信長たち一向は出撃準備を整え、平原を経った。
そして、反董卓連合が集まる合流地点へと到着したのであった
その場所には至る所に天幕が張られ、その周辺には諸侯の旗が所狭しと並び、色とりどりの軍装に身を固めた兵士たちがそこらじゅうを歩いている。
「主。恐らくあの陣地中央の大天幕の位置になびく旗が、河北の雄、袁紹の旗ですな」
「で、あるか」
「その横に荊州・南陽の太守にして、袁紹の従妹にあたる袁術の旗です」
星に続くように愛紗は指を刺し袁術の旗を信長に教えるように説明した。
「その奥には・・江東の麒麟児、孫策さんの旗も見えますね」
「西涼の馬騰さんや官軍に所属していた方の旗もいくつか見受けられますね」
「あ!あっちにあるのは白蓮ちゃんの旗だー!」
雛里、朱里も信長に対し、旗の説明をするなか緊張感もなく桃香は親友白蓮の旗を見つけ喜んでいた
「ふむ・・曹操も必ずや来ておろう。曹操に孫策。英雄にして英傑。そして袁紹に袁術の良き噂は聞かぬが、財力や兵力は脅威である」
「確かにそうですね。私たちはまだ財力も兵力もこの諸侯の中で一番最下層でしょう」
「しかし、最下層だからこそ、期待されておらず、なにか功績を残せばその分名が上がりやすいでしょう」
信長の一言に、朱里と雛里はそれぞれの考えを話す。そしてそこに金色の軍装をした兵士が声をかけてきた
「長い行軍、お疲れ様でした!貴殿のお名前をお聞かせくださいますでしょうか!」
「平原の相、織田上総介信長である。連合の総大将へ取次ぎ願う」
「は!しかし恐れながら現在、連合の総大将は決まっておらぬのです・・」
「なに?総大将がまだ決まってないだと?」
兵士の一言に愛紗は驚きと困惑の声を上げた
「では・・この場所に駐屯しいったい何をしているのだ?」
星がさらに、愛紗に続くように兵士に問いかけると・・
「総大将を決める軍議をしているのさ」
「白蓮ちゃん!!」
後ろから懐かしい声が聞こえ、桃香が振り向くと、そこには白蓮が笑顔で手を振りながらこっちを見ている。
桃香は嬉しさのあまり、白蓮に向かって走り、抱きついた。
「よ、桃香。久しぶりだなぁ」
「お久しぶりだねー♪元気だった?」
「おかげで無病息災さ。おっ・・、星じゃないか。久しぶりだな。元気にしてたか?」
白蓮は桃香を体から引き離し、今度はかつての客将だった星へと話をふる
「ええ。あれからあちこち放浪し、今は信長様、桃香様の下にお仕えしております。伯珪殿もお元気そうで何よりですな」
「まあ、お前が抜けた穴を埋めるのは大変だったけどな」
「おお、嫌味を言われるなどとは、伯珪殿も成長なされたようですなぁ」
「うるさい、ば~か」
二人の口調はお互いを馬鹿にしているようだが、二人とも微笑みを浮かべており、どちらも楽しそうであった。二人の間には友情が垣間見えるようだ。
「ところで・・まだ総大将が決まっていないと聞いたのですが・・」
「ああ・・残念ながら事実だ」
愛紗が、そして皆が気になっていたことを白蓮へと聞いた。
「どういうことなんでしょう?やはり諸侯の主導権争いが泥沼化しているのでしょうか?」
「それがなあ・・・総大将なんて面倒な仕事はごめんだって奴らがほとんどでなぁ。軍議が進まん。
やりたそうにしている奴はいるんだが・・自分から言い出さないんだよ」
「あぅ・・つまり、やりたそうにしている人間に押し付けるつもりなのに、やりたそうにしている人間が立候補せず、また他の諸侯も発言に対しての責任を負いたくないから進めない・・ということですか?」
「ああ。ずばりその通りだ。腹の探り合いで疲れるよ、ホント・・」
雛里の推測にずばり的を射たようで白蓮は苦笑いしている。心なしかやつれているようだ。
「ふむ・・くだらん。こうしている間も董卓軍は軍備を整えておろう」
「その通りだよご主人様!!苦しんでいる人たちだっているんだから。軍議に乗り込もう!」
信長のもらした言葉を聞いて、桃香がズンズンと足音を響かせながら歩き始めた。
それに続き、信長も早く諸侯たちの顔ぶれを見たいのだろう。桃香に続いて歩き出す
「ご、ご主人様!お待ちください!本当に軍議に乗り込まれるおつもりで!?」
朱里が信長と桃香の前に立ちふさがる
「当然だよ!戦争を遊び感覚でやってる人たちに、ビシーッっと一言言ってやるんだから!」
「し、しかしこれは諸侯の権力争い。弱小勢力である私たちが何を言おうと取り合ってくれるはずがありません!」
「でも朱里ちゃん・・このままじゃ時間だけが過ぎちゃうよ・・」
「そうですが・・それに私たちがもし何かを提案し、責任を負わされる可能性だって否定できません」
「う~ん・・・ねえ、ご主人様。どうしよ・・あれ!!??ご主人様!!?」
桃香と朱里が話している間に信長はさっさと中に入ってしまったようだ。
「ま、待ってよ~・・」
「ご、ご主人様ー!」
桃香と朱里は急いで信長の後を追って、天幕へと向かった
信長は驚いていた。今まで数々の英雄たちと出会い、戦国の世で何百と戦をし、そして何百と軍議を重ねてきた。
このようなものは見たことがない
「さて、皆さん。何度も言いますけれど、我々連合軍が効率よく兵を動かすにあたり、たった一つ、足りないものがありますの。
兵力、軍資金、そして装備・・全てにおいて完璧な我ら連合軍。そしてただ一つ足りないもの。・・さてそれは何でしょう~?」
金色の鎧に身をまとい、天を突くほどのくるくるドリルヘアー。沈黙する軍議の中でただ一人だけもくもくと喋っている。
この女が河北の雄、袁本初である。
このような軍議は初めてであった。一人だけが喋り続け、そして、意味も無い言葉をただただ述べるだけ。これは遊びだ。
これが袁紹だと・・
信長はその間に周りを見渡す。見渡す限り女だらけであった。ここにいる者たちは全員反董卓連合で集まった名高き諸侯。
つまり、名高い者たちは全員女であるということ。それはこの世界では男に優秀なものがいないことを明確に表していた。
(つくづく変わった世界・・ぞ)
信長のいた戦国ではほとんどが男で統一されたものであった。
優秀な武将、軍師、大名。ほとんどが男性。女性もいるにはいたが、本当にまれである。
信長は周りを見渡し、王たる者の気質や覇気を見る。そして信長の目に適う者達がいた。
(やはり曹操は覇王たる存在であるな。・・そして、もう一人・・)
信長は褐色肌の女性からも曹操と同じようなものを感じた。
(孫伯符・・か。クク・・江東の麒麟児、小覇王か。まだ開花しておらぬが、いずれはこの信長の天下布武の障害となろう・・ぞ)
信長がそう考えていると相変わらずとめどなくあの声が聞こえてくる。
「まず第一に、これほど名誉ある目的を持った軍を率いるには、相応の家格というものが必要ですわ。
そして次に能力。気高く、誇り高く、そして優雅に敵を殲滅できる、すばらしい能力を持った人材こそが相応しいでしょう。
そして最後に、天に愛されているかのような美しさと、誰しもが嘆息を漏らす可憐さを兼ね備えた人物。
・・そんな人物こそが、この連合軍を率いるに足る総大将だと思うのですが、如何かしら?」
「・・で?貴女の挙げたその条件に合う人間は、この連合の中にいるのかしら?」
袁紹の長々とした、意味の無い無駄話に曹操が口を入れた
「さあ?それは私の知るところではありませんけれど。でも世に名高いあなた方ならば誰かお知りなんじゃありませんの?」
「そうね。案外身近にいるかもしれないわね」
「ええ、そうでしょう。そうでしょうとも。おーっほっほっほ♪」
高笑いする袁紹と、それを呆れた目で冷ややかに見つめている曹操、そしてその様子を黙って見ている諸侯たち
「黙れい・・」
その場に不釣合いな低くドスの聞いた声が響く。
「このうつけ共がああ!!!!!!!!」
信長が天幕の中央にある机を蹴り飛ばし、イスから立ち上がりながら周りの諸侯たちに渇を入れる。
隣にいた、桃香と朱里はあまりの突然の行動に驚き、一歩も動けないでいた。
「な!?なんですのあなた!?」
「うぬらのくだらぬ話なぞ、無価値!!ここにいるは董卓を討つ為の軍議であろう!こうしておる間にも董卓は軍備を整えておる。糞にもならん話なぞ無駄ぞ!」
信長は天幕の中央にたち、腕を組み仁王立ちで袁紹だけを睨み付けている。まさに、今言った無駄とは全てお前のことだと言わんばかりに。
信長の怒気、そして、王としての覇気に周りの名も無き諸侯たちは震えていた。
これほどまでに怒って怖い人間がいたのかと思えるほどであった。
今まで、一緒にいた、桃香や朱里でさえも恐れ、体が震えている。
袁紹も例外ではなかった。今まで袁紹を馬鹿にはする者はいたが、怒るものはいなかった。むしろ、袁紹の機嫌をとるために持ち上げ、貢物を送り機嫌をとるだけ。
真剣に怒る者は誰一人としていなかった。
「な・・なんですの・・あなたは?」
「ワシは織田上総介信長」
「お・・織田・・・と、斗詩さん!」
「は、はい!!なんですか麗羽様!」
袁紹が傍で控えているおかっぱの少女を呼び寄せる。
そして、なにやら耳打ちで話をしている。
すると一変、袁紹の表情が急に変わり、こちらをキッっと睨み付ける。
「あ、あなた!たかだか平原の相ではありませんか!この名族であるわたくしに何て口をお聞きになるのですか!」
「名族とやらは無駄に軍議を長引かせるのか?貴様もとっとと申せ!申さぬならこのワシが連合の総大将となろう!」
信長が袁紹に一歩も引かず、総大将になるといい始めた。すると周りがざわつく。
先ほどまで信長を恐れ、震えていた者たちも信長がたかだか平原の相、弱小勢力であるとわかったとたんいつもの調子に戻ったようだ。
「あ、あなたになれるわけないでしょう!!あなたがなるぐらいでしたらこの私、袁本初がなりましょう」
その時、その言葉を待っていたといわんばかりにある者が口を挟んだ
「なら決まりね。私は袁紹を推すわ。貴女が総大将になりなさい」
「私たちも依存はない」
孫策の傍らに控えていた、黒髪の女性もそう言った。
「妾も問題はないぞよ」
「あらあら?皆さんそうですの?おーっほっほっほ!やはり総大将はこ~んな貧乏軍の方たちには勤まりませんわ!」
袁紹がしてやったりといったような目で信長を見る。
「では、これで総大将は決まりぞ。すぐに軍議を始めよう」
信長がこれでやっと話を進めれると思ったところで
「私は陣に戻る。決定事項は後ほど伝えてくれれば良いわ」
「私たちも自陣に戻らせてもらう。曹操殿と同様、作戦は後ほど通達してくれればそれで良い」
曹操と孫策たち一向は自分の陣へと戻るため天幕から去っていってしまった。
「あ~あ、どうするんだ本初」
白蓮が袁紹へと話をふった。
「ふんっ、私に任せると言った以上、私の指示に従っていただきますわ。
さて、織田さんとやら。あなた、この私にとんでもない口を利きましたわね。まあ、私はこれっぽっちも怒ってはいませんが、あなたの実力が知りたくなりましたわ。
そ・こ・で。一つ貴方に提案というか作戦があるんですけれど、簡単なことですわ。
連合軍の先頭で勇敢に戦っていただければいいのです。あ、もちろんその後ろには私たち袁家の軍勢が控えていますから、何も危険なことはありませんわ。
貴方も武人でしょう?武人にとって先陣は栄誉ある持ち場。もちろん喜んでお受けしますわよね?」
「ご、ご主人様・・」
朱里がクイッと信長の服のすそを引っ張った。
「私たちには先陣を受けれるほど兵の余裕はありません。仮にうまく運べたとしても後々、この戦が終わったあと影響がでます。
いづれ訪れるであろう群雄割拠の波に乗り遅れてしまいます」
「ほう・・・うむ、袁紹よ。その役目引き受けよう・・ぞ」
「ご、ご主人様!」
桃香と朱里が目を見開いて驚いている。あなた今の朱里の話を聞いていたんですかといわんばかりに。
「あら?意外に素直ですわね。そうでしょう。この私、総大将からのお願いですからね!おーっほっほっほ」
「ただ、一つうぬに協力してもいたいことがある」
「あら?協力?」
「うむ。うぬら袁家の兵を五千ほど貸してもらおう」
「ご、五千!?どうしてこの私がそんなことしなくてはいけないのです!あなた方の兵だけで戦えば良いではありませんの!」
「うぬは先ほどもワシらに申しておったであろう。ワシらを貧乏・・とな。
兵も満足ではない。そんな貧乏なワシらに総大将は恥ずかしげもなく、先陣を任せるつもりか?
董卓軍に笑われようぞ。連合の総大将はなにするものぞ・・とな」
「っぐ、確かにそれは私たち連合どころかこの袁家にも泥を塗りますわね・・」
「え、袁紹様!先陣は名誉な役と先ほどおっしゃってましたよね?ですがその名誉ある先陣の役目を見事にこなした私たち織田軍の中には、実は袁紹軍の精鋭部隊がいた!ということになれば袁紹軍の評判も上がるのではないでしょうか?」
朱里がここぞとばかりに袁紹軍の有益になる話を間髪いれず説く。
すると袁紹は軽く考え込み、
「・・・そうですわね。確かにあなた方だけでは難しいでしょう。ならば貸してさしあげましょう。この名族袁家の華麗なる兵隊さんたちを!」
「ふむ。ならば兵糧もいただかなくてはな」
「っぐ、わかってますわよ。どうせあなたたちは食べ物すらない貧乏軍でしょう?華麗なる我が軍は兵も兵糧も困ってませんことよ!おーっほっほっほ!」
「ねえねえご主人様」
桃香が今度は信長にだけ聞こえるように小さな声で話しかけてきた。
「袁紹さんって扱いやすい人だね~」
「クク・・名族・・か。しばらくは利用させてもらおうぞ」
二人で笑いあっていると、朱里が袁紹に話しかけた
「それで、作戦はどのようになっておられるのですか?」
「そんなの決まってますわ!!雄雄しく、勇ましく、華麗に進軍ですわ!」
袁紹が声、高らかにそう宣言した
「作戦・・ですか?」
桃香が袁紹にそう聞いた
「ええ、まさしくわたくしに相応しい華麗な作戦ですわ!これで勝利は間違いなしですわ!おーっほっほっほ!」
朱里と桃香は口をぽかーんと開けて絶句している。
「袁紹よ。その作戦を実行すれば後はワシらの好きに動いてよいのだな」
「ええ。貴方にできるかわかりませんが、雄雄しく、勇ましく、そして華麗であれば問題ありませんわ!」
「そうか、ならわかった。桃香、朱里ゆくぞ。袁紹、兵と兵糧の手配忘れるでないぞ」
「言われなくても分かっておりますわ!!」
不満たらしげに吐き捨てる袁紹に、もう一度頼むと声をかけたあと、信長は桃香と朱里と共に軍議の場から立ち去った。