。
曰く
「自分は音楽を司る悪魔である」
「お前の母親の死は戦場での不幸では無い。お前の母親は殺されたのだ」
「お前の母親の葬儀には、お前の母親を殺した連中もやって来る」
「そいつらを『自由』に出来る力を、お前にくれてやろう」
「対価はお前の『演奏』だ」
不思議と疑問には思わなかった。
自分の『演奏』がどのようなものであるのか、少女は分かっていた。
だから、彼女は
母親の葬儀で、見送りの為の『演奏』を行った。
結果は、人の『不自由』の証明だ。
「あいつが死んでくれたおかげで昇進できた」
「勝手に死にに行かれて、こっちはいい迷惑だ」
「余計な事を調べようとしなければ、殺さずに
「我々は天使様から使命を受けた選ばれし者。それを悪し様に語るとは、呪われた魔女め」
「あの小娘は
厳かな顔をして母親の葬儀に参列した者たちは、彼女の『演奏』により自身の感情の大波に抗うとこが出来ずに、理性を失い、隠していた本音を葬儀の場でぶちまけた。
何故母の死に、命に、人生に真実の感情を持って立ち会ってくれないのか。
理性や道徳と言う秩序に縛られた者の何と『不自由』な事か。
そして何より、己が正しいと
その様を見て彼女は想う。
人々は『自由』な心を持てるようになるべきだ。
その『自由』とは理性や道徳、法といった秩序に縛られない自分自身の『感情』だ。
『感情』こそが『自由』の象徴であり、人の本能であり、強さの原動力であると考える。
だからこそ、『
契約は成った。
ソロモン72柱が序列67位。 【堕天使 アムドゥスキアス】との。
このユニコーンの姿をした、時に少年の姿をとる悪魔は音楽を好み、契約者へ音楽の才能を与えるとされる地獄の公爵である。
そして、彼の存在が認めた『演奏者』へは、更なる力が送られるのだと言う。
元より、彼女の『演奏』には力があった。
態々悪魔に頼らずとも、その力は既に開花し始めていた。
もし、彼女が
だが、彼女は『
認めない。 私の、母親の、人間の、『自由』を〝奪う〟など、決して認めない!!
葬儀の参列者たちは彼女の『演奏』により、心の奥底にある怒りや恨み、野望や猜疑心、植え付けられた正義
「【壊死損傷】」*1
【アムドゥスキアス】との契約によって開花した覚醒者の奏でる魔曲のMAGが、『演奏』を媒介に聞いた者たちの体内へと蓄積していく。
無自覚に、けれども確実に。
対象者本人に自覚される事なく、人体と言う水風船の中に音楽と言う『振動』が逃げ場も無く押し込まれていく。
その結果───
「【壊死爆発】」*2
───
アルトリア・ジアロと言う名の、一人の少女がいた。
彼女は幼い少女であるにも関わらず、自らの母親の葬儀で参列者たちを
当時、彼女は未成年者であったが、事件の余りの凄惨さと、参列者の中には政府高官や
しかし、彼女の行方は
指名手配後、初めの頃はヨーロッパ各地で彼女と思わしき人物の目撃情報が寄せられ、それと同時に
しかし、ある時期を境に彼女の目撃情報は途絶え、
更にある時期を境に、死体すら発見されず
まるで、
「今回も良い仕事よ。おかげで今日もまた一人『自由』にできたわ」
「受け身で
「【アムドゥスキアス】から話を持ち掛けられた時は半信半疑であったが、確かにコレは割の良い契約だな。邪悪なる者を罰する機会に事欠かぬ」
幼さが抜け始めた少女が感想を述べ、黒髪の少年*3が気安い口調で話し、大蛇の姿をした悪魔が満足そうに語る。
ソロモン72柱が序列72位。 【堕天使 アンドロマリウス】
大蛇の姿をしたこの悪魔は、盗まれた品を取り戻し、盗人を捕らえる事を職能とする。
また、邪悪を見つけ出し、振る舞いを理解し、泥棒やその他の邪悪な者たちを罰する。そして、隠された宝物も見いだすという。
対犯罪者に特化した権能を持つ、この地獄の36の軍団を率いる大いなる伯爵は、時に『正義を司る悪魔』として扱われる事もあると言う。
もっとも、それはこの悪魔自身が『正義の味方』であるとは言っていないし、つまりはそう言う事なのであるが。
「正直、追い回されるのは辟易としていたから、こちらから赴けるのはありがたいわね。貴方の権能には今後もお世話になるわね、【アンドロマリウス】」
この悪魔の存在が、彼女を逃亡者から狩人へと変えた理由。
そうすれば、いかな追手であろうと獲物に成り下がるのが道理。
そして、【アンドロマリウス】が
これ以上誰かの『自由』を奪う前に、
結果、
「存分に。我は汝の言う
「僕は、お気に入りの契約者の『演奏』を、いつでも最前列で観る事が出来るし、開演も好きなタイミングに出来るからね。言う事無しだよ」
「私は…………」
強大な地獄の悪魔どもと契約した少女は、自身の目的を再認識する。
それは、『強い心と出会う事』
かつて、母親の葬儀で彼女は確信した。
人々は『自由』な心を持てるようになるべきだ。
その『自由』とは理性や道徳、法といった秩序に縛られない自分自身の『感情』だ。
『感情』こそが『自由』の象徴であり、人の本能であり、強さの原動力であると考える。
感情と言う心の内から湧き出る力を自由に解き放つ為には、人々の自我、心の容器はあまりにも脆すぎる。
特に、困難や苦痛と言った感情に対し、人々は正面から立ち向かう事は出来ない。
脆い心を隠すために、それらを人々は恣意的にずらし、隠してしまう。
悲劇に対して真正面からぶつかれない為に、人々どうしのそのズレが更なる悲劇を生む。
その心どうしのズレを、猜疑心や恨み、無理解が蝕む事となる。
だから彼女は『強い心』と出会いたい。
もしも人々が困難に直面した時、まったく同じ気持ちを共有出来たら。
もしも人々が失敗を恥とせず、その挑戦を互いに支え合う事が出来たら。
もしも人々が苦痛を苦痛として受け止め、自分と向き合う事の出来る揺るぎない心を持っていたら。
きっと感情と言う生来の本能に従っても、『
困難や滅びが訪れようと、それこそが抗う術となる。
だから彼女は『
明確に彼女の目的の障害だから。
「……出会えるのかしらね、そんな『強い心』を持った人に」
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「おや、飛び入りかな? 歓迎するぞ。偶にこういう事があるから、やはり【隠蔽】は一般人相手に限定するのが良いな」
出会えた。
いや、待って!! 本当に待って!! コレはダメでしょう!? コレは違うでしょう!?
確かに『強い心』を持った人だけど、私の思ってたのと違う!!
ジャンルがユーススポーツとサスペンスホラーくらい違うから!!
「……【アンドロマリウス】、どうしてくれんの、これ?」
「……弁明するなら、この場は我の権能を越えた【偽装】が成されていた。【隠蔽】の質を見抜けなかったのは、言い訳の余地は無い。マジすまん」
「……あー、うん。見抜けなかったのは僕もだし、そこは謝んなくても良いや。それじゃ、どうしようか、この無理ゲー?」
最初は大きな問題は無かった。霊能組織の質も量も大した事の無い日本でダークサマナーとして活動するのは容易で、『演奏』を聞かせる相手に後れを取る様な事も無かった。
けど、最近は数年前に突如として台頭してきた民間組織、ガイア連合の影響もあって、富裕層や一部の知識人を中心に正しいオカルト知識が伝えられ、GPの上昇に伴い顕界する悪魔の対策に後れを取る各地の霊能組織の強化も為されてきている。
必然的に、私を含むダークサマナーたちは〝頼る必要の無くなったヤクザ〟のような扱いを受ける事になった。
相手にされないだけならまだ良い方で、「治安が回復しつつあるなら反社は要らぬ」とばかりに、ガイア連合から知識と装備を提供されて超強化された地方霊能組織に捕縛されるのは勿論、時に狙撃や轢き逃げによって物理的に退場する事になる者も多くなってきた。
正直、潮時だと理解はしていた。
仮に戦ったとしても早々後れを取るつもりは無いけど、周囲の現状を見るに、このまま漫然としていればいずれ私も狩られる。【アンドロマリウス】の権能では追手が罪人でなければ、こちらから見つける事は出来ないから。
けれど、まだこの国では……否、この国
自分の理想の、せめて足がかりだけでも有るのかが知りたかった。
そんな思いを抱えつつ、いつもの様に
そこには、彼女の目は勿論、【アンドロマリウス】にも【アムドゥスキアス】にも分かる、『一般人を寄せ付けない為の【隠蔽】』が施されていた。
チープだと思った。思ってしまった。だって、分かるはず無いじゃない。
いつもの害鳥の巣穴だと思っていた場所が、実は死神の遊戯場だったなんて。
後に聞いた話だと、
一般人には気付けないし招き入れるつもりは無いらしいけど、
一歩踏み込んだ建物内は『死』が満ちていた。
細切れになって散らばっているヒト
真っ黒になって崩れ落ちている害鳥
その中心に立つのは、美しい少女だった。
夜を切り取ったかのような黒く美しい長髪。
ルビーの様に赤い瞳と強い意志の宿る鋭い眼差し。
幼さと美しさを兼ね備えた麗しい貌。
子供から大人へと至る階段に足を掛けたばかりの、成熟前の美しさを誇る肢体。
そして何よりも、決して揺るぐ事など無いであろう『強い心』。
いや、求めていたモノと方向性真逆だけど。
「おや? ……ふむ? これ、
「来るz……」 ───ザシュっ───
黒い少女がこちらを見て何かを考えるような仕草をした後、【アンドロマリウス】が警戒の声を上げようとした。
上げる事も出来ないまま、その大蛇はバラバラになっていた。
「あ……」
理解が追い付かないままに横を見れば、黒い少女がその手に持った大鎌を【アムドゥスキアス】に向けるところだった。
「いや、クソゲー過ぎ。セッションするならレギュレーション合わせないとダメじゃない?」
「同感だな。
【アムドゥスキアス】もバラバラになった。一秒もかからなかった。
「あ……」
「さて、待たせたな」
あ、私、死ぬんだ? あれ? 何か子供の頃の思い出が次々……あ、お母さんが笑って……
……あれ? 死ぬのってこんなに恐いの?
黒い少女がこちらを向いて、微笑んだような気がした。 凄く邪悪な笑顔だった。
田舎ニキが支部長をしている新潟県魚沼支部。
その中心的な存在の金札である九重 静からの依頼で、いつものように『ゴミ処理』をしていたら、現場に飛び入り参加してきた者たちが現れた。
……『アークナイツ』の『ヴィルトゥオーサ』? 再現度高いな。
連れているニ柱の悪魔も含め、全員レベル30前後と言ったところか。
『俺ら』か? それとも似ているだけの現地民か?
「おや? ……ふむ? これ、
まずは悪魔二柱を殺す。 【アナライズ】通り、【アンドロマリウス】と【アムドゥスキアス】か。
両方とも武闘派では無いのが少々残念だが、次に期待だな。
こいつらの情報を『蒐集』した事で、こいつらがここに来た経緯も分かった。
さて、味見兼前菜も済んだし、メインディッシュだ。
「では、確かめさせてもらうぞ。アルトリア・ジアロ」
「え? 何で私の名前を……」 ───ザシュっ───
「【
言い終わる前に首を切断し殺す。そして首が落ちる前に蘇生させる。
殺される痛みも、死んだ自覚も、蘇生した実感も無かったであろう一連の流れに、困惑した表所を浮かべる『現地民』。 こっちだったか~。
『俺ら』では無かったのは残念だ。成長限界が低くて、私を殺すに至る者ではない的な意味で。
だが、こいつの人生自体は十分面白いし、抱えている理想も興味深い。
ああ、なら『演奏』させてやろうか。面白い反応が見れそうだ。
「おはよう、アルトリア・ジアロ。早速だが、一曲ご一緒願おうか」
「な……に、を……」
まだ困惑からは抜けていないか? では
「【禁じられた言葉】」*4
有象無象の区別なく、私の紡ぐ
こうでもしないと、状態変化への耐性が高過ぎる私に、こいつの『演奏』はただの音楽だからな。
「さぁ、どうした? まだ仲魔が二柱殺されて、お前も一回死んだだけだぞ? 立て」
「───っ!?」
「今までも『演奏』して来たのだろう? 『自由』に憧れているんだろう? 『強い心』に出会いたいんだろう?」
「───な、ぜ……それを?」
「演奏者がセッション相手を待たせるな。楽器を手放すな。観客の有無など何の関係も無いだろう?」
「───っ!!」
「さぁ、お前の『演奏』を私に聴かせてくれ。私の心を奏でて見せろ。
「ああああああああああ!!」
そう叫び、演奏者は楽器を手にする。
しかし何だろな、この変なデザインの弦楽器?
え? チェロ? これが? 実に斬新なデザインだな。
自他共に認める、楽器を奏でる為の超級の才能。それを開花させるに足る経験。
『
そして何より面白いのはその『演奏』。
こいつの『演奏』は、それを聞いた対象者の感情をこいつ自身へと転写する。
そして、共感されて共鳴を引き起こす事で、対象者の感情を増幅させる。
こいつの『演奏』の影響を受けた者は、自分自身の隠された感情を理解し、それと向き合う事となる。
『自分と向き合う』など、ペルソナ使いでもある私にとってはいつもの事だが、他者に仲介されるのは初めてだ。
『自分の心を他人に共感させる』のもな。
さて、こいつは
…………しかし、この演奏、本気でレベル高いな。 後で演奏料でも支払うか。
気がついたら『演奏』していた。
脅されたからじゃない。けど、はっきりと自分の意志で弾き始めた訳でもない。
『演奏』を始めてすぐに自覚したのは、自分が〝弾きたい〟と思っていると言う事。
無意識に弾き始めた? そして今は目の前の黒い少女の歌?*5 に導かれるように『演奏』している。
そして、私の中に黒い少女の感情が転写されて来る。
私の中で、黒い少女の心は共感されて共鳴される。
そして……
ああああああああああああああああああああああああああ!!!!
『死』が!! ありとあらゆる『死への過程』が!!
両親の、他人の、友人の、強者の、弱者の、人間も悪魔も生き物も死人も、何もかも!!
生きていたけど死んだ。殺された。殺した。生き返ってまた死んだ。生きて殺して、死んで生きて、殺して死んで、殺されて死なせて、生きて、殺して殺して殺して、殺されて殺されて殺されて、死んで、生きて、生きる、死ぬ、死ぬ、生きる、死、死、生、死、生、生、死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死!!!!
どうして!? どうしてなの!? どうして貴女は『まともの心』でいられるの!?
どうして、『自由』になったのに、
どうしt───
「あ、そうか」
───唐突に理解した。
「『強い心』の持ち主って、自分が『強い』なんて、いちいち思ってないのね」
そして、もちろん『弱い』とも思っていない。
だって、自分は自分だし、それが『当たり前』なんだから。
だから、あの黒い少女にとっての『
いや、やっぱりオカシイでしょう!?
アルトリア・ジアロと言う名の、一人の少女がいた。
彼女の『演奏』は、それを聞いた対象者の感情を彼女自身へと転写する。
そして、共感されて共鳴を引き起こす事で、対象者の感情を増幅させる。
彼女の『演奏』の影響を受けた者は、自分自身の隠された感情を理解し、それと向き合う事となる。
しかし、彼女の『演奏』が通用しない、無意味となる条件が三つ存在する。
一つは状態変化を完全に無効化する耐性、もしくは装備を身に着けている事。
彼女の『演奏』は厳密にはデバフでは無くバフに類するものであり、状態異常では無く状態変化自体を無効化出来れば、その効果を無効化する事は出来る。
一つは『演奏』の対象者が、自身の本能を完全に制御しきるほどの理性の持ち主である事。
全ての行動が理に適っていて、衝動的な欲でさえも機械の如き冷徹さを持って制御し得るだけの理性を持つ存在であれば、彼女の『演奏』を聞いても冷静に対処し得るだろう。*6
そしてもう一つは───
「ああ、流石だ。実に素晴らしい『演奏』だな。他者の
───そもそも、普段から『やりたい事』を自覚し、自身の感情に対して『自由』に振舞っている者───目の前の
……いや、『やりたい事』が『殺し合い』の時点で、ツッコミ所は多々どころか地平の彼方まで連なっているのではあるが。
そして、私は『演奏』を終えた。
目の前の『強い心』を持つ黒い少女は、満足そうな笑顔でパチパチと軽い拍手を私へと送っている。
彼女は自分の事を強いとも弱いとも思っていない。単に自分と言う『当たり前』を当然の事として認識しているだけだ。私の『演奏』の後押しなど、あろうとなかろうと、元々『自由』だったんだ。
そして、彼女はどういう訳か『私』を完全に理解している。
私の名前も、私の『演奏』も、きっと私のこれまでも。
だから、どうしても確かめたかった。聞いてみたかった。自分の理想を。
「誰もが自分の心と向き合い、感情を共有する事で一人一人が強い心を持ち、全ての争いや苦痛、征服すべき未知を乗り越えていく。お前の理想だったか?」
「───っ!?」
先に問いかけられた。
「何故?」と言う思いが最初に沸き立ち、すぐに「この御方なら」と言う納得が広がった。
なら、応えないと、答えないと、訊かないと、聞かないと、確かめないと!!
「は……い!! 私は、それを証明したくて!! 『強い心』の持ち主と出会って、確かめたくて!! 人は、私たちは『自由』で在れるのかを!!」
それが私が子供の頃から、お母さんが死んだ時からずっと知りたかった事!!
「さぁ?」
「え?」
たったの一言で返された。
え? それだけ? 私の理想は?
「まぁ、理論上は可能だな。お前の言う通りの事が実現できれば、お前の言う理想は実現し得るだろう」
「あ、え?」
今度はあっさりと肯定された。
けれど、どうしてだろう? ものすごく不安になるのは。
理想を肯定されたのに、決して叶わないと思い知らされた感覚になるのは。
「お前の理想は実現し得る。だが、
「───っ!!」
「他人の感情を移すだけで、自分自身の感情をほとんど持たないお前ではそこにはたどり着けない」
「あ……ああああ!!」
「お前が『演奏』を聞かせて来たのは何人だ? 千か? 二千か? 万は超えたか? あるいはもっとか? それだけの数の『感情』をそのままの形で味わって来たんだろう? 大半が薄汚れた『不自由』な感情だったのかもしれないが、それでもそれなりに『強い感情』を伴う『死』に立ち会って来たんだろう? つまり、お前は最も多くの困難や苦痛に向き合って来た者の内の一人と言う訳だ。実に大したカウンセラーだな」
黒い少女は愉快そうな口調で私に語る。
それこそ、カウンセラーのように。あるいは、迷い人の懺悔を聞く聖職者のように。
……あるいは、弱者を誘惑する悪魔のように。
「にも関わらず、未だにお前は、お前の心は『死』を困難として恐れている。 何より、『自分の心に問う』と言う困難をずらして、『他者に問う』と言う行為を犯している。お前は他者の心に向き合うばかりで、自分の心に向き合う事から逃げ続けていたな。無数の他者の心を奏でても、自分の心は奏でていなかった。〝他者の心は分かるのに、自分の心は分からないカウンセラー〟それがお前だよ」
「あ……あああああ…………!! ああああああああああああ!!!!」
「お前の理想は実現し得る。だが、お前はその理想から最も遠い所に居る。ふむ、こんなところか? お前の問いに私が「さぁ?」とか言った理由は理解できたか?」
理解した。理解できてしまった。
この御方がそう答えるのも当然だった……
私は……私の理想は……
「私は……私の理想は……」
ついその場のノリで告解もどきとかやってみたが、思った以上に心をへし折ってしまったか?
案外メンタル弱いな? もっと『自由』に生きれば良いだろうに。それが出来るだけの素質は有るのにな。
まぁ、楽しませてもらった演奏料代わりに、アフターケアでもしておくか。
「さて、良い『演奏』を聞かせてもらった礼と言っては何だが、お前に面白いことを教えてやろう」
「……え?」
「お前は私の事を『強い心』の持ち主と評したが……似たような連中*7なら、ぶっちゃけ百人以上いるぞ?」
「はぁ!?」
※ アルトリア・ジアロ的な『強い心』の定義と、それに対する頭修羅な連中の一例
もしも人々が困難に直面した時、まったく同じ気持ちを共有出来たら。
→ 「打倒ショタおじ!!」 「感謝はするけど絶対殴る!!」
もしも人々が失敗を恥とせず、その挑戦を互いに支え合う事が出来たら。
→ 「下層試験が無理ゲー過ぎる!!」 「なら一緒に桃源郷潜ろうぜ!!」
もしも人々が苦痛を苦痛として受け止め、自分と向き合う事の出来る揺るぎない心を持っていたら。
→ 「この間のアイサツではお世話になりました、死ねぇ!!」 「チェスト関ヶ原ぁ!!」
きっと感情と言う生来の本能に従っても、『
困難や滅びが訪れようと、それこそが抗う術となる。
→ 「終末後もファミチキを!!」 「ヒャッハー!!」
※ これはあくまで一例です。全ての修羅勢がこんなんだとは限りません。多分?
「───とまぁ、こんな感じか? なお、こいつらの大半は元々は感性もメンタルも、そこら辺の一般人だった奴らだ」
「えええええええええええええ!?」
「言ったろ。「お前の理想は実現し得る」と。これが理想かどうかは知らんけど」
「えええええええええええええ!?」
んー、まぁこんな感じか? 既に落ち込む暇すらない精神状態だろうが、些事だな。
さて、こいつはどんな『選択』をするのかな?
それが私が楽しめる物なら良いんだがな?
拝啓、お母さまへ。
アルトリアは世間知らずでした。 『強い心』の持ち主って、実はいっぱい居たんです。
私が「自分の演奏で人々の自我を強くして、困難や消滅に抗えるくらいの『強い心』にする」って頑張っていたのは何だったんでしょう?
何か元々は一般人だった方々が、めっちゃ沢山修羅ってました。
いえ、人の心を『不自由』にする糞カルトを『自由』にするのは間違って無いとは今でも思いますけど。
私はあの御方に出会って、自分の身の程を知りました。
私は死ぬのが怖いです。生きていたいです。
あんな笑いながら修羅道と俗世を反復横跳びしている方々のおられる場所へは行けそうにありません。色んな意味で。
今思えば、私はお母さんの死を受けて……受け止める為に行動していました。
お母さんの死は不幸じゃない。報われて欲しい。意味を持たせたい。
そんな言い訳で、自分に『使命』を課していたんだと思います。
あの御方の言う様に、私は私の理想から最も遠い所に居るのだと理解しました。
けれど、一番遠い所に居るからといって、理想に置いていかれた訳ではありません。
私の理想は実現し得るのだと言う、実例をいっぱいお見せいただけました。
思ってたのと大分違うけど!!
私の理想は実現し得る。その希望は見えました。思ってたのと大分違うけど!!
それに気づかせていただけた今、私は今度こそ自分を奏でようと思います。
いずれ、私自身を奏でられたなら、その曲に相応しい名前を付ける事が出来ればと思います。
……うん、まずは全力であの御方に命乞いをするところから始めようと思います。
「……と言う訳で、どうか命と『演奏』に必要な部分だけは助けていただけないでしょうか?」
「あははははははははははは!! 良いじゃないか、それ。私は好きだぞ、そう言うの!!」
アルトリア・ジアロには知る由も無い事だが、彼女が現在全力で土出座してる相手である黒死ネキには、割と明確な他者に対する判断基準がある。
一つは『自分を殺す事が出来るか否か』
これについてはアルトリアには不可能だし、仮に今後彼女が己の限界まで強くなったとしても、現在の黒死ネキにすら遠く及ばないだろう。
一つは『死に対して真摯に向き合っているか否か』
これについてもアルトリアは条件を満たしているとは言えないだろう。
今後はともかく、今まで目を逸らしていたと言う事実は消えない。
そしてもう一つは───
「私は好きだぞ、そう言う『人生を自分の意志で謳歌しようとしている奴』は。まぁ、目的が気に喰わなければ殺すが、お前の目的は見ていて面白そうだ」
「(セェェェエエエエエーーーーーフ!! ギリッギリだけど、セェェェエエエエエーーーーーフ!! 私、生きていける!! まだ人生続けられる!!)」
───『生を自分の意志で謳歌しているか否か』
「さて、そう言う事ならお前の就職先も斡旋してやろう。ちょうど
「え?」
「何か不満でも?」
「いえ、滅相もございません!! あまりの幸運に思わず声が出ちゃっただけですから!!」
「あと、
そして現れる少年と大蛇の姿の二柱の悪魔。【アムドゥスキアス】と【アンドロマリウス】。
先程黒死ネキが事も無げにバラバラにした個体を、【
「えっと、よろしいのですか?」
「構わんよ。そいつらの霊基に爆破装置的なモノも仕込んでいるしな」
「「ちょ!?」」
「何だ? まさか無条件で解放されるとでも思っているのか?」
「……いや、そりゃそうだけどさぁ?」
「……いや、何も言うまい。ヒトの子の悪魔に対する対応としては、むしろ正しかろう」
│
│
│
│
│
│
│
│
│
│
「と、言う訳で面白そうな……もとい、使えそうな人材を拾ったから、お前の所で有効活用してもらいたい。頼めるか、九重 静?」
「経緯については理解しました。色々とツッコミ……もとい、確認したい事はございますが、黒死ネキ様の御推薦とあれば否やはございません」
「契約内容についてはそちらに任せるが……」
「ええ、心得ております。「人間性は奪うな」ですね。黒死ネキ様のお楽しみを邪魔するつもりはございません」
「結構。所属はそちらに設立予定の『暗部』になるか?」
「ええ、
「はい」
「貴女にはこれから九重家の『暗部』に所属していただく事になります。それにあたり、対外的には本名では無くコードネームを名乗っていただく事になりますが、何か希望はありますか?」
「ああ、それなら……」
この時、アルトリア・ジアロには己の内から湧き出て来た言葉があった。
言外に「そのくらいの希望は聞いてやる」と言う圧でもあったが、その時はすんなりと受け入れられた。
「自分は何と名乗るのか?」 その問い掛けに、ごく自然に『自分を奏でる』事が出来た。
「『
お読みいただき、ありがとうございました。
ええ、分かってるんです。『アークナイツ』の丸パクリじゃねーかと言う事は^^;
ヴィルトゥオーサのビジュがドストライクだったんで、彼女の解説動画とかを見て、それをメガテン風にアレンジした結果がこれです。
【アンドロマリウス】は名無しのレイ様の所で既に登場済みなので、【アムドゥスキアス】は作者の趣味で追加しました。
いや、だって楽器演奏に超級の才能持ちとか、「こいつを使え」と言わんばかりだったし(ォ
真面目に言うなら、『アークナイツ』の【壊死損傷】と【壊死爆発】をメガテン風に再現するなら【アムドゥスキアス】と契約して使えるようになったってのが良いかな~って。
書きたい事書いた挙句に特に削らなかったせいで文章量が増える増える。
次回こそは、黒死ネキとヴィルトゥオーサの極悪コンボを披露出来れば良いかな~って(ォ
Q:ヴィルトゥオーサの『演奏』ってバフなん? デバフじゃ無くて?
A:別に洗脳ミュージックじゃ無くて、やってる事は『対象者のやりたい事の後押し』ですんで。
単にやっちゃいけないと自制できなくなるだけだから、結果的に破滅してるだけ。
Q:【禁じられた言葉】って歌なん?
A:正確には呪言だけど、歌っぽくできない事も無いでしょ。
割と本気でアリ〇ロの宝野ア〇カ様あたりが歌ってそうなタイトルだし。
ウルト〇マンのメフィ〇ス回のサブタイ? 知らんなぁ(ォ
・黒死ネキ(この番外編の時期だと下層民)
いつも通り魚沼支部で九重 静から自分好みの依頼を受けて遊んでいたら、面白い奴が引っかかった……もとい、飛び入り参加してきたので上機嫌。
マジで良い演奏だったのでお気に入り登録した。 今回は『アークナイツ』の巫王様ポジ。
普通に生まれてからずっと『やりたい事』をし続けているし、特に不要な我慢もしていない。
ヴィルトゥオーサを自分の手元では無く静に渡したのは、一番上手く『使いこなす』と確信しているから。
・アルトリア・ジアロ(ヴィルトゥオーサ) (才能上澄み現地民)
交際指名手配犯。普通にテロリスト扱い。残当。
人の心は『自由』であるべきと言う信条を掲げている。洗脳とか巫山戯んな!!
母親の葬儀で色々と覚醒。以降、『強い心』に出会う為に頑張っていた。
で、黒死ネキとばったり出会って事故死。思ってたのと違う。
実は死を恐れるビビり。いや、それって普通では? しかし彼女の理想からは遠かった。
その事を指摘され、何気に多い修羅勢の存在を知り、身の程を弁えつつも、「それでもいつか」と改めて頑張る事を決意。黒死ネキにお気に入り登録されて就職先を(勝手に)斡旋される。
いつか『自分の名前を冠する曲』を奏でると決めている。
・九重 静(超有能政治家)
いつも通り黒死ネキに依頼を出したら、普通に有能な人材を拾って来られた。
経緯のツッコミどころが多すぎるが、引き取る事自体に異論はない。と言うか、現地民基準だと【アムドゥスキアス】と【アンドロマリウス】と契約している元ダークサマナーの手駒とか、美味しすぎる人材を手放すはずが無い。
ヴィルトゥオーサの人間性を無くさない程度にガッチガチに契約で縛る。内容的には妥当だから双方納得済み。
・【アムドゥスキアス】と【アンドロマリウス】(レベル30強くらい。零落しないで済むギリギリ)
美味しい契約者をGETだぜ!! 一応、こいつら72柱の中じゃ、まだ良識派だしギリセーフ。
別にヴィルトゥオーサを騙していないし、契約内容には誠実だった。
ヴィルトゥオーサの理想自体は別にどうでも良く、あくまで悪魔らしく自分の楽しみを契約の範囲で優先していた。当たり前だよね。
そして唐突に黒死ネキとバッティング。無理ゲーが過ぎる。
あっさりと殺され、「まぁ、こいつらなら別に良いか」と放流。ただし自爆装置付き。残当。
今後はこれまで以上にガッチガチに契約で縛られて、サマナー共々こき使われる予定。