鏡田京香の親愛度イベント   作:五月車

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親愛度 第5話

「私アイドルになりたいんです」

 

 活動教室に入るなり、鏡田さんは突然そんな宣言をする。

 

「知っています」

「ならそろそろ自主レッスンを解禁してもいいんじゃないんですか?」

 

 彼女は不機嫌さを隠そうともせずに、そう言った。

 

「いえ、それは駄目です」

「えー、良いじゃないですか。私が自主練して下手になるわけじゃないんですし」

「明らかにオーバーワークで体を壊すので駄目です、それに……」

「それに?」

「いえ、今その話は辞めておきましょう」

 

 思わず口が滑って飛び出してしまった言葉を引っ込めようとする。

 

「えー、そこまで話したなら話してくださいよ!」

 

 ただ、それを簡単に鏡田さんが許してくれるわけが無かった。

 

「ちゃんとしかるべき時が来たら話しますのでその時まで許してくれませんか?」

 

 とはいえ、こちらとしても今その話をするわけにはいかなかった。

 話したところで彼女は納得してくれないだろうし、こちらへの不信感を募らせるだけだ。

 

「……むう、仕方ないですね。けど、ちゃんと時が来たら話してくださいよ?」

「はい、もちろん」

 

 こちらの意思は固いと踏んだのか、彼女はそれ以上深く追求してくることは無かった。

 

 

 

 

「鏡田さんのプロデューサーさんですよね」

 

 別の日一人で校舎の中で歩いていると、ある一人の生徒に声を掛けられた。

 

「どうかしましたか?」

 

 確か、彼女の名前は有村麻央だったはずだ。

 

「少し訊きたいことがありまして、お時間いいですか?」

「ええ、別に構いませんが、何かありましたか?」

「訊きたいことというのはあなたの担当アイドルについてなんです」

 

 鏡田さんのことって、何か彼女にあっただろうか。

 嫌な想像が頭に何個も浮かぶ。

 

「その、最近体調が優れなかったりするのでしょうか」

「……どうしてそのように?」

 

 とりあえずは最悪の事態は避けれていることに一安心しながらも、彼女から事情を訊く。

 

「なんというか、いつも授業中もどこかボーっとしてますし、最近はレッスン室で姿を見ないんです」

「前者の方は分かりませんが、後者の方はこちらの指示です。流石に今までのペースでレッスンしていてはオーバーワークになってしまいますから」

「そうですか。他の子達から最近レッスン室に京香の姿が見えないって相談を受けていたものですから」

 

 レッスン室の妖精が突然レッスン室に現れなくなったとすれば、噂話になるというのも当然だろう。プロデューサー科にも広まっている程だったし、同級生で同じ科である彼女達の中では、こちらよりも熱量を持って噂について語られているだろうし。

 

 レッスン室の方はともかくとして、授業中ボーっとしているというのは気になる話だ。

 彼女の普段の授業風景は知らないものの、こうしてわざわざ問題とするからには、普段はちゃんと授業を受けており、最近になってボーっとするようになったのだろう。

 

 考えられる理由としては悩み事がある、あるいは睡眠不足あたりだろうか。

 後者の方については、以前と違って追い込んで練習をしているわけではないはずだし、ちゃんと睡眠はとれているはずだ。

 もしかして、深夜に走り込みでもしているのだろうか?

 

 どちらにしても、一度鏡田さんと話をしてみる必要があるな。

 

「こちらの方でも、鏡田さんの様子を見てみます」

「すみません、お願いします。彼女に話を訊こうと思っても、大丈夫の一点張りで話が出来なかったので」

 

 そういって心配している様子を彼女は見せる。おそらくそれは演技などではなく心から彼女の事を心配していることが見て取れた。

 

 

 

 

「それで、話って何ですか?」

 

 活動教室で、自分は有村さんから聞いた話について問いただすために、鏡田さんを呼んでいた。

 

「最近授業中ボーっとしているという話ですが、何か原因に心当たりはありますか?」

「あー、それですか。……その話って誰から聞きました?」

 

 困ったように頬を軽く掻く。

 どうやら、ボーっとしているという自覚はあるらしい。

 

「有村さんです」

「やっぱりそうですよね、はは……はあ」

 

 乾いた笑いを声をあげた後、彼女は大きくため息を吐いた。

 

「どうかしたんですか?」

「いえ、リトルプリンスは流石だなと思っただけですよ。私みたいな、対して親しくもない相手に対してもこうやってお節介を焼くんですから」

 

 そう言ってから、気持ちを切り替えるためか、大きく体を伸ばす。

 

「知ってしまったなら話さないと駄目ですね。最近ちょっと眠れなくて」

「夜遅くまで走り込みをしているんですか?」

「いえ、そうではなくてですね……えっと、その、練習してないと不安で、寝れないんです」

 

 言い逃れるのは出来ないと思ったのか、彼女は観念したようにそう告げた。

 

「……なるほど」

 

 どうやら、自分が考えていた以上に鏡田さんの症状というのは思っていたよりも、もっと悪かったらしい。

 そうはいっても、自主練習の許可を出すわけにもいかない。結局、その場しのぎ的な対処療法として、寝る前にはゆっくり風呂に入るだとか、ストレッチをしてみるだとか、そういったものを教えて、その場は解散となった。

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