「ご主人様」
「朱里か」
信長の元へ朱里がやってくる。
「やはりご主人様の仰るとおりあの兵は魏軍ではありませんでした。
忍びに後を付けさせた結果、どの部隊にもいかず岸へと向かい、そして馬に乗り去っていきました。
十中八九呉により雇われたものでしょう。
恐らく金などで釣られ我らの元へ進入してきたのでしょう」
「クク・・そうか。しからばいったい曹操は何を考えておる。
連還の計を用い、船を繋げ、火計によりこちらを殲滅する。
あやつは知らぬのか?いやしかし、彼奴らには北郷がおる。
火計を防がれる事ぐらい分かっておろう」
信長は悩む。
この赤壁での戦略を知っているのは信長、そして北郷のみ。
信長はそれを将たちに全て話した。
つまり実質魏軍は敵の策を知っているのである。
そして曹操は北郷に歴史を全て聞いた。
曹操はもう悩む事をやめたのだ。
自分を守るために、愛するものたちを守るために、堅かった頭や意地を捨てたのだ。
すべては守るため。
そして、曹操は火計の事を戦の前に、将たちに伝えた。
そう、知らないのは呉軍のみなのだ。
曹操は知っていた。
まだ伝えられていない火計のこと、黄蓋の苦肉の策も。
周瑜と黄蓋のやり取り、焦る呉の将たちを見ながらこの光景はまさに自分の頭のなかでパズルのピースが出来上がっていくかのように進んでいく。
なるほど、こうなってそしてあれにつながるのか・・と。
「と、殿!!!」
一人の兵が息を切らせながら信長の元へ走りよってくる
「呉の黄蓋が我が軍に降伏してまいりました!!」
「クク・・で、あるか」
信長の口元ににやりと笑みが浮かぶ
「さあ、開幕・・ぞ」
「はい」
信長と朱里は歩き出す。
始まったのだ、この歴史に名を残す大決戦が。
「うぬが黄蓋か」
「ああ。魏の織田信長殿じゃな。
此度は儂を受け入れてくれて感謝するぞ」
「クク・・気にするでない。
役に立つのであればワシは全てを使う」
「うむ。そうか」
「しからばうぬはワシの隣に控えておれ。
ワシの指示を待つのだ」
その言葉に黄蓋は驚く。
「今しがた降伏してきたばかりの儂を隣におくのか?」
「いったであろう。ワシは役に立つのであればすべてを使う、とな」
その言葉を聞き、黄蓋の表情は驚きから口元があがり、目じりが下がりだす
「っはっはっは!魏の大将殿はたいしたものだ!
あの軍師殿にも見習って欲しいものだ!!」
黄蓋はひとしきり笑う。
「あい、わかった。
この黄公覆、大将殿の指示を待とう!!」
「うむ。しかとその場で待っておれ」
そして、信長たちは決戦の時を待つ。
そして、時が過ぎる。
魏、呉、蜀は待っているのだ。
絶好の好機を。
戦場に吹く、風を。
「風が・・」
孫策はこの風を感じ、勝利を予感する
「東南の風が・・」
孫権は驚く。この時期東南の風など吹かないと思っていた
「天は私たちに味方したか」
周瑜はまさに今こそ好機だと体中の血が熱くなる
「始まったわね」
「クク・・さあ戦を始めようぞ」
曹操、信長はお互いにどう出るかこの戦を精一杯楽しもうとしていた。
「黄蓋よ」
信長は隣に控えている黄蓋へと話をふる
しかし、そこにはいなかった。
黄蓋は誰にも気づかれないようにその場から去っていたのだ。
「・・・・」
しかし、信長の表情に変化はない。
逆に口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
・
・
「誰にも気づかれなんだか?」
「はい、大丈夫です」
「俺たちの誰一人気づかれていません」
「そうか。よくやった!」
黄蓋は共に降伏した呉の兵たち、黄蓋の部隊の兵たちとともに身を隠していた。
「これが儂ら呉の・・一世一代の大喧嘩じゃ!
儂ら呉、蜀に勝利を呼ぶぞ!!」
「はっ!!」
そして、彼らは松明に火をつける。
火計だ。
周瑜の策は火計。それもとてつもなく大きな大火計であった。
船同士を鎖で連結させる事によりすべての船を火で埋め尽くすというものであった。
しかし、周瑜はこの策が敵にばれることを恐れた。
どこから、策がばれるかわからない。ばれてしまえばきっとこの策は失敗するだろう。
そして、策の失敗は敗北へとつながる。
だから、周瑜は鎖を繋がせる役の男に大金を用意した。
男が10年以上掛けてやっとかせげるような大金。
それでも、安いかもしれないと何度も周瑜は悩んだ。
結果、一人の男が一生掛けて稼げる額の金を男に送った。
それほどまでに周瑜はこの策に掛けているのだ。
そのために誰にも話していないのだ。
しかし、黄蓋は見事周瑜の策を見抜いたのだ。
そして、一芝居うったのだ。
完璧だった。
一緒に生活している者たちでさえ気づかなかった
打ち合わせも何もない、心と心のやり取り。
まさに以心伝心だった。
だが・・・
「なぜ・・ここに・・・・
なぜいるのだ諸葛孔明ーー!!!!!!!!」
そこには朱里がいた。
背後に数十人の護衛を従え、羽扇で口元を覆うように。
「貴方たちは私たちの掌の上だったのです」
朱里がゆっくりと黄蓋の元へ歩いてくる。
彼女の小さな身長からは考えられないような威圧感を発して。
そして朱里はおもむろに羽扇を上へ掲げる
「いまです!!」
「なっ!?」
黄蓋たちの後ろに忍びが突如として現れる。
彼女の背後にいた護衛に気を取られすぎていた。
本当の目的は忍びを気ずかれず背後を取らせる事だったのだ。
そして瞬く間に黄蓋を含むすべての者たちが取り押さえられた。
「やってくださーい!」
ガキーーーン!!!!!
雛里の合図で一斉に兵たちが斧を振り下ろす。
雛里はこの連還の計を破るためにすべての船に斧を準備させていたのだ。
ガキンガキン
何度も何度も鎖へ斧を振り下ろす
ガキンガキン
さすがになかなか鎖は外れない、切れない。
だが、それでも何度も斧を振り下ろせば
ガキーーーーーン!!!!
外れないように施された鎖もいつかは壊れるだろう。
そして、自由になる船たち。
「ワシを・・どうするつもりじゃ」
「黄蓋さん。貴女はこの船に火を放つつもりでしたね。
そして、その後ここから脱出する予定だった。
鎖により繋がれた我らの船は全て炎上。
私たちの歴史的大敗北」
朱里がたんたんと話す
「ふふっ。本当に全てばれておったのじゃな。
それで・・儂をどうするつもりじゃ?」
黄蓋が睨みつけるように朱里へと視線を移す
「手伝ってあげましょう」
「どういうことじゃ?」
「やってください」
朱里の合図で船に火が付けられる。
「なっ!?」
「これで貴女の予定どうりですね。
ただ、船同士の鎖は外させてもらいましたけどね」
「どういう・・つもりじゃ?」
黄蓋の表情はわけがわからないといった表情だ。
「ふふ・・貴女は呉に戻るつもりでしたよね?じゃあ戻してあげますね」
・
・
・
「火が上がったか。黄蓋殿はうまやったみたいだな」
周瑜の血が滾る。
全身の血が沸騰しそうだ。
うまくいった。策が成った!!!
「これで・・これで勝てる!!全軍に合図しろ!!!!」
周瑜が大きく叫ぶ。
「ほ、報告します!!!!」
「なんだ!」
「船が・・・船がこちらへ突撃してきます!!!!」
その言葉に周瑜の体が一気に凍る
そして周瑜は慌てて対岸に眼を移す
「ば・・ばかな・・・」
火がついた船がこちらへ向けて一直線に突撃してくる。
「わーー!!!逃げろー!!!!!」
「突っ込んでくるぞーー!!」
兵たちが一斉に慌てだす。
見れば敵の先頭の船にだけ火が付いており、その火が付いた先頭の船だけがこちらへと向かってくるようだ。
「き、きたぞーー!!!!」
そして辺りに轟音が鳴り響く。
ついにこちらへと船が到達したようだ。
そして、次々に火が燃え移りこちらの船を焼き尽くす。
パチパチと音が鳴り響き、この場所の温度が急激に上がりだす。
「くっ・・ここは危険か。一端私も・・・・・・・なっ!!!!!!」
周瑜は見た。
燃え盛る炎の中、敵の船の柱に縛られた仲間の姿を。
「さ・・・祭殿ー!!!!!!!!」
周瑜は走り出す。
灼熱の炎の中を。
いつも、私に突っかかり、憎まれ口を叩き、仕事をサボり酒を飲むあの大好きな仲間の下へ。
「なんてむごいことを!祭殿!!!
いま、今助けます!!!」
熱いなどと言ってられない。祭殿はもっと熱いのだ。
柱に縄で縛られ身動きすら取れないのだ。
周瑜の体が焼ける。露出した肌の部分がヒリヒリする。
それでも、周瑜は走る。
きっと、絶望し恐怖しているだろう。
痛いだろう、熱いだろう。
恐怖や痛みで失神しているかもしれない。
今、見ても身動き一つしていないのだ。
そして、たどり着く。仲間の下へ
「はあ・・はあ・・・・
ふふ、はははははは!!!
なるほど、どうりで身動きしないはずだ!!!
呼吸すらしていないのだからな!!」
周瑜はその場で膝を突く。
そう、
黄蓋にそっくりに作られた木像の前で。
「祭ーー!!!!」
「祭ー!!」
「祭さまーー!!」
「祭殿ーー!!」
「祭殿ーー!!」
周瑜は聞いた。自分と同じように仲間を救うために走る聞きなれた声を。
そして、すべてを悟った。
「ふふ・・私どころか雪蓮や他の将達をも騙すとはな。
見事だ。諸葛孔明・・・・・」
周瑜は黄蓋の木像の横に座り、赤い天を仰ぎ見る。
そして呟いた。
「ああ・・、天はなぜ周瑜のほかに孔明を世にだしたのか」
天はなぜ周瑜のほかに孔明を世にだしたのか
または
天はこの世に周瑜を生みながら、 なぜ諸葛亮をも生んだのだ
はい、なんとも悲しい名台詞。周瑜の諸葛亮への嫉妬や怒りなども伺える台詞ですよね。でもいますよね、何度やっても勝てない相手とか。
才能とは恐ろしいですね。
孔明と木像
これはあまりにも有名ですよね。
まあ、この戦では使わないけどね。
とある、名言を生んでますよね。
今回の呉、まさにやられやくでしたね。
でも、この小説のストーリー的には呉には悲しい役目を負ってもらうしかなかったんですよ。
それにしても朱里が黒い。