ここは赤壁。
貂蝉が言っていた終わりの地。決戦の地。
信長は甲板で黙って対岸を見つめている。
魏軍の船は敵の何百倍もあろうか?
この川を埋め尽くすほどの大量の船だ。
信長の乗っている船は特別であり、他の船たちの数倍はあろうかという大きさだ。
信長は鉄甲船を作りたかったが、貴重な鉄を使う事をよしとせず、大砲や鉄砲などがこの地にはないため、あまり意味が無いと判断し、見せ掛けだけの船は必要ないと判断したのだ。
赤壁。
それはあまりにも有名すぎる戦い。
信長の元へ二人の少女が歩み寄ってくる。
彼女たちは信長へと問いかける。
「ご主人様。敵は本当に火計をしてくるのでしょうか?」
「あう・・火計は風が無ければただの焚き火。彼らからすれば東南の風が吹かなければ逆に被害をうけましょう」
その言葉に信長は目を開き、空を仰ぎ見る。
「今この地には数多の英雄が集まっておる。
劉備、曹操、孫策に孫権。
それだけではない。さらに各国のその他の英雄も一同に集まっておる。
関羽に張飛、夏侯惇に夏侯淵、周瑜に陸孫なぞ・・な。
クク・・風が吹かぬはずが無い。
天がかようにおもしろきこの状況を黙って見過ごすはずがないわ。
東南の風は吹く。必ず・・な」
信長が笑みを浮かべながら語る。
東南の風は敵にとって利があり、こちらにとっては害でしかない。
しかし、信長は風が吹く事を楽しみ、待ち望んでいるかのようだ。
「なら・・私たちは風が吹く事を必然とし、策を練るまで」
「朱里ちゃん。私たちは私たちにできる事をだね」
小さな軍師たちは二人でまた部屋に篭り、考えられる全ての状況を踏まえ策を練るのであろう。
場所は変わりこちらは蜀呉同盟の陣営。
ここには蜀の曹操、北郷、夏侯惇 、夏侯淵 、荀彧、程昱、郭嘉などの主要人。
そして呉の孫策、孫権、孫尚香、周瑜、陸孫、甘寧、呂蒙がいる。
そこへ呉の周泰が颯爽と現れる。
「敵の士気は高く、数も我らを合わせた兵力の数倍でしょう。
まともに戦えば勝ち目はほぼありません。
しかし、敵はそれでも警戒を解くどころか船上で訓練を行っており、まったく隙がありません。
時を与えれば敵に船に慣れさせることになりましょう」
「なるほど・・ね。さすがとでも言うべきかしら」
「まったくね。これだけの兵力差なら兵たちも浮かれて統制が厳しいでしょうに。
馬鹿なら戦前に戦勝祝いとか始める奴もいるのにね」
「そこらの暗愚とは違うか。そうでなければここまでの大きさにまでならんか」
曹操、孫策、周瑜が険しい顔で話している。
この戦、厳しい事は誰もがわかっていた。
圧倒的すぎるのだ。
いくら水上戦になれている呉軍とはいえ、やはり多勢に無勢。
数でこられてはひとたまりもないのだ。
並大抵の策では意味が無いほどに兵力差は圧倒的なのだ。
そこへ一人の将が乱入してくる。
呉の宿将黄蓋だ。
「まったく揃いもそろって頭の固い連中じゃのう。
一介の武人なら答えは決まっておろうに」
「っ!?あなたは何を考えておいでですか!?
ここがどのような場か考えているのですか!」
そこで黄蓋と周瑜の口げんかが始まる。
「まったく頭脳よりも肉体を駆使して王に取り入った薄汚い売女風情が!
誇り高き我ら武官を愚弄するなど百年早いわ!!」
「・・ぐっ!」
周瑜は怒り心頭である。
呉の軍勢はひやひやしながら光景を眺めている。
この場はまさに一触即発の状況だ。
だがしかし、この光景を平然と見つめているものたちがいる。
「・・・・・・・」
曹操と北郷だ。
しかし、それだけではない。
蜀の面々はその光景にいっさい動じていないのだ。
まるでこの光景を想定していたかのようだ。
夏侯惇でさえ、平然としている。
呉の軍師、呂蒙でさえ、混乱しおろおろしているのに。
二人の言い合いは加熱を極め、ついに黄蓋は天幕を出て行ってしまった。
黄蓋が天幕を出て行くと周瑜は眼鏡を指で直し、一息ため息をついて
「申し訳ない。さあ、続きをしようか」
周瑜は表情こそは冷静だが、言葉の語気が強く怒りはまだ収まっていないようだ。
そして、終始気まずい空気のまま軍議は終わった。
「祭さまは何故あのような事を・・」
周泰がうつむき、悲しい表情でそう呟く
「わからん」
甘寧も口調はいつもどうりだが、表情に若干の曇りが見える。
「それにしてもいったいどうなるのでしょうか?
こんな状態じゃあ魏軍に勝てませんよ・・」
「策もまだ決まっていないようだからな」
周泰も甘寧も表情は暗い。
無理も無いだろう。
蜀の面々に恥ずかしい一面を見られ、呉の宿将である黄蓋と周瑜が険悪な状態。
そして対岸には圧倒的兵力の魏軍。
まさに、最悪な状況。
しかし、悪い事というものは続くものである。
「た、大変です!!黄蓋将軍が兵を率い出て行かれました!!
恐らく、敵に投降するつもりでしょう!!!」
一人の兵が慌てて、周泰と甘寧の元へやってきた。
その言葉を聞き、二人の表情は驚きに変わる
「えーー!!!ど、どうしましょう!!」
「今、陸孫様が追撃の兵を出し、矢により追撃しております!」」
「そ、そんな・・祭さまを攻撃するなんて・・」
「お、おい明命・・」
周泰はショックで膝から崩れ落ちた。
それを甘寧は支えるように肩をかし、彼女を立たせる。
「とりあえず今は天幕に行こう」
「思春殿・・」
「話にならないわね」
曹操の一声は厳しくもあり、当然の言葉であった。
「すまない・・」
当然である。これから決戦を行うにあたり、仲間が敵に投降するなどとはまさに最悪。
呉軍の士気はガタ落ち、将たちですら戸惑い、混乱している。
「そんな・・祭が・・」
孫権でさえ、非常に暗い顔をしている。
まさに絶望
この出来事により、呉、蜀に動揺が走り全体の士気が落ちるかに思えた
だがしかし・・・
蜀の面々は一切気にしていないかのようだ。
それは、初めから起こりえたことを予想していたかのように。
曹操は慌てふためく呉の面々を見、静かに時を待っているかのようだ。
隣の北郷と一緒に、傍らで控える大事な将達と一緒に。
・
・
「ふむ・・船を鎖で繋ぐ・・か」
こちらは魏軍。
彼らのもとに一人の男がやってきた。
どうやら彼は魏軍の兵であり、そして漁師であったそうだ。
もともと出身がこの付近であり、船について詳しく、信長たちに提案をしてきたようだ。
「我らの兵は船になれておりません。
この揺れでは恐らく船酔いをするものが大勢出ましょう。
そうなってしまっては戦に影響を与え、大量の死傷者がでます。
ですから、船同士を鎖で繋ぎ、揺れを抑えるのです。
さすれば揺れが軽減し、船酔いをする者も大幅に減りましょう」
「なるほど、ご主人様。彼の言う事に一理ありますね」
「あぅ・・揺れが軽減すれば、水上戦に為れていなくとも多少は戦いやすくなると思います」
朱里、雛里がその提案を擁護するように信長へ話す。
「確かにこの揺れでは私たちも陸上のように武器を扱えませんね」
「鈴々はちょっと気分が悪いのだー」
「あたしも馬の上なら得意だけど、船の上なんて全然駄目だ」
愛紗、鈴々、翠もこの揺れには手を焼いているようだ。
「わかった。うぬの申す通り船を鎖で繋ごう。
朱里、雛里。全軍に伝えよ。船を鎖で繋ぐように指示するのだ」
「御意です!!」
そして、船同士をすべて鎖で繋ぐことになった。
その繋ぎ方の指南は漁師の兵に教えてもらう。
「このように結ぶと決して外れません。
途中で外れては意味がないですからね」
「おお!確かに揺れが減ったな」
「やるじゃないか。これなら陸みたいに戦えるぜ!!」
その効果に兵たち、そして将からも喜びの声が上がった。
船をすべて鎖で繋ぎ、まるで一つの巨大な戦艦のようだ。
「うむ。ご苦労であった」
「は!ありがとうございます!それでは部隊に戻ります!!」
そして男は信長たちの元から走って去っていった。
その後姿を信長どころ魏の将たちは見えなくなるまで見送った。
「朱里」
「はい。お任せください」