最終経歴:2位の人   作:踊る餅巾着

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二話 気触れファイル

 悪い夢に縋っている。

 


 

 篠澤広を見た。

 初星学園で細すぎる体と特徴的な髪の色を見た時は、嘘だろと思った。

 ただの空想としか思えない偶然がそこにあった。

 

「ちょっと!? 生きてますか!?」

 

 死んでれば返事するわけないだろ。

 テンパりまくっている自分にツッコみつつ、その人に駆け寄る。

 顔に嵌め込まれた橙色の宝石は見えなかった。

 フローリングの地面に倒れていた。うつ伏せで。

 倒れている人間を放置してどこかに去れるほど、異常な人間になる自信は無かった。

 うつ伏せの肉体……骨と皮しか、は言い過ぎでも病的に細い身体を抱え上げ、急いで保健室まで連れて行く。

 

 そうしている間も、自分の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。

 

 初星学園は、顔のレベルが高すぎる。

 常々私はそう思っている。その中で頭角を現す人間たれというのも無茶を言っていると思う。

 

 一番星(プリマステラ)から既に凄まじい美人だが、道を歩いているだけでちらほらと美少女の姿を目にできる。

 眼福とか素直に言ってられるならいい。蚊帳の外でお茶を片手にくつろげる。

 

 だが、ここは内側だ。

 戦場でもある。

 

 私もそれなりに可愛い自負がある。

 可愛くなるための努力も、ここに居るためには欠かせないものだ。

 

 だが、生来の顔の良さというものは時に絶望的な隔たりを持つものだ。

 色素の薄い印象をひっくり返す、橙色のファイアオパールがその姿をあらわにする。

 焦点の合わないその視線が、少しずつ一ヶ所に集約する。

 即ち隣の誰か、私と目があっていた。

 

「……どこ?」

 

 良かった。意識ははっきりしているらしい。

 これで急に顔見知りみたく話しかけてきたら恐ろしくて敵わんですよ。

 現状を説明する。

 

「でぃすぷれいす、保健室。YOU、倒れてた。私、運んだ」

 

 するとその色素の薄い少女は水流のようにきれいに垂れた眉を、僅かに寄せる。

 

「わたし、日本人、だよ」

「あ、ごめん。外国の子だと思ってた訳じゃないんだけど……ノリで」

 

「ノリ?」

「うん、ノリ。それ以外の理由は……怖がられると嫌だなって」

 

 なにせこんな髪の色だし。と思っていると、同じ事を思ったのか彼女は私の髪を興味深げに観察する。誰かに見て貰うために染めたとはいえこう、まじまじジロジロふむふむと観察されるのは中々に居心地が悪い。

 

「真っ赤だね。染めたの?」

「そうだよ。来て早々ちょっと怒られたけどね」

 

 アイドルの学園ではあっても、校則は厳しいところもあるらしい。髪染めはあまり好まれないとのことだ。ただ、判断基準もアイドルになった時にどう見えるかなんだな、とも思った。

 彼女は何かを思い出したように、か細く「あ」と声をあげた。

 

「あなたは……アイドル科の新入生」

「おー……確信してるのね? 正解です。正確には内部進学……中学もここだったんだけどね」

 

 そして私も同じくして、思い出したことがあった。

 自己紹介がまだだ。

 覚えられるほどの名はないが、名乗らないのも不自然だ。

 

「私の名前は高辻(たかつじ) 冬利(とうり)、トウは冬季の冬、リは利害の利。ふゆりで読んでくれてもいいよ」

「わたし……篠澤(しのさわ)(ひろ)

 

「はじめまして」

「こちらこそ、はじめまして」

 

 互いに改めて立って挨拶する。

 病人を立たせたままにはできず、すぐに座るように促した。

 

 静寂、沈黙。

 はっきり言って私は、沈黙が苦手な人間だ。

 だが、ことこの場では少し話が変わってくる。

 私は、彼女を知っている。近所のどこかで見かけた、みたいな最近の話ではない。

 今の彼女は、目を閉じて何かを考えている。私では考えもしない何か、かもしれない。

 口を挟む方が邪魔になるか、と思った。

 

「冬利は、アイドルを今よりずっと前からやってる」

 

「そうだね。でも……うーん、確かに、そう」

 

「ということは、プロデューサーの人とも知り合ってる」

 

「ん? ま、ぁ、もちろん知り合いのPはいるね」

 

 篠澤広はじっとこちらを見つめる。

 胸に手を当て、言葉を切り出した。

 

「わたしをプロデュースしてほしい。」

 

 ん? 

 はい? 

 いや、なんて? 

 

「???」

 

「聞こえてなかった? ごめん、わたしをプロデュースしてほしい」

 

「…………………………うぇ、お、お断りします」

 

 動揺しすぎてどもっちゃったよ。そんなことはいい。

 いや、アイドル科だからプロデューサー科ともコネがあるって話をしたんじゃん。

 ならそこに続くのは「わたしのプロデューサーを見つけてほしい」とかそんな感じじゃない? 

 なに私がプロデュースすることが当たり前みたいな風に切り出してる?そんな大層なことできんよ? 

 適切な返事を探す。納得するような一言。

 そして、出てきた言葉は。

 

「お断り、します」

 

 いいって。

 二回も言わんでいいから。

 ほら篠澤さんも呆れてるじゃん。

 

「……なんで? 聞こえてはいる、よ」

 

 呆れてないわ。なんだこの人。

 

「あの、ですね……私は、プロデューサーじゃないですよ?」

「知ってる。今聞いた」

 

 じゃあなんでお願いしてるんだよ! 

 

「それだけで十分理由になるくないですか? 私にこだわる必要あります?」

「………………………………ノリ?」

 

 天井を見上げた。

 ヤベー人を助けてしまった。

 ……そこでそう返されて、揺らいでいる自分に呆れる。言ったのは自分だ。プロデューサーじゃない。他人を見てやれるほど余裕のある人間ではない。

 だがしかし。

 ノリのいい人間、私は大好きです。

 そして篠澤さん。あなたはノリのいい人間らしいです。

 つまり負け。

 チョロい。チョロすぎる。いくらなんでも。

 

 もう分からん。なんとかなるか?なんとかするか。

 人生においてノリは重要なのだ。

 

「……いいでしょう、うん……高辻冬利は、あなたのプロデュースを引き受け」

「待ってください」

 

 彼女を運んで、待って、見ている間に、1時間ほどが経過していたようだ。ドアの近くにある時計を見たら、それがわかった。

 そこには、スーツを着た眼鏡の男がいた。

 

「そのプロデュースは、規律上認められません」

「……どうして?」

 

 條澤広が彼に尋ねる。私の説明丸っとお忘れですか? 

 こころなしか、二人の間に小さく火花が舞っている気がする。

 眼鏡の男が、人差し指と中指で眼鏡を押し上げる。

 

「それは、彼女の言っていた通りです。アイドル科の生徒がアイドル科の生徒をプロデュースするのは、規則で不可だとされています」

 

 そう言ったあと、彼は一息ついて篠澤を見る。

 

「代わりに、折衷案として……俺があなたをプロデュースします。それならば、どうですか?」

 

 篠澤が静かになる。

 私は彼に尋ねずにはいられなかった。

 

「……マジでやるの? 君、結構有望視されてたでしょ。この子に何を見出したの?」

「分かりません」

 

「はァ?」

「まだ、分かりません。ただ、彼女は学園長直々にスカウトのようなことをされたそうで」

 

 はー……なるほど。ちょっとずつ見えてきた。やっと。

 つまり、学園側からプロデュースを考えておいてくれ、みたいに働きかけられたとか。そういう話。たぶん。

 そうだろうな。この人を放っておく世界じゃあない。

 プロデュースしても悪い結果にはならないだろうな、と思った私の目利きは正しいわけだ。 ……見えるほどに巨大な才だっただけかもしれない。

 

「……というか、どのくらい前から見てたの? 趣味がお悪いんじゃない?」

「すみません。お二人が保健室で話し始めた頃にはすでに」

 

 最初っからじゃねーか! 

 ……まぁ、それを正直に言ったのは好感というか、バカ正直に伝えるんなら信用するけど。

 プロデューサーは、何か訝しいことがあるみたいに怪訝な表情をしている。何が引っかかるのだろうか。

 

「とにかく、プロデューサー科の人がやってくれるならそれ以上はないよ。私がやってもまともな結果にならないのは目に見えてるし」

 

「それは……」

 

 

 

 わずかな静寂。

 

 ……え? 言い淀んでもらったら困るんですけど? 

 この流れが済んで篠澤ちゃんがそっちを選べば、その後はあなたがプロデュースするんですよ? しっかりして貰っていいですか? 冗談じゃなくヤバいですよ? 

 矢継ぎ早に聞きたくなるが、どの言葉もついに喉を超えずに霧散していく。

 

 首を傾げるプロデューサー何某。

 はっきり言って、一番様子がおかしいのはこいつである。仮にもプロデュースする相手がいる前で”悩んでますよ~”って雰囲気出すのはダメでしょ。

 いつもはもっと壁みたいな……無じゃん。マジでどうしたよ? 

 

「学園長が見たものが気になりますが……それよりも、いくつか質問したい事があります」

「……なに?」

 

 篠澤ちゃんはもう思考がまとまったのか、黙ってこちらを見ていた。

 相変わらず何を考えているのかは……分からない。

 ただ、さっきよりもプロデューサーに向ける目が、優しさを含んでいる気がした。

 

「あなたは、此処に入る前から有名でした。調査も済んでいます」

「そうなの?」

「14歳で大学を卒業した天才少女。日本有数の頭脳を持つ神童。そして、入学試験ワースト2位。実技での0点は、初星学園始まって以来の点数だそうです」

 

「……照れる」

 

 そりゃ0より下はないし。

 褒めとらんがな。

 

「つめたい目。わたしをすごく低評価しているのがわかるよ」

「おじいちゃんじゃなくて、あなたが正しいと思う。自信もって。」

 

 ですってよ、プロデューサーさん。

 なぜか篠澤さん側は好印象なのは幸い……幸いですかこれ? 

 

「……将来を期待されていたあなたは、すべてを投げ打って初星学園に。なぜ、アイドルになりたいと?」

 

「……いちばんわたしに向いてなさそうだから、かな」

 

 宇宙猫。

 我々は猫である。篠澤広を未だまるで理解できていない猫。

 それをみて、篠澤は嬉しそうに微笑んだ。

 

「冬利も、プロデューサーも……」

「ちっともわからない、って、顔してる」

 

「ちっともわからん、です」

「ちっともわかりません」

 

「なのに……プロデューサーは、わたしを選ぶ。なんで?」

 

 今度は、プロデューサーが静かになる番だった。アイドルを選ぶ理由はその才を見出したとか……光るものを見つけたからとか、いくらでもある。

 だが、彼にとっての解答はそうじゃないらしい。

 本当に分からなくて、分からないままに回答しなければならないことが苦痛のような表情をしていて。

 それでも、真剣に向き合おうとする顔だった。

 

「……………………………………ノリが合いそうだから、です」

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 

 ノリか。

 そんなら、うーん。

 自然と私の目は篠澤を向いていた。

 篠澤は、こちらを一度見た後、プロデューサーの方を見た。

 

「ならしょうがない」

 

 その日、篠澤広には担当プロデューサーが生まれた。

 当然ながら、それはプロデューサー科の生徒で。

 誰かを導いて、誰かと共に歩めるような、真っ当な大学生だった。

 

 

 それが、私と篠澤広の()()

 そして、プロデューサーと篠澤広の出会いでもある。

 プロデューサー、とだけ呼んでしまうと咲季嬢や他のプロデューサーと被るため、呼び名を考えなければならない。だが、広ちゃんはプロデューサーとしか呼ばない。必然、私だけがあれの名前を呼ぶことになる。苗字+Pで呼べばとりあえずの区別はできた。

 自分で言っていてなにがなんだか分からない。どんな関係なんだよ。

 担当でもない方が名前含めて呼んでるのおかしくない?

 

 壁と言ったけど、あれのことを前は昆虫だと思っていた。誇張も、オブラートな表現も抜けば。

 ただ目の前にある課題、できること、目標を淡々とこなしていく。

 傍目では苦労など、計り知れやしない。

 

 咲季のプロデューサーが質実剛健、堅忍質直みたいな人間だとすると。

 篠澤広のプロデューサーになる前はあれを、あれこそ完全無欠とかそういう人間だと思っていた。何事も、あれの手にかかれば成功以外の文字は無かった。

 現在、その神秘的な様子は見る影もない。

 

 思ったよりド天然だし、実力が伴っているだけの頑固者だった。

 良かったんじゃないかと思う。相性はばっちりみたいだし、失敗しない日のない生活がどうしようもなく楽しいらしい。何より、あのプロデューサー。

 

 傍目から見ても、どう考えても……惚れている。

 篠澤ちゃんの方の気持ちは私にゃ分からないが、無自覚なまま全速力で、アイドルになる為の道を突っ走っている。Pが広ちゃんを俵抱きしている。そういうとこやぞ。

 微量ずつではあるが、体力はマイナスから1に変化しつつある。

 

 彼等がパフォーマンスを発揮しつつあることこそが、最大の悩みだった。

 

 


 

 

「これは自分のものではありませんね。わざわざ持って来てくださった所、申し訳ないのですが……お返しします」

 

「え、いや、は…………はー……?」

 

 私は今、今日一番の悩み事を抱えることになった。おかしいよ。

 完全に厄日。ありがとうございました。

 昼休みも中盤に差し掛かり、ようやく見つけた件の咲季Pにファイルを見せたのだが……何故か、突き返されてしまった。

 

 まず咲季Pは名前欄を確認し、ぱらりと中を確認し、そして閉じて私に返した。

 しらばっくれて次の策を考えるにしても、証拠品をむざむざ渡しに来たんだぞ? 

 物を始末するにはうってつけだろう。

 返してくるのは本当に意味が分からない。

 咲季Pはちょうど何かで忙しいらしく、手短に説明された。

 

「まず、名前が少し違います」

 

 例えるならそれは、(ふるいほう)(あたらしいほう)が口と梯子であるような、些細な違い……だが、それで何度も人違いがあったらしい。そんな何度もあるものなの……? とは思うが、こんなところに嘘をついていても仕方ない。

 もう一つが、彼にとっての決定打だったようだ。

 

「確かに、俺と同じような内容に筆跡ですが。これは鉛筆で書かれています。俺はボールペン派です」

 

 ………………………………。

 

 知らんて……!!

 どうでもいい……!!! 

 だがしかしこれに気付いた後の彼は、頑として自分とこれを書いた人間が同一人物であることを認めようとしなかった。

 小学校の頃にも、鉛筆ではなくシャーペンを使うことを認めさせたらしい。ええて。そんな情報聞いても使わないよ、もー……。

 

「どうしよう、これ……」

 

 結局、そのファイルは私の元にあり……不穏な感触が残っているままだった。

 どう、どうすればいいのこれ……手元に残っているだけで不安になるが。普通に呪いのアイテムだ。あのPのトンデモエピソードだけ持ち帰れれば良かったのに、いらんものまでついてきた。返品相手が見つからない。怖いんですけど。ひーん……。

 

 これをさ、持ってることがバレるとさ……間違いなくマズいんだよな。どういう形で誤解されるか分からないけど、どんな形だとしてもマズい。それだけは確かだ。

 かと言って押し付けるのも後ろめたく、捨てるのも人の目がある場所じゃあ厳しい。

 それならいっそ、家まで持って帰ろうか。それで、書いてるページと名前欄だけ処理して……して……捨てる……? 

 人の物…………。

 うぐぐぐぐ……!! 

 

 レッスンと授業はつつがなく進行し、あっという間に下校の時だ。

 篠澤ちゃんにコンタクトを取りたいとは思うものの、今日はあちらもあちらで何かあるらしい。佑芽ちゃんと千奈ちゃんと、丸くなって集まっている。大丈夫かなぁ……。仲良きは美しきなんだけど、散歩してたせいで体力残ってないんじゃ……?

 引き出しの中から、ファイルがほんの少し飛び出している。忘れ物するなよ、という言葉が何処からか聞こえてくるようだった。

 ズオオオ……と昇る不吉なオーラを無視して、バッグに埋めた。

 

 足取りは重いが、進まなければ帰れない。ニトリのCMかよ。もっと陽気であれよ。

 今のまま真っすぐ帰る気も起きないので、いつも行き返りに目にしていた神社の中に入ってみる。ここに捨てる訳じゃないから許してほしい。

 後ろめたい気持ちのまま、何の変哲もない賽銭箱を確認する。

 背負った重い邪気を払ってくれないだろうかと祈りつつ、10円投げ入れた。

 すると、次の瞬間になんと家にワープ! なんてこともなく、とぼとぼと家族の待つ家まで歩き帰宅した。

 何事も無かったかのように夜ご飯を食べ、何事も無かったかのように風呂に入り、何事も無かったかのように調子をこきつつ家族と雑談する。頭の怪我のことも言った。

 そこそこ心配されたものの、親愛なる施し人に助けてもらったと言えばいい友達だね、と言われた。善い人だと常々思っているし本人にたまに言う。

 

 さて、ここからは良い友達かは分からない友達と見つけた、確実に悪いブツを処理する時間だ。だがしかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。

 昼休みに言われたこと、これは花海咲季のP(プロデューサー)のものではない。

 じゃあ誰のものなのだ? その人物がいるとすれば、花海咲季Pの名前で月村手毬をプロデュースしているように見せる理由は……大まかにまとめれば一つしかない。

 花海咲季、またそのPを潰すため。

 

 ……そう考えると、複雑な気持ちはあれど敵側じゃない私達が拾ったのは幸運だろう。敵と言わずとも、勝ちたいがために手段を選ばない人間はここには多くいる。

 自分が敵になるか味方になるか悩んでいたことからぼんやりと目を背け、冬利は考える。

 とにもかくにも、これは明らかに危険だ。今すぐ処分した方がいい。脳の後ろの辺りがビリビリする。危険信号というものは、案外しっかり作動するようだった。

 

 それでも。

 猫だった。

 興味と、識る欲と、背徳。

 蜜を覚えたての、我欲に抗えない奴隷だった。

 

 部屋のドアとは反対側を向きながら、勉強机にファイルを乗せる。

 不安な気持ちを無視し、開く。ページをめくると、目はそこにある文字を追っていた。

 

 最初の方、見た事のあるページから始まり、どんどんと新たなレポートが目に入った。

 冬利の良く知る名がいくつも載せてあった。

 

 花海 咲季。

 月村 手毬。

 藤田 ことね。有村 麻央。葛城 リーリヤ。倉本 千奈。紫雲 清夏。篠澤 広。姫崎 莉波。

 花海 佑芽。十王 星南。秦谷 美鈴。

 

「…………は………………ぇ……えへー……?」

 

 高辻 冬利。

 

「っ」

 

 ぱらぱらと、めくれどめくれど、まとめられた資料は終わらない。

 いくつもの名を見た後、ほぼ何も書かれていないページが最後だった。

 私が居た。

 何かが、あった。

 

 

 

染髪は臆病さが原因   
  高辻 冬利

活かせる方法が要る   

 中等部時代はアイドルグループ、「はなのあさやけ」のサブリーダーを務める。

 人をまとめたり、幹事を任されてきたために観察眼が鋭い。 人付き合い=苦手?

                ↓要対策

 アイドルとしての素質は人並み。目標を失い、今のままで良いのか悩んでいる。

 「何者かになりたい」気持ちのみでここまでの道を進んできた。 

 人を笑わせることが生きがい。

 

 咲季のプロデューサーが言っていた通り、本文は鉛筆で書かれている。

 ピンク色の注釈のようなものは、マーカーかもしれない。

 内容を、意識したくなかった。

 知らないうちに、己の事を誰かが知って、見て、考えている。

 とても、ぞわぞわする。

 

 けれど、冬利は気付く。

 望んだこと。昔から、そうだったらいいのにと思っていたこと。

 誰かが見ていて、誰かが考えていて、誰かが知ろうとしている。

 そうあれば良いのにと、願ったではないか。

 日常が、誰かのエンタメであればいいと。

 

 わたし自身が、選んだ。

 

 矛盾に陥り、冬利は動きを止める。

 冬利が止まっても、時計の針は進む。レポートに増えていく文字と同様に。

 冬利の視線は、ある文だけに吸い寄せられた。他にも、ひとりでに記入されていく内容はあった筈なのに、見るのが怖かった。

 

 ()()()()()()────

 

 バタンッ!!

 ガッ、ぱた。

 ファイルは床に落ちた。

 部屋は、何も誰もいないように静かだった。

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