蒲公英、猪々子、斗詩は捕縛した魏延を連れ、信長たちのいる城へと戻った。
赤壁での戦いの後、信長たちは許昌まで戻った。
呉はもはや戦力が無いため、追撃する必要もなく、撤退を許した。
戦後処理を済ました後に、降伏勧告でもすれば呉はそれを受け入れるしかないであろう。
今目を向けるのは蜀である。
そのため、首都を許昌とし、今後信長たちは行動するとした。
そして、今ここに縄に縛られた魏延が信長の前にいる。
(こいつが・・織田信長か)
魏延は信長のまえで後ろ手に縄を縛られ正座で座っている。
その横には愛紗、星がいつでも斬れるようにそれぞれの武器を手にした状態で控えている。
信長は椅子に座り、肘置きに右手の肘を置き、手は握りこぶしを作り頬の辺りにあて、魏延を睨むように、そして品定めするように見ている。
(くそ・・凄い覇気だ。御館様と同じか?いや、それ以上かもしれない)
魏延は下を向きながら思案する。
そして一度チラリと目線だけをあげ、信長を見、そしてすぐ下へ視線を逸らす
(なんて恐ろしい目をしてるんだこいつは・・震えているのか?このワタシが・・)
魏延の肩が震える。自分との格の違い。
信長の王としての覇気が弱者を震え上がらせるのだ。
「汝、思い残す事はあるか?」
「・・・」
魏延は信長の声を聞き、何も喋る事が出来ない。
命乞いなど無駄だ。
戦とはいえ、信長の軍の将を二人も負傷させたのだ。
そして、下手な嘘をつきこの場を取り繕う事も無駄だろう。
信長に嘘は通用しない。
それだけはヒシヒシと感じる。
「ワタシは・・・」
魏延が重い口を開いた。
「こんなところで死ねない」
魏延がその言葉を発し、そして黙る。
「続けい」
「ワタシはまだやりのこした事がいっぱいある。
師である桔梗様、厳顔様を超えていない。
そして、曹操様の部下となってからまだ何も功を得ていない。
弟子として、部下として、そして武人としてこんな生涯で思い残すことなんてあるに決まっているだろ!
なにより・・なにより自分の慢心・・、くだらない思い上がりのせいでこんな不覚を・・情けなさ過ぎるだろ・・」
魏延の目元からポタポタと涙があふれ出る。
本気で後悔しているようだ。
猪々子と斗詩を倒し、心が高揚し、そして自らが作ってしまった思い上がりが彼女に最大の隙を作ってしまったのだ。
「ワタシの人生はなんだったんだ?
ずっと武に励み、友も作らず、遊ばず、寝る間もおしんで鍛錬をしてきたんだ。
そして桔梗様に出会って、曹操様のような王に出会えて。
これから・・これからだってのに。
ワタシの死に様がこんな情けないなんて。
自分に・・自分に負けるなんて・・」
「負けてないよ」
その場に馬岱の声が響く。
「あんたは自分に負けていない。
わたしに負けたんだ」
蒲公英の言葉を聞き、魏延が顔を上へと向ける。
そして蒲公英へと言葉を発した。
「貴様にか?違う!ワタシが慢心していなければ負けてなどいない!」
「違うね!あれはわたしの武だ!」
「なんだと~・・」
「この脳筋女~・・」
二人がいがみ合う。
ひたすら武に励んでいたのは魏延だけではない。
ここにいる乙女の将全員がそうなのだ。
故に蒲公英も同じ。
蒲公英にすれば彼女の勝ちは魏延が慢心したからだというのだ。
つまり魏延が本気で戦えば蒲公英は勝てない。
そういっていることになるのだ。
「ちょ、ちょっとたんぽぽちゃん。魏延さん!」
桃香がこの場を宥めようと二人に割ってはいる。
しかし二人はにらみ合い、今にも飛び掛りそうだ。
「ちょっと待って、ちょっと待って!
え~っと・・二人は自分の方が強いって言いたいんでしょ?」
「そうだ!(もちろん!)」
「だったらさ、また今度戦えばいいじゃない。ね?」
「また・・今度だと?」
魏延がその言葉を聞き、桃香の顔を見る。
「うん。二人の気持ちはそれで治まるんでしょ?
魏延さんもたんぽぽちゃんも万全の状態で戦えばどっちが強いかわかるじゃない?
二人にとって武は譲れないものなんだしね。
それにお互いにいがみ合えて、競え会える相手っていうのはやっぱり大切だと思うの。
生涯のうちでそういう相手は大切にしなきゃ」
「し、しかし・・」
「と、桃香さま・・?」
魏延、蒲公英が何かをしゃべろうとすると
「だ~め」
桃香が自分の口元に人差し指をあて、そして片目を瞑る。
「魏延さんはたんぽぽちゃんとの勝負に備えて魏延さんは体を回復させなきゃ。
さ、行こ。医務室へ案内するね」
桃香は魏延に肩を貸し、彼女を立たせる。
「と、桃香様!」
愛紗が桃香へと呼びかかるが、桃香は魏延と蒲公英の時のようにパチッとウインクをしその場を後にする。
そしてその場にバタンとドアが閉まる音が響き、その場の静寂が訪れる。
「・・っふふふ。あーっはっはっはっは!!!」
唐突に孫策が笑い出す。
「プッ、くすくす・・」
「はっはっはっは!」
「フフッ」
彼女に釣られて皆が笑い出す。
朱里が、星が、そして周瑜までもが。
「・・・・くすくす」
蒲公英もしばしあっけに取られていたようだが現状を理解したのかその顔に笑みが浮かぶ。
しかし愛紗だけはおろおろしていた。
「ご、ご主人様・・」
「良い」
信長は目を瞑る。
そしてゆっくりとその口を開いた
「あやつにとっては大陸の人間全てが大切なのであろう。
いずれこの大陸は一つになる。
ならば魏延もワシや桃香の物となる。
そして、普通のものより抜きん出たものはそうおるまい。
ならばその者は大切にしなければならぬ。
殺してしまえば、魏延の代わりとなる者と出会えるのはいつになるかわからぬ。
故に・・・・
故に人は・・宝ぞ」
「人は・・宝ですか」
「うむ。有能、無能どちらも構わぬ。
人にとって宝だと感じる相手は違う。
夫婦、子供、客、上司部下、そして友。
その代わりになる者なぞ易々と出会えるものではあるまい。
ならば殺してしまえば時や浪費がかさむだけぞ。
大陸は一つになる。しからば全てを同じに考えねばならぬ」
「ご主人様・・・」
愛紗が信長を見つめる。
「変わられましたね・・最初出会ったころのあなたとは・・」
「で、あるか」
「はい」
「クク・・そう感じるか。ワシも桃香に充てられたのかもな」
「それで、それでよろしゅうございます」
愛紗が信長に頭を下げる。
・
・
「なぜワタシを助けた?」
魏延が桃香へと問いかける。
「だって・・魏延さんが悔しそうだったから」
「悔しそう・・、そうか。そうだな。
確かに悔しかった」
「人はね。泣きながら生まれるの。
でも周りの人は笑顔で、その生まれる子供を見つめてる。
だから・・死ぬときは貴女が笑顔で、思い残すことなんて何もない、楽しかった笑顔で死んで欲しい。
そして周りの人が貴女の死を悔やみ、泣いて、悲しんで貴女に死んで欲しい。
魏延さん。貴女はここで死んだらそうなれた?
貴女が悔やむことがいっぱいあって、険しい顔をして、世の中や自分を恨んで死んで貴女はそれで満足な人生だったって言えた?
きっと違うと思うの。
だから私は貴女に死んで欲しくない。
貴女がこの時代、大陸で生を受けてよかったって思って欲しいの。
戦争や・・人を恨んだりして死んで欲しくないな・・」
桃香が魏延を見つめながら必死に語る。
魏延は桃香から目を逸らさずその言葉を聞く。
「お前は・・何故ワタシに・・
出会ったばかりのこんなワタシに」
「う~ん・・出会いを大切にしたいからかな?」
「ど、どういうことだ?」
「だって、一生の友達や親友なんて誰がなるかわからないじゃない?
ちっちゃいころに出会った友達で、今はどこに住んで、何をしているかわからない友達がたくさんいるんだよね。
誰が一生の付き合いになるほどの親友になるかなんてわからない。
だから私は全ての出会いを大切にするの。
魏延さんが私の一生の親友かもしれないから」
「ワタシが・・お前の?」
「うん。戦争中で、敵同士だからって後ろ向きじゃ駄目だよ」
桃香がちっちゃい子をあやすようなメッという仕草でそう話す。
「だから・・友達になろ?ね?」
「ワタシが・・お前の、友達・・親友・・」
この言葉は日々武に生き続けてきた魏延の心に響く。
彼女には必要なかった言葉。
自分の命を救ってくれた人からの。
無償の、借りや偽りではない無垢なる誘い。
そんな彼女からの単純で明快な言葉。
「友達・・ははっ!そうか!友達か!」
「うん!友達!友達だよ!」
魏延が笑う。その顔にはもう悲壮の色はなかった。
その顔を見た桃香の顔も自然に笑顔になる。
まるでひまわりのようなそんな笑顔。
「わかった。ワタシは魏延。字は文長」
「私は劉備。字は玄徳。真名は桃香だよ」
「ま、真名を教えてくれるのか?」
「うん。だって私たちこれから友達じゃない。
大切なお友達。だから魏延さんに教えるね」
桃香の微笑み。
自分に心を開いてくれた魏延に対する精一杯の笑顔。
その笑顔に魏延はしばし見とれる。
「そ、そうか。ははっ、わかった!
私の真名は焔耶だ。よろしくな!」
「うん。よろしくね焔耶ちゃん♪」
「ああ。桃香!」
有名なお言葉を今回使わせていただきました。
『あなたが生まれたとき、周りの人は笑って、
あなたは泣いていたでしょう。
だからあなたが死ぬときは、あなたが笑って、
周りの人が泣くような人生をおくりなさい』
ネイティブ・アメリカンの言葉です。
あまりにも有名であり、様々なマンガや作品で使用されています。
今回桃香に言わせました。
彼女ならいいそうかなって。