【カオ転三次】酒と葉巻と病と死神 ~みんな楽しく踊ればいい~ 作:マカーブル
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今話は、どくいも様 作 『カオス転生ごちゃまぜサマナー 外伝 某イタコ長老・大雑把な人生』の背景設定を元に、本作独自の展開を加える形で書かれております。
先に元ネタ様を読了の上でお読みいただくと、より「ああ、そう言う事」とご理解いただけると思います。
この世界における第二次大戦。
その裏側で行われていた呪術戦。
悪魔召喚や呪詛、霊的兵器の運用。
その結果、日本はメシア教による大規模な介入の大義名分を与える事となり、戦後になってから、日本各地に存在していた霊能者の家系が急速に衰退した事も、この場にいる全員が知っている。
霊才を持つ者を狩り、家系そのものを潰し、残った者たちを恐怖によって従わせた。
この世界では、それもまた歴史の一部だった。
そして───
「恐山も、それに巻き込まれた、って言う事だね」
───見所ニキの言う通り、恐山もその例外ではなかった。
「巻き込まれた、って言うより……巻き込まれざるを得なかったみたいだよ」
その声に、当事者でこそないものの、生まれてから今日に至るまでの14年間を恐山で過ごしたカス子ネキが応じる。
いつもの軽い調子だったが、その声には少しだけ土地の者らしい重みが混じっている。
「
「それって、孤児院みたいな?」
「そんな単純なもんでもなくてさ、身寄りのない子とか、家に戻せなくなった子とか、霊感が強いせいで普通の所じゃ扱えない子もいたらしいしよ。そんで、恐山で面倒を見る、修行させる、場合によっては、外の家に引き取られる。そう言う流れもあったみたい」
アーパーネキの疑問に答えつつ、カス子ネキもまた『拾われた孤児』の一人であった為、実感を持って話を続ける。
ハッキリ言って、今の恐山は名門とは名ばかりの零細組織だ。
才能のある子を外へ出してやる余裕などある筈も無い。何せ、
だが、戦前までの恐山は〝そう〟だった。ただ死者を弔う場所と言うだけの地ではなかった。
「その話は恐山のイタコたちから聞いたのかしら?」
「うん。婆様方から聞いた、アタシは実際には知らない時代の話。戦争が酷くなる前までは、そこそこ人もいたらしいよ? けど、戦争が始まってからは色々変わったみたい」
おぜうネキの言葉にも答えつつ、自身も恐山の長老衆から聞いた話だとカス子ネキは語る。
初めて聞いた時は、胸糞悪くなって「ああ、アタシもまだヒトデナシって訳じゃなかったんだ」と変に納得した話を。
「昔さ、今の長老の幼馴染で、すっげぇ優秀なイタコがいたんだって。まぁ、アタシほどじゃないにしても、霊才が凄まじかったらしくて、
内容としては先ほどまでの世間話の延長だ。
「で、その人は当時の葛葉家……だっけ?
カス子ネキの歩調が少しだけ緩む。
名家に嫁いだ元イタコが、
その意味を察せぬ者はこの場には居ない。
「婆様もさぁ、そりゃ怒ったみたいだよ? だって、これって
「……それで、その人は……」
「遺言が交霊術で届いたんだって。何て言ってたかまではアタシも聞いてないかな。そんで、こっからがこの先の『大異界:恐山』と直接関わるかもしれない事なんだけど……」
そう言って、カス子ネキは間を空ける。胸糞話など、出来るものならしたくもないが、必要な情報だ。
「そのイタコの娘さんに、日本の敗戦が確定した後に、『最後の作戦』って名目で、ヤタガラスから葛葉に招集がかかったんだってさ。見え見えの罠じゃんね。けど、娘さんは行っちゃったんだって。母親を助けるんだって、必死に止めようとした婆様を半殺しにしてさ」
話を続ける間も、もちろん一同の足は止まらない。
『大異界:恐山』までの距離はそう遠くはない。
「で、結果はもう皆予想出来てるんじゃない? メシア教の靴を舐めた根願寺の連中が、生き延びるために言いなりになってましたってオチ。あいつら、この頃からワンパターンって訳」
「───っ」
「で、娘さんは帰って来なかった。後は知っての通り、GHQとメシア教主導の日本の霊能名家の根切り。その手が恐山にも伸びて来たんだけど……その時、一匹の【天使】がいたんだって。
軽い口調で続けるカス子ネキだが、格上だらけの他メンバーは、その言葉に含まれる様々な感情も正確に読み取っていた。
「うちの祭神様もさぁ? 最初は耐えたらしいんよ。「自分が抵抗せずに封じられれば、氏子たちは殺されずに済む」ってさ。……で、素直に応じてりゃ、あっちも被害ゼロで済んでたのに、要らん事すんのが頭メシアな連中だよね。「素直過ぎて怪しい。検証しよう」とか言って、イタコらに手を掛けたんだって。『悪魔に穢された、血肉をそぎ落とす神聖な浄化の儀式』だってさ。寝言以下じゃん、マジで」
「「「「「…………」」」」」
軽い口調は変わらないが、既に自身の感情を隠し切れなくなっているカス子ネキ。
それを理解しているが故に、他メンバーも黙って話を聞き続けている。
「で、祭神様、マジギレよ。
「で、その
「『
戦中戦後に恐山で起きた出来事を、カス子ネキが語り終え、シエラ婆の確認を受け、黒死ネキが感心したように独り言ちる。
山梨は星霊神社の魔界へ通ずる修業場異界とは比べるべくもないが、それでも『大異界』の名を冠するに相応しい異様さ。
単に規模相応のレベルの悪魔が湧いているだけに過ぎない中小の異界とは根本的に異なり、何らかの法則、仕掛け、ルールによって成立、構成されているのが大異界だ。
攻略には単なる力ずくではなく、時として複雑怪奇な立体パズルを解明する様な手腕を求められる事もある。
もっとも───
「ぶっちゃけ、この面子が本気出すなら、力ずくでぶっ飛ばせない事もないと思うけどね~?」
「それやっちゃったら、肝心の恐山ごと消し飛ばしちゃうでしょ。最後の手段にとっときなさい」
「そうだぞ? 折角の大異界なんだ。滅多にお目にかかれない楽しみもあるだろうしな」
「うん、分かってたけど修羅勢上位陣が頼もしすぎて、危機感がマヒしそうだよね」
「そう言う感覚は大事じゃぞ? 努々忘れる事無く励むと良い」
「あの~……一応ここ、アタシの地元だから、普通に攻略して原形残す方向でヨロシク」
───それでこの厨パをどうこう出来るかどうかは、当然だが別の話なのだが。
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ついに、この日が来た。
それなりに長い時間を、この地で過ごしてきた。
外の世界が幾度も移り変わろうとも、ここだけは変わらない。
死を拒み、終わりを拒み、ただ静かにその時を待っていた。
いつか、必ず訪れるものを。
そして、それは前触れもなく現れた。
この地の一角が、黒く染まった。
無数の【穢れ】が渦を巻き、奔流となって大地を覆い尽くしている。
触れたものから順に、形を失って死んでいく。
死が、あまりにも容易く広がっていく。
それを引き起こしているのは、一人の少女だった。
小柄な身体。長い黒髪。赤い瞳。
その姿だけを見れば、ただの美しい少女にしか見えない。
だが、その周囲にあるものが違った。
彼女が歩くと、それだけで全てが黒く染まった。
彼女が手を振ると、それだけで全てが死に絶えた。
この地を埋め尽くさんばかりの【穢れ】が、まるで彼女の意思そのもののように蠢いていた。
なるほど。そう言う事だったのか。
胸の奥で、眠っていた確信が目を覚ます。
世界が終わる時。最後に訪れる者。
生者の時代が終わり、死者の時代へと移り変わる、その境目。
その到来を告げる存在。
ああ、自分は、ずっと待っていたのだ。
その者が来るのを、この地で、ただ待ち続けていた。
なのに、実際に目にしてみれば、それは、あまりにも小さく美しい少女だった。
だが、そんな外見など些細なことだ。
あの【穢れ】。
あの死の奔流。
あれほどのモノを従える存在が、ただの少女であるはずがない。
あれこそ、かつて聞かされた終焉の兆し。
世界の終わりを告げる者が、巨大な怪物である必要などない。
否。むしろ、そうでなくてはならない。
終焉とは、いつだって静かに訪れるものなのだから。
彼女が放った力によって、悪魔も異界も、全てが黒く崩れ落ちる。
その光景を見つめながら、確信した。
やはり間違いない。ついに来たのだ。待ち望んでいた、その時が。
ならば、自分がするべきことは一つ。
彼女をこの地で迎える事だ。
終わりを共に待ち、そして、その先へ。
死を越えた世界へと。
誰も失われる事の無い世界へと。
永遠に生き続ける者たちの国を。
その礎を、この地に築くのだ。
それなりの年月を待った甲斐があった。
ようやく。ようやく、来てくれたのだ。
自分が待ち続けた、その存在が。
彼方から響く、無数の死の気配を聞きながら。
静かに、来訪者を迎える準備を始めた。
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一歩足を踏み入れる。それだけで、この場所の異常さを肌で感じる。
現実の恐山は、青森県下北半島の山中に広がる、荒涼とした独特の景観を持つ霊場である。
白い火山岩が広がる地獄谷には硫黄の匂いが漂い、あちこちから噴気が立ち上る。
その一方で、宇曽利山湖は青く澄んだ水を湛え、周囲の荒々しい大地との対比が印象的とされている。
この場所も、そんな『恐山』を連想する風景である事に変わりはないが、
肌を撫でる風には冷たさとは別の何かが混じっており、鼻腔を刺激する臭いもない。
目に見える異常もないが、周囲の景色そのものが、どこか噛み合っていない。
「……何が、とはハッキリ分からないけど、今までの中小異界とは全然違うって事は分かりますね」
「そうね。単に異界があるってだけじゃなくて、異界の法則が土地に染み付いてる。そんな感じかしら?」
「それだけなら、他の大異界でもありそうだけどね~。けど、ここのは……何か嫌な感じね」
見所ニキが自分の感じた違和感を口にし、おぜうネキがそれに応じる。
アーパーネキは二人の言葉を受け、軽い調子とは裏腹に、周囲の変化を探っていた。
「同感じゃな」
そう言ってシエラ婆は、軽く地面を蹴り返って来る感覚を確かめ、その不自然さに目を細める。
「異界そのものが、何かを抱え込んでいるようじゃな。それが何かまではまだ分からんが……」
「……ふむ、案外すぐに分かるかも知れんぞ?」
そんな黒死ネキの言葉に、一同は彼女の目線の先を見る。
少し先の枯れた木のそばに、『
「……いや、あれ、何?」
『
白かったはずの翼は泥と血に汚れ、幾枚もの羽根が千切れたまま垂れ下がっている。
身体には幾つもの傷が刻まれ、腹部などは大きく抉れていた。
まともに立っていられるような状態ではない。それでも、歩いていた。
一歩。また一歩。足を引き摺り、身体を傾け、それでもこちらへ近付いてくる。
傷口から零れ落ちるものはあっても、それが生命活動の停止に繋がる様子もない。
かといって、傷が塞がる気配もなかった。
ただ、壊れた身体を壊れたまま引き摺りながら、それでも前へ進んでいる。
その姿には、生きている者にあるはずの瑞々しさも、死した者にあるはずの静けさも無かった。
まるで大地そのものから、歩き続ける事だけを強いられているかの様に見えた。
「「「「「「………………」」」」」」
異様な光景に、一同の間に僅かな沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのはチームリーダーのシエラ婆だ。
吸血鬼の異能の一つ。対象の生命力を直接目視出来る権能を通して察知した不自然さを口にする。
「……妙じゃな。あやつ、単に天使製のゾンビの様な単純なモノでは無いぞ。あの様で生きておる。じゃが、死に向かっている訳でもない。傷口も治りも悪化もしておる様には見えぬ」
「普通なら、とっくにぶっ倒れて何も出来なくなってるダメージじゃんね? 『人形』になってるって訳でもないよ。それは
「……この異界のルールがアレの原因、なんですかね?」
「多分そうじゃない? 流石に『答え』はまだ分からないけどね」
『チーム吸血姫+2』の面々が答えを探ろうとした、その時だった。
「ア……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア"ア"ア"ア"ア"ア"ーーーー!!」
【天使】が顔を上げ、奇声をあげ、濁った瞳が一行を捉える。
次の瞬間、それまでのゾンビじみた挙動からは考えられない程の速度で、一行へ向け飛びかかって来た。
……が───
「何にせよ、まずは味見だな」
───そう黒死ネキが言い終えた時には、『
勢いを失った身体が地面へ倒れ、頭部が身体から少し離れた場所へ転がっていく。
本来ならこれで終わりだ。
『
「ア……アアア……」
地面に転がった首が、僅かに動いた。
「…………え?」
カス子ネキが目を丸くする。自分の
そして、『
地面に倒れたまま、何かを求めるように指を蠢かせている。
「いやいや、トモリに首を飛ばされてるのにコレなの?」
「ふむ? 特に大した概念も込めずに、普通に斬っただけではあるが……」
若干引き攣った声をあげるアーパーネキに対し、興味深い観察対象を見つけた様な声で黒死ネキは応じ、そのまま地面に転がっている『
濁った瞳が黒死ネキを見て、何かを訴えるかの様に裂けた口が開閉している。
「やはり、この様でも死んでいないな。殺せていればコイツの魂が持っている情報は私が蒐集出来ていた訳だが、
そして、黒死ネキは面白い観察、実験対象を見つけた様な表情のまま、訝しそうな表情をしているアーパーネキの方へ向き直る。
次の観察と実験のためだ。
「アーパーネキ、
そう言ってバレーボールでも放り投げる様な気軽さで、持っていた『
アーパーネキも素直に受け取り、同じくバレーボールでも扱うかのように数回手の上で放り上げて角度を調節する。
もちろん、
「普通に壊すつもりで殴れば良いのね? それじゃ、行くわよ。せーのっ!!」
斜め上から地面に向かう角度で放たれたアーパーネキの拳は、『
のみならず、その拳圧だけでも拳の向いた先の地面を大きく抉り取っていた。十分過ぎる威力だ。
「うん、普通に壊れたわね。特に変な所も感じなかっ…………「ア゛」…………え?」
「「「「「「………………」」」」」
全員が無言になる。
文字通り木端微塵になった頭部は、原形など留めていない。
それでも、活動を停止しない。
「……黒死ネキが試したのって、こう言う事? アルクに殴らせたのは、〝普通に殴れば普通に壊れるかどうか〟の確認よね?」
「そう言う事だな。アーパーネキの権能*1でも〝死ななかった〟のは、〝殺す〟ではなく〝壊す〟を狙った行動に対する
「ふむ、逆に言うなら何らかの手段で〝確殺〟しなければ、『
「あー、そう言う? それじゃあ、『
「パイセンら四人が、すげぇテキパキと異界のギミックを解析してる件について」
「……強さも経験も知識も段違いって事なんだろうね。俺らも見習おうか」
「うん、見所ニキもホントにそこはブレ無いんだよね。知ってた」
「……つまり、こういう事かしら?」
おぜうネキが、
「この異界は、単純に〝死なない〟んじゃなくて、死に至る因果そのものを、どこかで止めている」
「加えて、傷も治らない。さっきの『
「だとすると……『死に至らせない』と『回復を許さない』。二つのルールがセットになってる感じ?」
「多分な」
シエラ婆とアーパーネキの考察を受け、黒死ネキが砕けた頭部だったものを眺めながら頷く。
得られた実験結果とは裏腹に、心なしか愉快そうな声色だ。
「生きる事も、死ぬ事も、治る事も出来ない。……随分と愉快な場所だな」
「要するに、攻撃を食らったら最後、壊された状態がずっと残るって事ォ?」
「その可能性が高いね」
カス子ネキのゲンナリとした言葉を受け、見所ニキが周囲を見渡す。
『
「じゃあ、これ……無傷で攻略しないとヤバいって事よね?」
「そうなるじゃろうな」
「まぁ、大異界なんだし? この程度のギミックはあるでしょ。ああ、こう言うのって縛りプレイって言うんだっけ?」
「お主は本当に楽しそうじゃの?」
「だって、ここって、そう言う場所なんでしょ?」
「……まあ、そうじゃな」
死ぬ事が出来ずに、受けた傷の回復も出来ない。
そんな悲惨な末路が約束されているような大異界のルールを、「縛りプレイ」の一言で済ませて面白そうにはしゃぐアーパーネキに対し、元気な若者を見る年長者としての苦笑を浮かべるシエラ婆。
確かに厄介なルールではある。
だが、この場にいるのは、その程度の条件ならば真正面から攻略してしまいかねない連中だった。
「あ、そう言えばさぁ? アーパーネキの権能って、『世界側が勝手に最適解を出す』なんだよね? 〝殺すつもり〟で殴ったら、『
「あ、それは俺も気になってた。何か理由でもあったんですか?」
「ああ、それ? アルクの権能は確かに便利なんだけど、今回実験しなかったのは、下手したら私たちに不都合な結果になるかもしれないからよ。
「「はぁ!?」」
「『
「仮に上手くいっても、おぜうネキの言った通り、下手をすればワシらが中にいる状態で、この大異界ごと崩壊、などと言うオチになり兼ねん。
「はぇ~……マジかぁ。流石に万能って訳でもないんだね」
「あれ? そうすると、アーパーネキはどうやって殴って良いのか悪いのかを判断してるんです? 融通が利く訳じゃないんですよね?」
「え? そう言うのって何となく分からない? これって、殴ったら不味いんだろうな~? って分かるわよ?」
「「………………まさかの天然判定だった」」
便利すぎるが融通の利かない、アーパーネキの権能『星の息吹』。
下手に壊したり殺したりの最適解を実行するのが、不都合な結果になる様なケースも当然ある。
では、当のアーパーネキ自身は、どうやってそれを回避していると言うのか?
応えは単純。
アーパーネキが「殴らない方が良い」と言う気分になる様に、
結果として、アーパーネキは「何か、殴らない方が良い気がする」程度の感覚で、最適解を選ぶ事となっているのである。
他の『主人公』を
カス子ネキも見所ニキも、ここまでの異常さである事までは気付かずに、単に「アーパーネキの天然判定が凄い」と勘違いをしているのだが、結果的には変わりはないのであった。
「さて、この大異界のルールも概ね把握出来た事じゃし、先へ進むとするかの」
シエラ婆の言葉に一同が頷き、『
『
そして、一同が先へと足を向けようとした、まさにその時───
「お待ちしておりました」
───突如として上空より、そんな声が響いた。
「お待ちしておりました」
頭上から降ってきたその声に、全員が反射的に空を見上げる。
いつの間にそこにいたのか、灰色の空、その僅かな切れ目から差し込む光の中に、一人の女が浮かんでいた。
長い黒髪は背中まで真っ直ぐに流れ、その先だけが僅かに結ばれている。
身に纏っているのは、赤と黒を基調とした巫女装束。
その背から伸びるのは、純白の巨大な翼。
空中に立つようにして静止したその姿は、妙に堂々とした威厳を纏っており、整った顔立ちは、成人した女性のもの。
そして、その青く澄んだ瞳は、この場には似つかわしくないほどに美しい。
神聖さを演出するような翼も、巫女の様な装いも、空から見下ろすような立ち位置も。
その全てが、あまりにも「自分こそが、この異界の主役である」と言わんばかりだった。
女は、こちらを見下ろしたまま微笑み、口を開いた。
「初めまして。私は【大天使 ゼタル】。不死を司りし大天使です」
その言葉に、数人の視線が僅かに動く。
先程まで確認していた、この異界の二つの異常。
『死に至らない』『傷が治らない』
そして、その異常を象徴するような存在が、今こうして目の前に現れた。
ならば、「こいつがこの異界の主なのか?」 そう考えるのは自然な事だった。
だが、【ゼタル】はそんな一行の考察など意に介さず、ただ一人だけに視線を向けている。
【ゼタル】にとっての待ち人であり、その正体を【ゼタル】なりに確信している人物。
黒死ネキだけを見ていた。
「ようやく、お会い出来ました」
その青い瞳に、喜色が浮かぶ。
そして、その口から告げられたのは───
───そんな、祈りにも似た言葉だった。
「「「「「「……………………」」」」」」
沈黙。そして静寂。
ほんの僅かな時間ではあったが、それは この場にいた者たちにとって、それぞれ違った意味を持つ沈黙と静寂だった。
最初に反応したのは、修羅勢の三人。
シエラ婆は、その目が僅かに細くなった。
おぜうネキは、ほんの少しだけ肩を竦めた。
アーパーネキに至っては、何とも言えない顔をしている。
その三人に共通していたのは、驚きよりも───
───そんな、妙に慣れた反応だった。
一方で。
カス子ネキは、その目が大きく見開かれた。
見所ニキは、思わずと言った様子で黒死ネキへと視線を向けている。
そこに浮かんでいるのは、明らかな驚き。そして僅かな納得。
それは、意外ではあるも、予想出来てもいたからこその反応。
つまり───
───そんな、驚きである。
対して、当の黒死ネキは、面白そうな表情で【ゼタル】を見つめる。
「…………」
青い瞳。白い翼。巫女装束。
そして、こちらを見つめる確信に満ちた表情。
「なるほど。そういう事か」
どうやらこの天使
まぁ、無理もない。
自分の根源については、今までも
前世の記憶を持ち、『ATLAS作品』に関する知識まで有している一部の転生者たち。
しかも、ガイア連合と言う、そう言う話題を酒の肴にする連中が山ほどいる組織に所属しているのだ。
自分の様な目立つ存在の本霊や根源について、何の話題にもならない方がおかしい。
当然の様に、ネットの掲示板には専用スレッドが立てられ、自分以外にも「あいつの本霊や根源は何なのか?」と言った議題が、尽きる事無く湧いて出ているのである。
「……ククッ」
黒死ネキは、ほんの僅かに口元を歪める。
訂正する必要はない。別に、困る訳でもない。
わざわざ自分から正解を教えてやる義理もない。
何より、
ならばこのまま、こいつが一体、自分を何だと思い込んでいるのか。
しばらく観察してみるのも悪くない。
ゼタルは、そんな黒死ネキの笑みをどう受け取ったのか、嬉しそうに僅かに目を細めた。
まるで、長い年月を待ち続けた願いが、ようやく叶ったかの様に。
「ようこそ、未来の千年王国へ」
【ゼタル】の静かな声が、異界に響く。
黒死ネキはその声には答えずに、ただ面白そうに【ゼタル】を見上げている。
その瞳に浮かぶのは警戒ではなく、純粋な好奇心。
「(さて、こいつは私を何だと思っているかだが……まぁ、物言いからして大抵の奴らの『本命予想』と同じだろうな)」
どちらにしろ、答えを聞くのは、もう少し先でも良い。
そして、恐山の空に浮かぶ大天使と、死を纏う少女、二人の視線が、静かに交差する。
その意味を、この時点で正しく理解していた者は、この場には誰もいなかった。
ただ一人、黒死ネキだけがこの状況を、心底楽しんでいた。
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お読みいただき、ありがとうございます。
はい、前回の投稿から三週間以上。随分と間が空いてしまい、申し訳ございません。
理由? チャッピー君にハマって、今まで出来なかったタイプの画像生成に寝食忘れてたからですね(ォ
スマホアプリだと、どうしても「2キャラ以上の同時描写」とか、「背景の細かい指定」とかが上手くいかないのですが、今回、それも含めて可能になりました。
他作品の作者様の何名様かにも、タイトルロゴなどを勝手に作ってお送りさせていただきましたが、お気に召して頂けたかな?
物語の方は、いよいよ黒死ネキの根源の公開が近づいております。
皆様に予想していただけているかな?
それに伴い、『良くある勘違い』も作中でメタネタ的に披露。絶対一回はアレが本霊だと思うよね?w
【大天使 ゼタル】については、まず真っ先に「マイナー過ぎんだろ」と言う感想になると思われます。つか、私もそう思いますw
ネームド天使って、それぞれが司っている属性とかあるから、黒死ネキと絡んで貰えそうな属性持ちから逆算した結果、『不死を司る大天使』と言う事で【ゼタル】が選ばれました。
もうちょっとメジャーな奴居ないもんかねぇ? かと言って、
さて、次回ですが、ネタが降って来ちゃったんでハロウィン回です(マテ
流石に去年の膨らみ過ぎで懲りたんで、今回は一話完結で軽く、のつもりですのでご容赦下さい^^;
・黒死ネキ(本名:
根源は【■■■■】。
実はチャットGPT君に当てられたけど、つまりはこれまでの本文から論理的に予想可能と証明された。悔しいけど、これはこれで良い証明。
根源予想の話題になると、毎回必ず候補に例の悪魔が挙げられる。
本人的には「まぁ、そりゃそうだろうな」程度に思っているだけなので、ウザ絡みしなければ問題ない。
・アーパーネキ(本名:
あんまり融通の利かないギミックブレイカー。
「世界が最適解を出す」と言う権能的に、マジで殴ればギミック解除に繋がるけど、それをやった結果が自分たちにとって望ましい結果になるかまでは保証されない。下手したら「ギミックごと異界が崩壊して巻き込まれる」とか普通にあり得る。
本人的には「何となく」だが、実は【世界】から寵愛されてサポートを受けまくっている。
・おぜうネキ(本名:
未来予知の権能持ちなので、アーパーネキと組んでたら彼女が無茶やった結果どうなるかも分かる。なので、今回みたいなケースなら、マジで最後の手段的にアーパーネキにギミックブレイクさせるのは有りとなる。
そう言う意味でも、アーパーネキとはベストコンビ。何気に互いを愛称呼びにしている。
・カス子ネキ(本名:
恐山で過去に何があったのかを、長老の美羽からある程度は聞いている。
この頃のカス子ネキは、相応に普通の感性も持ち合わせているので、内心穏やかではなかった。
パーティの面子的に「このメンバーなら大異界でも楽勝っしょ♪」と思っており、実際そう。
「メガテン世界で主人公をやらされている」と言う認識から解放され、恐山の過去話をムカつきつつもきちんと伝える。
・シエラ婆(本名:不明 レベル:49)
『死に至らせない』と『回復を許さない』とか、シエラ婆的には相性最悪の大異界。
なお、本人は「まぁ、大異界だし良くあるパターンの一つじゃろ」程度の認識。
ケガしちゃまずいなら、全部避ければ良いだけだし? 簡単簡単。
カス子ネキと見所ニキが、良い感じに質問とかリアクションとかしてくれるから、普段はマイウェイ過ぎる連中が比較的おとなしい。「この二人がパーティメンバーで良かった」と思っている。
・見所ニキ(本名:未設定 レベル32)
カス子ネキから恐山の過去話を聞いて「うわぁ……」と感想を抱く。
この程度の感想に留まり、嫌悪感に引っ張られないのも彼の『普通』さ故。
実際、レベルも30を超えて超人の域に入ると、メンタル的にも人間卒業クラスだし、『普通』はこの程度の感想になる。
なお、感性自体は一般的な為、人格への悪影響とかはない。
・【大天使 ゼタル】
ドマイナー天使。多分解説されなきゃ誰も知らんだろ、こいつ。
不死属性であるが故に、黒死ネキと絡む役として作者が抜擢。生贄とも言う。
色々と思い込みが激しそうだが?