最終試験の日がやってきた。
「緊張してますか?」
「ええ、いつも以上にしてますよ。だって、今までと違うことをやらされるんですから」
こちらを非難するような視線を向けながら鏡田さんは言った。
「すみません」
「けど、少しだけワクワクしてます。初めてです、試験が楽しみだって思えたのは」
「それならよかったです」
ただすぐにその視線を緩めいつも通りの、人当たりの良い笑顔を浮かべてそう言った。
中間試験の時のように、不安に駆られているような様子もない。
これなら良いパフォーマンスが出来るだろう。
「そろそろ出番です」
そう確信したタイミングで、鏡田さんの試験の順番が来たようで、係の人がそう告げる。
試験前に、何か声を掛けるならこれが最後のタイミングだ。
「頑張ってきてください」
「もうちょっと気の利いたこと言えないんですか? まあ言われなくても頑張りますけど」
そんな軽口を言いながら鏡田さんはステージの方へと向かって行った。
あの調子であれば、今回の試験も問題なく鏡田さんの実力を発揮することが出来るだろう。
試験の様子を見るために試験場に向かう。
「よろしくおねがいします」
やはりちょうど、試験が始まるタイミングだったようで彼女が一礼した後、課題曲が流れ始めた。
そのパフォーマンスは今までの物とは別人のように見えた。
今までの硬さが嘘のように無くなり、ちゃんと人に聴かせるための歌になっているし、人に見せる為のダンスになっている。
そのうえで、心の底からこの場を楽しんでいる様子が周りに伝わっていくようなパフォーマンスだ。
きっと、これが鏡田京香らしさなのだろう。
そのらしさは見る人を引き付ける、熱狂……とは言えないけども、他の試験を見ている人たちも大なり小なり彼女に目を奪われている。
そんな様子を見て、自分はいつのまにか小さくガッツポーズを作っていた。
まだ合格しているかどうかわかっていないのに、焦りすぎだと自分を戒める。
ただどうやら、そのガッツポーズを見られていたようで、丁度そのタイミングで鏡田さんと目が合ってしまう。
一瞬表情を崩し、どこか安堵したような表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻ってパフォーマンスを再開するのだった。
「お疲れ様でした。鏡田さんは……合格です。最高の結果でしたね」
「嘘じゃないんですよね? 本当に、私、合格したんですか?」
「はい、間違いありません」
「本当の本当ですよね? 嘘じゃないんですよね?」
「ええ、ちゃんと確認しましたから」
「……やったーー!」
両手を挙げて鏡田さんはその喜びを露わにした。
ただすぐに、自分がしていることが気恥ずかしくなったのか、おずおずとその手を下げる。
「本当に私合格したんだ……、夢じゃないですよね、プロデューサーさん」
どうやら、まだ鏡田さんは今の現実を受け入れられていないらしい。
「夢じゃありません。あなたの実力で勝ち取ったライブです」
「あ、そうだ、合格ってことは、ライブがあるんですよね。うわー、初めてのライブなんですけど、どうしたらいいんですか!」
先ほどまで感極まった様子だったのに、今度はあわあわと落ち着きのない様子を見せる。
「……そうですね、色々ありますがまずはあなたが楽しんできてください。きっとそれが観客にとっても一番いいと思いますから」
「うわー、結構な無茶ぶりですよ。それ! けど分かりました、精一杯楽しんできます!」