私は城の長い廊下を歩く。
心にはいろいろと嫌なものが詰まっている。
その嫌なものが溜まりすぎて吐き気がする、気持ち悪い、頭がいたい・・・
早く楽になりたい・・あそこへ行けば私は一人の少女へと戻れる。
辛い事も、苦しい事も、厳しい現実も全て忘れさせてくれる。
・・・私は今日もあの部屋へ向かう。
「はぁ・・・」
「またため息か?」
一刀の部屋にやってきた曹操は、一刀がいつも使っている寝台に腰掛け、一刀もその隣に座っていた。
最近は毎晩、曹操は一刀の部屋へと訪れていた。
「やっぱりぬぐいきれないわ。
桂花に稟に風が三人が述べた同じ策・・領地全てからの大徴収。
私が幼いころから歩んできた、覇道・・終わりね。
麗羽じゃないけど、凛々しく、雄々しくないわ」
「でもしょうがないだろ?ああしなければ俺たちは確実に織田につぶされていた!
後ろを取られて、劉璋と織田の両方に挟まれる事になるんだぞ?」
「ええ、わかってるわ・・あれは仕方のない処置だったってわかってる・・
でも、私の心がそれを許さない。
貴方たちを守る当主としてはあれは最適な判断だった。
でも、曹孟徳としてやってはいけない禁断の判断だったのよ!」
曹操は立ち上がり、悔しそうな表情を浮かべる。
決してやってはいけないことを自分の判断で下したのだ。
結果としては成功だった。
劉璋を見事倒し、成都を手に入れたのだ。
信長も、曹操の旧領地を手に入れたが、その大徴収の為、民の暮らしはギリギリだった。
そのためその後始末に終われ、広い範囲での施しが必要であった。
広く食料を配り、足りなくなれば徐州などからも食料の輸送が必要であった。
つまり、曹操は広い領地の食料や、全ての城にためていた資金を持ち、それを成都へと移す事に成功した。
だが、逆に信長は大量に資金や食料を手に入れた領地全てに移さなければいけなかったのだ。
そのために、大量の時間、兵たちの振り分けのため曹操を追撃することができなかったのだ。
しかし、民たちの食料はギリギリであった。民の不安はピークに達していた。
信長がこなければ、その二日後には民たちの食料はなくなっていただろう。
曹操はそれを見越し、信長が来る日を予想し、見事的中させた。
つまり、実質民は何も苦しんではいない。
信長が来るまでちゃんと食事は取れていたのだ。
ただ、曹操が予想した日から二日分だけの食料を残し、あとは徴収したのだ。
そして、信長はちゃんと予想した日に到着した。
だが、民にはそんなこと何もわからない。
いきなり、曹操がやってきて食料を大量に奪っていったようなものだ。
ただ、「安心なさい。織田が来れば大丈夫よ」とだけを言い残していったのだ。
それは曹操の信長への信頼だろうか?
信長なら確実に来る。
自分を唯一こんなにも苦しめる最大の好敵手だから。
そして、その結果どうりとなったのだ。信長は見事民たちへと施しをしたのだ。
「あの時の・・民たちの私への目がね・・苦しいわ」
曹操の肩が震える。
泣いているのだろうか?だが曹操は一刀に背を向けているためわからない。
一刀はそっと、自分も立ち上がり後ろから曹操を抱きしめる。
「華琳・・・ありがとう」
「・・・えっ?」
曹操はその思ってもいなかった言葉が耳に聞こえ、驚く。
そして、首へと回されている一刀の両手を優しく握る。
「俺はそう思っているよ。そして・・きっとみんなも」
「どうして?」
「だって、君は一人で誰もやりたくない汚れ仕事を負ってくれたんだ。
桂花や、稟、風だってあんなことしたくないさ。
でも、軍師として最良の判断を下さなければならない。
彼女たちも苦しんでだした策だったんだよ。
だけどさ・・実際に判断を下すのは華琳だろ?
そんな一番苦しくて・・・誰もやりたくない事を華琳は俺たちのためにやってくれたんだ。
俺たちを助けるために・・そして、君はたった一人で皆の苦しみを背負ったんだ。
だから・・ありがとう」
一刀はさらに抱きしめる力を強める。
決して離さないように・・今にもその責に押しつぶされ壊れてしまいそうなその小さな体を。
たった一人で皆の苦しみを背負う、小さな背中を強く強く抱きしめる。
少しでも震える彼女の心を暖めるように。
「・・そう。ありがとう」
「え?なんで華琳がお礼なんていうんだよ?」
「貴方はいつも私を励ましてくれるわ。
曹孟徳として、この曹操軍の当主として悩み、苦しみ、辛いとき。
いつも貴方だけは私を励ましてくれる。
春蘭や秋蘭、桂花たちとは違う、一人の友や人間として・・ね。
対等に私に接して、そして私の心を軽くしてくれる。
それに何度私は救われたか・・貴方は気づいていないでしょうけどね」
曹操はフフッと笑い、気づけば彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
その顔を見た一刀も自然と笑顔になる。
彼女はもう大丈夫だろうと判断し、一刀は彼女から手を離そうとした。
「駄目」
「え?」
「もう少し・・このままで居させて」
「ああ。華琳が望むならいつでもいつまでもやってあげるよ」
二人の間には暖かい空気がゆっくりと流れる。
まるで、この空間だけ時が止まっているかのようだ。
「ねえ一刀」
「ん?なんだ」
「・・愛しているわ」
「ああ、俺もだ。愛しているよ華琳」
そして、二人は口付けをかわす。
ついに二人の心が通じあうこととなったのだ。