織田軍は袁紹を撤退させることに成功した。
袁家二枚看板である文醜、顔良を捕縛することにも成功し、袁家の力を大いに削る事にも成功した。
袁家は、ほぼこの文醜、顔良でもっているようなものであり、事実上袁家の完全無力化にも成功したのだ。
後は、士気の無い兵のみ、そして、無能な袁紹。
残された課題はどれだけ被害を最小限に留めこの平原を制するかである。
「投石器・・ですか?」
信長が不適に笑いながら、使うと称した投石器。
恐らく、朱里は普通に使うのではないだろうと予測し、その方法を信長に問う。
「クク・・袁紹の兵をほぼ無力化することが可能ぞ・・まずは袁紹の兵の死体から鎧を剥げ。そして忍びを百人ほど呼ぶのだ」
信長の命令で忍びが百人ほど集まる。
「うぬらに命ずる・・・」
そして、信長の作戦が提示される。
その内容を聞いた忍びたちはすぐにその場を後にした。
「うむ。では皆往くぞ・・今日ここに名族袁家の滅亡を宣言しよう・・ぞ」
そして、織田軍はさらなる進軍を開始した。
信長は愛紗、恋、雛里、ねねを官渡城に残し、曹操軍に備えた。
まだ曹操には恋の存在がばれていないため、大いにその効果は期待できるであろう。
そして、ついに袁紹を追い詰めたのだ。
城の前には袁紹を守る兵たちが並んでいる。
数で言えば、まだ三万はいるであろう。これだけ残っているだけも上場であろう。
「クク・・この信長を迎え撃とうというか袁紹よ・・愚かなり。戦は兵でやるのではない。ここでやるもの・・ぞ」
そういい信長は人差し指で頭をコツコツと叩く。
それが意味するものは戦は頭でやるということ。
確かに兵数ではまだ袁紹に負けている。策で袁紹に勝とうというのだ。
「さぁ・・開幕ぞ・・」
信長が右手を上にあげる。
ヒュッヒュッ
信長の合図に投石器から黒い何かが放たれた。
「お・・おい!投石器だ!!岩が飛んでくるぞ!!」
「お、おう!!」
袁紹軍の兵たちが身構える。だがその結果に反し、黒い何かが地面に落ち、破裂する。
「な、なんだ・・・岩じゃない・・?」
「これは・・・・首だ!!人の生首だーー!!!!!!」
そこに転がるのは人の首。首。首。
信長は岩の変わりに、人の首を五、六個縄で縛り一塊にし、飛ばしたのだ。
「う、うわぁああああーー!!!」
「う、おええぇぇぇ・・・」
「うわー!目が!目が合っちまった!!」
グチャ! グチャ!!
袁紹兵にぶつからず、そのまま地面に直撃したものはつぶれ、血が飛び散り、酷い臭いを放つ。
まさに地獄であった。
袁紹兵からは悲鳴や、恐怖により泣き叫ぶ声が広がる。
「ほ、本当に人間か・・あ、悪魔だ!!鬼だ!!」
「い、いったい何人の首を刈ったんだ!まだ飛んでくるぞ!」
「ま、魔王・・織田信長・・・」
降り注ぐ人の生首。留まることなく飛んでくる人の顔。
まさに、一生忘れる事の出来ない光景。地獄の再現。
「汝ら、次は誰の首が飛ぶ事になろう・・ぞ。新しき生首になりたくなければ我が元へ来るが良い。
この信長にさからう者には死、あるのみ」
信長が袁紹の兵たちにそう宣言する。
そこでは一瞬時が止まる。袁紹を裏切ってよいのかどうか考えているのであろうか?
腐っても袁紹の本隊にいた兵や、親衛隊クラスのものたちがいるのだ。
だがそこで一人の兵が・・
「お、俺は嫌だー!死にたくない!助けてくれーー!!」
織田軍に向けて走り出す。その光景を見た兵たちは
「お、俺も!!」
「助けてくれー!」
「袁紹なんかに命を預けられるか!!」
次々と織田軍に走っていったのであった。
もちろんこの兵たちは信長が仕込んでいた忍びたちである。
集団では最初に動くには抵抗があるものである。だから、信長は先陣をきって投降する兵を忍びにやらせたのだ。
百人近い忍びが次々と投降する演技をしたため、袁紹兵もその流れに乗って大量に投降してきたのであった。
「お、おい!!何をやっている!!貴様らは誇りがないのか!?」
「うるせー!!死んじまったらもともこもねーんだよ!!」
「でめーだって袁紹のためにそこまでする義理はねーんだろうが!!」
「貴様あぁー!!」
遂には袁紹軍同士での同士討ちにまで発展したのであった。
「クク・・袁紹よ。やはりうぬも凡愚であったか。兵の心すらまとめることができぬものに勝利はない」
「ご主人様。今こそ好機です。城を包囲しましょう。袁紹さんを逃がすわけにはいきません」
「うむ」
そして、ついに袁紹は捕らわれることとなった。この戦いが終わるころの袁紹軍はぼろぼろであった。
死を恐れた兵が、袁紹を縄で縛り、信長に差し出したのだ。袁紹は自分の兵に裏切られた結果となったあたりが袁紹の器を表すかのようであった。
そして、広間で袁紹、文醜、顔良の処分を決定することとなった。
「クク・・袁紹よ、惨めなものぞ。自分の部下に裏切られるとはたいした名族ぞ」
「おだまりなだい!!きっとあの方は我が軍にもぐりこんでいた敵ですわ!そうでなければこのわたくしを縄で縛り差し出すなんてありえませんわ!
さあ!さっさとこの縄を解きなさい!!このわたくしになんたる狼藉ですの!」
「ひ、姫~、自分の今の立場をわきまえましょうよ~」
「そうですよ姫~ほかに言う事とかあるんじゃないですか?」
「命乞いなどわたくしがするはずありませんわ。なんと醜い」
「ほう。しからばうぬは斬られる事が望みであるか。名族という誇りの為に生きることを拒否すると」
「ええ、その通りですわ」
「ほう・・」
その言葉を聞いた信長は辺りを見回す。
その目には文醜と顔良がうつる。
「文醜。顔良。うぬらはまだ生を望むか?」
「そ、そりゃまあ」
「はい・・私も・」
「しからば袁紹を斬れ」
そういい信長は二人の前へと歩み寄る。
そして、信長は村正を鞘から抜き出す。
「この刀を貸してやろうぞ。この刀を二人で持ち、袁紹の首を叩き落とし、その首を持ってこの信長に忠を尽くすのだ」
信長が二人の目をみながらそう話す。
袁紹を殺せば、生かしてやろう。そして、お前達が新しく働く場所も提供すると言っているのだ。
信長はこの二人を欲した。
袁家が大陸一の勢力にまでのぼれたのはその名家とこの二人の将によるものであった。
袁紹一人ではすぐに勢力は亡びたであろう。この二人がいたからこそ、兵の心や戦いを勝ち残れたのだ。
その二人を信長は手に入れたかった。
だが二人はその誘いを首を降る事で拒否した。
「その誘いは嬉しいけどさ・・アタイは・・麗羽様を殺すことなんてできないよ。
麗羽様を殺してまで生きようなんて思ってないんだ・・」
「私もです・・そこまでして・・生きたいと思いません・・」
その二人の決意は固いものであった。
この短い言葉の中にはとても深い忠義が詰まっていると信長は感じた。
「で、あるか・・・しからばうぬら三人には死、あるのみ。ワシ自らが袁家に亡びの鉄槌をくだそうぞ」
信長が村正をゆっくりと上方に構える。
三人は死を決意した。短い人生であった。もっとおいしいものをたくさん食べたかった。報われなかった。
想いをさまざまに三人は目を閉じる。
そして、断罪の瞬間を迎えようとしたとき・・・
「待ってください」
一人の少女が信長と三人の間に庇うように両手を広げ立つ。
その目は決して退かないと物語っている意志の強い目だ。
「・・桃香。うぬは何を考えておる。このワシの前に立つか」
信長は村正の矛先を桃香に向ける。
「大丈夫です。これは私が必死に考えて出した結果の行動です」
「で、あるか。ならば申してみよ。うぬの決断を!」
「えっと・・まずはごめんなさいご主人様」
桃香はその場でペコリと腰を曲げて頭を下げた。
「ご主人様は私にいろいろ教えてくれたよね。戦の事、今の世のこと。そして、私が甘すぎるってこと。
こんな考えじゃいつか人に裏切られ、絶望するのが見えてるって。
それでご主人様は私にたくさんの事を教えてくれた。そして、私も目をそらさず真正面から見た。
だから・・私はいっぱい考えたよ。今までにないほどたくさん悩んで考えた・・・」
桃香は胸に手を当て、目を瞑り、思い出を振り返るかのようにたんたんと話す。
だがその言葉の一つ一つには大きな想いが乗っているようだった。
そして、目を開き。その想いを語った。桃香の決断を。
「私は・・やっぱり馬鹿でいい。これが私の出した答えです!」
桃香はもう一度両手を広げ、袁紹たち三人を庇うように立つ。
「私は力も無い。頭だって悪い。なんにもできない!
でも、私にはこうやって人を助けるように懇願する事ぐらいはできる!
何も行動しないで、目の前で人が死ぬのは見たくない!!だって私が一生懸命お願いすれば助けられるかもしれないから!
結局昔と変わらないけど、私が決意して選んだ結果です!」
「出会ったころのうぬと同じであって、同じでは無いと申すか」
「はい。私はこれからも馬鹿で、甘くて、お人よしの理想家であり続けます。自分の決意に誇りをもって」
桃香は信長から目を逸らさず、想いを口にする。
だが桃香の足は震えていた。信長の威圧、そして突き刺すような視線に体がこわばるのだ。
それでも桃香は袁紹たちを救うために信長の視線を一人で浴び続ける。
「だが我が織田に無能はいらぬ。うぬも知っておろうその袁本初を。
無能を養うために民から、税をしぼりとるか?うぬは一人の無能の為に何百もの民から金を奪うか?」
「お金で人の命は買えません!!どれだけの大金を積んでも返ってこない命だってあるんです!
きっと、民のみなさんだって袁紹さんを助けるためならきっと納得してくれる!」
「だが、その袁紹には何もできぬ!!武も知も!兵をまともに率いる事すらできぬ!」
「だったら袁紹さんには侍女として働いてもらいます!私がきっと袁紹さんを無能だなんて呼ばせないようにお手伝いします!!だからお願いします!!」
桃香は力のかぎり叫ぶ。自分が決めた決意のために、ここで袁紹を死なせてしまえば自分を裏切ることになる。
目の前で、助けられる人は助ける。なにもできない自分ができることはそれしかないため。
困っているたくさんの人を助けたい。ただそれだけのために。
「劉備さん・・」
袁紹の心が揺れる。先程まで殺せといっていた自分が嘘のようだ。
「何故そこまでして庇う」
「私は・・ただ皆で平和になった世を見たいだけです。
袁紹さんも曹操さんもそして私たちも目指す先は平和な世だと思います。
それまでの掲げる言葉や文句が違うだけ、結局はこの大陸のために戦ってるんだと思います。
だから・・・」
そして、桃香が後ろに振り向き三人を見つめる。
「私は袁紹さんとも、文醜さん、顔良さんとも平和な世がみたいです。
だって貴方たちも平和な世の為に戦った同士なんですから」
桃香が三人の手を合わせ、両手で包み込むように三人の手を握る。
桃香の手は優しく、暖かかった。
その死を目前にした三人にはその手は暖かすぎた。
「りゅうび・・さ・ん・・・・」
「あれ・・おかしいな・・斗詩。アタイなんだか涙が止まんないよ・・」
「私も・・初めてこの人のために・・理想のために戦いたいって思った・・」
三人の心は折れた。ほとんど見ず知らずで、虎牢関の時には馬鹿にしていた自分たちの為に懇願してくれる劉備の優しさに。
その慈悲の深さに。
三人はもう死のうなどとは頭に無かった。ただただ生きたかった。
自分たちのために体を張ってくれる劉備の為に生きたいと思った。
「・・たわけが・・鈴々!うぬは桃香のようなうつけになるでないぞ」
信長は剣を鞘に収め、振り返り椅子にもう一度座ろうと歩き出す。
その途中鈴々にそう話した。
「ううん・・お姉ちゃんは馬鹿じゃないのだ・・。
お姉ちゃんは最高にかっこいいのだ!!」
「・・・・・」
「っはっはっは、主。これでは悪者ですな」
その光景を見ていた星が笑い出す。
「仁・・か。これが桃香とワシの違いか」
信長が見つめる先には泣きながら桃香と話している三人が見える。
この三人は決して桃香を裏切ろうとは思わないであろう。
三人の事は深くは知らないが決して裏切らないといえるほどの自信がある。
自分にはあのような忠臣はいたであろうか?
(ホトトギスが鳴かぬなら・・殺すのではなく、鳴かせてみせるわけでもなく、答えは単純であったか。
ただ優しくすればよい・・・感謝の意で、喜ばせようとおのずと自ら鳴く・・か)
信長は椅子に座り、そう心の中で思った。
そして、白蓮にこう話す。
「白蓮。ワシが袁紹を殺し。うぬの復讐のため、その骸で酒を飲ませたらうぬはどうする?」
「な、なんだそりゃ!?ずいぶんな話だな・・
とりあえずいくらむかついていようが、嫌に決まってんだろ!!
もし無理やり飲まされたら、キレてお前の寝てる部屋に火を放つかもな」
白蓮は冗談交じりで、笑いながら話す。
だが、信長にはその答えを笑ってきけるものではなかった。
(クク・・人の心とは難しいものよ。やはり桃香はワシには足りないものを持っているようだな。
ワシもあやつから学ぶものがたくさんある・・か)
そして、信長はゆっくりと立ち上がり、桃香たちの下へと歩み寄る。
「桃香に免じ、うぬらを不問とする。ワシらの元へ来るか。流浪の身となるか好きに選ぶが良い」
「え!?本当!ありがとうご主人様!!よかったね♪三人とも」
桃香は自分のことのように三人の無事を喜ぶ。
その行動にも三人は驚く。自分たちのためにここまでしてくれるなんて・・と
「わたくし、劉備さんのために働きますわ。何もできないわたくしですが、劉備さんのためにおいしいお茶を勉強しますわ」
「アタイも、劉備のために劉備を邪魔する敵をぶった切ってやるよ!だから仲間にしてくれ!」
「私もです!劉備さんのために一生懸命がんばります!」
三人の心は決まっていた。その目にはもはや光が宿っていた。
ただただ、自分たちにために体を張ってくれて劉備への恩へ報いるため生きると。