うつけ無双   作:なろうからのザッキー

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二枚看板

曹操軍は官渡より撤退した。

曹操の状況判断は見事なものであり、時期を見誤っていたら被害はもっと酷かったであろう。

三万の兵力は死者、負傷者を除いてもまだ二万弱と十分に戦える戦力である。

 

一方袁紹は策を練らず、ひたすらに全軍突撃を繰り替えしている。

自らは遠くから高みの見物であり、兵の疲労や士気のことなどなにも考えていないのである。

 

「なあ斗詩~これってやっぱまずいんじゃないか?」

 

「うん・・もうこの戦いは負けだよ・・織田軍の士気は曹操を撤退させて下がるどころか上がってるし、こっちは・・」

 

顔良が自軍の兵の顔を見渡す。

そのどれもが、暗く、まともに戦える状況ではない。

 

顔良は兵糧庫が燃やされた時点で、袁紹に撤退を命じるよう進言したが、袁紹はそれを却下したのだ。

織田の兵力は二万。対して、袁紹軍は八万。

兵力だけ見れば、明らかに上回っているのだ。

 

そのことだけしか頭に無いのか、負けるはずがないと突撃を命じる。

兵は先程から休み無しの突撃、そして、心理的疲労。

もはや士気は地に落ちていた。

 

「聞けぃ袁紹の兵どもよ!貴様らは撤退せず、明日からは何を食うつもりだ!米一粒すらないのだぞ」

 

星がその事実を高らかに宣言する。

その言葉を受けた袁紹の兵はまたさらに動揺する。

 

「まったく、お前たちの主は無能だな。戦況すら見る事ができないのか?」

 

「やっぱり袁紹は馬鹿なのだー!」

 

愛紗、鈴々による罵倒。

 

「速やかに投降してください。こちらに来れば少なくとも袁紹さんよりも生き残れますよ」

 

そして、朱里による説得。

袁紹の兵は少しずつだが、武器を捨て投降するものが増えてきていた。

当然兵たちは袁紹の事を知っている。そして、織田の最近の活躍も。

天秤にかければ一目瞭然で織田に下る選択が正しいのだ。

 

そして、戦況は決した。

織田に降らない兵は、そのまま武器をすて逃亡する兵が増えてきたのだ。

食べ物が無く、戦況も決したこの状況でまだまじめに戦う兵などほとんどいないのだ。

 

「な、なんですのこれ・・逃げるんじゃありません!戦いなさい!」

 

袁紹の言葉がむなしく響く。袁紹の回りの親衛隊や本陣を守る兵たちはまだまじめに戦っているようだ。

そこへ、袁家の二枚看板の文醜と顔良が来る。

 

「麗羽様。もう私たちの負けです・・。どうか撤退してください」

 

「そうだぜ姫。アタイたちが殿を務めるからさ」

 

「キー!まったく役に立たない兵たちですわ!敵を目前にして逃げたり、降ったり!

そんな美しくない兵たちなどいりません!袁家に無能はいりませんわ!

文醜さん、顔良さん。せいぜい貴方たちは役に立ってくださいね」

 

そういい、袁紹は馬に跨り、この官渡の地から撤退したのである。

 

「はぁ・・ひどい言い草だなぁ」

 

「そうだね。まあでも一応私たちの主だし・・」

 

二人はため息をはく。だがそこには笑みもあった。

 

「ま!いいところは一応あるんだしな!」

 

「うん!たま~にだけどね」

 

二人は長く袁紹に仕えている忠臣である。

やはり彼女ら二人だけは何があっても袁紹を裏切らないのであろう。

 

「すばらしい忠義だな。文醜、顔良」

 

「関羽・・」

 

「関羽・・」

 

愛紗が自慢の青龍堰月刀を構え、二人の下へとゆっくりと歩いてくる。

その体から発せられる闘気はまさに鬼か軍神。

彼女が近づいてくる一歩一歩がまさに処刑台がこちらに向かってくるようである。

二人の体は震えるが、その震えは嫌いではない。

 

彼女らも武人なのだ。自分ひとりでは勝てないだろうが二人なら戦える。

一人では決して闘おうとも思わない相手と武器を交える事ができるのだ。

 

「お主らの忠義・・この堰月刀で武器ごとへし折ってくれる!はぁああああー!!」

 

「なめんなっての!!」

 

愛紗と文醜が武器を交差させる。文醜の武器である斬山刀は文字どうり刀である。

愛紗の堰月刀の柄をまるでレールのように滑らせ、愛紗へと斬りかかる。

 

だが、直前に愛紗が武器を引き、左へと避け、攻撃を回避する。

 

「やあああーーー!!」

 

愛紗が回避した方へと、動き今度は顔良が金光鉄槌を振り下ろす。

だがその攻撃は地面を振動させるだけにとどまった。

愛紗は戦いで培った、勘でわかったのだ。

二人で攻めてくるのなら、一人は必ず、自分が避けた先に回りこむであろうと。

 

「確かにお主らの連携は見事だ。だが、まだ実戦が少ないようだな。

私がお前たちの攻撃を読めないとでも思ったか?」

 

地面に陥没した金光鉄槌に愛紗は片足を乗せ体重を掛ける。

顔良が力を込めても持ち上がらず、むしろ動かないといった方がいいだろう。

 

「その武器は将と戦うには不向きすぎる。一対多を想定した武器だろう?

そんな武器でもなお、袁紹を逃がすために闘うとは・・見事だ」

 

そう言い、愛紗は堰月刀を逆さに持ち、石突きで顔良の眉間を見事に突いた。

 

「っ・・・・・・」

 

眉間を突かれた顔良はそのまま意識を失い地面に崩れ落ちた。

 

「やっろーー!!!よくも斗詩を!!だああああああああーー!!」

 

怒り心頭で文醜は愛紗に斬りかかる。

上方から真っ二つにするように斬山刀を振り下ろす。

 

「怒り、力任せに振り下ろすとはまさに愚だぞ」

 

「うるさい!!ぜってーアタイはお前に負けない!」

 

文醜が今度は右、左、と振り回すように攻撃する。

何も考えず、本能のままに攻撃しているようであった。

そんな攻撃など愛紗に通じるはずも無く、いとも簡単に堰月刀で受け流す。

 

「いい友人関係なんだなお主たちは。文醜!お前はきっともっと強くなれるはずだ。

私が桃香様の為に強くなれるように、お主もな。見せてやろう。

強いってのはこういうことだ・・・でやああああーー!!!」

 

愛紗が文醜が右から左へとなぎ払う斬山刀を、体勢を地面ぎりぎりまで低くし避ける。

重い斬山刀はそのまま空を斬る。今までずっと攻撃を防いでいた愛紗が急に避けたために文醜は体勢を崩したようだ。

その崩れた体勢に愛紗はしゃがんでいた体勢から起き上がるように右の拳を文醜の腹めがけて突き上げる。

 

「ぐはあぁ!・ぁ・・・ぁ」

 

文醜の意識はそこで途切れる事と為った。

 

「袁家が二枚看板!文醜、顔良!この関雲長が捕らえたり!!」

 

愛紗が高らかに宣言する。

 

「お・おい・・」

 

「も、もう駄目だ・・」

 

「に、逃げろーー!!」

 

袁紹兵はさらに逃げ出すものが後を絶たなかった。

実際、袁紹よりもこの二人のために戦っている兵がほとんどであった。

兵たちにも優しく、そして話しかけてくれる文醜と顔良。

その二人が今、捕らえられたのだ。

兵たちの心をつなぎとめるものはもう無くなったのだ。

 

「見事ぞ愛紗」

 

「ご主人様・・お褒めいただき光景です」

 

愛紗が片ひざをつき頭を下げる。

 

「主~もっと、部下を褒めることができぬのですかな?」

 

星がその場に口を挟む。

 

「褒めておろう」

 

「いえいえ、まったく主は女心がわからんのですな。兵法や戦法はわかっても女の扱いをご存知ないようで」

 

「女の扱いぐらいしっておるわ」

 

「いや、主の世界での将は男だらけだったようで。男の将であらば褒められるだけでうれしいでしょうが、あいにく私たちは女の将。

主、ちょっと耳を貸してくだされ・・・ごにょごにょ」

 

星が信長の元へ近寄り、なにやら信長に策をさずける

 

「こうすればきっともっと主に忠義をつくすでしょうな」

 

「ふむ・・・愛紗」

 

「はい?」

 

そう言われ信長はゆっくりと愛紗の元へと歩みよる

 

「よくやった」

 

「なっ!?ご、ご主人様!?」

 

信長は愛紗の頭を優しくなではじめた。

そして、信長の手つきはとてもやさしく、気持ちよかったようであり、愛紗の顔は一瞬で真っ赤になり、そして顔がとろけている。

信長には市と言う妹がいる。

信長は市の頭を撫でていたこともあり、その手つきにまったく無駄がなく、ただ相手を喜ばせ、褒めることに特化した撫で方であった。

 

「ほ~ら、主。愛紗が喜んでおりますぞ」

 

「うむ。このようなことで忠義がますのであらば、他の者も成果を挙げた暁にはなでてやろうぞ」

 

その言葉を聞いた、織田軍全員の顔がほころぶ。

愛紗を見るとまだ、幸せそうな顔をしているのだ。

普段難しく、怖い顔をしている信長とのギャップが女たちの心を掴む。

 

「さて、皆よ。袁紹を追うぞ。袁家を滅ぼす。往くぞ!!」

 

「御意!!」

 

「む・・」

 

信長があるものを見つける。袁紹が城を攻める際に持ってきたのであろう。

 

「投石器・・か。クク、こいつを次は使うとしようぞ・・」

 

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