くさいというか、奇麗ごとな台詞がおおいようなきもしないでもない。
赤壁が燃えている。
この戦いはやはり史実通り火計によって支配された。
ただ、違うのはその火計は「魏」が起こしたというものであった。
「・・・・・」
周瑜はただずっと虚ろな眼で赤い空を眺めている。
もう、この世に未練がないのであろうか?
戦況はもう決まってしまったであろう。
もともと兵力差はすさまじいものであったが、火計により呉の船は燃えた。
突然の状況に兵たちは慌てふためきただ岸に向かって一直線に走り出す。
そして、兵どころか将たちの士気も落ちるところまで落ちたであろう。
周瑜自身ももはや何もする気がなかった。
自分は知に自信があった。だが諸葛亮には及ばなかった。
連環の計と火による大火計。
それをあっさりと見破られ、逆に手玉に取られてしまったのだ。火計によって。
そして、極めつけは祭殿の木像。
私たちの絆が深ければ深いほどその策に嵌ってしまうという恐ろしい計・・
助けたい気持ちが強いほど自らを死中に陥れる計。
「ふふ・・、「絆の計」とでも呼ぶか。
しかし、この私もまだまだであったな。
理性を失い、考えればわかるものだが」
周瑜は隣の木像を眺める。
「雪蓮・・後は任せたぞ・・わ・・わたしは・・・・」
そして、周瑜は眼を閉じた
だが、そこに一人の女性の声が響く
「あきらめないでください!」
・
・
・
「祭の木像!?」
孫策は仲間の姿を燃え盛る船の中に発見し、急ぎ船へと駆け出した。
だがしかし、それは恐らく敵の軍師による策であった。
「まずいわね・・ちっ!」
孫策は後ろを振り返るが火の手が運悪く、退路は既に炎により塞がれてしまっていた。
いや、退路だけではない。
もはや火の手はその勢いを強め孫策の周りほぼ全てを燃やしている。
黄蓋の木像もパチパチと音をたて、赤く燃え上がっている。
「次は私か・・迷ってる暇はなさそうね」
孫策は船の端へ走り、船から飛び降りその身を冷たい水の中へと移した。
しかし、状況は相変わらず悪いままだ。
周りの船も燃えている。
そして焼け落ち上から焼けた木材が降ってくるありさまだ。
なにより・・
「たっ・・助け!!誰かーー!!」
「沈む!!鎧がっ!!」
「離せーー!!俺まで沈むだろうが!!」
自分と同じように飛び込んだ者たちが大勢居る。
その大半は自分が着ている鎧の重さによってもがき、溺れている。
そして、力尽きたものは装備の重さにより沈んでいっている。
重さに耐え切れず、仲間にしがみつかれたものは力で引き離すか、剣で仲間を突き刺し殺しているものまでいる。
「私たち孫呉の結束も脆いものね・・」
孫策はこの光景をまるで光のないような冷たい眼で眺めている。
しかし、悔しい気持ちの裏には仕方ないと思う気持ちもある。
自分も生きるためには同じ事をするかもしれないからだ。
孫策の体温を冷たい水が奪っていく。
体がだんだんと動きずらくなっていく。
このままずっとここにいては確実に死んでしまう。
確実に死へのカウントダウンは始まっているのだ。
船には自力では上がる事ができない。
しかし、兵たちはこの騒ぎで岸側へと移動した。
孫策の表情にも徐々に焦りが見え始めていた。
そんな折・・・・
ドーーーーーーーーーーーーーーーーン
激しい音が辺りに響く。
船だ。
巨大な船が周りの船を壊しながら、突き進んでくるのだ。
その船は周りの船よりも遥かに大きく、頑丈に作られているようだ。
ところどころが鉄で出来ているのだろうか?
燃える船すらも、気にせず突き進んでいる。
他を寄せ付けずまるで王道、覇道を突き進む英雄のようだ。
その光景に孫策は眼を奪われた。
「生を望むか孫策よ」
「え?」
その船の船首に男は立ってこちらへと問いかけてくる。
「生を望むならばこの信長が拾ってやろうぞ」
「・・信長」
信長が掌を上へ向け、右手を孫策へ向ける。
「それとも・・うぬの終幕はここか」
「・・・・」
孫策は何も答えない。いや、答えれない。
体は生を望んでいる。孫策の体温はとっくに下がり唇も青くなってきている。
できることならその誘いを受け、早く布団にくるまり暖かいお茶でも飲みたい。
しかし、心がそれを望まないのだ。
敵の、そしてその君主にこの命を救われるなんて自分のプライドが許さないのだ
「うぬがそこで死を望むなら構わぬ。
溺死が無様で嫌だと言うのならこの信長が自らうぬの額へ矢を突き立ててやろうぞ」
そういい、信長は兵から弓と矢を受けとり孫策へ向けて引き絞る。
「ふふ・・そうね。それもいいかもね。
南海覇王も重いし、寒いし・・もう・・疲れちゃったわ。
それならいっそ、この戦で負けて、その敵軍の大将に討たれたほうが武人としてはかっこがつくかもね」
その言葉を信長は黙って聞いている。
「武人として・・か。クク・・くだらぬな孫策よ。
本音ではうぬは生を望んでおろう。
だがそのくだらん意地が邪魔をしておろう。
何故ここで死を望む孫策よ。
先代孫堅は何を望んでおった。
死すまでくだらぬ意地を通せと申したか?
それとも死すときは無様に死ねと?
ならばこの信長見届けてやろうぞ。
さあ、選ぶが良い孫策。溺死か?凍死か?即死か?
先代の望み、この信長がしかと見届けてやろうぞ」
信長の口元ににやりと笑みが浮かぶ。
孫策は震える体で信長の言葉を聞いていた。
信長の言葉が頭を木霊する。
先代の望み・・・母様の望み。私の望み。
呉の・・繁栄。呉の民たちが平和で、安心してくらせる国を作ることだった。
それをこの男は・・母様の望みを・・・
「ふざけないで!!母様を愚弄するなんて絶対に許さない!!!」
孫策の瞳に再び光が戻ってくる。
信長への怒りが込み上げてきているようだ。
「ならば追って来い。この信長の元へ」
「え?」
一本の縄が孫策の元へ落とされる。
先が輪になっており、もはや力のない孫策では縄を握ることすらできないであろう。
そのため輪に体を通すだけで、引き上げてもらえるよう配慮されていた。
孫策は呆然とその縄を見つめている。
この縄・・孫策の生死を左右する一本の命の綱に手を伸ばしていいのだろうか?
私たちは負けた。
呉はこの戦いでもう戦う力なんてない。
魏に吸収されるだろう。
そうすればもう袁術の時のように独立の機会なんてこないだろう。
母様から続いた私たち孫一家の望み。
私が潰してしまった・・まさに大敗。
やはり・・責任をとって・・
「死こそ極悪」
「え?」
「責を感じ、逃亡するものは悪。
死する者は極悪。
そして、その責を取り返すほどの働きをする者こそが善。
クク・・いつまでたっても沈まぬよう足をバタつかせておる者が死を口にするか」
そして孫策は今の自分の現状を確認する。
そう、ずっと浮いていたのだ。
体がどれだけ重かろうが、力が沸かなくとも必死にその足を動かし続けた。
だから孫策は生きているのだ。
そうか。本当にただの私の意地だったんだ。
本当ね、心の底では必死に生を望んでた。
母様の呉を潰しておいて、死んで逃げるなんてまさに極悪・・
だったら必死に生きて、今以上の呉をまた作ればいいだけじゃない!
蓮華には・・ふふ、荷が重過ぎるわね。
それに・・この男をぶちのめしてやらなきゃ!
この時孫策の意思は決まった。
最後の力をふりしぼるように輪を体に通す。
輪を体に通すという簡単な作業。
体がかじかみ、一度では通す事ができない。
それを何度も何度も必死に通そうと頑張っている。
そこには王や英雄としての覇気は無かった。
ただただ誰よりも生へと執着する一人の人間の姿であった。
そして孫策は魏の兵により船へ引き上げられた。
孫策はぬれた体で、体力などほとんどない体で一歩一歩信長の元へ歩み寄ってくる。
「ふふ・・どう?たどり着いてやったわよ・・」
そして、ゆっくりと右手を上げ握りこぶしにし、信長の頬へくっつけるように殴る動作をした。
孫策の命の一撃を受けた信長はニッと口元に笑みを浮かべる
「見事な一撃ぞ」
「孫呉の・・母様の魂が篭ってるからね・・」
そして孫策はその場で気を失った。
・
・
・
「頑張ってくださーーい!!!!!」
桃香はさきほどからずっと叫び続けていた。
今にも沈み、力尽きそうな孫呉の兵たちを鼓舞し続けたのだ。
「さあ、今助けてあげますからね。あとちょっとです!」
敵兵だろうが関係ない。
桃香は孫呉の兵たちを救い続けた。
「あれ・・?あれって・・」
桃香は見つけた。
「蓮華様・・お気をしっかり持ってください!」
そこには大きな木材にしがみついている孫権、甘寧、周泰の三人がいたのだ。
彼女らもまた朱里の策にはまり、黄蓋の木像に騙された者たちなのだ。
そして、三人ともそれぞれ飛び込み、この場でたまたま合流したのだろう。
だが孫権はもう力がつきかけているようだ。
木材にしがみついているその手がずるずると何度も下がってきている。
「いま!今助けます!!」
桃香は大声で三人へと呼びかける。
その声に三人は気づいたようだ。
「お前は・・劉備・・・なんのようだ・・」
孫権は途切れ途切れの言葉でそう口にする。
体力が限界に近いのだろう。
「なんのようって・・貴方たちを助けるに決まっているじゃないですか!!」
「ふざけるな!!我らを笑いに来たのであろう!
蜀と同盟を組み、そして貴様ら魏を滅ぼそうとし、そしてものの見事に貴様らの策にはまり惨めな姿をさらしている我らを!」
甘寧は力の限り叫び、桃香を睨みつけている。
甘寧の隣にいる周泰も桃香の方を見つめている。
「そんな!?そんなこと思っていません!
私は!私はただ貴方たちを助けたいだけなんです!!」
「助ける?私たちをこのようにしたのは貴様らではないか!
私たちは戦で負けた、だから死ぬ。もしくは瀕死になる。
それは当然のこと。
なのに貴様はわざわざ勝利し、そして勝った相手の命を救うのか?
そんな戦どこにある!!」
「ここにあります」
桃香は自分の胸に手をあて、孫権、甘寧、周泰を見つめながらそう話す。
「私は・・世の中を変えたい。
だから、戦であろうと今までの常識を変えたい。
だって今まで通りじゃ何も変わらないから。
結局いつも通りの繰り返しになっちゃう。
だから、変えたい・・・・この、今の世の中を。
皆さんもそうなんじゃないんですか?
この世を憂い、少しでもよくしたくて戦う。
でも、今の世は戦で勝つことでしか自分の意見は通らない。
だから・・今は戦うしかないんです!
そして私は、貴女たちに勝ちました!
だから言わせてください!私の意見を!!
私は貴女たちを助けたい!
私に貴女たちを助けさせてください!」
桃香は真剣な表情で、そして一切三人から眼を逸らさずにそう語る。
桃香のその雰囲気から三人はそれが桃香の心からの真の言葉だと感じた。
「・・・・」
(蓮華様・・)
甘寧は孫権を見る。
どう見ても今すぐこの冷たい水の中から引き上げなければ命に関わるであろう。
自分の大事な主君。なんとしても助けたい。
でもいいのだろうか?
「思春殿」
「明命・・」
「私たちにとって一番大事なものは蓮華様です。
劉備はああ言ってます。
私たちの命に対してはどうかわかりませんが、きっと蓮華様は必ず生かしてくれると思いますよ。
ですので劉備の言葉を信じましょう。
今はそれしか蓮華様を救える道はありません」
「くっ・・・それしか・・ないのか」
甘寧は悔しそうな表情を浮かべる。
だが確かに今はそれしか孫権の命を救う方法などないのもまた事実であった。
たくさんの呉の船が邪魔であり、岸までとても泳いでいける距離ではない。
装備が重く、水が冷たく体力の消耗が早すぎる。
選択の余地など最初からなかったのだ。
「劉備・・・お前を信じていいのか?」
「はい」
甘寧の言葉に劉備は即答する。
二人の目と目は一切逸れることはなかった。
「わかった。劉備・・助けてくれ・・・」
「はい!頑張ってください!今すぐ縄を下ろします」
そして三人はこの冷たい水の中から脱出することに成功した。
三人にはすぐに毛布が与えられ、その身を包み、体温の低下を防いだ。
「よかった・・無事に助かりましたね」
「ああ・・すまない」
孫権も少し体力が戻ったようだ。
「だが、皆無事であろうか?
私と思春、明命はいるが・・」
「孫策さんはたぶんご主人様が向かってると思います。あとは・・」
「劉備殿。冥琳さま・・周瑜さまは?」
周泰が周りを見渡し、一人いない人物に気づいた。
「え?周瑜さん・・」
桃香も周りを見渡し、まだ助けていない人物が居る事に気づいたようだ。
「周瑜殿は燃える船に走っている姿を私は見た。
それで私も何事かと思い、前方の燃える船に目をやると黄蓋殿の姿があったんだ。
まさか、蓮華様や明命も同じ目にあったとは・・」
「そんな・・それじゃ冥琳は・・・」
「冥琳さま・・」
孫権や周泰、甘寧の表情が曇る。
そして、だんだんと絶望の色が濃厚になっていく。
だがしかし、桃香は違った。
「どこですか?」
「劉備・・」
「まだ決まったわけではありません。
私はたくさんの人を救うって決めてるんです!
この世を憂いだみんなで新しい世を見たい。
だってみんな目標は平和な世なんだから。同じ夢を追い求めてここまで頑張ってきたんだから!
もうこの乱世の終結は目の前なんです。
兵隊さんの救助は他の人たちに任せます。
私たちは周瑜さんを助けますよ!」
桃香は一つも迷うことなくそう話す。
その曇りない決意と表情が三人に希望と信頼を与えた。
その言葉を聞き孫権は桃香へすがるように近づき声をかけた。
「劉備・・頼む。助けてくれ!冥琳は大切な仲間なんだ!」
その言葉を聞き、桃香はにっこりと微笑み、任せてくれと声をかけた
そして、劉備たちの乗った船は辺りを散策し始める。
「ここら辺だ・・」
すでに全焼した船やまだ燃えている船がある。
「明命!」
「はい!」
周泰はまだ体力が戻っていないのかぎこちなく船首まで移動する。
そして、体を震わせながらもジッと周りの船すべてに目を移す。
すべてを見通しているかのような芯の通った目で辺りを見渡す。
まばたきを忘れたかのようにずっと船を見つめる。
わずか数十秒で周泰の首が動かなくなった。
「いました・・まだあの船の中にいます。
冥琳さまです!でも動きません!
ずっと座ったまま動いていません!」
見つけたようだ。
だが肝心の周瑜は船から脱出せず、取り残されているようだ。
「ああ・・なんてこと・・」
「くっ・・」
「・・・」
三人はまるで生気を失ったかのように力なく座り込む。
「・・・・」
だが桃香は違う。
そのまま踵を返し、その場をあとにする。
「冥琳・・。劉備、ごめんなさい。せっかくあなたが・・あれ?」
孫権は桃香がいないことに気づく。
「劉備は?」
「そういえば・・」
「あ!?な、なにやってるんですか・・」
周泰が船の上の方を見つめ指をさしている。
そこには帆の辺りの木材に立ちながら縄を持つ桃香の姿があった。
「りゅ・・劉備!そんなとこで何やってるの!」
「私は・・私はご主人様みたいな力も統率力も、愛紗ちゃんみたいな武だってない。
私にあるのはたくさんの人を救いたいって気持ちだけ。
この気持ちだけは誰にも負けない!
だから私はここで後ろ向きには絶対ならない!
周瑜さんはきっと生きてる!
こんな・・こんな私だって英雄だってご主人様は言ってくれたんだからーー!!」
桃香は縄を掴み、そして振り子の原理を応用して空へと飛んだ。
燃え盛る船の中へ桃香は臆することなく飛び移った。
常人では決して真似できないであろう。
炎により半壊状態の船へと飛び移ったのだ。
まさに自殺行為以外のなにものでもないのだ。
孫権、甘寧、周泰は驚愕した。
自分たちでさえ諦めかけていたのに。
敵である彼女が何故そこまでしてくれるか?
彼女たちの中には先程聞いた言葉が頭をよぎる。
英雄
その言葉だけが木霊する。
そして彼女たちは祈る。
彼女の安否を、友の安否を。
「う・・熱い・・・」
桃香は無事船の中へと飛び移る事へ成功した。
だがこの船ももう数分すれば崩れ落ちるだろう。
もう船のほとんどが火により侵略されているのだ。
「周瑜・・さん・・どこですか・・」
酷い熱気により、声すらまともに発する事ができない。
ここで大きく息でも吸えば喉がやられてしまうのではないだろうか?
「いた・・」
桃香は周瑜を発見する事に成功した。
周泰が事前に周瑜を発見していたためにある程度目星は付いていた。
だが、周瑜は目を瞑り座ったままだ。
生きる事を諦めたのだろうか?
しかし、それも仕方ないだろう。
周りは全て火に囲まれているのだ。
武官ではない彼女ではどう頑張っても岸まで泳ぐ事など不可能であろう。
そんな彼女を見た桃香は急ぎ声をかける。
「あきらめないでください!!」
桃香は周瑜の体を揺さぶりながら声を掛けた。
その行動に周瑜は目をあける。
口をパクパクと開き、言葉を発する。
「ぐ・・うっ・・誰だ・・?」
「良かった・・生きてた・・私です。劉備です!」
「劉備・・?なぜお前がここに・・」
「貴女を助けに来ました。今は何も考えず私に任せてください!」
「助けるだと・・?お前に・・?」
「はい!う~・・んしょ!!」
桃香は周瑜の肩に腕を回し彼女を立ち上がらせる。
その隣では黄蓋の木像が既に黒焦げに燃えていた。
それはまるであと少しでお前たちもこうなるのだぞと物語っている。
だが桃香はそんな未来はありえないというように少しのわき目も降らず歩き出す。
炎は周りのほとんどを燃やしていた。
道などほぼなかったのだ。
「どこへ・・?」
「ちょっと熱くて、その後冷たいですけど我慢してくださいね♪」
「な!?」
桃香は臆することなく炎へと走り出し、そして水面へと飛び込んだ。
彼女らの体を火が少し蝕んだがその後瞬時に冷やされた。
「ぷはっ!」
「ごほっ!ごほっ・・お前は何をたくらんでいる・・」
周瑜は桃香へと問いかける。
だが彼女は普通の。少し笑みを含んだ顔で答えた。
「いいえ。何も考えていません。
だから・・どうしましょう?」
「ん・・?どういうことだ?」
「あの・・何も手筈を整えていなかったんです・・。
ただ勢いのまま周瑜さんを助けに向かっちゃって・・」
「なっ!?」
「でも・・ほら!見てください」
目の前の船から縄が落とされ。
そして、船から三人の女性が顔を覗かせる。
「冥琳!!」
まるで最初から桃香が彼女を助けることがわかっていたかのような手際の良さであった。
二本の縄が投げ出され、そして二人を船へと引き上げる。
桃香が命を張って敵であった自分たちを助けたのだ。
ならば、間に合わないはずが無い。
間に合わなくとも、せめて彼女だけでも助けねばと孫権たちは桃香が飛び移った後、桃香を救うための縄を準備させたのだ。
周瑜、桃香は無事船へと引き上げられた。
そして、周瑜は三人の仲間の顔を見渡す。
「蓮華様、思春、明命・・」
「冥琳!」
「周瑜殿!」
「冥琳さま!」
四人はその場で抱き合った。
まさかこの場で出会えるとは。
四人全員が命の瀬戸際を味わったのだ。
そして四人は奇しくも同じ、たった一人の少女に救われたのもまた事実であった。