ようこそ面倒事から避けられない教室へ 作:ただ君に雨
"平和な日常が一番"
俺は考えている事感じている事全てがどうでも良くなるくらい平和な時間というのは睡眠の事を指していると思う。寝ている時間はこの俺でさえ面倒事に巻き込まれない素晴らしい時間だ。もちろん目が覚めたら知らない天井だった事はよくあったが、少なくとも睡眠"中"では平穏が訪れる。
だから俺は睡眠が好きだ。先生に怒られようが大事な授業であろうが何だろうが、俺は眠くなったら寝る。どこでも寝る。そういうスタンスで生きてきた。
だがそのスタンスでは乗り越えられない壁もまた存在する事を俺は知ってる。
桜の花が舞う道路を走るバス車内にて。窓の隙間から心地よい春風が吹き込み、呼吸をするたびに新生活の匂いが肺を満たしてくれる。冷たくもなく熱くもない、ちょうど良い風が眠気を誘う。この春風を浴びながら瞼を閉じたらどれだけ気持ち良いのだろうか。きっと異世界にて友達とノリで行ったサキュバスソープに匹敵する気持ち良さなのだろう。
そう考えた瞬間、俺は意識せずとも一瞬で瞼を閉じる。ほれ見た事か、最高に気持ち良いぞ。
「ちょっと君、お婆さんに席を譲ってあげようとは思わないの?」
「それはそれはクレイジーな質問だねレディー。この席は優先席だが、席を譲るか譲らないかを決める権利は現在進行形で座っている私が決める事だ」
「お年寄りに席を譲るのは当然でしょう!」
「相手が年寄りだから席を譲る?ハハッ、実にナンセンスな意見だ」
優先席付近でOL風女性と金髪の大男が口論を始めた。最近公共交通機関での迷惑行為などが問題視されているが、これに関しては迷惑行為と言えるのだろうか。
確かに足腰の弱い年寄りの方に席を譲らないというのは道徳に反している。それは優先席であっても一般席であっても同じ事だ。つまり口では優先席と言っているが実際には一般席と本質的にはそう変わらない。
どちらにも座っている人の主張、権利が尊重されるからだ。近年優先席は健全な若者が座ってはいけないという風潮があるが、それを言うならばバスに乗るのも危うい年寄りはそもそもバスを利用しない方が良いとも言える。
神の手によって俺はまた面倒事の渦中に放り込まれたようだ。
「私は健全な若者だ。確かに、立つことに然程の不自由は感じない。しかし、座っている時よりも体力を消耗することは明らかだ。意味もなく無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップを弾んでくれるとでも言うのかな?」
「そ、それが目上の人に対する態度!?」
「目上?君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。疑問の余地もない。だが、目上とは立場が上の人間を指して言うのだよ。それに君にも問題がある。歳の差があるもしても、生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないか」
「なっ…………あなたは高校生でしょう!? 大人の言う事を素直に聞きなさい!」
ヒートアップしていく口論。車内の座席に座っている人は皆自分事に捉えないようスマホという逃げ道を走っている。実際俺も一瞬だけ様子を見てすぐに瞼を閉じて寝ているフリをしている他人事人間だが。
「も、もういいですから」
「でもお婆さん……」
「手すりがあるので平気ですよ」
「どうやら老婆は自分の身の程をわきまえているようだ。せいぜい少ない余生を堪能したまえ」
「あなたねぇ……!」
どうやら口論は終わったようだ。対決として捉えるならば金髪男の勝利だろう。社会の風潮に乗っかり無機質な正義を抱えて健闘したOL女性には拍手を送りたい。だが世の中は結局本質だ。物事の本質を追究し理解した者に口論で勝る者はいない。残酷な世の中だがそれが日本という国だ。
さて、静かになったところだしそろそろ本格的に睡眠モードに入ろうかな。
「あの……私もお姉さんの言う通りだと思うな」
終わりを迎えたはずの口論はシーズン2へと移行する。同じく車内で立っていた美少女が問題の優先席に近づき金髪の男にそう言った。二人とも同じ制服で金髪だが、この学校は髪を染めている人が多いのだろうか。それにしても
(自分から面倒事に突っ込むとか正気の沙汰じゃねぇなこの女の子)
「お婆さんは足腰が弱いんだよ?もし倒れちゃって大事になったら君の立ち位置も危ういよね」
「残念だがその心配は無用だ。私が座っているのは優先席であり決して年寄り"専用席"ではない。私が譲らなかった事で罪に問われる事はないのだよ」
「考え方を変えてみるのはどうかな。譲らなかった事で自身がどうなるか、じゃなくて、社会にどう影響を及ぼすのか、って考えてみると、今お婆さんに席を譲る事は社会貢献にも繋がることだと思うの」
視点を変える。金髪の男は自分自分と主観的に物事を語りその視点から本質を見てきた。だがそれを客観的、つまり社会的視点で本質を捉えれば、優先席で年寄りに席を譲る事は一種の社会貢献としても見て取れる。確かに譲った所で社会貢献したかどうかなんて目に見えるものではないかもしれないが、優先席を配置した目的としては貢献できていると言えるだろう。
なるほどな。だがその視点で考えてしまえば、もはやこの問題は金髪男と年寄りの間だけで完結するものではなくなる。
「社会貢献ねぇ。確かに良い考えだ。しかしそれは私以外に車内の席に座っている人にも言える事じゃないかな?私に限定して言うのは実にunfairだ」
「…………誰か、お婆さんに席を譲ってくださるお方はいらっしゃいませんか?」
飛び火。やはり面倒事は俺の周りでタップダンスでも踊りたいらしい。
金髪美少女の呼びかけに応じる者は現れない。全員がシカト、またはスマホに目を向けて譲る気のない意思表示をしている。見たところ手すり云々言って強がってた年寄りの足腰も限界が近そうだ。
仕方ない。ここは俺が席を譲るとしよう。すまん春風。この学校の屋上が立ち入りOKだったらそこでまた会おう。
「どうぞ」
「!ありがとうございます!」
「ありがとねぇ……」
金髪美少女に深々と頭を下げられた俺は特に気分が良くなることもなく、年寄りが立っていた位置にさっさと移動する。
感謝はされ慣れている。魔王を倒した時なんか国民全員から頭を下げられた。今更こんな同級生一人に感謝されたとて何も思わない。何も、な。
「ジョーダンボーイ、何故口角が上がっているのだい?もしかして、プリティーガールに感謝されてオスとしての本能が疼いたのかな?」
「俺も一人の人間だ。社会貢献を果たす事が当たり前になってる。感謝されて上がる口角は気分が良いぞ」
「まるで私が人間ではないといったような口振りだねぇ。まぁいいさ。上に立つ者は下の者のような思考を持ち合わせていない。君と私の違いはそこにある」
ジョーダンボーイという愛称を付けられたのは恐らく、俺がジョーダンブランドのスニーカーを履いているからだろう。まぁそんな事はどうでもいいが。
どうやらこの男は自分の事を上に立つ者として認識しているらしい。そして俺が下、つまり上の者の御意向に従って動く道具。身なりが整っており足を組んでいても気品があるこの男はどうやら自分が相手より上だと思っている脳内お花畑の裸の王様らしいな。
「分かりやすい違いだな。さすが上に立つ者だ」
「フッ、君もあの老婆のように物分かりが良いようだ」
こいつと同級生なの厳しいな。同じクラスでない事を願うか。
そんなこんなでバスは学校に着く。同じ制服の人らが次々と降りていく波に乗っかり、俺もバスから降りた。
ちょっとした階段を上がり校門から敷地内へと足を踏み入れると、早速ホワイトボードにクラス表が貼り出されていた
どうやら俺はDクラスのようだ。
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入学式が終わり教室に向かう。座席表を確認して自身の席に着いた。窓際席のためこれまた春風が隙間から吹き込んでくる。心地よい気分だ。周りを見た感じこのクラスは個性的な生徒が多そうだ。というか髪を染めてる人多すぎ。
行きの車内で眠れなかったせいか、途端に瞼が重くなる。俺は眠気に逆らわずに机に突っ伏して時が流れるのを待つ。周りの話し声をノイズキャンセルし真っ暗な空間で呼吸をする。何も考えずに脳がシャットアウトしていくのをただひたすら待つ。マジで眠りそうな具合の中、後ろの生徒に背中を揺さぶられて俺は目が覚めた。
「起きたか。ではHRを始める」
どうやらこのとにかく胸がデカい美人が担任の教師のようだ。思春期ドストライクな高校生の前でボタンを上まで閉めずに谷間を露出しているのは教員としてどうなのだろうか。だが安心してほしい。俺はこの程度の胸では興奮しない。何故ならこれよりデカい胸の女の子で卒業したからだ。君ら読者とは格が違うのだよ。
「………… 新入生諸君。私はこのDクラスを受け持つことになった
茶柱先生が一番前の生徒に数枚のプリントを渡し、それが後ろの生徒へと回ってくる。俺も後ろにいる生徒に渡してから資料に目を通した。
これは合格通知と共に送付されていた資料データを紙媒体にしたものだ。
この高等学校は世間一般でいう高等学校とは大きく異なっている点が多くある。
────1つ、学校が用意した寮に泊まる全寮制
────2つ、外部との連絡禁止
────3つ、敷地内からの外出禁止
3つ目に関しては部活動らの遠征等の特別な場合にのみ許可されるようだ。
禁止事項が他校と比べ厳しく、まるで甲子園常連の野球部のような学校に見えるが、この学校は甲子園を目指しているわけでも素手で便所掃除させるわけでも強制坊主にさせられるわけでもない。
敷地内には多くの娯楽施設が設備されており、カラオケやゲームセンター、コンビニにスーパーマーケット、ショッピングモールに映画館等、学生が青春を謳歌するのに必要なものが全て揃っている。
もちろんそれらの施設は無料では利用出来ない。社会と同じようにお金が必要だ。
そしてこの学校ならではのシステムが存在する。そのシステムはこの学校では必要不可欠なもの。
──────その名もSシステム
「今から配る学生証端末。この端末にはポイントが振り分けられており、ポイントを消費することによって敷地内にある施設の利用や売られている商品の購入が可能だ。スマホの機能とクレジットカードを掛け合わせ、学生証のデータをインプットさせた優れものという認識で構わない。また、敷地内で購入できないものはなく、学校内でも同じだ」
学生証に振り込まれているポイントは10万ポイント。ポイントの価値は1ポイント=1円と同等なので、今このクレジットカードには10万円分が入っているということだ。
学生にとって大金である10万円。この数字にクラス中は騒つく。
「ポイントの使い方は簡単だから迷うことはないだろう。もし困ったらその場にいる職員に尋ねるように。それからポイントは毎月一日に振り込まれる。今現在、新入生のお前たちには10万ポイントが振り込まれているはずだ。無いとは思うが、もし足りなかった場合は申し出るように」
毎月一日にポイント支給。10万ポイントが支給されているため毎月10万ポイント支給されるということか。
────いや、これは流石に浅はかな考えだな。
普通に考えれば毎月10万ポイントなんて大金支給できるはずがない。1クラス40人程度で1学年4クラス。計算せずとも分かるほど膨大な金額が必要だ。国が運営している学校とはいえ流石に厳しいものがあるだろう。
クラス中は毎月10万ポイントだと思って浮かれているが、一応節約はしといた方が良さそうだ。
「意外か? 最初に言っておくが、当校では実力で生徒を測っている。倍率が高いこの高校入試をクリアしてみせたお前たちにはそれだけの価値があるということだ。卒業後はどれだけポイントを貯めていても現金化はできないから注意しろ。ポイントはどう使おうが自由だ。世の中の過ちは犯すなよ?その辺に関しては学校側も黙っていられないからな。そのポイントを使って一度きりの高校人生をどう謳歌するか、それはお前ら次第だ。存分に楽しむといい。では良い学生ライフを送ってくれ」
そう締め括って茶柱先生は教室から出て行った。クラス中は手に入れた大金の使い道の話でいっぱいだ。男子は最新のゲームの話を、女子は買いたいと思っていた洋服の話を、一部はアニメグッズの話を。
愉快な高校だ。節約は必要だが、流石に1ヶ月で支給されるポイントが10万ポイントから0ポイントになる事はないだろう。俺も俺なりにこの楽園のような学校で楽しませてもらうぞ。
「思ったよりも堅苦しくない学校のようね」
後ろの席にいる生徒がそう言った。偏差値70越え、難関校に名を連ねる有名校がまさか楽園だったとは。さらに就職率100%までついてくる。入学した時点で勝ち組確定だ。だが不思議な事もいくつかある。
明らかに頭の悪そうなやつが数人いる事だ。髪を赤色に染めた不良、話し声から頭が悪い事がよく分かるチビ、明らかにパチこいてるアホ。頭が良いとは到底思えない生徒がチラホラと見受けられる。
え?どうしてそんな正確に話し声が聞こえるかって?俺は人間の耳を持ってないからな。異世界に行った時に両耳両目を失って、耳は知り合いの亜人から貰って、目は視力に長けてるエルフから貰った。だから俺はこの世界の人とは一線を画して五感に優れている。
散々面倒事に巻き込まれてきたんだ。これくらいのご褒美はあっても良いだろう。いやこの場合ご褒美とは言えないか。
「皆、ちょっといいかな?」
突然一人の好青年が立ち上がり、騒つく周りの生徒たちにそう呼びかけた。髪も染めておらず表情管理もしっかりしている好青年だ。そしてイケメン。
「僕らは今日から三年間共に過ごすことになる。だから自発的に自己紹介を行って、一日も早く友達になれたらと思うんだ。どうかな?」
「賛成ー!私たちまだお互いの名前も知らないしねー」
「私もさんせー!」
「私も私もー!」
次々と賛成していくのは女子でそれに続くように男子も賛成していく。やはり女はイケメンに釣られるのか。この歳の子は皆んな顔だよな。きっと歳を取れば年収や貯金で釣られるようになるのだろう。
「僕の名前は
クラス中が拍手喝采で包まれる。俺も含めてこの場で彼の自己紹介に対して拍手をしない者がいたら、そいつはきっと段違いの逆張りだろう。そう思わせる程平田の自己紹介は完璧だった。きっと彼は中学時代もこうして周りから信頼を置かれ、クラスの中心人物として過ごしてきたのだろう。根っからの陽キャ、いや違うな。根っからの聖人か。
「もし良ければ、端の方から自己紹介をお願い出来るかな? えっと、そこのきみ。頼めるかい?」
「あ、わ、私?」
「うん」
「は、はいぃ……」
司会者のような立ち位置で自己紹介をふる平田。今自己紹介をしている井の頭さんという人は見るからに引っ込み思案なタイプだが、そんな人にも優しく丁寧に自己紹介を促す事が出来るのは凄いな。
その流れで次々と自己紹介が済んでいき、またさらに平田級の大物が現れる。
「私は
これまた拍手喝采が巻き起こる。女子という事もあってか平田の時とは違い男子からの熱くて野太い声が多かった。彼女もクラスのアイドル的立ち位置で周りを引っ張っていくのだろう。
っていうか櫛田って、バスにいた金髪美少女の人かよ。
「俺の名前は山内春樹!」
あ、こいつは聞く価値無さそうだな。名前だけ覚えておこう。それにしてもこのクラスは見た目通り中々個性的だな。聖人にアイドルに陰キャに陽キャにオタクに真面目君。そして何より、胸がデカい人が多い。
今の俺の解析結果からして、このクラスでメロンを抱えているのは3人だ。佐倉、櫛田、そしてまだ自己紹介をしていない者一名。特に佐倉さんは一級品だな。まぁ全然?惹かれるものがあるとはいえ吸い込まれる程ではないけど?なんなら吸うがw(殴
「それじゃあ次の人────」
平田が指名した生徒は髪を赤色に染めており、如何にも不良のような見た目で目つきが悪く威圧的な態度を取っていた。もちろん見た目通り彼は不良であり、平田に指名された途端彼は大きな音を立てて自身の机を蹴り、平田を睨みつけた。
「俺らはガキかよ。自己紹介なんて、やりたい奴だけやればいい」
高圧的かつ威圧的な態度。平田も相手を不快な気分にさせるつもりで指名していたわけではないはずだ。にも関わらずこういった融通の利かない不良は自分勝手に悪い方向に自己解釈する。
これには平田も少しは反発するか────
「僕に強制させることは出来ない。不愉快にさせたら謝りたい」
と、思いきや、平田はそう言って深々と頭を下げた。
「なによ、自己紹介くらい!」
「そうよそうよ!」
「ガキって言ってるあなたの方がガキじゃない!」
キャンキャンと平田支持派女子軍が不良少年へ反発する。やはりイケメンとサッカーと聖人の三点セットは女子のハートを掴むには十分効果抜群のようだ。
ここで不良が取るべき行動の一つとしては、今後の学校生活が苦にならぬよう平田のように誠実に謝る事だが、彼にそんな所業出来るはずもないだろう。予想通り不良は怒りのボルテージを上げていくばかりだった。
「うっせぇ。俺は別に、仲良しこよしするためにここに入ったわけじゃねえよ。やりてぇやつらで勝手にやってろ」
不良はそう言って席から立ち上がり、リュックを持って教室から出て行った。そして自己紹介が不要だと思った数人の生徒も続くように教室から出ていく。その中には胸がデカい候補の人もいた。いずれ名前を知れる時がくる。その時まで俺は待つぞ。
その後個性的な自己紹介が続いていき、出来れば会いたくなかったやつと再会してしまった。
「私の名前は高円寺六助。偉大なる高円寺グループの後継者でありいずれこの日本社会を背負っていく者だ。よろしく頼む」
高円寺グループ……聞いた事ないな。俺が詳しくないだけか。だが日本社会を背負うとか何とか言っているし親が偉い人って事は分かるが。まぁどうでもいいか。
「よろしくね高円寺君。じゃあ次は……君、お願いできるかな?」
「あ、はい」
平田に指名された俺はスッと立ち上がり、コホンッと一度咳払いを挟んでから丁寧に自己紹介を始める。
「俺の名前は山神悠弦です。スポーツは全般やってます。球技と格闘技と体操とか色々。趣味はゲームと読書とスポーツ観戦であと猫が好きです。僕も中学一緒の友達がいないので、仲良くしてくれると嬉しいです。3年間よろしくお願いします」
拍手喝采、とまではいかないがそれなりの拍手は貰えていたと思う。少なくとも高円寺よりは好感を得たはずだ。ちなみにスポーツ全般、というのは主に面倒事に巻き込まれた際に成り行きで極めることになったスポーツの事を指している。
なので冗談抜きでこの世の全てのスポーツはある程度極めている。だがそんな事が出来たところでそこまで意味はない。クリケットが得意とかどんな場面で役に立つねんって話。
「山神君だね。よろしく。ぜひ今度一緒にサッカーやろう」
「あざす」
「じゃあ最後に、君お願いできるかな?」
「あ、オレ?」
「うん」
指名された人は俺の後ろの席の生徒。空虚感満載の声に何とも言えない表情。言葉で言い表すとすれば、影の薄い人だ。その割には自己紹介に自信でもあるのか、勢いよくガンッと音を立てて立ち上がり周りの注目を一身に浴びる。
「えー……えっと、綾小路清隆です。趣味は……特にありません。あ、読書です。えー、得意なことは特にありません。えー、皆と仲良くなれるように頑張りたいです」
そんな彼の自己紹介は誰がどう見ても陰キャのソレだった。名前だけはイカつい。そそくさと座る動作までもが根暗感を醸し出しており、さらに救いようのない自己紹介で周りの生徒たちは同情の目を彼に向ける。
「よろしくね綾小路君。一緒に仲良くなっていこう」
すかさず平田のフォローが入るが、今の彼にその声が通っているかどうか。悪いやつではなさそうだし、今度声かけてみるか。