<三人称視点>
数日前、とある凶報が王城へと渡った。
17名の勇者と団長であるガゼフを残し副団長を含めた王国騎士団精鋭部隊がベヒーモス戦で死亡。
その後、ベヒーモス戦の影響により地割れが発生し2名の勇者が奈落の底へと落ち生死不明の状態。
これらの情報がガゼフ本人の口から国王へと伝えられた。
王城にある会議室は、この凶報により誰もが口を閉ざし暗い表情をしている。
それもそのはず、此度の勇者召喚のために王国の秘宝と呼ばれた魔石や王国有数の魔力持ちである者、冒険者ギルドに依頼し高魔力の高位の冒険者を呼んで行われた古からこの世界に伝わる召喚方法だからだ。
召喚された勇者たちを従わせるために年代が近い美男美女を近づけ情という鎖で王国に縛り付けようとした。
だが、これらの取り組みも今回の遠征で全て無効となってしまった。
勇者召喚については、まだ国民に流布していないため混乱は発生していないが、帝国に情報が渡るのは時間の問題だ。
帝国だけではなく大量の死者数を吸収することによって発生すると言われる魔物の大氾濫―――ダンジョンブレイクが起きることも危惧すべき事態だ。
また魔法でできた道具のエネルギーである魔石は無くなり協力した者たちも数か月は動けないほどの後遺症が残っており、彼らの保障をする必要もある。
誰もが頭を抱えてしまいたくなるのは無理もない。
そのような雰囲気を斬る、とまでは言わないが話を進めるために国王が報告の中にあったベヒーモス戦で活躍したユニークスキル持ちの勇者について語った。
「<再構築>……か。サクラギと言ったか?その者のユニークスキルは、ベヒーモスを1撃で屠ることができたと。生きておれば我が国を一歩前進させることができただろうに……全く惜しいものだ」
「誠に申し訳ございません。私の不徳といたすところでございます。ですが、陛下。私は―――」
「全く、だから言ったのだ。帝国との戦争でレベルを上げればよいと。王国騎士団長の言葉だから従ったが、結果は勇者1名を残して全滅。更には、強者が一度に複数人死亡したことでダンジョンブレイクが起きる可能性がある。ダンジョン封鎖を行うのに一体、どれ程苦労するか平民出身の騎士団長様には分からないであろうがな」
「っ……」
国王の腹心である宰相がガゼフの失敗について追及した。
正論だと思ったガゼフは、顔を俯け歯を食いしばり拳を握るだけで何も言い返すことができない。
宰相の言葉を皮切りにこの場にいる上級貴族たちは平民出身であるガゼフを責め立てる。
元々、騎士団は貴族出身の者がトップを務めるのが習わしであったが、国王の一声で決まってしまったため鬱憤が溜まっていた。
(やはり不満は溜まっていたか……。すまんが人柱になってもらうぞ、ガゼフ殿)
国王の独断により名誉が傷つけられたと考えている上級貴族は多い。
ある程度、不満を発散させなければ王族に反旗を翻そうとする勢力が出てきてしまう可能性がある。
そう考えた宰相は、ガゼフを追求することで貴族たちの不満を解消させようと試みた。
だが、それに待ったを掛けるように国王が告げる。
「そこまでにしてはくれまいか、宰相。此度の遠征を申し出たのは確かにガゼフであったが、最終的に許可を出したのは私だ。であるのならば、私こそ責められるべきであろう」
「……ッ!私は決して陛下を責めるような―――」
「分かっておる。私への忠誠心そして其方が国のために貢献してくれていることは。平民出身ということで納得できないのは分かるが、私への敬意を少しだけガゼフへ向けてはくれないだろうか」
「………陛下の御言葉とあれば」
「うむ。それで宰相。今後、我々は何をすべきだろうか」
国王に今後について聞かれた宰相は、顎に手を当てて少し考えてから話した。
「やはりダンジョンブレイクの危険がある迷宮都市のダンジョンを封鎖することを愚考いたします。帝国に注力する前に国内の憂いを断つ方が国益になるかと。それに今回の勇者召喚で消費した魔石を回収するという面でも有効です」
「なるほど、宰相の言う通りだな。だが、ダンジョンを封鎖するには………」
「はい、我が国の領土とはいえ冒険者ギルドに伝える必要があるかと」
宰相の言葉に再び沈黙する会議室であったが、上級貴族の中で唯一顔に傷がある強面の男が顔を赤く震わせながら宰相を咎める。
「宰相!先程の言葉、毎年の帝国との領土争いを軽んじる発言だぞ!」
「……侯爵」
宰相は面倒くさそうな顔をしながら会議室で喚く男を見た。
彼は、帝国との小競り合いの規模が小さくなることで自分の発言権が弱まることに怒りを抱いたのだろう。
勇者召喚にも反対していたことからその権力への執着心が窺える。
宰相は頭の中でどうすれば侯爵が納得するのか考えながら話し出した。
「陛下、今回のダンジョンの魔物討伐の件ですが侯爵に任せるのはいかがでしょうか。彼の軍団の実力があれば魔物を完封することは容易いかと」
「よく分かっているではないか、宰相!陛下、必ずや騎士団以上の成果を上げて見せますぞ!」
「そうか、よろしく頼むぞ」
国王は苦笑しながら侯爵がダンジョンへ向かうことを許可する。
宰相は誰にも気付かれないように息を吐き上手く会議が収まったことに安堵する。
今回の議題に結論が出たところで解散の宣言をしようと国王が席から立とうとした時、ガゼフの隣りに居た隻腕の青年が手を挙げた。
「すみません。今回の遠征、僕も付いて行っていいですか?」
「カゲヤマ……」
ガゼフが咎めるように手を挙げた青年―――影山の名前を呟いたが、ガゼフの瞳にはもう一つ影山を心配する色も見えた。
ガゼフが懸念していた通り上級貴族たちは勇者とはいえ平民出身の影山が国王の許可無く意見したことに腹を立てており、それは侯爵も同じであった。
国王からダンジョンブレイクの対応を任されたことに機嫌を良くしていたところに水を差さされたからだ。
侯爵は顔を赤くし影山を指で刺しながら叫んだ。
「き、貴様!何を勝手に―――」
「陛下、カゲヤマも侯爵の遠征に参加させていただけないでしょうか。彼の同郷の者は、此度の件で死亡しております。逃げることしかできなかった彼ですが、せめて弔わせることぐらいはさせてあげてもよろしいのではないかと愚考いたします」
「宰相!」
宰相は、侯爵の苦言を遮るように国王へ伺いを立てた。
国王は考えるような素振りを見せながら告げる。
「ふむ、そうか。確かに此度の件はカゲヤマにとっても不幸であったからな。あいわかった。許可しよう。侯爵も良いな?」
「……承知いたしました、陛下」
「ありがとうございます」
渋々と侯爵は陛下に告げた。
対して影山はどちらでも良かったかのように謝礼を述べた。
王派閥の貴族たちは、国王の寛容さに惚れ直し、貴族派閥の貴族たちはまた宰相の言いなりとなっている現状に不満を溜めていった。
宰相も本来であれば、たとえ勇者であろうとも侯爵の顔を立たせるために付き添いを断っていた。
だが―――
(クソッ!実戦経験があるくせに感じとることができないのか、侯爵は!)
長年の政争により身に付けた<直感>がカゲヤマは危険だと判断した。
宰相は、<直感>だけに頼ることなく自分の目で判断するためにカゲヤマの目を見ると影山の引き込まれるようなどす黒い目に恐怖を覚え国王からダンジョンへ向かう侯爵に付いて行くことを許可して貰った。
(何をしでかすか分からない……。ダンジョンブレイクが起きるのは困るが、できればカゲヤマには消えてもらいたいところだ……)
宰相はそう思いながら会議室を後にし、冒険者ギルドにダンジョン封鎖することを伝えるための書類作成を行った。