中間試験の日がやってきた。
「……殆どボーカルとダンスのレッスンやれて来ていないんですけど、大丈夫なんですか?」
「ええ、問題ありません」
鏡田さんは不安そうに尋ねる。
それもそうだろう、彼女はおそらく今までその練習量を支え、あるいは自信としてこういった試験に挑んできたはずだ。
今回の中間試験において、彼女は頼れるものがない。
「それで中間試験は合格できると踏んでいます、それでも大丈夫だと思いませんか?」
「……プロデュ―サーさんが言うなら、信じます」
口ではそう言っているものの、不安そうな様子は隠しきれていない。
こんな言葉では駄目か、それならどうやって自信を付けてもらうべきなのだろうか。
「そろそろ出番です」
そんな言葉を考えている間に、試験に時間が来てしまったようで、係の人がそう告げた。
試験前に、何か声を掛けるならこれが最後のタイミングだ。
「……頑張ってきてください」
なんとか振り絞ったそんな言葉に、彼女は軽く頷くことで答えた。
鏡田さんを見送った後の控室で自分は頭を抱えていた。
……なんなんだよ、頑張ってくださいって。
小学生でももっとましな声援を考えるぞ。
そんな風に自己嫌悪に陥りながらも、試験の様子を見るために試験場に向かう。
「よろしくお願いします」
ちょうど、彼女の出番が始まったようで、彼女が一礼した後課題曲が流れ始める。
そのパフォーマンスは、一度実力を見せてもらった時よりも固い。
上手い事には上手いが、やはり印象には残らないというのが正直な感想だ。
他に試験を見ている人たちも同じような感想であることは周囲の様子を見れば分かった。
……やっぱり、こうなるか。
それが正直な感想だった。自主練習禁止、それはオーバーワークを防ぐためと言うのもあるが、一番の目的としては彼女から自信を奪う為であった。
いや、もっと正しく言うのであれば、彼女の縋る部分を奪う為だった。
彼女のパフォーマンスが固くなる要因の一つは、ストイックともいえるレッスンから持たされる自信によるものだ。
あれだけ練習したのだから大丈夫という自信は、多くの場合にとってプラスになる。
ただ、彼女の場合その自信が、練習通り出来れば大丈夫という方向に行ってしまう。その結果無意識のうちに、過去の自分のベストパフォーマンスをなぞろうととしてしまう。
彼女にとってみれば、自信に支えられて良いパフォーマンスが出来ていると思い込んでいるのだろうが、その実自信という鎖に絡めとられ動きを悪くしているに過ぎない。
だからこそ、その自信を奪うことが出来ればと思っていたのだが、どうやらそれだけは足りなかったらしい。
やっぱり、当初の予定通りにするしかないか。
この後の事を考え気が重くなる。ため息の一つでもつきたいところではあるが、それがいま試験中の鏡田さんに見られれば、中間試験の突破すら怪しくなる可能性がある。
ようやく試験が終わり、鏡田さんがステージ上から降りたのを確認してから、大きくため息をつくのだった。
「お疲れ様でした。鏡田さんは……合格です。まずまずの結果でしたね」
「え、あれでですか!」
試験の結果を伝えると、鏡田さんは驚いたような表情を浮かべた。
「てっきり不合格だと思ってたんですけど意外です。全然練習してませんでしたし」
「それでも今のあなたの実力なら合格できるということですよ」
「そうですねー」
すがすがしいまでの生返事で返される。
「それなら自主練習を解禁したら、今回こそ最終試験も突破できるんじゃないですか、プロデューサーさん!」
途端に目を輝かせて、鏡田さんはそう提案してくる。
「それは駄目です」
「ええ、なんですか、プロデューサーさんのけち! 私が最終試験落ちても良いんですか?」
「それも駄目です」
「……まあいいです、なにかプロデューサーさんには考えがあるみたいなんで、信じますよ。信じるって一応決めたので」