今日の分の一通りのレッスンが終わった後、他のアイドルの研究の為資料室でライブ映像などを見た後、一人で帰り道を歩く。
三年生になり、あのプロデューサーにスカウトされてからこれまでいろいろな事があった。
自主練習を禁止されたり、何故だか演技の舞台に立つことになったり、あのプロデューサーの考えることは何処か奇天烈で、自分の想像を超える物ばかりだった。
ただ、その奇天烈な発想によって生み出された方法のおかげで、アイドル人生の中で一番成長を感じているのも確かだ。
ふと、空を見ると星は数多く見えるというのに、月は見えない。
どうやら今日は新月であったらしい。
別に何ら被害を被っているわけでもないというのに、何となく損した気分になる。どうせなら、ずっと満月でいてくれればいいというのに。
月……か。
思い出すのは、先日の古文の授業だ。
『この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば』
藤原道長が呼んだとされる句であり、現代語に訳すのなら『この世は自分の為にあるように思う。あの満月が欠けていないように』という意味合いになるらしい。
何たる傲慢だろうか、この世全てが自分のためにあるだなんて。
それならばきっと自分が歌うのであれば、きっとこのようになるのだろう。
『この世をば 我が世ではあらず 新月の 満ちたることも 無しと思へば』
酷い愚作だ。
前の句とは違い、千年先まで語られる句には到底なりえず、きっと明日には作ったボクですら存在を忘れてしまうそんな歌だ。
「ふふ、変な感じ」
そこまで考えていると、自然に笑いが込み上げてきた。
あの人にスカウトされるまでは、こんなふうに空を見上げて物思いに耽るような余裕はなかった。
その余裕が、何をすればいいのかすら分からずただただ縋るようにレッスンをしていた今までに比べて、ほんの少しだけアイドルとして近づけているような気がした。
プロデューサーには感謝している、きっとあのままだと今までのように芽が出ずに卒業をしていただろうから。
だからこそ、あたしは決して彼に本当のボクを見せることは無いだろう。
月は地球から見れば美しいが、裏側は穴が何個も空いていて美しくは見えない。もしも裏側を常に月が見せていれば、人々はあの月にそこまで熱狂しなかっただろう。それと同じように、月の裏側のようなボクを見せるわけにはいかないのだ
さて、帰って他のアイドルのライブ映像を見ることにしよう。
確か、今日プロデューサーに渡されたのは961プロのアイドルのライブ映像だっただろうか。ちゃんと確認しておかないと。
ボクが、ちゃんとアイドルになるために。
「クックック……、ハーッハハ! ついに来たのだ。我が極月学園が初星学園を蹂躙する時が! 四音、ここに呼ばれた意味は分かるな?」
「ええ、私が初星学園の生徒を血祭りにあげればいいのでしょう? ……月花姉さまには声を?」
「いいや、一番星が出てこない以上、月花を呼び戻すまでもない。それに……奴らを潰すための策は、すでに打ってある。四音。極月学園の力を、あの無能どもに思い知らせてやるのだ。いいな?」
「承知しました、理事長。愚かな初星の連中は、この白草四音が始末してみせましょう」