6話 ご褒美は膝枕ですね!
気が付いた時、俺の後頭部は柔らかい感触に包まれ髪を母性溢れる感じで撫でられていた。
俺は状況を調べるために目を閉じたまま記憶を探る。
奈落の底に落ちる俺に向かって手を伸ばすガゼフ、俺にアリーヴェデルチを告げた影山、そして飛び込んできた美咲。
直前のことから予想するに、これは美咲の膝枕ではないだろうか。
膝枕だと思ったからか、俺の頭の感触が詳細に分かるようになった。
俺は寝ぼけた振りをしつつ寝返りをうつ。
そして深呼吸。
「ひゃん!」
なんて可愛い悲鳴なんだろう。
クソ、スマホで録音したいが妙な動きをすれば寝たふりをしていることを美咲にバレてしまう。
こんな時、遠隔操作のスキルがあれば……。
遠隔操作と言えば、影山のスキルって……。
いや、そんなことよりも今はオアシスを堪能しよう。
俺は寝ぼけている、俺は寝ぼけている、俺は寝ぼけている。
いける!
俺は、今のステータスでできる最速の動きで、だがさりげなく美咲のプリティな桃へとブラインドタッ―――
「起きてるわよね?春」
「ッ!」
次の瞬間、俺の視界は美咲の膝枕から一転し味気ない平らな床、いや天井が広がっていた。
どうやら膝枕状態から足を動かして俺を打ち上げたらしい。
このままでは、打ち上げられた俺の体は仰向けのまま床にぶつかってしまう。
そしたらまた数時間は動くことができないだろう。
それは困るので俺は、良いタイミングでアニメのように空中で態勢を整えて着地する。
美咲を見ると何やら俺を問い詰めるような顔をしている。
俺が一体何をしたというのだろうか。
こちとらベヒーモスを倒した英雄だぞ、おん?
見つめ合っていると美咲が顔を崩しだし泣き始めた。
ヤバいと思った俺は、これまでのセクハラに対する全てを謝罪するため土・下・座をかま――――――す前にギューッ!という擬音が出てしまうくらい美咲に強くハグされた。
え?どゆこと?
「もう、本当に心配したんだから!」
「ご、ごめん」
「本当に、本当に……」
美咲は消え入りそうな声で俺に囁く。
まるでもう二度と俺とこうすることが叶わないと思っていたぐらい強く俺を抱擁しながら。
「美咲、説明して欲しいんだけど」
「ぅ………」
俺は美咲が落ち着いて泣き止むまで抱擁されたままだった。
本来であれば、プリティーな桃にタッチしたいところだが、雰囲気的に不味いし、そんなことしたら1週間は口を利いてくれなさそうだ。
俺は下唇を噛んで耐え美咲が落ち着くの待つ。
数分経っただろうか。
同じ態勢を維持しているから腰が痛くなってきた。
美咲さん、そろそろいいんじゃあないか?
俺の心の呟きが漏れたのか、美咲は俺から離れ数歩後ろへと動いた後、顔を赤くし恥ずかしそうに触覚を弄った。
普段見せるクールな表情とは異なり、恥ずかしいことがバレた子どものような表情で俺を窺っている。
その表情の破壊力は国家滅亡級指定魔物ベヒーモスをも超えるほどだ。
勇者・王国騎士団精鋭部隊を投入しても勝つことは不可能だろう。
馬鹿な妄想に耽っていると美咲が俺がダンジョンの奈落の底まで落っこちた時のことを説明しだした。
落下中、俺が美咲を抱擁しクッションになったこと。
落ちた先に無数の魔物が居たが、美咲が相手する前に俺が迎撃した後、<分解修復>でダンジョンを改造し四角い安全地帯を作ったこと。
その後、先程まで1日ほど眠っていたこと。
俺は美咲から話を聞き終えた後、混乱状態に陥った。
「いや美咲。嘘を言ってるわけないと思うけど確認させて。それ本当?」
「ええ、本当よ」
「まじか……」
まじかよ。
無意識的に俺が美咲を守ったことを知ってナイス俺!と思ったけど、よくよく考えたら可笑しいよな。
ステータス的に有り得ないし。
自動迎撃システムのスキルとか持ってないし聞いたことが無い。
俺は確認するためにステータスを開いた。
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名前:桜木春
年齢:18
種族:人族
職業:無職
Lv :85
MP:50/50(1065/1065)
攻撃力:F(A)
防御力:F(A)
魔法防御力:F(A)
素早さ:F(A)
器用さ:F(EX)
知力:F(EX)
幸運:F(B)
エクストラスキル:【多言語理解】【完璧偽装】
ユニークスキル:【分解修復】【学習】【自動行動】
スキル:【刀術】【家事】【速読】【縮地】【飛行】【騎乗術】【最大魔力量増加】【恐怖耐性】(土魔法)(剣術)(格闘術)(忍び足)(鑑定)(自動MP回復)(空腹耐性)(痛覚耐性)
称号:≪異世界人≫≪読書愛好家≫≪竜殺し≫(偽る者)
():偽装中
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「なぁにこれぇ?」
驚きのあまり変な声が出ちゃった。
レベルが異常に上がってるよ。
前見た時はレベル1だったからそこから84レベル上がったことになる。
ベヒーモスでかなり上がったのか、それともダンジョンの底に落ちた時に居たモンスターを狩った成果なのか分からないけど。
レベルが上がったことで魔力量も上がってる。
美咲の2倍以上になったけどレベル差が84レベルある。
1レベルで魔力量が400MPあった美咲が異常なのかもしれない。
ステータス値も軒並み上がっており、幸運以外Aランクになっている。
本によるとステータス値は、生まれ持った才能で上がることは無いらしい。
<学習>様のおかげだ。
スキル関連が一番変化が大きいかもしれない。
たった数時間程度で8つもスキルが増えている。
俺の1週間は何だったのだろうか……。
ま、まぁ?
俺にとって利になってるから良しとしようか?
スキル関連で大きな変化は、<偽装>スキルが進化してエクストラスキル<完璧偽装>になってること、ユニークスキル<自動行動>が増えていることかな?
多分、俺が気絶した後も動いていたのは<自動行動>の影響だろうが、ユニークスキルは後天的に増えないはずだが……。
これも<学習>の影響か?
だとしたらチート過ぎるだろ。
運営さん、ナーフとかしないですよね?
お願いしますよ、本当に。
しれっと称号も増えてるし。
ステータスを確認し終わった俺は、改めてベヒーモス討伐に協力してくれた高橋たちとガゼフに感謝する。
俺がここまで強化できたのは、ベヒーモスを討伐できたからに間違いない。
勿論忘れてませんよ、副団長さん?
あなたのおかげで今を生きています。
名前は分からないけどいつか墓参りに行きますよ。
「春……」
「おっと、美咲」
美咲に呼ばれて俺は、思考世界から現実世界へと戻って来た。
死者との対話はこれぐらいにしよう。
あ、最後に影山。
俺を奈落の底に落としてくれてありがとう。
これからは<完璧偽装>で俺と美咲を偽装して異世界を謳歌するよ。
そのためにもまずは、ダンジョン脱出ならぬダンジョン制覇からだ。
俺は美咲を抱きながらこれからの予定を立てて行った。