白蓮が目を覚まし、白蓮の部隊の兵を織田軍の兵とし、組み込んでいいかと白蓮に聞いたところ、本人は構わないと答え、白蓮の兵たちも納得し、これからの事を話そうとしていた矢先・・
「も、申し上げます!!」
「なにごとだっ!」
織田の兵が慌てて広間に飛び込んできた。
その慌てぶりに愛紗が怒鳴るように聞く。
「え、袁術の軍勢が国境を突破し、我が国に侵攻してきました!!」
「なんだとっ!?ど、どういうことだっ!?宣戦布告も出さず、奇襲を掛けて来たと言うのかっ!?」
「はっ!国境の警備隊を突破後、猛烈な勢いで侵攻してきております!このままでは、州都に到着するのは時間の問題かと!」
「く・・鈴々!星!すぐに迎撃の準備だ!」
「応!」
「合点!」
織田の軍勢は、袁術を迎え撃つために進軍を開始した。
敵の袁術軍の兵力は織田の兵力を上回っており、兵力でいけばかなり苦戦するであろう。
数で勝る袁術軍は平野に陣を敷いているようであった。
「ご主人様。忍びの話によると、袁術さんの部隊の中には正体不明の部隊がいるようです」
「で、あるか」
「その部隊だけ、兵の錬度が段違いに高いそうです・・誰が率いているかはわからないそうで・・」
「錬度が違うということは、それだけ優秀な将が率いているということか。しかし・・袁術のところにそれほど優秀な人材がいただろうか?」
星が眉をしかめながら、考えるそぶりを見せる。袁術のところに優秀な将は大将軍張勲しかいないという話である。
それは皆が知っていること、ではいったい誰が率いているのだろうか。
「もしかすると、客将という扱いで袁術さんに保護されている、孫策さんが出てきたのかも・・」
「孫策・・か。しからば何故正体不明にする必要があろう・・。孫策が袁術軍にいることは周知の事実。恐らく他の誰かであろう」
「ふむ。朱里、雛里。この数の差を埋めるには何かしら策が必要であろう。何か無いのか?」
「まだ・・情報が少なすぎてなんともいえませんね。敵の手中がまだ読めません」
「では袁術の情報を申せ」
「袁術さんのですか?え~っとですね・・彼女は先の戦いの袁紹さんの従妹。寿春に居を構え、お世辞にも良い政策をしているとはいえません。
まだ、幼く軍事、そして、知識もあまりない言われていますね。
ですので、実質張勲が政のほとんどを行っているかと。
あ、あと大の蜂蜜好きという情報も入っていますね」
朱里がたんたんと袁術に関する情報を述べる。
その言葉を一言一句聞き漏らさず信長は目を瞑り何かを考えているようだ。
「暗愚・・であるか?」
「そうですね。この乱世に覇を唱える者にはふさわしくないかと・・」
「では、張勲の情報はあるか?」
「そうですね。武勇についてはあまり高く評価はされていませんね。一般兵より上くらいかと。
知については、実質一人で政、そして、戦での策を考えているようです。
実質、張勲一人で袁術軍はもっているかと」
「ふむ・・では、張勲の策にのみ気をつければよいか」
「そうですね。そしてその張勲は袁術を溺愛しているという情報も入っております。袁術の命令には決して逆らわないと」
「しからば、袁術が撤退を命じれば、優勢であっても撤退すると?」
「恐らく・・」
信長が再び考え込む。
頭の中には今まで入った袁術、張勲の情報。
使えそうな情報は全て、引き出す。
この戦の穴、弱点。
軍事、知識無し。蜂蜜水。暗愚。・・・・そして溺愛。
信長の頭に一つの策が思いついたようだ。
目をカッと見開き口を開く。
「ふむ。此度も忍びを使う・・か」
「ご主人様。何か策が?」
朱里が信長に策の説明を求める。その問いに対し信長は
「クク、成功するか否・・か。この策が成功するようでは袁術は本物の暗愚であるぞ」
不適に笑みを漏らす
「・・?成功するはずがない策・・?」
信長の策に首をかしげる朱里。
成功するようではこの乱世を勝ち抜けるはずがないという。
いったい、信長はどのような策を思いついたのか?
朱里は信長の策にはいつも驚かされている。
時には自分自らを囮にし、敵を誘い込んだりする。
いつも無茶をするご主人様。此度はいったい・・・・
場所は変わりこちらは袁術陣営・・・・
「七乃~妾はお腹が空いたのじゃ~」
「駄目ですよ~今は戦の前の準備中ですから~」
「むむむ・・・」
袁術が張勲に対して駄々をこねている。
その様子を張勲は愛しそうに眺めているいつもの光景。
「はぁ~・・まだ戦は始まらんのか?もう出発して二日じゃぞ・・」
「そうですね~、もうそろそろぶつかってもいいころなんですけど・・・やっぱり美羽様の軍勢が優秀すぎて敵はまだ準備できていないんですよ。足が速いのも困り者ですね~」
「おう~さすが妾の軍じゃ!!」
「そうです、そうです。よ!天下一!兵を鍛えているのは自分じゃないのに、さも自分が鍛えたかのような誇らしい姿さすがです!」
「わはははは!もっと褒めてたも!」
袁術が高笑いをし、張勲はそれを褒めているのかけなしているのかわからない、戦前とは思えない空気が流れている。
そこへ・・
「報告します!」
「どうしました?」
そこへ、袁術軍の兵士が一人片ひざを付き、報告を述べに二人の下へとやってきた。
「織田軍は、いまだ行軍中。しかし途中で何かがあったのか、進軍を停止しているようです。
恐らく、この地に到着するにはあと二日ほどかかるでしょう」
「な、なんじゃとー!!あと、二日もかかるのかや?」
「はい・・恐らく」
その報告を受け、袁術は驚き席を立ち、急にうなだれる。
よっぽど、ショックを受けたのだろう。
「う~ん、どうしましょう。美羽様、敵になにかあったのならこちらはすぐに進軍し、その隙をつきましょう」
「嫌じゃ、嫌じゃ~!もう動きたくないのじゃ!」
袁術がまた駄々をこね始める。その様子を張勲は困ったような、恍惚としたような不思議な顔をしている。おそらく後者のほうが大きいのだろう。
「袁術様」
「なんじゃ?」
「その・・、敵はまだこちらに来るにはあと二日ほどかかります・・兵たち全員に休息を与えてはいかがでしょうか・・」
兵が再び口を開いた。どうやら全軍に休息を与えてはどうかと提案してきたのだ。
「休息・・?」
「はい・・、戦が始まれば、当然しっかりとした休息を取れません・・しかし、今ならまだ余裕がありますゆえ・・」
兵は顔をうつむかせ、いいにくそうにしている
「なるほどのお・・だがしかし・・」
袁術もわかっているのか、はっきりとした答えを出せないでいる。
答えを求めようと張勲の方に顔を向けると、当然の結果であるが首を振っている。
「むむむ・・やはり・・敵を目前にして、警戒を解くなぞ」
兵が懐に手をいれ何かを取り出す。それは甘い香りを放ち、袁術の鼻腔をくすぐる。
その香り、形を見た袁術は目をキラキラと輝かせ、その物に心を奪われているようだ。
「実は先程、蜂蜜水を手に入れまして・・・袁術様のお疲れが取れるかわかりませぬが・・・」
「おお!!それはよい!ささっ!はやくこちらに渡すのじゃ!」
そして、兵の手から袁術の元へ蜂蜜水が手渡される。袁術はずっと我慢していたのかそれを一気に飲みほした。
「ぷはー!!やっぱりうまいのじゃー!!」
「もう・・美羽様。あんまり勢いよく飲んだらお腹いたいいたいになりますよ?」
「うう・・それは嫌なのじゃ~・・」
「袁術様。我が軍にはあの者もおりますゆえ、圧勝は間違いなしでしょう。ここは戦勝祝いということでいかがでしょうか?」
「むっ!そうじゃな!そうじゃそうじゃ!妾の軍が負けるはずがない!全軍に伝えよ。休息じゃ。皆戦の前にしっかりと疲れを取るのじゃぞ!」
「御意!!」
袁術は蜂蜜水に気をよくしたのか、あっさりと快諾した。
袁術から承諾をもらえた兵は、袁術に頭を下げ、その場を急ぎ後にした。
「も~、美羽様いいんですか?」
「構わぬ。織田の軍勢はここよりかなり離れておるのであろう。そして、あやつもおる。負けるはずがないわ」
「そうですね・・」
張勲は不安そうな顔をしている。戦の前に全軍を休ませるなどしていいのだろうか?
だが、少し大きな大休止ということでいいだろう。
兵たちも行軍で疲れている。兵全員を万全な状態で戦わせたほうがいいだろうということにした。
そしてしばらく時が経ち・・・・・
「わははははは!」
「馬鹿じゃねーのかお前は!!」
「なにおー!お前こそ!!」
袁術の陣営からは楽しそうな声が聞こえる。時刻はまだ昼。
それにも関わらず、騒がしい声が鳴り止まない。
その騒音に袁術と張勲は不思議そうな表情を浮かべた。
「む、騒がしいの」
袁術は張勲に頼み、また新しい蜂蜜水を飲み、くつろいでいた。
「少し、騒がしすぎますね・・。美羽様。私少し様子を見てきますね」
張勲は何か胸に胸騒ぎを覚え、陣営を見て回ることにした。
しばらく歩きまわるとどこも同じような光景であった。
皆、楽しそうに騒ぎ、しゃべり、なにかを食べている。
中には服を脱ぎ、裸になっているものさえいた。
「いーやーさーさー!」
「あ、そーれ、あ、そーれ!!」
「わーっはっはっはっは!!もっと踊れ踊れー!」
兵たちの騒がしい声は鳴り止まない。その行動はまるで・・
「貴方たちまさか・・・・っ!?」
張勲はハッっと何かに気づき、兵たちに近寄り、兵たちのそばに転がっているものを手にとった。それは・・・
「あ、貴方たち!!!誰がお酒を飲んでいいなどと言いました!!」
「え?だって、袁術様と張勲様が許可したと・・」
「してません!!誰ですかそんな嘘を言ったのは!」
「え~っと・・どの隊の者か存じませんが、そいつがお二人が許可したと・・」
「してませーん!!・・・・ま、まさか・・・・」
張勲は急に顔から血の気が引くのを感じた。血が全て失われるかのようで、めまいすら感じるようだ。
そして、聞きたくない報告が、行われた・・・・
「ほ、報告します!!敵が・・織田の軍勢が前方より突撃してきます!!」
「う~・・!や、やられた・・」
張勲が前方をみると、大きな砂塵が上がっている光景が見える。
その砂塵はどんどん大きくなっていき、その勢いはまるで天を食らわんばかりに広がっていく。
兵力では圧倒的に上回っている袁術軍であるが、張勲はその光景を見て、これからの我が軍を想像し、身震いがした。
「美羽様の下にいかないと・・」
・
・
「ご主人様!うまくいきましたね!」
「クク・・まさに暗愚ぞ袁術。やはりまだ童であったか」
信長は策がうまくいったことに頬をにやつかせる。
戦の常識をしっているものであれば、敵を目の前にして、距離が離れていようと警戒をとくとは愚の骨頂。
先程の袁術の兵は、織田が忍び込んだ忍びの者である。
休息で多少は騒がしくなるのは仕方のないことであり、酒が回り、騒ぎ出すまで気づかず、注意に来たころにはすでに兵は使い物にならないのである。
「クク・・蹂躙せよ。滅せよ。断罪せよ!!彼奴らの冥土への手土産にうぬらの勇士を見せ付けてやるのだ」
「ぐわあああぁぁー!!」
「でやあああー!!!」
「ぎゃああああー!!」
袁術の兵は逃げ回るしかできないものが大半であった。
ほとんどの者が酔っていたため、戦いにならず、なすすべもなく斬られていくばかりであった。
袁術兵の中には武器を持ち、戦おうとするものはほとんどいなかった。
大半が背中を見せ、一刻も早く逃げるものばかり。
中には、酔いが回り、歩けないものまでいた。
織田は敵をただ一方的に虐殺していくだけのまさに地獄絵図であった・・・
「相手にならぬな。これではつまらん・・・」
「ああ。酒に飲まれるとはまさにこのことだな」
「とっとと、終わらせてお兄ちゃんに褒めてもらうのだー!!」
星、愛紗、鈴々は敵陣深くに突撃し、数多くの兵を倒していた。
三人はつまらぬと、敵を斬るのを辞め、ただ陣の中を歩いていた。
だが、不意に後ろから、強烈な殺気を感じ、三人は後ろを振り向く
「・・・・見つけた」
忘れるはずも無いその佇まい。
愛紗と鈴々はしっかりと覚えている。彼女の武を。
その天下無双の女性と戦っていない、星ですら感じるその武。
「なるほど・・正体不明の部隊とは・・」
「呂・・奉先・・・」
「・・こい。恋が相手する」
「呂布!虎牢関の借りは返させてもらう!」
「三人同時で、ちと卑怯だがな。だが我等とて負ける訳にはいかんのだよ」
四人は己の武器を構え、にらみ合う。
まるで蛇ににらまれた蛙。
三人と数ではこちらが上。だが一向に勝てる気がしない。
これが天下の武であるか。気を抜けば、三人で戦っても下手をすれば負ける。自分の首が飛ぶ姿が用意に想像できる。
「人それぞれ。気にしない・・早く来い」
「よーし!じゃあ鈴々が一番なのだ!いっくぞぉー!」
鈴々が呂布に突撃する。
自慢の蛇矛をしっかりと握り、突き刺す構えのまま呂布へと向かい走る。
そしてその勢いのまま蛇矛を呂布の心臓へと向け突き刺す。
ガキーーーン!!
金属音が激しくぶつかりあった音があたりに響く。
呂布はその攻撃をうまく防いだようだ。
「・・くっ」
だが、しかし呂布はたったその一撃だったにもかかわらず、その表情が険しい。
「てや!てや!てや!てやぁーー!!!」
鈴々は、その光景に疑問の色が浮かぶが、構わず突きを何度も繰り返す。
ガキン!!!ガキン!!!!!ガキーーーーン!!!!!
呂布は何度も防ぐ、だがしかしやはりおかしい。
「・・・んっ、くっ・・・・はっ・・・・」
だんだんとその声、表情、動き、全てが前と違う。
まるで、呂布に思えない。
「でえーーーーーーーい!!」
鈴々は、これで最後と大きく体を動かす、体のバネと反動をうまくつかうように、一本足で体を引いて立ち、前に出る反動で槍をおもいきり突き刺す。
ガキーーーーーーーーーン!!!!!!!!
しかし、さすがである。
呂布はおかしいながらもしっかりとその攻撃を防ぐ。
だがやはり、その表情は険しいまま・・・・・
「ぐっ・・・・」
「どうだー!・・って呂布、手を抜くと承知しないのだー!」
鈴々は攻撃をやめ、蛇矛の石突きをドンッと地面に突き刺すように置く。
「・・・抜いてない」
「嘘なのだ!呂布はもっと強かったのだ!」
「・・・・・・」
呂布の様子が何かおかしい。先程まで感じていた、覇気。そして最初に感じられた殺気がまるでない。
呂布を見れば、一目瞭然である。あきらかに足元がおぼつかない。
「何かしらの事情があるようだが・・しかしここは戦場だ。容赦は出来ん」
「・・・分かってる」
「・・・・・・」
「・・強くない呂布と戦っても面白くないのだ!ちゃんと全力を尽くすのだ!」
「・・・ごめん」
「むー・・・」
「・・呂布よ。いったい何があったのだ?どうも先程から精気に欠けているな」
いたたまれず星が呂布へと問いかける。
しかし、その行動に愛紗が不満を漏らす。
「星!戦いの場で、そんなことを気にかけてどうする!」
「いや・・鈴々の攻撃を受ける呂布の姿があまりにも弱弱しくてな。どうも・・」
「そうだそうだ!呂布は強くなくちゃいけないのだ。そんで強い呂布を鈴々たちが倒す!そうじゃないといけないのだ!」
「呂布よ・・この戦いで戦傷でも負ったのか?」
「・・・(フルフル)」
「ならばその弱弱しさは何だ?我等のことを舐めているのか?」
「・・違う。お前ら強い・全力でやらないと負ける・・けど・・」
「・・??」
「・・・事情がある」
「事情だと・・・・?」
グゥーー
「・・・・・」
その場に不釣合いな音が空気を急激に変える。
呂布は恥ずかしいのか顔を赤らめ、下を向く
「まさか・・・お主、腹が減っているのか」
「・・・(コク)」
「・・それしきのことで、武の煌きを曇らせているのか貴様!!」
愛紗が腹の音を聞き、下げていた、堰月刀を再び呂布へと向ける。
「ま、待つのですー!!」
そこに陳宮が馬に跨り、呂布の元へ駆け寄る。
今の呂布では三人に勝てないとふんだのだろうか。勇敢にも呂布の前へと出てくる
「呂布殿は兵士たちがお腹を空かせているからと、自分の食事を兵士たちに分け与えていたのです!
そんな心優しい呂布どのによってたかって暴言を吐き、三人でいじめるなんて許しませんぞー!!」
「・・ねね、下がる」
「いやです!ねねはお腹を空かせた呂布殿を三人がかりでいじめる奴らに、鉄槌を下してやるのです!」
「・・ふむ。確かに今の呂布相手に、三人がかりで当たるのは卑怯だろう」
「だが、これも戦乱の習い。境遇には同情するが・・その首貰い受ける!!!」
愛紗が陳宮の元へと歩み寄る。
呂布は再び武器を構えるがやはり、覇気が感じられない。
鈴々の攻撃を受けるのに、己の力を全て使い果たしてしまったんだろうか?
そんなおり・・・
「待って待って待ってーーー!!!!!!その勝負待ったぁぁーー!!!」
「と、桃香様っ!?」
桃香が馬に跨り、この五人のもとへとやってきたのだ。
そして、呂布と星、愛紗、鈴々の前へと躍り出る。
「お姉ちゃん危ないのだ!!」
「ううん、大丈夫。もう戦いは終結に向かってるよ。袁術さんたちが逃げちゃったから」
「なんですとー!!それはどういうことです!」
「どういうことって・・勝負にならなかったし、戦いが始まってちょっとしたら皆逃げちゃったよ?」
「な、なんですとーー!!!!」
陳宮はその場にうなだれる。よほど堪えたのだろうか、ひざをつき、崩れ落ちた。
「で、では・・この戦いは我々の勝利ということですか?」
「うん。あとはここにいる部隊だけ。今朱里ちゃんと雛里ちゃんが包囲網を敷いてるよ」
「ぬわっ!!包囲されているのです!!」
「・・されてる」
陳宮よ呂布は気づかなかったのか、周りを見渡せば既に織田の軍勢が辺りを囲んでいる。
どうやらもはや、彼女たちの体力では脱出は不可能であろう。
いや、呂布一人であれば、可能であるかもしれないが陳宮がいる。
しかし、呂布は陳宮をおいて、逃げるなどしないであろう。
呂布は再び視線を桃香へと向ける
「貴女が呂布さんですね。私は織田軍の劉備です。貴女に降参してほしくてここにやってきました。もう貴方たちには勝ち目はありません。
こうして、この戦いに決着がついた以上、武器を下ろしてもらえると嬉しいです」
「桃香様。そんな説得をするために危険を冒して前線に来られたのですか?」
「うん。だって・・戦いはもう終わったんだもん。終わったんだから今はもう、武器を構える必要ないよ。だから皆で話あおう。ねっ」
グーーーーーー
再びその場に呂布の腹の音が鳴り響く。桃香はその大きな音に驚いたのか目をパチパチさせている。
「お腹・・減ってるの?」
「・・(コク)」
「そっか・・・・。じゃあ・・一緒にご飯食べよっか♪」
「と、桃香様!!」
「ううん。大丈夫だよ。誰か、ご飯持ってきてくれる?」
桃香の言葉に愛紗は驚きの声を上げる。なぜ敵に食料を与えるのか?
しかし、桃香はそんな事気にしない。兵に食べ物を持ってくるよう指示した。
桃香の言葉を聞いた兵は、言われたとうり兵糧を持ってくる。
呂布の目の前に置かれた食べ物は呂布、陳宮の二人にあっという間にたいらげられてしまった。
「まだまだ、あるからね。遠慮しないで食べてね」
「・・・(コク)」
呂布、陳宮はそれからもなお食べ続ける。そして、二人が満足したころを見計らって桃香は話を続けた
「私はね。みんなに幸せになって欲しいの。この大陸の人みんな。みんなが笑って暮らせる世。
だからね、当然その中には呂布さんや、陳宮さんだって含まれてる。
みんなで平和な世がみたいの。
だからね、私の目の前で救える人はみんな救いたい。私は呂布さんを救いたい・・
死ななくていい人を死なせたくないの。
この戦いは終わった・・だから私たちは武器を収めるよ?だから呂布さんも武器を納めれば、ほら!誰も傷つかないよ?
そして、お腹が減ってるなら食べればいいんだ♪呂布さんのところに食べ物がないのなら、私たちのところに来ればいいんじゃないかな?」
「・・・・・」
呂布はジッと桃香の目を見つめる。桃香の心の奥底をのぞいているのだろうか。
彼女の言葉に嘘偽りがないか、信用していいのか?
桃香はその視線を受け、一切逸らすことなく、そして曇りの無い瞳を呂布へと返す。
「桃香様・・まさか呂布を仲間にしようなどと考えているのですか?董卓や賈詡のようにそう何度も上手くいくとは・・・」
「・・・月?」
「・・・・・・・・・あ・・・」
「・・・愛紗」
星が頭を抑える。鈴々はウシシ、と笑いをこらえているようだ。
当の本人は顔を真っ赤にしてあわあわと口を開いている。
織田軍で決して喋ってはいけない、そして漏らしてはいけない機密事項を愛紗はうっかり喋ってしまった。
その言葉を彼女は聞き逃す事はなかった。
「・・・月も詠も無事・・?」
やはり聞いてきた質問に桃香は答える
「うん。無事だよ。今はうちで侍女をやってくれているかな。月ちゃんの入れてくれたお茶はね、すっごくおいしいんだよ!」
「なんですと!?董卓殿も賈詡殿も死んだと・・」
「それは、うちの軍師ちゃんたちに頼んでそういう噂を流してもらったの」
「・・・二人は・・無事?」
「うん。私たちのお城にいるよ。会いたい?」
「・・・(コク)」
「そっか・・。あのね。呂布さん」
桃香は深呼吸をし、一拍おき、呂布の目を見つめ口を開いた。
「私たちの・・仲間になってくれないかな?」
「・・・仲間・・」
「私たちにはあなたの力が必要です。一刻も早くこの乱世を終わらせたいの。そしてみんなで平和に笑って暮らそう?
月ちゃん、詠ちゃん、そして呂布さんと私。みんなで楽しく騒ぎたいよ・・・
そんな世を私は実現したい!!だから・・・・降参してください!!」
桃香は呂布に対し、頭を下げる。
その様子を呂布は黙って見つめる。
彼女を信用していいのか?それはわからない。だが、彼女の目はとても綺麗だった。
呂布がなかなか答えを出さないからか、桃香は更に深く頭を下げる。
頭がすでに地面に付きそうであった。
「・・・・・お前・・変」
「ええ!?」
桃香はその言葉に驚いたのか、顔を上げた。
「・・降参させる側が頭を下げる・・」
「・・え、え~っと・・・」
「・・・でも。それが良い」
「・・あ、笑った」
呂布は口元に微妙に笑みを浮かべた。その笑顔はまさに歳相応の笑顔であった。
「・・・恋」
「え?」
「・・私の真名。お前に預ける」
「呂、呂布殿!!」
「・・いい・お腹いっぱい。それが幸せ」
呂布は幸せそうな笑みを浮かべ、お腹をさする。さきほど食べた久しぶりの食事の余韻に浸っているのだろうか。
「むむ、確かに・・我が軍には兵糧が無く、もうそれしか・・」
「うん。お腹いっぱいにしてあげるね♪さ、行こう!月ちゃんと詠ちゃんに会いに♪
こうして、また織田陣営に新しい仲間が加わった。
信長の天下への道は、彼女の加入により、大きく前進した事だろう。