毛糸玉のアシュア怪文書詰め(全年齢) 作:織部けいと(毛糸玉)
あ、今回の文章は代理人の性別は想定していませんのでお好きな方の代理人に当て嵌めてお読みくださいね。
クリスマス。聖誕祭とも呼ばれる日を向かえ、Cityはいつも以上に活気付いて。逢引する二人組や洋菓子店に続く行列を見ると、私も何か用立てた方が良かったのだろうかと思えてくる。
今年の私は聖夜なんてものとは無縁になった。急遽として発生した
「――やっと終わりましたね、代理人様」
「……戻ったらグレーテルさんに小言を言ってやりたいよ。それはそれとして、テケもお疲れ様。無理に付き合う必要はなかったと思うけど」
「いえ、私が好きで着いてきただけですから。それに列車の長旅は楽しかったですし」
隣を歩く彼女は微笑む。九七式軽装甲車 テケ、極東重鋼からやってきた戦車型DOLLS。平和主義者ではあるが我が強く、先の仕事に同行した際もその持論を展開して頭の硬いお偉方を黙らせてきた。少々行き過ぎる事もあるが、戦場でも仕事の補佐としても頼れる相手だ。
「整備会に戻る頃には夜になりそうだね。折角だし何か買おうか」
「代理人様ならそう仰ると思いました。ほら、一緒に並びましょう」
テケに手を引かれ、二人で洋菓子店の行列の一員となる。人の群れに押されに押され、徐々に彼女との距離が近くなって。寒空の下では彼女の温度がより明瞭に伝わって、私の頬も寒さ故か恥じらい故か高調してしまう。
「代理人様」
「あ、その……ごめん。近過ぎたかな」
「……ふふっ。代理人様って、変に
「からかわないで」
「テケは本心で言っていますよ?」
――狡い。そんな真っ直ぐな目を向けられながら言われたら余計に体温が高くなりそうだ。何処かご満悦なテケに腑抜けた顔を見せないようになるべく視線を逸らしながら、暗い曇り空の下で行列の動きを黙して待つ。ただでさえ長い待ち時間が更に引き延ばされるような錯覚に苛まれながら懸命に耐え、ようやく行列の先頭に辿り着いて。寂しくなったショーケースと商品棚から自分用のブッシュ・ド・ノエルと他のDOLLSに配る分のジンジャークッキーを手早く見繕い、テケと二人で荷物を抱え。
「帰ったら皆で食べようね」
「楽しみですね。ケーキなんて自分で買う機会もあまりないですし」
いつからか降ってきた雪の下、二人で並んで帰路に着く。随分と力の入っていないクリスマスプレゼントになってしまったような気もするが、このような時世では年中行事に興じる余裕があるだけマシというものなのかもしれない。少なくとも今この時のようにテケと二人で穏やかに歩く時間でさえ、この時世と私の立場では次が保証されない以上、なるべく平和な時間というものは享受するべきなのだろう。
「……テケ、ちょっといい?」
「はい。何でしょうか、代理人様」
故に、伝えるべきは伝えなければ。明日死ぬかもしれない過酷な世界を生きる以上、抱えたままで屍を晒すのは嫌だから。
「よかったら、また来年もこうやって、一緒に歩きたい」
「……代理人様」
私は聖夜になんて興味は無い。何かを望むならそれはプレゼントのように誰かが届けてくれる日を待つのではなく、自分自身の手で勝ち取るべきだと信じている。保証されない『明日』を積み重ねて平和を掴む為に、皆と明日を生き抜く為に。私はここに、生き抜く為の宣誓を為す。
「……足りません」
「えっ」
「来年だけじゃ足りませんっ。その次の年も、またその次の年も、その先もずっとずっと。平和を成して、私はずっと代理人様の隣にいたいのです。……ですから、この先も。テケを、代理人様の隣に置いてください」
――そして、宣誓は二重奏となる。人類の為に戦地に赴く代理人、平和の為に災獣を倒す一人のDOLLS。二人の誓いは重なって、より強固な決意となる。
「ああ。これからも宜しく、テケ」
「はいっ!不肖テケ、これからも精一杯頑張りますっ!」
それは、私達が勝ち取った一つの贈り物。何処からか聴こえるベルの音に背を押され、手を繋いで共に歩く。
お読み頂きありがとうございました。
今後ともアッシュアームズ関連を中心に何らかの駄文をぶん投げていきたいと思いますので、どうか宜しくお願い致します。