鏡田京香の親愛度イベント   作:五月車

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親愛度 第10話

 舞台の最後の公演も無事に終わり、自分たちは帰り道を歩いていた。

 

「どうでしたか? 今回の舞台は」

「もちろん、今回もよかったですよ」

 

 鏡田さんの演技は初公演の時よりも更に一段階洗礼された演技だった。

 初公演の際にあれ以上のものは無いと、思っていた自分の想像を簡単に超えていくような演技を彼女は見せていた。

 

 そんな彼女の怪演もあってか、舞台は大成功……その劇団にとってはという枕詞は付くが。

 世間一般的に言ってしまえば失敗ではあるが、今まで見たことのない程の観客が入ってきたと監督が興奮した様子で語っていた。

 

「監督さんに、役者の才能が有るってスカウトもされちゃいましたし、これなら私もう女優にでもなっちゃいましょうか」

 

 前を歩く鏡田さんに対して、自分は何も声を出せなかった。

 鏡田さんの才能を考えるのなら、いや、彼女の事を考えるのならきっとそれを肯定した方がいいのだろう。あれほどの熱中を生み出せる役者はそういない。

 それにそちらの道を進んだ方が鏡田さんの為になることは理解出来ていた。ただ、プロデューサーとしてはそれを肯定することは出来なかった。

 そもそもそれを肯定することが出来るのであれば、鏡田さんをスカウトなんてしていない。

 

「なーんて、冗談ですよ。あたしはアイドルになりたいんで」

 

 彼女がこちらを振り返ることなく、そう続けてくれたのは自分にとっては幸運だった。

 きっと今の自分は誰かに見せられるような表情をしていなかっただろう。

 

「失礼ながら、訊かせてください。どうしてあなたはアイドルに?」

 

 アイドルになることを切望しているのは理解出来る、ただそのアイドルになる理由が自分には分からない。

 

「……どっちで答えた方がいいですか?」

 

 振り返って、わざとらしく鏡田さんは尋ねた。

 

「……あなたに任せます」

 

 だからこそ、自分は彼女の判断にゆだねることにした。

 本当のことでも建前でもどちらでも良かった。

 まだ彼女に建前でしか話してもらえないようなプロデューサーであったなら、もっと信用してもらえるように努力するだけだ。

 

「そうですね、ならあたしが話しましょう。とはいっても、そこまで前に言ったことと変わりはありません。アイドルに憧れたんです、キラキラしててみんなから愛されるアイドルに」

「それはどうして?」

「……あたしの家の話って、知ってますか?」

「いえ、流石にそこまでは」

「なら、そこから話しちゃいますけど、あたしの家、両親共に共働きで家にいないことが殆どだったんですよ、帰るのはあたしが寝た後とかだったし、出張とかでそもそも帰ってこない日なんてざら。両親がいる時間よりも、家政婦さんがいる時間の方が長いんじゃないかなって程に。だから、昔のあたしにとって何よりも大切な事って手のかからない子であることだったんですよね」

 

 忙しい両親の手を煩わせるわけにはいかないという考えだろう。

 そういった家庭環境の子供にはよくある傾向ではある。

 

「だからなんですかね、基本的に何かしたい事とかなかったんです。わがままとか言うだけ無駄ですし、そんなことよりも良い子でいた方が得ですから。きっと両親のいう事を聞いて、いわゆる普通の生活をして普通に死ぬんだろうなって、思ってたんです中学校の頃。今思えば嫌な中学生だと思いますよ、何も知らないくせに達観してて、全部全部つまらないって、周りの事を馬鹿にしながら生きてたんですから」

 

 カラカラと笑いながら鏡田さんは話しをしていたが、そこまで話しをして一呼吸置いた。

 

「そんなときテレビで見たんです。一人でテレビに出て、歌って踊っているアイドルの姿を。それが輝いて見えたんです、大人たちの中で私と同年代の子がキラキラと輝きながら歌っているその姿が。自分もあんな風に輝きたい、そう思ったんです。ただそれだけなんです。そこからは大変でしたよ、なんとか自分を変えていって、初星学園に入学するところまで持っていけたのはよかったですけど、それ以降のことはご察しの通りって感じです。面白くない話ですけど、私がアイドルに憧れたのはそんな理由です、幻滅しちゃいました?」

「いえ、全く。素敵な理由だと思いますよ」

 

 これが彼女がアイドルを目指した理由か。

 話を聞いて納得した、だから鏡田さんはこうなのだろう。

 思わず笑みがこぼれる。

 

「あー、もう何笑ってるんですか!」

 

 それを鏡田さんは見逃してはくれなかった。

 

「いえ、やっぱり、今回の舞台はピッタリな配役だったんだなと思いまして」

「ピッタリですか?」

「ええ、この世に退屈して異常な興奮を求めている『赤い部屋』の会員としてはピッタリだなと」

「アイドルになることを異常な興奮って言っちゃうんですか?」

「少なくとも日常とかけ離れていることは確かでしょう」

「それは、そうですけどー」

 

 口では、反対の言葉を言っているものの、その様子を見れば本気で食って掛かるつもりはないことは無いことは見て取れた。

 大方、彼女の中でも思い当たる節があったのだろう。

 

「それに自分も異常な興奮を求めて、プロデューサーになった口ですから」

「うわー、私以外が聞いたら絶対誤解されますよ、その台詞」

「鏡田さん以外にこんな発言するわけないでしょうに」

 

 そう冗談を言い合って、お互いに声を出して笑う。

 

「ふふ、それなら『赤い部屋』みたいにどこの隅を探しても見つからないなんてことにならないように努力しないとですね」

「ええ、その夢や幻なんかではなく確かに実在していたと、証明しましょう」

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