いつも以上に説明臭いけど許してちょ
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<三人称視点>
「『―――以上のことから迷宮都市のダンジョンを封鎖する』……以上が王城からの御触れでございます。いかがなさいますか、ギルドマスター」
「ふぅーーー。いかがも何も従うしかあるまい」
王都の冒険者ギルドにて王城から知らせがあるとのことでギルドマスターと幹部、その他の事務員が一室で会議している。
内容は、帝国との戦争に使う魔道具に必要な魔石と食料確保の為にダンジョンを封鎖するという物だ。
だが、これらは国が冒険者ギルドから買い取れば済む話だ。
実際に帝国との領土争いの際には、冒険者ギルドから魔石や食料を大量に購入して資源を調達していた。
だからこそ御触れを受けた王国冒険者ギルド本部の面々は、国に対し疑惑の目を向けていたが、部屋の最奥に座っている男―――ギルドマスターは一息つくと渋々といった感じで王城からの御触れに従うことを決断した。
だが、部屋の入口付近に座っている冒険者ギルドで働き出して短い若い男が納得がいかない様子を見せ異議を唱えた。
「マスター!どうしてですか!我々、冒険者ギルドは国に指図されないのでは無かったのですか!?」
「お、おい……止め―――」
「よい。言わせてやれ」
国に従うことを決めたギルドマスターに対して苦言を呈した若者を上司が止めようとしたが、それよりも先にギルドマスターに発言を許可された。
若者は、ギルドマスターに許可されると思っていなかったのか、不意を食らったような顔をしながら続ける。
「マスター……。何故、ダンジョン封鎖を許可なされたのですか……?」
それに対してギルドマスターは、やれやれと肩を揺らし右手で3本指を立てながら説明しだす。
「俺が許可した理由は3つ。1つ目は補償が良いからだ。ダンジョン封鎖によって本来であれば得られていたはずの利益が無くなるのは言うまでもない。そのための補償に国は、迷宮都市にある冒険者ギルドの1日の平均利益の2倍支払うことを約束している。つまりダンジョン封鎖が長引けば長引くほど俺たちは潤うことになる」
1つ目の理由を説明し終えたギルドマスターは、若者の反応を確認する前に指を折り曲げ説明を続けた。
「2つ目は王からの御触れだからだ。これが上級貴族であれば冒険者ギルドの不干渉の原理を全面に押し出すことができる。その貴族の面子を潰すことになるが、権力的にも武力的にも俺たちに敵うことは無い。これは断言できる。だが、国王だと話が変わる」
ギルドマスターは一息ついた。
不干渉の原理とは、冒険者ギルドは中立的立場であり如何なる戦争や政争に関わることなく冒険者産業を続けるという物であり、冒険者ギルドと冒険者本人を守るためのルールだ。
しかし―――
「不干渉の原理を貫くためには、相手以上の武力を持っていることが大前提。上級貴族の私兵が相手であれば、Aランク級の冒険者が数名居れば問題無いが、国はまず無理だ。騎士団長を筆頭に精鋭たちが何千人と居る。
彼らの実力は下はCランクから上はAランク上位と思えば良いだろう。それにやろうと思えば、他の貴族たちから私兵を巻き上げることもできるから尚更無理だ。本来の権力差で言えば、俺たちなんか無視してダンジョン封鎖できるんだ。
だが、それだと国民感情、と言うよりも王国の冒険者たちに不満が溜まるからわざわざこちらに伺いを立てている。有難いと思うしか他無い。権力に屈した老い耄れと笑いたければ笑え」
ギルドマスターは、2つ目の説明の最後に苦笑しながら罵倒したければ馬鹿にしろと告げた。
だが、誰も罵倒することは無い。
それはギルドマスターを追及した若者も同じである。
本来であれば、若者も冒険者ギルドと国の関係について知っていたが、実際に権力差の事例が目の前に現れたことで冷静に成ることができずギルドマスターを言及してしまった。
冷静になり状況を把握した若者は、席を立ち慌ててギルドマスターに頭を下げる。
「ギルドマスター!誠に申し訳ございませんでした!」
「はははっ!気にするな。俺も若い頃は、よく突っかかっていた。懐かしい気持ちを思い出させてくれてありがとうな。それに今回の件についての俺の考えを皆に共有することができたんだ。いいから座って俺の最後の説明に付き合ってくれ」
ギルドマスターは、若者を座らせると最後に残っていた指を折り曲げた。
「3つ目。これは、完全に主観だから参考程度に考えて欲しい。恐らく迷宮都市のダンジョンは魔物の大氾濫が起きるかもしれない」
「だ、ダンジョンブレイクですか……ッ!?」
「ああ、そうだ」
ギルドマスターの言葉に会議室に居る面々は、誰もが驚く。
「迷宮都市のギルマスに聞いたんだが、どうやら王国騎士団からレベリング遠征を行うと通達があったらしい」
「つい先月、行ったばかりでは?」
王国騎士団は先月、新たに雇った団員のレベリングの為にダンジョン遠征に向かったばかりだ。
それにも関わらず間を開けずに再びダンジョン遠征に向かうなど珍しいこともあるものだと不思議に思いながら幹部の一人が呟いたが、それを否定するようにギルドマスターが続けた。
「それが今回の遠征は、どうやら騎士団のレベリングでは無かったそうだ。冒険者が20人ぐらいの黒髪の集団と騎士団長を含めた精鋭と思われる者がダンジョンに入るところを目撃したらしいからな。
勝手に<鑑定>をするのはマナー違反だから彼らの正体は分からない。だが、そんなことは今はどうでもいいんだ。問題は、騎士団長と黒髪の青年の2人だけしか帰ってこなかったことだ」
「……ッ!」
「決して多いわけでは無いが仮に彼らの魔力量が桁違いだった場合、ダンジョンブレイクに繋がる可能性がある」
「そ、そんな都合の良いことが……」
「だが、暫定精鋭部隊が護衛していたんだぞ?」
「それは……」
ギルドマスターの言葉に詰まる幹部。
謎の黒髪集団が特別な存在であるとは限らず、ダンジョンブレイクも起きないかもしれない。
だが、状況証拠がそれを否定する。
暗い雰囲気が会議室を覆う中、ギルドマスターがそれを断ち切るかのように笑いながら告げた。
「はははッ!まぁ、ただの憶測だ。俺の考えすぎということもある。気にするな、とは言えないが、国直々に対応するんだ。どの道、俺たちにできることは冒険者に被害が出ないようにすることだ。さ、情報共有は終わりだ。仕事に戻るぞ」
そう言うとギルドマスターは、会議を終わらせ仕事に戻るように職員たちに告げ3階にある自分の書斎へと向かう。
経年劣化により扉の蝶番から耳障りな音が鳴るが、ギルドマスターは気にする素振りを見せず書斎の中央にあるデスクに腰掛けながらパイプタバコをふかしながら先程の会議でふと思い出したことを呟いた。
「黒髪の集団……恐らく異世界の者だろうな。はぁ、最終的に有耶無耶にしてしまったが、ダンジョンブレイクは確定だろうな」
ギルドマスターは、これから迷宮都市で起きるであろう騒乱に対しどうすべきか考えだした。