『初』も終わったある日、自分は鏡田さんに呼び出された。
「プロデューサーさん、今日はすみません。突然話がしたいなんて」
「いえ、担当アイドルに言われれば時間を作りますよ。何か不安な点でもありましたか?」
現在、鏡田さんのプロデュースは今までから考えれば驚くほど、順調にいっていると言っていいい。
ただ、勝って兜の緒を締めよという言葉もある様に、こういった時にこそ気を引き締める必要がある。浮かれているつもりはないが、何かしら重要な事を見逃している可能性は十分にありえる。
「いえいえ、そんなことはないです。強いて言うなら順調すぎて怖いなーってぐらいです」
ただそんな考えはブンブンと手を振りながら彼女に否定された。
「それならいったい?」
「あたしはプロデューサーにお礼を言いたいんです」
「お礼ですか?」
「はい、あの時のあたしプロデューサーさんは知らないと思いますけど、結構追い詰められてたんです。今まで自分が信じていた道を進んできても全く芽が出なくて、卒業まであと一年しかないっていうのに、自分はデビューのデの字も見えない現状でしたから。そんなときに現れたのがプロデューサーさんだったというわけです」
「……そうだったんですね」
彼女の表情に違和感を憶えれたのもの、彼女のそういった精神状態だったことが大きかったのかもしれない。
「変な話、運命だと思ったんですよね。追い詰められた前に現れた救世主だって、だから自分をスカウトしてもらえるように動いたんです。正直脈無しだーって思いましたよ、プロデューサーさん全くこっちの話に乗ってくれないんですもん。でも、あなたはあたしをスカウトしてくれた。だから信じてみようと思ったんです、この人のいう事を信じてやってみようって。それで駄目だったなら駄目だったで運命だと割り切ろうって思ったんです」
それでだったのか。
自主練習の禁止を言い渡した後、彼女は今までの努力が嘘のようにピタリと自主練習を辞めた。どうして、ここまで聞き訳が良かったのか分からなかったのだが、今ようやく理解した。
「その割には結構、文句を言われたような気がしますが」
「だって、プロデューサーさんの言ってること、訳が分からないんですもん。仕方ないですよ」
そう言ってから鏡田さんは、鏡田さんは一度言葉を区切る。
「プロデューサーさん、ありがとうございます。きっとあなたが居なかったら、私はここまでこれなかったと思います。だから、ここまで連れてきてくれてありがとうございます」
その表情は今まで見た鏡田さんの表情の中で、一番魅力的だった。
だからこそ、
「そのお礼は受け取れませんね」
「え?」
キョトンとした表情を彼女は浮かべる。
「自分は鏡田京香をちゃんとしたアイドルにしないといけないんです。今の段階でお礼の言葉を貰うわけにはいきません」
「……もう、そうやって格好つけるのは悪い癖だと思いますよ」
口調こそ非難するような物言いではあるものの、それは形だけのものだった。
「でも、よろしくお願いしますね。ちゃんとあたしをアイドルにしてくださいね!」
「ええ、もちろんです」