最終経歴:2位の人   作:踊る餅巾着

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九話 調査書

 

 

 

高辻冬利の印象調査書

 

花海咲季 初星学園高等部一年

 この調査の中で初めて声を掛けた人物。最初のコミュニケーションに失敗したため、こちらへの印象は良くないと考えられる。ただこれはそれほど関係ない。

 学年主席だけあって、自信は確固たるものに見える。腹に抱えた何かが感じられたが、今回の件に関わらないので触れなかった。

 

 高辻冬利への印象

 同学年のアイドル志望生の一人。中等部から初星学園に在籍している事を伝えると、少し意外そうにしたのち「それでも勝つ」という結論を下した。強い相手と戦えることが嬉しい、と語った。「手毬や佑芽と競争してはボロボロになっている姿を見るわ」と言っている彼女の目には、複雑な感情が現れていた。

 

倉本千奈 初星学園高等部一年

 花海咲季への聞き取り調査の中で、話を聞くのなら2組の人物の方が良いと助言を貰った。そこで一番初めに出した名前が倉本千奈だった。会った直後は少なからず怯えられていたが、話している内に落ち着きを取り戻し、打ち解けた雰囲気を醸し出していた。気品と親しみやすさを両立させる雰囲気は、令嬢という稀有な立場を持つ彼女の強みだろう。

 

 高辻冬利への印象

 仲のいいクラスメイト。友達。よく遊び、よく学び、よく練習している彼女を尊敬していると言った。何事も全力で取り組んでいる姿には影響を受けます、という証言も得られた。何より「ギブアップしても花海さんがいない時に運んでもらっているので、感謝は絶やせませんわ」と。ただ時々、何かに焦っている素振りも見られるらしい。

 

月村手毬 初星学園高等部一年

 まず変質者と間違われかけ、危うく叫ばれるところだった。こちらが粗相をした感覚はなかったが、次に記載する調査相手がいなければどうなっていたか分からない。冷静になってもらい、調査自体はつつがなく進んだ。月村手毬は注意すべき人物の一人だったが、自分・高辻冬利へなど怯えた態度が多いあたり怖がりなのかもしれない。

 

 高辻冬利への印象

 Syng Up!のファン、ということを最近知った。「急におかしくなったりする。(色々な言い訳を並べた後)こわい。別に怖くないけど」という印象を述べた。そう言っている最中の顔色はあまり良くなかったので、怖がっているのは間違いない。実力や性格周りは良くも悪くも真っ当なアイドルであり、今のままなら可もなく不可もない。だからこそ、この前行われた中間試験でのパフォーマンスは良い物だったと述べていた。

 

根緒亜紗里 初星学園教諭

 調べても情報がほとんど出なかったため、根緒亜紗里の過去はまるでわからない。初星学園の教諭であることだけが事実だった。ただ、今回の調査では唯一の教える立場・大人としての言葉は間違いなく有用な証言だろう。あさり先生と呼べと半ば脅迫されつつも、調査を敢行した。

 

 高辻冬利への印象

 優等生。勉強もそこそこ以上に良い成績でこなし、アイドル活動を一生懸命やっている。授業で分からないところを聞く、といった行動はダンス・ビジュアルレッスン以外には見られない。座学の成績優秀者であることに性格から見て違和感があると言えば、根緒さんは呆れていた。会ってコミュニケーションを取るうちに分かると思います、とのことだ。自分はコミュニケーションを取らないと思っているのだろうか。心外だ。

 また、根緒さんも倉本千奈と同様「焦っている……というか、自分を急かしているような? うーん……詳しい事は分かりませんね。彼女の友人達に聞いた方がいいです」と思い出したように語っていた。調査を続ける。

 

 姫崎利波 初星学園高等部三年

 普通に過ごしているのなら、三年生との接点は多くない。あまり有益な情報を得られるとは思わないが、ちょうど居た相手に調査を行わない理由もない。それに、彼女は生徒会所属だと倉本千奈からの証言を貰っていた。

 

 高辻冬利への印象・知っているか

 結論から言えば、収穫はあった。収穫と言っていいのかは悩むところだが。

 高辻冬利という一年を知っているかと聞いたところ一呼吸分ほど沈黙し、姫崎利波は彼女を記憶から見つけた。倉本千奈から、生徒会長(じゅうおうせな)へのなんらかのはたらきかけがあったようだ。そこに高辻が一枚嚙んでいる。協力している側か、主になり動いているのかは今のところ不明。

 問題なのはその内容だ。

 

 十王星南 初星学園高等部三年

 上記のことがあり、十王星南への接触および調査活動は不可欠だった。概要は姫崎さんに聞けたが、本人から聞かなければ確証は得られないだろう。そうでなくとも一番星(プリマステラ)からみた一年生の率直な分析は参考になる。恐らくここにも嫌われたが、問題はない。

 

 高辻冬利への印象・倉本千奈からの質問の答え

 倉本千奈の質問は、「初星学園には七不思議があるか」「これは例えだが、そういったものがあれば対処は行うのか」。

 初星学園の七不思議。生徒会長であり、十王グループの娘であり、この学園の実質的支配者である彼女が言う、そのような事実は全くない、と。怪しげな怪談どころか曰くのついた場所・物はどこにもない。そもそもそういったものが無いために()()が選ばれたと説明した。といっても、噂が生まれるのには理由がある。火元がある。それに対し、十王星南は。

「巻き込まれるようなことがあれば、何らかの対処を行うわ。そんなものに私の期待する次世代を奪わせる気はないの」

 助けてもらう立場なら、安堵して笑ってしまう返答だった。責務を背負う人間特有の重みがあった。

 まぁ、あまり関係はない。

 

 高辻冬利の印象を聞くと、後ろめたい顔をしたのだ。

 この調査ではそちらの方が重要だ。十王星南はすぐに複雑な感情を抑え、一番星らしい回答を見せた。だが正直、それが本物だとは思えなかった。ただ勢いに乗せて無理矢理聞き出せば、バックのグループやプロデューサーと言った障害が出張ってくる。それは面倒だ。そうならないよう、遠回しにでも良いから聞かせてくれと願った。

 しかし今思えばそれは、彼女にとって最もあり得ない選択肢だったのかもしれない。

 普段ならば見せないだろう隙を晒し、十王星南は黙り込んだ。その間にこれまでのメモの整理と続きを書いていたが、ただ悩む時間にしては長かった。覚悟を決めたらしく、印象を語った。

 良く言えばロマンティスト。悪く言えば分不相応、といった評価だった。十王星南にそれ以上説明するつもりはなく、こちらも彼女からの聞き取りはそれで十分だった。

 

 雨夜燕 初星学園高等部三年

 どうやら星南会長を害しようと企む不審者だと思われたらしく、鬼の形相をした副会長に襲われ一対一でボコボコにされかけた。良い感情は無いだろうに、十王会長が止めなければ骨の一つ二つ折れていたかもしれない。月村手毬との邂逅が社会的な死をもたらすとすれば、こちらは物理的に殺されるところだった。どちらも勘弁願いたい。流石に死にたくはない。

 調査を続ける。彼女も例外ではない。

 

 高辻冬利への印象

 本当のことを言うなら、彼女と冬利に関係などあるはずないと高を括っていた。期待していなかった。そもそも一年生と三年生では、ステージが違うのだ。プロの数歩手前と新人なのだから。

 だが彼女は高辻冬利の名前を出すと、すぐに反応した。「あぁ、私と同じヤツか」と。これには、十王星南の動揺よりも興味を持たされた。他の人間には聞かせたくない様子だったので場所を移し、仔細を聞いた。

 

「といっても、こっちが勝手に親近感を抱いているだけだ。深い意味もない。誰かに言うつもりなんぞなかったのに、お前があれに手を出していたからな。気を逸らすために言っただけだ」

──そうですか。それで、親近感を抱いたのはなぜですか?

「ふん……出まかせだとは思わないんだな。十王星南も言っていただろう。分不相応な望みを持っていると。それが私であり、あの高辻とかいう目立ちたがりだ」

──アイドルになろうとする人間は、少なからず目立ちたがり屋だと思いますが。彼女とあなたが似ていると気づいたきっかけは?

 

 そういうと、雨夜燕は呆れたような顔をこちらに向ける。

 これを向けられたのは今日二回目だ。

 

「……清々しいまでに図々しい男だな。勘だよ。私が勝手に感じただけだ。逆に聞くが、お前はなぜそれほどあの女に執着する」

───そう言われても、今はまだその時ではありませんので。

「であれば考えなしの行動は止めておいた方がいいんじゃないか? 嗅ぎまわれば警戒されるだけだ」

 

 その言葉は確かに一理あった。

 だが……先程の質問の答えがまだだ。

 それに確信がある。雨夜燕には、まだ隠している繋がりがある。

 

────考えなしではありませんがね。さて、最後に先程の続きをお話しください。あなたは十王星南と違って、こういった状況でも臆さず返答できるでしょう。

「嫌味をアイドルに向けるとは。友達いなさそうだな、貴様。お互い様だが。あるとも、明らかな共通点が」

 

「……私は十王星南という絶対的一(ナンバーワン)を超えるために今持てる全てを投じている。誰かを超えようとする時こそ、一番力が出る。それこそが私だ」

……同じだ、と?

「恐らくな。もう一つは確信がない。だが、言ってやる。私はお前に協力したい訳じゃないからな。あの女は、誰かを怯えさせることに恐怖しているはずだ」

 

 雨夜燕への聞き取りを終え、この調査を結ぶ。

 

 俺はぼっちではない。

 遊ぶし、尊敬しているし、共に競い合う友達がいる。嘘ではない。

 ……俺にも友達はいる。

 

 話が逸れた。高辻冬利の情報はかなり集まった。精神的なものを調べられたのは、やはり雨夜燕がいたおかげだと言う他ない。オマエとの出会い方は最悪だったと数少ない友人の皆に指摘されるが…………今回もまた、俺のせいか。

 このままでは、普通にアイドルと交流を持つことすらできないかもしれない。

 それは勘弁してほしい。

 俺自身の反省は、今はいい。ここに書くことではない。

 

 やはり特筆すべきは七不思議とやら。七不思議ではないと分かっていても、そう呼ぶのが最適である。この呼称を使う他ない。

 高辻冬利の動きは噂を聞いたのではなく、自分から知ろうとしているものだ。それが引っかかった。噂を聞いて、それを友人に話すことはなんらおかしくないだろう。

 だが、倉本千奈への取材の中では、その噂についてまるで出てこなかった。それとは逆に、三年生の姫崎さん、十王会長には変な噂が強く印象付けられている。何かに駆られているという証言との関連は、十分に考えられた。異物に追い詰められているとすれば、焦るには充分な理由だろう。

 だが、まだ情報が足りなかった。

 

 手帳をしまい、メモをとるのをやめる。

 メモに書いておくばかりでは、思いつかない可能性に気づけない。

 

 もう一つ特筆すべき点がある。

 とても単純なことだった。

 寝る準備を済ませながら、頭と体を別々に動かす。口は頭にくっついて動く。

 自然と言葉は飛び出した。

 

「みなさん、ばらばらなことを言いました」

 

 戦うべき相手で、仲良しのクラスメイトで、ファンで、優等生で、相談してきた下級生で、夢想家で、同じヤツ。もちろん、それ以外にも人に会うだけ、聞けば聞くほど増えていくだろう。

 当たり前だ。同じ立場、性格、身体など違うことは沢山ある。人の数だけ、見えるものも違う。

 無造作に地べたに寝転がった。

 布団をかぶり、スマホに充電器を挿した。目に光が飛び込んで、すぐに電源ボタンを押して消す。

 

 悪感情を抱く人間がいない。

 ともすれば、アイドルにとって最も難しいことだ。悪い印象を持たれることから逃れるのは、アイドルであっても、アイドルだからこそ難しい。

 はっきり言えば、不可能だ。人の身に余る。そんな真似ができるのならば、とっくに人間を辞めている。

 それを実行するのは、無茶無謀で、おかしい人間だ。

 それと付き合っていけば、さぞかしままならないことばかり起こるだろう。

 

「万華鏡のようですね。まるで」

 

 だからずっと、おもしろくない。

 

 


 

 

「おもしれーな人生!!」

 

 叫ばずにはいられなかった。叫ばなければ誰にも届かない、であれば私の人生は叫びにあふれている。

 叫んで鼓舞しなければ、やってられない。

 やってられないのも人生だ。特に競争ごとでは負けても負けても次に進む強さがないといけない。それを前提にしてやっと進歩がある。

 ダンストレーナーがこちらを見た。

 呆れた表情がありつつも、折れない私に期待をかける笑みを浮かべていた。

 

 高辻冬利は体力が無い。篠澤よりはある。

 篠澤を例に挙げてしまうと、さすがに勝てるところは幾つもある。体力とか。健康なところとか。元気さとか。

 勝てるのなら、篠ちゃんよりすごいのか? まるで否。どう現実を見ても、変わらない事実だ。

 だからこそ、勝てる部分で勝負を五分に持っていく。そうしなければ勝機はなかった。

 なにより体力がない。音楽がループする前に思考がループする。頭がまわっていないようですね。

 

「……まだ行くか? 高辻」

「ぜひゅっ、ぜぇ、ひはー……まだやりますよぉ! ここでやめてちゃ負けますから━━━━!」

 

 音楽が巻き戻され、初めから繰り返される。セット回数は十いくつを超えて、数秒の休憩がむしろ体を追い詰めているのではないかという段階に至っている。

 ダンスは止めない。ぐちゃぐちゃになっても、身体が音楽に合わせ自然に動けるくらいになるまで止まらない。

 スタミナトレーニングとはそうだ。ダンストレーナーが言い出したものではない。自己流のトレーニング内容を説明し、危険な状態になればストップをかけてもらうと約束した。

 無茶なやり方だった。それでも、やらずにはいられなかった。

 目標とする、未来のトップアイドルたちが動き出したのだ。

 私が十歩ゆくたび、彼女たちは百歩進む。基礎ステータスが違うのだ。或いは、誰かから送られる期待か、声援か。負けられない夢だとか。どれもこれも……私に一番足りないものだ。多分そう。

 踊りに体を振り回される。

 よろけて膝をついた。

 

「だああああああ……! ふっ、ぐぅー……!」

 

 ぴくりとトレーナーの足が動くが、その好意を受け取るつもりはなかった。

 右の拳で地面を押し除け、大丈夫だとでもいうように左手を見せた。

 

 その左手を、トレーナーに掴まれる。想定していなかった行動に、冬利は小さく動揺した。

 トレーナーは、さっきまでの柔らかい笑みではない笑顔。

 獲物を見つけた狩人の、獰猛な目だった。

 

「続けるんだろう。さっさと立て」

「……あはははっ! 言われなくとも!」

 

 ぶっ倒れるまでやってやる。

 

 


 

 

 アイドルの努力を最も知っているのは誰か、第一にプロデューサーがそこに挙がる。トレーナーは同じくらい、いや時にプロデューサーよりも残酷な現実を観る立場にいた。

 高辻冬利の評価は高い。その上で、ダンストレーナーには予感があった。

 彼女がアイドルとして大成することは、一生涯ないと。

 

 気を失った高辻を、保健室まで運んだ。気を失った直後は苦しげだった表情も、汗を拭き体を休めていくうちに安らかな寝顔に変わった。

 普段は結ばれている赤髪が、ヘアゴムを失って背中の下敷きになっている。

 染めていると言われたその髪は、燃えるように赤かった。あり得ないのに、地毛ではないかと勘違いするほどの真紅だ。

 何度も注意し、何度もはぐらかされて逃げられた。アイドルに向ける熱量は本気だと分かったために最近はおざなりだが、髪の色を指摘することは一つのルーティーンになっている。

 

 花海姉妹の姉の方も、髪色は赤に近い。あれは地毛の範囲で納得できる。だが、こいつのこれは異質だった。葛城や十王とも違う。あれは地毛だ。染髪とも思えないくらい真っ赤な髪は、否応なく人の目を惹いた。

 厳しい言い方をすれば、惹く止まりでもあるが。

 

 髪を染めたのかと聞けばはっきり頷き、黒に直せと言えばダッシュで撒かれる。スピードならば負けんというのに、捕まえられた試しはなかった。

 

 一言で言うなら。

 

「異常というより、異質だな」

 

 それ以外の言葉を持ち合わせていなかった。

 異常な人間は、初星学園を見渡せばちらほらいる。今年の一年は豊作だ。ブルドーザー並みの突進を持つ花海とか、重心移動の滑らかさは折り紙つき紫雲とか、篠澤とか。十王もその中に入る。

 あいつらのような、およそ特殊と呼べる能力は持ち合わせていない。強いて言えば並より硬い意思・身体くらいだ。

 なのに時々どうしても、あれから目を離せない。あの髪があるから? 違う。

 あのくらい、アイドルじゃなくてもたまに見る。確かに目を引かれるが、それが理由とは思えない。

 

 真っ当な手段でアイドルを目指しているはずなのに、どこかおかしい。

 故に、異質だった。




区切りの良い所まで書いたため、金土日で三話更新します ぜひ見てね。土日は16時30分に投稿します
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