曹操軍は愛紗が無事官渡城に撤退すると、軍を反転させ、そのまま撤退していった。
織田軍の主力メンバーが全員、一つの場所に介するとなると勝てないと認識し、退いていったのだ。
愛紗の帰還祝い。そして、全員がこの城にいるとのことで桃香が企画し、全員でご飯を食べようという事で全員が食堂に集まっているのだ。
そして、信長は考えていた。
今の状況。そしてこの世界の事を。
信長はチラリと桃香を見、こう思う。
(劉玄徳・・本来ならば官渡の戦の後、荊州にて曹操軍の大軍から逃げる、長坂の戦いとなり、そして赤壁となる・・
だが、貂蝉は赤壁こそがこの物語の最後の大戦と申しておったな。
しかし、曹操に追われる気配はない。なにより劉表とはワシらは対立しておる。
最後の大戦・・か、しからばもっと後に起こるか・・)
信長は桃香に向けていた視線を鈴々へと向ける。
(長坂の戦いは起こらぬな・・故に張飛の仁王立ちも無い。
しかし、その代わり愛紗による仁王立ちはあったか・・
官渡の後の撤退戦での仁王立ち・・か。鈴々に変わりに、愛紗が行ったか)
そして、信長は白蓮、麗羽、恋、猪々子、斗詩と順番に見渡す。
(公孫瓚が生きて袁紹と共にいる三国志。呂布が死なず、劉備を裏切る事の無い三国志。
そして、関羽により討たれる文醜と顔良が仲良く関羽と食事している三国志・・
クク・・良き具合に狂っておるわ。貂蝉よ、うぬの申した通りこの世界に混沌をもたらしたぞ。
ここは三国志にあらず。うぬがいう、「織田信長が乙女だらけの三国志に介入した物語り」となったであろうか?
うぬの申した通り、ワシがこの世界の主役となったであろうか)
信長は今のこの風景を記憶にとどめようとする。
町娘のようなおなごたちが武器を持ち、一騎当千の武を振う、元の世界ではありえない日常。
自分は今、奇跡のような経験をしている。
最後、自分が消えようとも悔いはない。
天下に向けて邁進し、そして誰も経験し得ないであろう体験をしていることに。
「一刀、あなたは私に幻滅するかしら?」
「いいや、しないさ。華琳、お前には死んで欲しくないからさ。
お前の力になれるなら俺は喜んで話すさ」
ここは、曹操たちの居城。
今、二人は華琳の私室で二人っきりで話している。
華琳は悩んでいた。
織田軍の強さ、そして信長本人の強さ。
自分たちがこのままでは負けてしまうこと。
幼き頃よりずっと夢見てきた、覇道について・・・
「私は貴方に、貴方のしっているこの世界。三国志とやらのことは一切話すなって言ってきたのにね」
華琳は聞いてしまったのだ。一刀に三国志の物語を。
自分がふがいないばかりに、追い詰められている。
仲間を危険な目に合わせてしまっている。
予定では、官渡で勝利し、今頃は天下にその名を大きく轟かせる大勢力となっていたはず。
だが、実際は織田に滅ぼされる危険性が非常に高い。
確実に織田はこの曹操軍を真っ先につぶしにかかってくるであろう。
劉表と組み、軍を二つに分けてもこの結果である。
主力が全て集まった織田には太刀打ちできないであろう、向こうの兵力はこちらよりも上。
正に危機的状況なのである。
華琳は現状を少しでも変えられるならと、一刀についに禁断の歴史を聞いたのだ。
三国志の事、そして信長の日ノ本での事も。
だが・・・
「もう、歴史は大きく変わってしまっている。
信長さんだって、知ってるんだ・・・だから官渡で俺たちに横槍を入れ、曹魏の肥大化を阻止したんだ」
「そして、彼は包囲網の危険性さえも知っていたから背後の孫呉に同盟を結び、三方向からの攻撃を防いだのね」
「かもな。でも、歴史が大きく変わったことで信長さんももう、歴史の知識が役に立たないことだって気づいてるだろうな。
後は、もう自分の力だけだ。
本来なら、官渡の後、劉備は荊州の樊城にいて、そして劉表が死んで劉琮が跡を継ぎ、劉琮が俺たちに降伏するはずだったんだ。
そして、俺たちは劉備を倒すために後を追う予定だった。
だが、実際はもう全然違う。
劉表だってまだ死んでない、なにより、劉備たちと仲が悪い。
そして、華琳たち曹操軍が追いやられている・・・」
一刀は頭を抱え、うずくまる。
自分にとっての最大の武器、なにより華琳たちは一刀が持つ、未来の知識が役に立つという理由で一刀を自分たちのもとにおいていたのだ。
だが、実際はどうだろう?
彼はたかが、学生。仕える知識などほぼない。
そして、三国志の知識が今はもうまったくつかえない。
一刀はその悔しさや、華琳たちへの申し訳なさで胸がいっぱいであった。
一刀は立ち上がり、握りこぶしをつくり、壁を殴る。
「すまん・・華琳。俺・・ほんと駄目だな・・」
一刀は手に走る痛みに顔が歪む。
誰も責めない自分を、この痛みだけは責めてくれる。
だが、突如その手にもう一つの手が重なる。
壁を殴った事で赤みがかる手を優しく、いたわるように。
「・・えっ?」
「駄目なのは貴方だけじゃないわ。私もよ」
一刀に優しい笑顔を見せたあと、その手を離す。
そして、何を思ったのか曹操もこぶしを握り壁を殴る
その衝撃は一刀よりも強く、彼女の手からは血が流れている。
「お、おい!?」
「私はこの魏の総大将、曹孟徳よ。
私の元に集う者たちを全て守り、彼らを導く義務がある。
そして皆の苦しみは私の苦しみ。貴方が苦しいのなら私はもっと苦しいわ」
そして、曹操は壁から手を離し、一刀と真正面に向き合う。
「一刀、ありがとう。私は他の者の前では弱音を吐くことができないわ。
貴方の前でなら私は、一人の少女になれる・・・
こうやって、悔しさや、ふがいなさから壁を殴れるおちゃめな女にね」
フフっと曹操はかわいらしい、歳相応の笑顔を見せる。
「でも、これで終わり。私は元の私に戻るわ。
ただの少女じゃない、魏の曹孟徳へ」
彼女の顔が覇気に満ち、引き締まる顔へと戻っていった。
「すっきりしたわ。壁を殴るなんて情けないことをたまにはしてみるものね。
手が痛いけど、おかげで考えが整ったわ」
「ど、どうするんだ・・?織田と戦うのか?」
「いいえ・・・・次の目標は」
「ほ、報告します!!」
「どうした?」
伝令兵が信長たちの集まる広間へと息を切らしながら入ってきた。
肩で呼吸をし、息もたえたえに話す
「そ、曹操軍が全軍で出陣しました!!」
「なんだと!?っで!どこに向かっているのだ!」
愛紗が驚き、その伝令兵に掴みかかるような勢いで、次の言葉を待つ
「え・・益州です!!!」
「え、益州だと・・・なぜだ?」
その言葉に愛紗は考える。
他の者たちも何故、曹操は全軍で益州へと向かったのか。
益州といえば、劉璋だ。
何故劉璋を?
「まさか・・」
「どうした朱里?」
突如声を上げる朱里に星が声をかける。
だが、雛里も何かに気づいたのかアッと声を上げた。
「天下三分の計・・・」
「天下三分の計?」
朱里の言葉に皆が首をかしげる。
意味を理解できていないのだろう。
「天下三分とは、以前私が考えていた名前の通り天下を三つの勢力にし、みつどもえを狙う計です。
恐らく私たち織田が大陸の上部を占め、そして東が孫呉、そして西が曹操軍にしようと狙っているのでしょう」
「あぅ・・これが成れば私たち織田は天下布武。つまり、天下統一を成しえるにはかなり難しくなります・・
織田、曹操、孫策の三人で睨みあいが続く事になり、誰かが手を出せば、誰かがその隙を狙います。
ですので、うかつに手が出せず、長いこう着状態が続く事になるかと・・」
「な、なるほど・・」
朱里と雛里による説明により、皆が納得したようだ。
信長はその説明中ずっと、黙って目を瞑り考えているようだった。
(天下三分・・・やはり歴史は似た道筋を辿るものであるか・・
クク・・歴史よ。この信長を阻む事ができよう・・か)
そして、信長は目を開き、答えを出したようだ。
「出陣ぞ!曹操が城をワシらに明け渡すというのなら、貰ってやろうぞ!
そして、後ろより曹操を襲おうぞ!
劉璋と交戦する、曹操を攻撃し、劉璋との挟撃だ!!」
「御意!!」
そして、織田軍は主力部隊で出陣した。
曹操軍の後を追い、まずは洛陽へと入城することとなった。
だがその道中はとても簡単なものであった。
兵は全ておらず、反撃がない。
曹操は完全に城を捨てたようだ。
被害無く、信長たちは城を得、その勢力を伸ばす事ができたのだ。
だが問題があった・・・・
「備蓄庫には何もありません・・・・」
「町中の食料を買い占めたようです・・備蓄された食糧が無く、民たちも生活ギリギリのようです」
曹操は、彼女らしくなく、城を出る直前に大徴収をしたようだ。
食料は街にほとんどない状態であったのだ。
もちろん、城の宝物庫などからも全て持ち去ったようだ。
それはこの街だけではなかったようだ。
ほかの城も全て同じ状態である。
「ご主人様・・」
「クク・・曹操め。なかなかやりおるわ。
施しじゃ!民をこのままほおっておくわけにはいかぬ!
ワシらの兵糧を民に分けてやるのだ!」
信長たちは各地で徴収され、生活が苦しい民たちのために、必然的に内政を重視することとなったのだ。
そのために動く事ができないのだ。
信長は黙って、曹操軍全軍に攻撃を受け、劉璋の敗北の知らせを聞くこととなるのであった。
「クク・・歴史よ。うぬは天下三分を好むようじゃな。
このワシとて止めることができなんだか・・」
ついにきました天下三分の計。
もう、お話も中盤を過ぎるころでしょうか。