【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~ 作:マカーブル
本作をお読みいただき、たくさんのお気に入り登録やご感想をありがとうございます。
誤字脱字の指摘等も、いつも助かっております。
作中の挿絵として画像生成AIによるイメージイラストを表示しております。
AIによる生成画像に不快感を感じる方はご注意下さい。
本作も先日、ついに10万UAを達成いたしました。
多くの皆様にお楽しみいただけ、誠に光栄です。
今後とも、本作をお楽しみいただければ幸いです。
ビッグウェーブが来てたから乗ってみた(ォ
本編がイマイチ筆が進まなかったので、気分転換も兼ねて、久しぶりに一話完結に出来そうなネタに飛びつく事にしました。
時間軸的にはもちろん未来の話。
あと、活動報告にも書きましたが、タイトルページをリニューアルしました。
良い感じにOSRに出来たと自画自賛。
合同で作った扉絵が実に厨二病。チャットGPT君、優秀。
どうしてこうなった?
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葛葉キョウジは根願寺随一の霊能者*1であり、最も誠実に自身と向き合い、対外的にも必死に努力し続けた人物である。
霊才は黒札には遠く及ばずとも、その人格や姿勢は多くの黒札の信頼を得るに至っている。
その結果、終末時には『救出した宮様のご家族の護衛』と言う大任を、ガイア連合から適任であるとの信頼を受けて押し付け……もとい、任される事となった。*2
具体的には、いくつかの霊的設備の引継ぎ書類と宮様のご家族への説明、新しい護衛隊の結成に設備更新のもろもろ。更にはいくつかの霊的装備の責任者も押し付け……もとい、任される事となっている。
ついでに言うなら、今まで通り全国の霊能組織と政治家のパイプ役、一般人への書類や説得仕事はそのまま継続だ。
割と本気で、彼の必死の努力と書類仕事ハンコマシーン化があって、この日本は救われたと言っても過言ではない。
そんな彼は護衛の戦力増強の為に、各地の黒札たちとの交渉に駆けずり回っていたが、結果は芳しい物ではなかった。
それはそうだろう。黒札の多くは『霊才が凄まじいだけの一般人』であり、皇室は存続して欲しいとは思っても面倒事は真っ平と言う者が大半を占めているのだから。
仮に官位で釣ろうとしても「なにそれ恐い、面倒」で断られて終わりだ。
そんな苦しい交渉を続けたキョウジだったが、ガイア連合 新潟県魚沼支部の九重家を訪れた際に、当主である九重 静の言葉から一筋の光明を得た。
それは、宮城支部の幼女ネキ*3に対して、「ライドウ就任認定」という名目を口実にして接触して、土下座外交して支援を貰うと言うもの。*4
キョウジも当初は「売官ではないか!!」と思わず激高したが、十四代目ライドウの戦友だった曾祖母やライドウの仲魔に認められている上、ライドウの愛刀を受け継いでる幼女ネキ以上に十六代目ライドウに相応しい者など居るはずも無く、「ライドウの名前を正しい継承者に受け継がせて、なおかつ支援をもらえる。それくらいに考えておいた方が精神的に楽」と諭され、「確かに……」と納得せざるを得なかった。
そう言った経緯もあり、九重 静のアドバイスに従いキョウジは宮城の地を踏んでいた。
宮城支部長であるレン子ニキにアポイントを取り、更にレン子ニキを経由して幼女ネキの嫁たちへと話を通して幼女ネキ本人へと繋いで貰う。
時間はかかったが、これは必要かつ話を穏便に進める為の手順だ。焦りは百害あって一利無しと我が身を律し、キョウジはようやく宮城支部へ訪れたのだった。
「申し訳ありません。幼女ネキは急用で一時この場を離れておりまして。恐れ入りますが、応接室でお掛けになってお待ちいただけますでしょうか」
「いや、お気になさらず。それでは私は待たせていただきますので、慌てずにお越しいただきたく」
いざ、幼女ネキと面会かと思っていた矢先の肩透かしであったが、宮城支部の事務員と社会人的な会話を交わしてキョウジは応接室へと足を運んだ。
何なら内心「これでちょっとは交渉が有利になったかな?」程度には思っていたが、もちろん表情には出さない。
そして、応接室へたどり着き、入室したキョウジを待っていたのは───
「ふむ、ここか……む?」
「おや、珍しい客だな」
───青い液体の入ったロックグラスを片手に、応接室のソファで寛ぐ一人の少女だった。
「幼女ネキ様の容姿ですか? 外見は幼い少女で、前髪を切りそろえた長い黒髪の、力強く鋭い赤い瞳の御方ですね。服装はシンプルな白いTシャツと黒いスパッツを好んでおられるようです」
そんな九重 静との会話を思い出しつつも、「不在ではなかったのか?」と一瞬思考が混乱する。
しかし、「急用とやらが早く済んだのか?」「もしや、これは自分を試す為の芝居か?」と思い直し、それならばこちらも動揺は見せずに、堂々と対応するべきだろうとキョウジは自身に喝を入れる。
「お初にお目にかかる、私は葛葉キョウジと申します。この度は貴女にお会いできる機会を得た幸運に感謝したいと思います」
「ああ、貴方が葛葉キョウジか。その名は私もよく耳にしている」
緊張感を覗かせつつも確りと挨拶をするキョウジに、少女も気負いなく応じる。
そして、キョウジは「さぁ、これからが
「この度は幼女ネキ殿の十六代目ライドウの就任を、根願寺として正式に認定する事となった旨を、遅ればせながらお伝えに参った次第。つきましては幼女ネキ殿にもライドウの就任に伴い、その称号の背景等もお伝えしたく……」
「ああ、そう言えばそうだったな。これで正式にライドウ襲名か。それで何が変わる訳でも無かろうが、区切りとしては良い事だろうな」
「はい、まずライドウの名には………………え?」
ここでキョウジは違和感を感じる。
おかしい。目の前の少女は自分の言葉にまるで他人事の様に応じている。
ライドウに就任するのは幼女ネキなのは間違いない。にも関わらず、目の前の少女はキョウジの言葉に興味はある様子だが、それを自分の事として受けているようには見えないのだ。
「どうした? それは幼女ネキに伝えるべき話なのは分かるが、私が聞いてしまっても良いのかな?」
「──────ッ!?」
別人!! 今、目の前の少女は明らかに自分は幼女ネキではないと言うニュアンスの言葉を発した!!
瞬間、キョウジの背中には冷や汗が流れ落ちる。表情も強張りそうになったが、こちらは必死に取り繕った。
そんなキョウジの変化を愉快そうな眼差しで眺めつつ、目の前の少女は軽く嗤って口を開く。
「ああ、そう言えば自己紹介が遅れていたな。私は幼女ネキの友人で、ガイア連合においては黒死ネキを名乗っている者だ。高名な葛葉キョウジ殿と出会えた幸運には感謝しなければならないな。ああ、コンゴトモヨロシクと言った所か?」
「────────────ッ!!??」
今度こそキョウジは言葉を失い、表情が強張るのを取り繕う余裕すら無くしていた。
黒死ネキ
ガイア連合の黒札の中でも指折りの危険人物。
殺し合いをこよなく愛する享楽主義者にして、ガイア連合の
強さを論じる際に、本人の〝戦闘能力〟よりも〝殺しの性能〟が先に挙がるような規格外。
九重家での静との「協力してくれそうな黒札に当てはないのか?」との会話の際にも、「黒死ネキ様は……キョウジさんのような方はやめておいた方が良いでしょうね。彼女を〝楽しませる〟自信はないでしょう? そもそも黒死ネキ様の霊能は非常に強力ではありますが、防衛に適しているとは言いがたいですし」と、きっちり忠告を受けているし、実際その通りだと納得している。
やってしまった!!
キョウジの脳裏を繰り返しよぎる、その言葉。
選りに選って最も危険度の高い黒札を相手に、人違いなどと言う無礼を働いてしまった!!
……いや、しかし……
「───ッ、とんだご無礼を!! 誠に申し訳ございません!!」
「ほう?」
キョウジは即座に土下座。自分よりも遥かに年少に見える少女に対し、大の大人が躊躇なく謝罪を行った。
その場を凌ぐ形だけのものでは無く、己の非を認め誠実に謝ると言う、本当の意味での謝罪である。
「私の思い込みで、黒死ネキ殿を幼女ネキ殿と勘違いし、あまつさえ、そのままこちらの都合をお伝えするところでした!! これは己の不徳の致すところ!! この通り、深くお詫び申し上げます!!」
そして、己の何が悪かったのかを伝え、反省の姿勢を貫く。
計算が無いとは言わない。己のミスを帳消しにしたいと言う思惑が無いとは言えない。
それでも、まずするべき事をしなければ話にならない。
そんなキョウジの必死の謝罪に対し、黒死ネキは───
「あはははははは。そうも真面目に受け取られては、こちらも許さざるを得ないな。ああ、気にしないで貰おう、キョウジ殿。そちらが人違いを謝罪すると言うのであれば、
「…………は? 仕向けた?」
───笑って自身の
「何、ちょっとした悪戯だよ。キョウジ殿が勘違いした通り、私と幼女ネキは外見が似ているようでな? 並んでみせれば体格も違うし間違えようも無いと思うのだが、そうで無ければ勘違いされる事も時々はあるんだ。今回は幼女ネキが急用で外す事になったから、偶々ここに来ていた私が場を繋ごうと思ってな。ああ、これは私の独断で、ここの事務員も幼女ネキも関知していないから責めないでやってくれ」
「……は、はぁ…………」
「さて、挨拶も済んだ事だし、悪巫山戯もここまでにするとしよう」
そう言って黒死ネキは軽く指を鳴らす。
次の瞬間、黒死ネキの姿は
幼女ネキに似せた白いTシャツと黒いスパッツ姿の少女の輪郭は黒い靄となって解けていき、影の様に形が有る様で無く、無かった形が確かな形へと再構成されていく。
時間して一秒にも満たない……どころか、一瞬ですらないかも知れない僅かな時間で、黒死ネキの姿は、普段の黒いフォーマルスーツ姿へと〝変化〟していた。
「……な、何と、これは……!?」
黒死ネキからすれば、普段使いしている【魔装術】由来の変化系のスキルに過ぎないのだが、キョウジからすれば自分の知識も認知も及ばない神業だ。
服装だけでなく、雰囲気すらも〝変化〟した様に思える黒死ネキを目にし、上位の黒札の規格外さの一端を味わう事となった。
「さて、私のこの行動は特に深い意味など無い。さっきも言った通り、幼女ネキが戻るまでの場繋ぎ。単なる暇つぶしだよ。酒でも飲みながら付き合ってもらえるかな、キョウジ殿?」
そう言って黒死ネキは〝変化〟前と変わらずに手にしていた、青い液体の入ったロックグラスを掲げてみせた。
「あはははははは、そう緊張しないで貰いたいな。これは本当にただの暇つぶしなのだからな。何なら、他の連中にもやってる様に私も宮家の護衛に勧誘してみるかね?」
冷や汗が止まらない。
目の前の十代前半程にしか見えない少女は、一体〝何〟だと言うのか?
威圧感などまるで無く、霊圧すらも感じられない。けれど、そんな筈が無い。それが何よりも恐ろしい。
だが───
「……御冗談を。お恥ずかしながら、私では黒死ネキ殿を〝楽しませる〟事は無理でしょう。私自身は貴女の興味は引けているのかも知れませんが、『私が提供出来る物』では貴女の興味を引けるとは思えません」
───ただ震えているだけにはならない。
「……ほう? なるほどなるほど。これは他の連中も信頼する訳だ。こうも
「…………」
「クククっ、失礼した。言い方が悪すぎたな。誤解しないで貰いたいのだが、私がキョウジ殿を買っているのは本当だ。何もかもが足りない中で最善を尽くそうとし続け、自分に出来る限界まで考え続け、立場から逃げずに今も必死に私と相対している。見事だよ、本当にな」
「過分な評価、誠に恐れ入ります」
「それだけに本当に残念だ。『貴方が出せる物』では私は楽しめないだろうと言うのも本当だからな。だから、この会話は本当に暇つぶしだ。だからもっと気軽に話そうじゃないか」
「……ええ、それが私に出来る最善ならば」
そして、短い時間ではあれど黒死と国士の会話は続けられた。
内容は意外と他愛無い物だ。
ガイア連合……と言うか、ショタおじからの無茶振りに必死で応えるキョウジの愚痴や、交渉に向かった先での黒札とのやり取り、黒死ネキお勧めの美味い酒の話等々……
そんな四方山話の最中、キョウジはふととある事に興味を覚え、黒死ネキへと質問する。
「そう言えば、先程から黒死ネキ殿が飲んでいる……匂いからして果実酒でしょうか? 私の知らない酒だと思うのですが、どのような味なのでしょうか?」
「ああ、これか? 味は異常に辛くてゲロ不味いぞ。毒性も強めで死ぬにはお勧めだな」
「はぁぁぁぁあッ!?」
「沖縄支部の特産品の一つでな、『
「……あの、何故そのような物を……」
「最初はネタで飲んでみたのだが、案外癖になってな? ゲテモノほど美味いと言うのは案外当たってると思うぞ。この前喰った【
「は、はぁ……」
駄目だ。やっぱり自分がこのバケモノを楽しませられるはずが無い。
黒死ネキ自身も、本当に「ちょっと興味のある奴と話してみたかった」だけの様だし、このまま当たり障りなく〝暇つぶし〟が終わるまで付き合えれば御の字だろう。
キョウジがそう思うのも当然の事であり、彼の判断は正しい。
そして、キョウジがそう思っている事は黒死ネキも当然気付いており、その事自体に腹を立てる事は無い。
キョウジのそう言う所まで含めて、評価しているからだ。
「そうそう、この『
「『力を求める者』が、この青い液体に自分の生き血を紫色になるまで注ぎこんで、それを一息に飲み干す事で、ある儀式を始める事が出来る」
「儀式、ですか?」
「儀式の内容は、三日三晩地獄の苦しみ……覚醒者でも確率で死に至る苦悶を味わう事だ。その苦しみを生きて耐え抜けば、大概何らかの加護……と言うか、追加覚醒や
「…………何と…………」
「折角だ。
話す内容とはあまりにもかけ離れた軽い口調。
毒である事を知らなければ、ごく普通にお気に入りの酒を勧めている様にしか聞こえないのが恐ろしい。
そんな気楽すぎる物言いで、黒死ネキは
何故半分なのか? 言うまでも無い事だ。
三日三晩の地獄の苦痛の先に待っているのは、確実な力ではない。
死ぬかもしれない。
それでも、生き残れば強くなれるかも知れない。
それは、実に分かりやすい危険な賭けだった。
「…………」
キョウジは、目の前に置かれた揺れる青い液体を見つめる。
分かっている。自分に力が足りていない事など。
霊才は黒札たちには遠く及ばず、彼らを羨んだ回数は千では足りない。
自分にもっと力があれば、とIFを思い描いた回数は万でも足りない。
自分にはやらねばならない務めがあり、守るべきものがある。
ならば、もしコレを飲んで、もし生き残れば、今よりも強くなれるのなら!!
そう考えてしまう自分を否定する事は出来なかった。
「……魅力的な話ではありますな」
「ふむ」
「正直に申し上げれば、心が揺れております」
「…………」
キョウジのその言葉に黒死ネキは何も言わない。
ただ、面白そうにキョウジを眺めている。
「私には黒札の皆様方の様な力はありません。それは私自身が一番理解しております。それだけに、力を得られる可能性が有ると言われれば……心惹かれるものが無いと言えば嘘になります」
「だろうな」
「しかし…………」
ここでキョウジは一度深く息を吐き───
「私は、これを飲むべきではないでしょう」
───その言葉をはっきりと述べた。
「理由を聞いても?」
「不確かな賭けだからです」
即答だった。
「生き残れば力を得られる。だが、死ぬ可能性も高い。生き残ったとしても三日三晩苦しむ……つまり、その間は何も出来なくなる。それは、私が現在抱えている務めも、私に仕事を押し付け……もとい、私を信じて任せて下さった方々への責任も、全て放り出す事になるでしょう。仮に死んだ際に蘇生の秘術を用いて生き返れたとしても、それは変わらない」
「…………」
「力が足りないからこそ、私は自分に出来る事を積み重ねなければならない。そこで一か八かの賭けに出るのは、事実はどうあれ現実逃避と変わらない。それは、私の望むところではありません」
そして、キョウジは青い液体から視線を外し、それまで目を合わせるのを躊躇していた黒死ネキへと向き直り、確りと彼女と目を合わせる。
「申し訳ありません。折角のお誘いですが、今回は遠慮させていただきます」
「…………」
黒死ネキはしばらく何も言わなかった。ただ面白そうな表情でキョウジの目を見返しているばかりだ。
やがて───
「クククっ」
───小さな笑い声が漏れる。
「なるほど、なるほど。いや、やはり貴方は興味深いな、キョウジ殿」
「そう……でしょうか?」
「ああ」
そう言って、黒死ネキは手にしたロックグラスを口元へ運び、あっさりと『
「自分に足りないものを理解している。それを補いたいと考えている。だが、それでも自分の立場と責任を忘れるほど愚かではない」
「…………」
「力が欲しいと言う渇望そのものを否定する訳でもない。ただ、己の優先すべき事を理解している」
黒死ネキの赤く鋭い瞳がキョウジを真っすぐに見つめる。
「見事だよ、キョウジ殿」
「私には過分な評価です」
即座に謙遜で返すキョウジに対し、黒死ネキは愉快そうに笑い応える。
「自分の限界を理解し、その上で最善を尽くそうとする人間は、私は嫌いではない」
「…………」
「むしろ、好ましいと思っているよ」
「───っ!?」
黒死ネキの言葉にキョウジは僅かに目を見開くが、黒死ネキはそれ以上は語らなかった。
そして、代わりとでも言う様に、応接室のテーブルに置かれていた一本の酒瓶を手に取る。
透明な瓶に入った青い液体が鮮やかさと同時に禍々しさを醸し出すそれは、まだ未開封の『
「さて」
「……?」
「土産だ。持って帰ると良い」
「え? いや、しかし……」
「別に飲めとは言わんさ。これでもそこそこに手間のかかったオカルト酒だ。売ればそれなりの金になるし、中身を考えれば
「むぅ……」
キョウジは黒死ネキの持つ酒瓶を見つめる。
先程まで自分が飲むかどうかで本気で悩んでいた代物だ。
それが今、自分への土産として差し出されている。
「しかし、これは……」
「私は人にやれる程度には持っているし、気に入った相手に土産を渡す。それだけの事だぞ」
「……では、ありがたく頂戴いたします」
「ああ」
キョウジは両手で酒瓶を受け取るが、その表情は喜びよりも恐縮や困惑と言った色が強かった。
貰った物が物なので、当然といえば当然なのだが。
「ああ、そうそう。もし売るのなら私から貰ったなどと吹聴しない方が良いぞ」
「……理由を伺っても?」
「馬鹿が湧く」
「………………は? ……ああ、いや、そう言う事ですか」
超高位の黒札から贈答品。
たとえそれが何でもない物であろうと、その看板自体に寄って来る愚者はいくらでも湧くのだ。
ガイア連合との付き合いも増えてきた事で、キョウジもそれを理解出来ていた。
「理解が早くて結構な事だ。まぁ『私から貰った酒』などと聞いて、怖いもの見たさで飲みたがる馬鹿も湧くかもしれんが、そう言う奴にはこう言ってやれ───」
そして、黒死ネキは一拍置いて、笑いながら言った。
「───死にたければ勝手に飲め、とな」
その言葉に遠い目をするしかないキョウジ。
この短い時間で、この少女ならそう言う事を言うだろうし、実際に言われても納得しかないと実感出来てしまっている。
「……本当に、貴女らしいお言葉ですね」
「そうか?」
「はい」
「あははははははははは」
何がツボに入ったのか、黒死ネキは今日一番楽しそうに笑う。
その表情は、残念ながら割と邪悪に寄ったものなのだが。
「さて、私はそろそろ失礼させてもらうとしよう。幼女ネキも戻ってくる頃合いだしな」
「本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、今日は楽しませてもらった」
そう言って、黒死ネキはソファから立ち上がり応接室の出入り口へと向かい、ドアノブへと手を掛ける。
しかし、ふと思い出した様に振り返りキョウジへと話しかける。
「そうそう、キョウジ殿」
「はい?」
「今度会う時は───」
黒死ネキの赤い瞳が愉快そうに細められる。
可憐な口元が口角を歪めながら持ち上がる。
「───もっと楽しめる話が出来れば良いな」
「……………………」
キョウジは無言で固まった。
それは、果たして何を意味する言葉なのだろう?
単純に、本日の様な他愛無い雑談の続きを望んでいるだけなのか?
それとも?
黒札の中でも、指折りの危険人物である彼女にとっての「楽しめる話」とは?
何か、もっと物騒な案件を持ち込めという意味だと言うのか?
判断がつかない。……と言うか、したくない!!
「……努力、致します」
結局、キョウジにはそれ以外の返答などしようがなかった。
「ああ、期待しているぞ。ではまたな」
それでも、黒死ネキはキョウジの言葉に満足そうに笑い、別れの言葉を告げる。
そして、応接室の扉は閉じられ、二人のやり取りは終了した。
「…………」
キョウジはしばらくの間、閉じた扉から目を離せなかった。
「……今のは、どちらの意味だったのだろうか?」
答えは出ない。思考が堂々巡りになる。
普通の世間話をもっとしたいと言うだけならば、黒札とのコネ作りと言う意味ではありがたくもある。
だがもし!! もしも!!
「次は楽しい殺し合いが出来るような話を持って来てくれ」
と言う意味だったなら!?
「ぬぐぅぅぅうう……」
キョウジは胃の辺りを抑えつつ、必死に考える。
自分に出来る「面白い話」とは何だ?
まさか、自分に黒死ネキが命懸けで楽しめるような依頼を探して来いとでも言うのか!?
黒死ネキが本気になれる様な相手など、それこそ、どこぞの神霊でも釣って来いでも言うのか!?
いやいやいやいや、流石にそんな訳はない筈だ。……いや、しかし、黒死ネキだぞ?
あり得ないとは言い切れない。いや、言い切ってくれよ!!
だが、先程の会話を思い返す限り、彼女は自分の仕事ぶりそのものを評価してくれていた。
ならば、単純に、次に会った時も本日の様な話をしようと言う意味なのかも知れない。
……いや、ならば何故、あれほど含みのある言い方や笑い方をすると言うのか!?
「……考えても分かる筈が無いか……」
キョウジは考える事を諦める。
分からない事を無理に考え続けるのは良くない。
今は、目の前の仕事に集中するべきだろう。
そう結論付けて、次はテーブルの上に置かれた物騒極まりない青い液体の入った酒瓶へ視線を落とす。
「…………どうしてこうなった?」
胃が痛い。
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その後、急用を片付けて遅ればせながら応接室へやって来た幼女ネキが見たものは……
① 真面目な表情でソファに姿勢良く座って待機している葛葉キョウジ。
② ……の、前のテーブルに置かれている中身が空になった酒瓶とロックグラス。
「は?」
以上の状況から求められる答えは……
「(こいつ、まさか私が来る前に酒盛りでもしてたのか?)」
「何を想像されたのかお察しいたしますが、誤解ですのでご説明をさせて戴きたく」
そして、キョウジの説明、即ち、黒死ネキの暇つぶしを知った幼女ネキは───
「いや、何勝手な事してくれてるんだ、あのクソガキ!?」
───頭を抱えて天を仰ぐのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
すげぇな、二日で一万文字近く書けちゃったよ(マテ
やはり、思いついたネタは速やかにSSにして皆で楽しむのが正しい三次創作、はっきり分かんだね!!
本編がちょっとスランプ気味なんで、今回は良い気分転換になりました。
キョウジさんが良いキャラしてるんで、ウチの子とも絡めやすかったですね。
なお、キョウジさんの胃w
勝手に幼女ネキの所に乗り込んで、応接室で好き勝手に酒盛りするな?
だって黒死ネキだし?(マテ
『
そして、キョウジさんならこんな不安定な物、惹かれはしても手出しはしないでしょうし、そう言う所も含めてお気に入りに。
話は変わって、前書きでも書いた通り、タイトルページをリニューアルしました。
以前よりもOSRに出来たと思うので、良ければ扉絵の感想なんかも頂けると嬉しいですね^^
・黒死ネキ(いつも通りの愉快犯)
弱くても自分に出来る事を頑張る人は、普通に好ましく思っている。
と言うか、自分の今世の両親がまさにそのパターンで、結果的にニャルを出し抜いて勝利するまで行ったし。
キョウジに出せる物で自分を楽しませられるとは思っていないが、それはそれとしてキョウジ自身は面白いと思っているので普通に絡む。
キョウジの胃? 知らんなぁ?
・葛葉キョウジ(胃痛枠)
ガチで頑張ってる人。
ただまぁ、彼の望むような協力は、黒札は尻込みするのは致し方ないよネ!!
基本的にどいつもこいつも、権威とかノーサンキューだし?
今話で黒死ネキからお気に入り登録されちゃったので、今後も胃痛枠なのは確定だ。
けどまぁ、滅多に合わないだろうし大丈夫でしょ、多分。
・幼女ネキ(急用で出かけたばっかりに)
自分のところの応接室で酒盛りをされる。
文句を言いたいが場を繋いでくれたのは事実だし、下手に黒死ネキを追及しに行くと、言葉巧みに殺し合いに持って行かれると分かっているので迂闊に動けない。
マジで質悪いな、あのクソガキ!!