メンタル強いです。
白蓮が織田軍の配下となったその晩、信長は自室にて残りの政務をこなしていた。
風の音が戸を叩く静かな晩、彼の仕事も捗るというものだ。
ガタガタ
ガタガタ
「今宵は風が強い」
ガタガタ
「はぁ~い♪」
そこには下着を一枚身に着けた筋肉隆々の男?が戸を開け信長の部屋へと足を踏み入れる。
「汝・・何者ぞ。答えようによってはそっ首叩き落してくれようぞ」
「いや~ん、怖いわ・・うふっ。私はしがないただの踊り子よ」
「クク・・この信長、踊り子は幾人も見てきたがうぬのような踊り子は見た事がない」
そう言い、信長は村正を抜刀し男の首にあてがう
「滅せよ」
信長は村正を大きく振りかぶる。そして、今まさに振り下ろそうとした瞬間
「尾張のうつけ」
男がその言葉を口にした瞬間、信長は振り降ろそうとした村正の動きがピタリと止まる。
「織田上総介信長。天下布武を掲げ日ノ本の大半をを手中にした。だけど、部下の明智光秀の謀反によって志半ばにしてその夢が断たれた」
男は一切動じることなく、信長のことを話す。
それは一切間違っていない、まさに事実である。
「答えよ。なぜその事を知っておる。うぬはこの地の者ではないというか」
「私は貂蝉。この名前知ってるでしょ?」
「うぬがか?あの傾国の美女の貂蝉と申すか!」
「あらいやだわ~もう、美女だなんて。ホントかわいいんだから。そんなに見つめちゃ、い・や♪」
貂蝉が体をくねくねさせながら照れたような仕草を見せる。
しかし、信長は動じず、腕を組み貂蝉について考える。
この地では男性の将が基本的に女性になっていた。
ならば、女性が男性に変わってしまってもおかしくはないだろうと。
「まあよい。うぬがあの貂蝉であろうが無かろうが構わぬ。して、うぬは何者ぞ」
「そうね。まず、信長ちゃん。貴方は本能寺で命を落とそうとした瞬間、声を聞かなかったかしら?」
「うむ。そしてその声に導かれ、ワシは光の道を歩き、気づけば幽州の地にて倒れておった」
「そうね。その声は私よ」
「ほう。しからばうぬがワシの命の恩人と申すか?そして、今、その報酬を望むか?」
「そうね・・あながち間違ってはいないかもね」
貂蝉がその体に似合わない、少し暗い雰囲気をかもし出している。
恐らく、言いにくい事なのだろう。
「構わぬ。申せ。ワシが応じれるものであれば可能な限り報いよう。第二の生という奇跡をワシはお主からもらったのだ」
「そう、じゃあ単刀直入に言うわね」
そう言うと貂蝉はたたずまいを正し、事を告げようとする。
信長も自然に姿勢が伸びる。
風貌に似合わず、真剣な話であろうと直感した。
「信長ちゃんにお願いする事は唯一つ・・・・・
天下をとって頂戴。それだけ」
貂蝉から告げられた報酬はここで天下を取るというものであった。
それは、信長が目指すものと同じ、天下統一である。
「ほう。何故天下を望む?ワシがとった暁には領土を寄越せということか?」
「いいえ。違うわ。私はただご主人様。そして曹操ちゃんに幸せになって欲しいだけ」
「ご主人様・・?曹操・・・?」
信長は聞いた事のある名前に少し戸惑った。曹操?何故ここで曹操の名前が出る。
だが、貂蝉の話は止まらず、信長が考えている事の答えを全て話す。
「ご主人様・・それは北郷一刀ね。そして曹孟徳。この二人はね。恋仲なの」
「恋仲・・?」
「ええ。でもそれは別の外史でのお話。でも、この外史でも必ず同じ結果になるでしょうね。
だって、二人は悔しいけどお似合いなのよ~うゎあ~~~~~ん!」
「黙れ」
信長が再び村正を抜刀し、貂蝉の首にあてがう
「も、もう!ちょっとくらい感傷に浸らせてくれてもいいじゃない!せっかちな男はもてないわよ」
「続きを申せ。全てうぬが知っている事をワシに話すのだ」
「わかったわよ。じゃあ話すわね」
「うむ」
信長はもうこの男はふざけないだろうと感じ、自分がいつも寝ている寝台に腰掛けて話を聞く体勢を整えた。
貂蝉もその場にドカッと座り、貂蝉は信長を見上げる体勢で話を進める。
「まず、外史というものについて話すわね」
「ああ。ワシに構わず話せ。分からないところがある度にその都度お主に問おう。途中で止まらず話し続けるのだ」
「わかったわ。まず外史とは正史とは違った別の世界の事。たとえばそうね・・
もし、劉備や関羽、張飛が女だったら?
曹操と夏侯惇 が愛し合っていたら?
孫策が死なず、存命だったら?
いろいろ考えたらキリがないわね。それらの世界。それが外史。つまりここもまた外史。
そして、私は外史の管理者なの。だから、私はいろんな外史を見てきたし、その中で手助けをしたりもしたわ。
その中でご主人様と出会ったの。そ・し・て・・いやん♪」
貂蝉が再び体をくねくねさせる。だが信長の姿勢は変わらない。
今のこの空いた時間で整理しているのだろう。
「あら私ったら、ごめんなさいね。つい脱線しちゃったわ。
それで、私は北郷一刀の作る外史をたくさん見てきたわ。それこそ数え切れないくらいにね。
あの時、あれを食べた。
あの時、あそこに行かなかった。
あの時、戦で負けた。
それだけでも、外史はまた多く分岐する。でもね、歴史はそれをうまく修正して、結局は同じ終着点にたどり着くのよ。
それまでの道程が違うだけ。
結局世界や歴史の力ってね、強いのよ。
たかだが一人の男が、ましてやただの何も出来ない人間が介入しただけでは歴史はそうは変わらない。
この乙女だらけの三国志はね、やっぱり外史であって、正史とはたくさん差異が出るの。
まず一番の正史との違いは、赤壁。これが一番ね。
夷陵の戦いや五丈原。そんなものは無いの。赤壁がまさに天下分け目の戦い。最後の大きな戦いね。
ご主人様が桃香ちゃんたちの蜀に降り立った外史では赤壁で勝ち、呉でも勝つ。そういうお話だったわ。
それは何度繰り返しても同じで、百回あったら百回とも赤壁で勝ち、戦いは終わるわ。
そして・・一番の問題は・・魏。
魏に降り立ったご主人様はね、赤壁で勝っちゃうのよ・・これは歴史や世界を覆す行為。
正史では歴史的戦いの赤壁では魏は大敗する。でもご主人様は正史を知ってるから勝っちゃうのよ。それがダメなの・・
世界はその矛盾を許さない。結果・・ご主人様は最後には消えちゃうの・・愛した曹操ちゃんの目の前でね・・うぅっ・・ぐすっ・・私見てられないわ・・・」
貂蝉が泣き出してしまった。だが信長は気にしない。
それよりも入ってきた情報が非常に多いことに整理するのが大変なのだ。
「消える・・とな」
「ええ。作られた外史とは言え、やっぱり基本は三国志なの。
その三国志を根本から覆しちゃうからね。でも赤壁で勝たなきゃ愛する曹操ちゃんや魏の面々を失っちゃうわ。
優しいご主人様にはそれが許せないのよ・・
男としては愛する人たちの為にやったこととして満点だけど・・
歴史や世界としては、許されざる行為なのでしょうね・・・」
「なるほどな。三国志の世界を曲げすぎては世界に消されるという事か」
「ええ。そこで頼みたいのが信長ちゃん。あなたよ」
貂蝉がそのまっすぐな瞳を信長へと向ける。
なぜここで信長なのだろうか?
「この物語は天の御遣いによる、魏、呉、蜀のそれぞれの物語。
主役はもちろん天の御遣いの北郷一刀。
そして、魏での場合は主役は最後、歴史を大きく変えたことによる罪により、世界から消される悲劇の物語。
じゃあ、ご主人様が消えないためには?」
「世界を曲げてはいけない」
「そう。その通りよ。定軍山での夏侯淵 救出など、赤壁以外でもたくさんご主人様は世界を変えたわ。
では、どうすればご主人様が消えないのか?答えは簡単・・・
信長ちゃん。あなたが主役になればいいの」
「ワシが・・?」
「ええ。この物語の始まりは基本いつも通り、北郷一刀が魏に降り立った物語。
だから、いつもと同じ事をご主人様は繰り返すわ。
でもね、そこに私が貴方を介入させたの。
そして、あなたはこの後、どんどんと活躍していく・・・・・そして、気づけばこれは主役は北郷一刀ではない。織田信長だってことにしてほしいの。
これは北郷一刀が魏に降り立った話ではなく、「織田信長が乙女だらけの三国志に介入した物語り」だ。ってことにね。
そうすれば、ご主人様は自らの手で歴史を変えない、変えれない。だって、自分の知ってる物語じゃないからね。織田信長なんて三国志にいなかったから。
そして、三国志との類似点はご主人様じゃなく、貴方が変えるの。
たとえばそうね・・例として貴方が魏の立場に立ってみるとか・・?
そうすれば、本来曹操がいるべき場所に貴方が立ったら、それは北郷一刀によって変えられたのではなく、織田信長に変えられたということになるわ。
そうすれば、ご主人様の手で変えたのではないから、ご主人様が歴史を捻じ曲げた事にならないわ。
そうすればご主人様は消えない・・曹操ちゃんと愛し合うことができる・・・・
これは織田信長による物語・・・貴方の好きにして頂戴。世界をしっちゃかめっちゃかにして。
そして北郷一刀を脇役にして頂戴。
あなたならできるわ。貴方はただの人間ではない。
貴方は死ななかったら必ず日ノ本の歴史が変わっていたであろう人物。
凡人ではない英雄。あなたならきっと世界すら変える事ができる・・」
貂蝉は長くしゃべった事に疲れたのか、傍にあった水を一気に飲み干し、一息つく。
信長は黙って腕を組み、目を瞑り考える。
貂蝉の言いたい事はおおよそわかった。
そして、最後に気になったことを告げた。
「話は分かった。だが一つ聞きたいことがある」
「あら?なにかしら?」
「うぬの申した話では最後、主役は消えるのであろう?世界を大きく変えた代償として」
「そう・・消えるわ・・・つまり・・信長ちゃん。あなたが」
「ふむ」
「あら?驚かないのね?」
「元々ワシは最後にはここを去るつもりであった。桃香に全てを任せてな」
「どうして?」
「あやつは平和な国の統治には向いていよう。そして、あやつには仁がある。
そんな人間の下には人が集まってこよう。
ワシは魔王として、人に恐れられておる。そして、ワシの隣には優しい桃香がおる。
ワシはこれより、天下を取るために様々な手を使おう。
その中には快く思わん、部下や民がいよう。
そやつらはワシを目の敵に思うであろうが、桃香はそんな者たちにも好かれよう。
桃香がおるからこそ、我慢できる者もいようぞ。
そして、天下をとった暁には、そやつらはワシがいることで不安になろうぞ。
「魔王が天下を取った。地獄が始まるのではないか・・」とな。
そやつらにとっては桃香だけが頼み。救いである。
そんな時にワシが消えたらどうなる?
不安は全て消え、救いであった桃香が残る。
民や部下らの不安や憂いは全て消える。さすれば不満を持つものはおらぬ。
天下に長き安寧が訪れよう・・ぞ」
「信長ちゃん・・あなたそれでいいの?人々の不安や恐れを一身に受け、そしてそれを全て抱えて消えることに」
「構わぬ。どの道ワシは最後消えることに変わりはない。ならばそれすらも利用しようぞ」
「そう・・わかったわ。ごめんなさいね、こんな役目を負わせて」
「構わぬ。ワシは志半ばで天下を諦めざるを得なかった。だがワシにもう一度天下を取れる機会をうぬは与えてくれたのだ。
この信長が天下に通用しようか否か。それを確かめたかったのだ」
「信長ちゃん・・頑張ってね」
「クク・・是非もなし。この信長の覇道・・しかと見届けい!!」
「ええ。じゃあ今日はお暇するわ。じゅあね♪」
そう言って貂蝉は消えるように外へとつながる戸から去っていった。
(この世界をワシの物語に染め上げる・・・か。この信長の天下布武の物語・・クク・・しかと楽しませてもらおう・・ぞ)