鏡田京香の親愛度イベント   作:五月車

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親愛度 第12話

「結構いい感じなんじゃないですか?」

 

 ランキングを見ながら、鏡田さんはそう呟く。

 確かに順位事態は順調に伸びていっている。

 

「……そうですね」

 

 心底、嬉しそうにランキングの画面を見る彼女に対して、自分はそう返事をすることしかできなかった。

 

 想像よりもファン数の伸びが悪い、それが正直な感想だ。

 数字の伸びが悪い理由は簡単で、想像よりもテレビなどの目立った場所での仕事が取れていないのだ。

 この『N.I.A』の期間では、初星学園も力を入れており、大きな仕事を取りやすい。

 今までもそうであったし、事実として今年もそういった仕事を取るチャンス自体が多くなっているのは事実だ。

 

 そんな中で大きな仕事が取れていない理由もまた簡単な事で、他の人物に仕事を取られているからである。

 

 倉本千奈、『N.I.A』に参加を表明した時から彼女をテレビで見る回数が目に見えて多くなった。

 学園に回ってきている大きな仕事の多くは、彼女に回されている。

 その残りを、他のアイドル達で取り合っているというのが今の初星学園での現状であり、結果として大きな仕事にありつけていないのが現状だ。

 

 もちろんプロデューサーである自分の力不足というのも当然あるだろう。

 

 そういった様々な要素が重なった結果として、数字が伸びていないという現実がそこにあった。

 

 どうして今年なんだ。

 他の三年生で『N.I.A』に出場しているアイドル、例えば有村さんや姫崎さんのようなアイドルに後れを取るならまだ納得のしようもある。

 だが、倉本さんにはまだ二年も猶予があるというのに、倉本家というバックを利用したプロモーションを行うだなんて……。

 

 いや、本当は分かっている、彼女がむやみやたらに倉本の実家の力を使うような人物ではない事ぐらい。

 そういった手法を好んで使うような人間であれば、テレビを見ている人間達もその雰囲気を感じ取り、今のように爆発的な人気は出なかっただろう。

 彼女のプロデューサーである十王会長は最低限度かつ最適な範囲で、倉本の力を利用しているのだろう。

 だから、この感情がただの八つ当たりであることは理解しているが、だからといって割り切れるわけでもない。

 

「プロデューサーさん、何してるんですか!」

「え?」

「え、じゃないですよ、ほらその紙」

「あ……」

 

 どうやら、先ほどまで目を通していた他のアイドル達の資料をいつの間にか握りつぶしていたらしい。

 

「すみません、いつの間にか力が入ってたようで」

「大事な書類とかじゃないですよね、それ?」

「ええ、ただの資料ですから」

 

 今、鏡田さんが置かれている状況は非常に悪いと言っていい。

 先ほど挙げた倉本さんもそうだが、同じく生徒会に所属している花海佑芽、それにカルト的な人気を誇っている篠澤広といった新星。

 さらに元より入学時からポテンシャルの高さを発揮していた、花海咲季、月村手毬の両名。

 鏡田さんと同じく三年である、有村麻央、姫崎莉波、なども有力な相手だ。

 他にもあげていけば切りがない程の有力人物が、この初星学園に通っている生徒からあげられる。

 そのうえで極月学園のアイドル達も加えるとなると、警戒しなければいけない相手というのは無数に存在している。

 

 本当にこの中のライバル達がいる中で、好成績を取ることなんてできるのだろうか?

 

「うーん、それならオーディションにでも出てみますか?」

 

 こちらの不安を悟られてしまったのか、鏡田さんが打開策を口にする。

 

「……いえ、まだプランは変えません。オーディションよりも、出来れば営業の方を優先したいです」

「わかりました、プロデューサーさんがそう言うのなら信じますね」

 

 営業を優先したい、そう口にしたのは本心ではあるが、何か大きな動きが無ければ厳しいというのもまた事実だ。

 当初の計画としては、オーディションは最低限にして、堅実に活動やSNSなどの運用でファン数を稼ぐ計画だった。

 

 しかし現時点でその計画の想定数を大きく下回っているのも確かであり、改善の方法が思いついていないのもまた確かであった。

 それなら一か八かでプランを変更し、鏡田さんの言う通りオーディションにでも出るべきなのだろうか……。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 携帯の着信がなる。

 

「電話に出てきます」

 

 鏡田さんにそう告げて、電話を取る。

 

「プロデューサーちゃん、元気してる?」

 

 電話先はあの『赤い部屋』の舞台で監督をしていた人物だ。

 あの舞台の稽古期間中に、何度か話すことがあったせいか、呼び方もプロデューサーさんから、プロデューサーちゃんと呼ばれていることからも、距離が近くなってしまっていた。

 

「ええ、何とか。それで、今回はどういった要件でしょうか?」

 

 平静を装いながら、本題に入るよう話を誘導する。

 

「いやさ、聞いたよ『N.I.A』の話。鏡田ちゃん出てるんでしょ?」

「ええ、そうです」

「アイドルのそういうイベントみたいなのはこっちは専門外なんだけど、ぶっちゃけこっちとしても鏡田ちゃんがそのオーディションで好成績を残してもらえた方が嬉しいんだよね」

 

 鏡田さんが有名になれば、以前彼の所で行った『赤い部屋』の舞台の知名度も上がる。

 彼としては、それが狙いであるらしい。

 

「それで発破を掛けに来たと?」

「いいや、そうじゃないさ。流石にただ黙って期待するだけ、なんて無責任な事はしないって。ちょっと、プロデューサーちゃんに協力しようかなって」

「……目的はなんです?」

「さっき言ったじゃん。鏡田ちゃんがアイドルとして売れてくれた方がこっちとしても、都合がいいんだよね。それにプロデューサーちゃんも困ってんじゃない? 最近同じく『N.I.A』に出てる倉本ちゃんとか篠澤ちゃん、あとは他社だけど白草ちゃんとかの話は聞くけど、正直鏡田ちゃんの噂はあんまし聞かないからさ」

 

 ……よく知っている。

 確かに、今監督があげた有力な候補に後れを取っているのは確かだ。

 

「こちらの力不足によるものですが、その通りですね」

「でしょ。だからさ、こっちから提案できることが二つあるんだけど、どうする?」

「まずは話を聴かないと何とも」

「それじゃあ、直接会って話したいんだけど、今から一時間後とかって大丈夫?」

「ええ、問題ありません」

「そんじゃあ、また一時間後に」

 

 そう言うだけ言って、電話が切れた。

 

「お仕事の電話ですか?」

「……どうでしょうね。今はまだわかりませんが、自分は少し予定が出来たので、今から外に行ってきます」

「はーい、分かりました」

 

 溺れる者は藁をも掴むなんて言うが、今の自分に出来るのは、監督の提案が浮き輪……いや紐ぐらいのものであることを祈ることぐらいだった。

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