その日、大陸の南西を支配する曹操がその国号を蜀と改めた。
曹操自信はかねてより自分の中で考えていた魏を候補としていたが、自分が支配する地域は蜀地方。
それではおかしいということで蜀と宣言することに決めたようだ。
それに対し、信長も自らが収める地域を魏と称した。
そしてついにここに魏、呉、蜀が誕生したのである。
魏の織田信長。
呉の孫策。
蜀の曹操。
この大陸の天下はもはやこの三人の英雄で決まったといっても過言ではないだろう。
しかし、まだ大陸の全てが埋まったわけではないのだ。
南東、南西はほぼ、呉、蜀が支配しているが、大陸の中心、荊州は依然として劉表が収めているのだ。
「ぬ・・・」
信長は城の廊下を歩いていると、その体に強烈な頭痛を感じた。
その痛みに体のバランスを崩し、廊下の壁へともたれ掛かる。
「クク・・もはや何度目ぞ・・」
信長はもうこれで何度目かの頭痛を体験していた。
最初は、官渡での乱入の時であった。
官渡へ出撃すると宣言したときに、一度ピリッと頭に違和感を感じたのだ。
だが信長はそれはただの疲れから来る体調の変化だということにしたのだ。
しかし、出撃準備を終え、城門の前で馬に跨ったときにまた頭痛がきたのだ。
今度は、一瞬だけではない、慢性的に続く長い頭痛。
それは官渡へと近づくごとに酷くなっていくのだ。
そう、それはまるで官渡へと行くなというように・・・・
それからも何度も小さな頭痛が信長を襲った。
やはり、天下状勢が変わるときである。
北方から西方へと曹操が動くたびにそれは確実におきた。
そして、今日・・信長が国号を魏とすることを宣言し、強烈な頭痛が信長を襲う。
曹操が蜀を宣言し、もう、曹操が魏であることがないことが確定した今日。
今度は今までとは違う吐き気までもよおすほどの強烈な頭痛。
信長は廊下の壁にもたれかかりながらこの頭痛について考える
(ワシは、この歳のころ頭痛の病など持っておらなんだわ・・
これはやはり、世界を変えたことによる代償か。
しからばワシの体は破滅へと向かっておるのだな。
この大陸を統一するのは晋・・決して魏が・・
曹操ではないワシの魏が統一する事はあってはならぬこと・・・待っておるのは・・クク)
信長の表情に不適な笑みが浮かぶ。まるで楽しんでいるかのような。
(おもしろい・・ワシの野望。覇道、天下布武。たとえこの身が滅びようがワシは止まらぬ!
天下の代償がこの身なら喜んで捧げようぞ!夢、幻に消えた、あのかなわぬ夢をもう一度見せてくれるのであればな!)
信長は体を壁に預けずりずりと這うように歩く。
「ご、ご主人様!?」
朱里がちょうど通りかかり、信長の元へと急いで駆け寄ってきた。
そして、信長に懇願するような表情で、今にも泣きそうな顔で信長へと詰め寄る
「だ、大丈夫ですかご主人様!?はわわ・・お体のごかげんがよろしくないのですか!?
え、え~っと・・」
「構わぬ」
「そ、そんな!もっと御身の重要さをご理解ください!!もはやご主人様の体は、数十万の民や兵の生活を左右する身なのですよ!」
「心配はいらぬ。一日休めばこの頭痛は去るのだ。それよりも朱里」
「は、はい!」
「広間に全員を集めよ。これからの方針を話し合うぞ」
「う~・・ぎょ、御意です!!」
朱里は信長の顔をちらりとみ、本当に信長に仕事をさせてよいのかと迷うが、信長の真剣な表情が許さない。
朱里は嫌々ながらも了承したようだ。
信長の指示を受け、朱里は急いでその場から走って皆を呼びに向かった。
そして、それから数十分後、魏の主要人が広間へと集まった。
「ふむ・・南蛮も蜀がついに収めたか」
「はい。私たちが内政に従事している間、蜀は領地を拡大することに奔走していました。
恐らく、完全なる天下三分を目指しているのでしょう」
「そうか・・」
やはり、歴史どおり蜀は蜀でありつづけたのだ。
たとえ、当主が曹操に変わろうとも、南蛮は蜀によって治められることとなった。
なら、自分もやることは決まっている。
「朱里、雛里。ワシは西涼を手に入れようと思う。うぬらの考えを申せ」
「西涼ですか・・」
朱里と雛里はその言葉を聞き、考え込む。
そして、最初に朱里が口を開いた。
「確かに、今が好機かもしれませんね。馬騰は今、病に伏せているとのことです。
ですので、今はその娘。馬超が軍を指揮しているとの事です」
「あぅ・・馬超はあまり知略に優れていないとのことです・・
彼女の戦いは強力な騎馬隊による突撃を主とした力攻めです」
「ふむ・・騎馬隊・・か」
信長は顎に手をおき、思案にふける。
懐かしい戦いが頭をよぎる。
あの赤備えの・・戦国最強の軍団。
そして、信長の口元に笑みが浮かぶ。
「クク・・生憎ワシは騎馬との戦いは経験積みでな」
「ですがご主人様!西涼の騎馬隊はそこらの騎馬隊と一緒にしてはいけません。
その突破力は大陸一とも噂されています!」
「ふむ。確かに厄介よの。だが、今指揮しているのは馬騰にあらず。
知略無き戦なぞ戦ではない。
ワシが馬超に見せてやろうぞ。彼奴とワシの違いを。
力で戦をすることの愚かさを身をもって教えてやろう・・ぞ」
信長は馬超を欲していた。
自分たちが魏であろうと、構成されているのは史実の蜀の将たちである。
ならば、きっと彼女は相性がいいであろうと考えていた。
だが、馬騰を殺してはいけない。
そして、馬超本人にも嫌われてはいけない。
もし、戦う事になれば、今回の戦の最大の目的は領地を得ることにあらず。信長は彼女の心を攻めるため、知略による完膚無きまでの勝利を得ようと考えた。
「朱里、鐙を出すのだ」
「鐙・・ですか。ついにご使用なさるのですね」
「うむ。優秀な騎馬民族ならば、彼奴らにこちらの騎馬の力を見せつけようぞ。
ワシらの騎馬の力を身をもって知れば、馬超も納得しようぞ。
早速、騎馬隊に装備させよ。すぐに慣れさせるのだ」
信長はこの時代に来てから、すぐに作らせた鐙を使用しようと心に決めた。
鐙は官渡の戦いの際にはもう完成していたが、信長は使用を見送った。
この時代には決して存在しない鐙。
中国では四世紀中ごろから存在したのだ。
まさに、こちらの切り札といえよう。
敵に知られれば、確実にまねされるであろうため、信長はここぞというときまで使用しないと決めていたのだ。
「ご主人様。使者が戻ってまいりました」
数日後、西涼へ送った使者が戻ってきたようだ。
愛紗が信長にそう告げ、使者からの言葉を信長へ伝える。
「どうやら私たちの降伏勧告を断ったようです。そして、馬超の口から受けて立とうとのことです」
「で、あるか・・」
信長はゆっくりと席を立ち、その場に居る全員に高らかに宣言する
「西涼へ往くぞ!織田が戦、彼奴らに身をもって知らしめん!」
「御意!(なのだ!)」
「では、いきましょう。西涼へ!」
ここは城門前。主だった将たちは全員出立するようだ。だが・・
「・・・みんな、頑張って」
「恋。城はうぬに任せる。何かあればすぐに知らせよ」
「・・・・(コク)」
信長は今回の戦、恋を参加させなかった。
なぜなら彼女は強すぎるのだ。
恋が戦いに加わり勝利すれば、馬超はきっと納得しないだろうと考えた。
恋がいたから勝った。そう思われてはいけないのだ。
信長の力。織田の戦で勝ち、そして馬超を感服させなければ彼女はきっと仲間になってくれないと考えたのだ。
今回の将は信長、愛紗、鈴々、朱里、雛里、星、白蓮、猪々子、斗詩
ほぼ、織田の主力全員での戦いである。
この後に大戦が控えているのは目に見えているため、白蓮や猪々子、斗詩には経験を積ませたかったのだ。
「ご主人様。進行速度などを考慮すれば潼関の辺りで戦闘となるでしょう」
「ふむ。・・・しかし敵は関に篭るとは思えぬ。ならば敵にあった戦いをしなければな」
信長は兵を呼び、かねてより考えていた策を伝えその準備をさせた。
「ご主人様!まもなく潼関です!忍びの情報によればやはり、潼関で敵とぶつかりましょう!」
「クク・・かまわぬ。ワシも潼関で戦うことになると確信しておったわ」
そして、織田軍は潼関へ向け、さらに進軍速度を速めた。